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第13章 出会いと別れ

第441話 第1回設立記念クイズ大会

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 ケビンが22歳になる年度の4月。ケビンの皇帝即位5周年、女性騎士団設立1周年と行事が立て続けで、ケビンは毎年のことながら1年で1番忙しい月に忙殺されていた。

「せめて女性騎士団設立記念は5月にしない? 式典をしたのも5月なんだし」

「貴方が去年の4月、5月と連続で式典をした時に『嫌だ』とボヤいたからよ。言ってないとは言わせないから」

「うっ……」

 しかしやることは文句を言いながらもやる男、ケビン。即位式典をいつも通りゆるく終わらせると、女性騎士団設立式典は一風変わったものとして自身でやる気を奮い起こさせた。

「女性騎士団設立1周年! 今日こそケビオネアを制覇できるのか? 第1回設立記念クイズ大会の始まりだぁ!」

「「「「「あげぽよ、ウェーイ!」」」」」

 ケビンが珍しくキリ顔で「任せてくれ」と言ったので、任せてみたケイトはもの凄く後悔して頭を抱えていた。

「今回は全員参加の勝ち抜きクイズバトルだ! 果たして優勝は誰の手に!」

「「「「「誰の手に!」」」」」

「クイズ常連のネアは並みいる強豪を押しのけて優勝できるのか!」

「「「「「できるのか!」」」」」

「第1問いくぞ!」

「「「「「イェーイ!」」」」」

 そのような光景を目の当たりにしているターニャたちは、女性騎士団の団結力に戦慄する。

「なに、この一体感……」
「団結力が高いのはいいことよ」
「自分らも参加していいみたいっスよ!」
「優勝狙っちゃおー」
「ご褒美が楽しみです」

 一方で未だ女性騎士団の常識人として自認しているネアは、ターニャたちと同様にケビンと女性騎士団の強い繋がりに対して、道を踏み外さないよう意気込んでいる。

「私がしっかりとしていなければ……騎士団を守ってみせる!」

 そしてケビンの出題する第1問目が始まる。

「騎兵1千人に対して確実な手立ては次のうちどれ? A:弓兵1千人 B:歩兵3千人 C:魔術師100人 D:落とし穴相当数 今回は全員参加だから一切ヒントはナシだ。4つあるパネルエリアのどれかへ移動してくれ」

「順当に考えるとAかCですわね」
「でも、弓兵1千人は決定力に欠けない? せめて2千は欲しいところ」
「歩兵3千でゴリ押しってのもいけそうっス!」
「ケビンさんだしなー」
「魔術師で魔法連打がいけると思います」

「1問目から悩ませてくれる……ヒントがないなら陛下の思考を読むしかない」

 さすがに戦術にもなると女性騎士団たちは真面目に考え始めて、みんな思い思いのパネルエリアへと移動を開始する。

「よし、みんな移動が終わったな。第1問目の正解はDの落とし穴だ!」

「「「「「えぇー!」」」」」

 第1問目だけで大半の参加者が脱落してしまい、真面目に考えた結果で選んでいたので落とし穴という古典的なものに納得がいかなかった。

「よく問題を聞けばわかることだ。“有効な手立て”ならA~Dのどれも正解となるが“確実な手立て”なら、A~Cは全て何かしらの被害を被るため確実ではない。1番安心安全、確実をモットーに撃退するなら勝手に落ちてくれる落とし穴だろ? 騎兵も騎馬も一緒に真っ逆さま! 騎馬を失くした騎兵が歩兵となって襲ってくることもない」

「「「「「……」」」」」

 ケビンの屁理屈とも言えそうな説明に対してよくよく考えてみれば正論のような気もしてくる弁舌を聞いて、正解を出せなかった面々は何も言えなくなるがやはりどこか納得がいかない。

 だが、ケビンはそのような気持ちなど考えずにどんどん進行していく。

「不正解者は端の方に寄ったら、あとは観客として楽しんでくれ。続いて第2問、帝国領内に敵歩兵5千が攻め入ってきました。我々の歩兵は2千。そこには平原を見渡せる小高い丘があります。貴方が戦闘指揮官ならどういう対応を取る? A:敵に取られる前に丘へ行き陣を張る B:先ずは斥候を放って敵の戦力分析 C:とりあえず撤退 D:応援が来るまで粘り強く戦う」

「またいやらしい問題がきましたわ」
「兵法を考えるならば丘の占領だが……」
「斥候を放つのも指揮官の役目っス!」
「でもケビンさんだしー」
「粘るのは被害が出るからダメですね」

 先程の問題でルイーズがケビンなら普通の問題じゃないと予測して正解へと辿りついたため、今回も多分そうであろうとターニャたちは“常識が通用しない”問題に対して、疑心暗鬼に陥っている。

「くっ……またしても嫌な問題ね。陛下ってば絶対性格がねじ曲がっているわ」

 いつもケビンにクイズの相手をさせられているネアは、端からケビンのことを信用しておらず、問題の奥に隠されているひねくれた解答を見つけ出そうと頭を使う。

 そしてみんながバラけたところでケビンが解答を口にした。

「正解はCのとりあえず撤退だ」

「「「「「そんなぁ~」」」」」

「考えてもみてくれ。敵兵はうちの領土に来ているんだぞ? こっちが攻めているわけではない。つまり敵兵は5千の兵士を敵国で飢えさせず、万全の状態にしておかなくてはならない。早い話が兵糧攻めだな。しれっと戦線を後退させてご飯をどんどん消費させていく。伸びた補給線を横から叩けば万々歳だ! 敵のご飯を代わりにどんどん食べてやればいい」

「陛下、丘を陣取るのではダメなのですか?」

「その丘って必要? 敵が誰も来なかったらただのピクニックになるよ? 俺だったらわざわざ丘に陣取っている敵なんか無視して素通りするけど」

「でも、背後から攻められたら……」

「そりゃ近くを通るからだよ。回り道すれば丘を陣取った敵は無駄骨ってことになるよね? 俺は「ざまぁ」ってしながら指揮官の無能さを笑うけど」

「ざ、ざまぁ……」

「陛下、敵兵が道中の村々を襲って、食糧を略奪した場合はどうなるのですか?」

「拾い食いのこと?」

「拾い食い?」

「だって敵兵が攻めてきているのに、村民をそのまま生活させる領主とかいないだろ? いたらいたで処刑するけど。ということは、既に村はもぬけの殻。あるのは落ちている食糧。だから拾い食い。拾い食いはお腹を壊すから真似したらダメだよ。村民たちはいらない食糧を捨てて避難したんだから略奪にはならない。誰もいないから襲うってこともできない。できるとしたら八つ当たりの破壊活動くらい? あと拾い食い。ああ、それと無断宿泊とかもできるな」

「えぇー……」

 何とも言えないケビン節が炸裂して、質問をしていた騎士たちは何とも言えない表情となる。

「だいぶ人数が減ったところで第3問、騎士である貴女は護衛任務を受けています。しかし護衛対象はお転婆で、街中を彼方此方移動しては護衛の難易度を上げてしまう人です。さあ、貴女ならどうする? A:応援を呼びにいく B:護衛を続ける C:諌めて慎ましく行動するように言う D:一緒になってはしゃぐ」

「悩みますわ……」
「Cが1番堅実だろう」
「自分は無理せず応援を呼びに行くっス」
「どうあってもケビンさんだよー」
「Dは確実にダメなのです」

「ふっ、ここにきてサービス問題……ぬるいっ!」

 参加者の人数が少なくなってきたのでバラけるのも早く、ケビンは解答をさっさと伝えていく。

「正解はBの護衛を続けるだ」

「マジっスかー!? Aじゃダメなんスか?!」

「ふっ、甘いなニッキー。護衛が護衛対象の傍を離れるとは、職務怠慢も甚だしいぞ」

「で、でも……一緒に護衛している仲間を残せば……」

「誰が2人で護衛していると言った? 問題でも“貴女は”と言ったはずだが? “貴女たち”とは一言も言ってないぞ?」

「ズルいっスよー!」

「陛下、Cではダメなのですか!?」

「ミンディ、与えられた任務は何だ?」

「ご、護衛……です」

「護衛任務なら護衛すればいいだけだろ? 教育係を任せられたわけではないだろ?」

「くっ……陛下……ズルい……」

「だから考え直した方がいいって言ったのにー相手はケビンさんなんだよ?」

 ここへきて独自の視点で解答へと進んだミンディとニッキーは、あえなくケビンの問題に引っかかってしまい脱落するのである。

「もう10人を切って残り少ないから、ここからは相談なしだ。自力で問題を解いていってくれ」

 ケビンの急遽付け加えたルールに対して、今まで相談しながら勝ち残っていた者たちは悲愴の声を上げてしまう。

「第4問、ケビン君はお母さんから「金貨1枚分のお菓子を買ってきて」とお使いを頼まれて、金貨1枚と銀貨15枚と銅貨20枚を所持してお菓子を買いに行きました。お店に到着すると美味しそうなお菓子があったので、店員さんに尋ねたところ「大銀貨1枚と大銅貨5枚だよ」と教えてもらいそのあとにケビン君はお金を支払いました。ケビン君の受け取ったお金はいくら? A:銀貨9枚と大銅貨6枚 B:大銅貨5枚 C:銀貨9枚と大銅貨1枚 D:お金は受け取らず帰った」

「ここへきて算術ですの……」

「うわぁ……私、苦手だよー」

「ケビン君はお使いをして偉いですね」

「くっ……計算がややこしい……」

 第4問目で頭を使う計算問題が出されてしまい、残っている参加者は苦手な者が多いのか渋い顔を見せている。

「Aは持っているお金で買えるだけ買った時のお釣りですわね。Dはケビン君ならやりそうですわ。お金持ちですし……でも、お使いに行くような子供のケビン君ですし……」

「ヤバい……指が足りない……ニッキー、指貸し……いやっ、お金を持ってきてぇー!」

「大銀貨1枚に大銅貨5枚だから……銀貨を11枚支払えばお釣りは大銅貨5枚……」

「Cは大銀貨1枚と大銅貨5枚を金貨1枚で買えるだけ買った時のお釣り……いや、陛下がそんな単純な問題を出すわけがない!」

 うんうんと唸っている声が彼方此方から聞こえてきてしばらく誰も移動しなかったが、1人、また1人と移動を開始するとようやく全員がそれぞれのパネルエリアへの移動を終えた。

「みんな悩んだようだね。第4問目の正解は……Dのお金を受け取らずに帰っただ!」

「陛下、せ、説明を求めます! 頭がこんがらがって意味がわかりません」

 答えを外してしまった騎士がケビンへ説明を求めるが、ケビンはそれを手で制してルイーズへ視線を向ける。

「その前にルイーズ。君はDを選んだってことは説明ができるよね?」

「え……いや……その……先輩について行けば間違いはないかなーって……」

「他にも勘でDを選んだ子がいるね? さて、敗者の諸君。勘で正解を導いた者を残らせてもいいかな?」

「「「「「勘はダメぽよ~!」」」」」

「ということだ。勘でDを選んだ子は失格とする」

 ケビンから失格と告げられて、勘で選んだ騎士たちはガックリと肩を落としたらすごすごと場外へ出るのだった。

「さて、説明だが……必要か? 簡単だと思ってサービス問題のつもりだったんだが……」

「「「「「えっ!?」」」」」

 場外へ出た騎士たちはサービス問題と聞き、信じられないような顔つきとなる。

「ケビン君はお母さんに何と言われた? ターニャ、説明できるよな?」

「もちろんですわ。ケビン君は「金貨1枚分のお菓子を買ってきて」とお母さんに言われたのですから、店員さんに金貨1枚を渡してお菓子を受け取ったらお買い物は終了ですわ」

「「「「「うそ~ん」」」」」

「酷いですよー美味しそうなお菓子の値段とか入れる必要なかったじゃないですかー」

「ケビン君は無駄遣いしなかったのですね。偉いです」

 敗者となった騎士たちが思い思いに騙されたと口にするが、ケビンはクイズなのに問題をよく聞かないのが悪いと言ってのけて、自分を正当化するのだった。

「さて、残るはみんなのアイドルこと騎士団長ターニャと、ケビオネア常連であるケビオニストことネアの一騎打ちだ! 本人たちに意気込みを語ってもらおう! 先ずはターニャ!」

「ちょ、ちょっと、私はアイドルじゃないよー恥ずかしいじゃない!」

「ターニャの意気込みは“恥ずかしい”だー!」

「ち、違うよ?! もう、ケビン君いじめないでよ。と、とにかく、ここまできたからには優勝目指して頑張ります!」

「ぜひターニャには頑張って優勝を目指してもらいたいが、相対するのはクイズと言えばこの人、ネアの意気込みをどうぞ!」

「えぇーと、陛下にみんなが汚染されすぎないように私が守ります!」

「なんとっ、ここへきてまさかの進行者への宣戦布告だー! ミンディが睨みをきかせている中でよくぞ言った! 君は勇者だー!」

「えっ……」

 ネアがそーっと視線をミンディへ流してみると、ケビンの言う通りで確かにミンディがネアを鋭い視線で射抜いていたので、慌てて意気込みを言い直す。

「偉大なる陛下のクイズを正解できるように頑張ります!」

 再度ミンディへ視線を流したネアは、ミンディがうんうんと頷いていたのでホッと安堵して胸をなでおろした。

「これが長い物には巻かれろってやつなのか!? ネアが早くも手のひらを返してミンディへと靡いたぁ!」

「「「「「ブゥゥー! ブゥゥー!」」」」」

「それに対して外野は自分を貫き通せと大ブーイング!」

「えぇー……みんなだって副団長には弱気な癖に……」

「おおーっと、ネアはブーイングに納得がいっていない様子! 果たしてこのままのテンションで次の問題をクリアすることができるのかー! ここからは一騎打ちの早押しクイズだー! だが、ノリで思いついたため早押しボタンを用意していないから、解答者は自分の口で「あげぽよ」と言ってから発言するように!」

「「「「「あげぽよ、ウェーイ!」」」」」

「第5問目、縦横5メートルの広さがある草むらを高さ1メートルの柵で囲いました。その中へ腹を空かせたフォレストウルフを1匹放ったら、1日後、この草むらとフォレストウルフはどうなっている?」

「あげぽよ!」

「はい、ターニャ!」

「25㎡の草を食べ尽くした!」

「残念! 解答権消失。ネアがこれで有利となったが果たして正解できるのか?」

「あげぽよ!」

「はい、ネア!」

「草は食べないのでそのまま残って、ウルフは不貞腐れて寝ている!」

「残念! これで2人とも不正解。正解はフォレストウルフは肉食なので草はそのまま残る、フォレストウルフ自体は餌を探しにどこかへと消えていたとなる」

「えっ、柵は?」

「ターニャ、フォレストウルフが1メートルの柵を越えられないとでも?」

「うっ……ケビン君の問題って意地が悪いよ」

 それからも2人は熱きバトルを繰り広げるが、中々正解へと至らず決勝戦は思った以上に間延びしていた。

「はぁはぁ……」

「ふぅふぅ……」

「両者1歩も譲らず……果たして勝負の行方はどうなるのか!? 辺りは夕暮れとなり時間も押してきたところで最終問題! 勝っても負けてもこれが最後。最終問題はサービスとして正解を簡単にした。ではいくぞ、このあと最終問題で決着がつかなかったら、勝負の行方はどうなる?」

「「あげぽよ!」」

「よし、ターニャとネア。それぞれが答えてから正解か不正解か伝えよう。先ずはターニャ!」

「夕飯後に再開!」

「次はネア!」

「後日再戦!」

「…………」

 ターニャとネアがそれぞれ答えたところで、ケビンは2人へ視線を向けながら解答を引っ張り焦らしていく。

 静寂に包まれる中で静かにケビンが口を開いた。

「……不正解」

「そんなぁ……」

「ここまできて……」

「勝っても負けても最後って言ったのに、何で夕飯後に再開とか後日再戦とかになるわけ?」

「ケビン君のことだから普通の解答じゃないと思って。『実は延長戦があるよ』とか言い出しそうだし」

「陛下のことだから今日は最後でも、日にちが変われば再戦させそうだったので」

「サービスだと言ったのに深く読みすぎたようだな。正解は“簡単”だ」

「「えっ……」」

「だから正解は“簡単”。サービスだからちゃんと教えただろ? 『正解を簡単にした』って」

「「……ズルい」」

「問題文とか全く関係ないじゃない」

「さすがにそれは卑怯です」

「まあまあ。とにかく同率優勝ということでトロフィーをあげるから、兵舎の1階に飾るといいよ。ということで、第1回設立記念クイズ大会の優勝者は騎士団長ターニャとケビオニストのネアの2人だ! みんな、長い時間戦い抜いた2人に拍手!」

 こうして第1回設立記念クイズ大会は無事に?終了することとなるが、後日、兵舎1階に飾られたトロフィーは皆が想像していたものより豪華絢爛な創りをしており、不意に落として壊してしまわないように厳重な管理がなされたとか。

 そのトロフィーリボンには第1回優勝者であるターニャとネアの名前が書かれており、ネアが迷惑そうにしていながらも誰も見ていないところではこまめに埃を落としたりと念入りに掃除をしているのを他の騎士たちは知っており、ネア自身は気づかれていないと思っている。

 そのようなネアに対して騎士団内では揶揄わないよう暗黙の了解となっていることを、今日もいそいそとお掃除に励んでいるネア本人は気づいていないのであった。
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