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第13章 出会いと別れ
第439話 SS マリアンヌ、立つ
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季節は巡り春の温かさが訪れ始めた3月。帝城で新たな生命が産声を上げた。ターニャたち女性騎士団の第1班であるメンバーが子供を出産したのだ。
全員が長女となる女児を産み、ターニャの子はテレサ、ミンディの子はミリー、ニッキーの子はニキータ、ルイーズの子はルーシー、ジュリアの子はジュエルと名付けられた。
念願の我が子を産むことができた5人は至福の表情を浮かべてケビンへお礼を伝えると同時に、我が子を見てはメロメロとなっている。
そのような慶事が帝城で起こっている頃、別の場所では新たな動きが見受けられようとしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ヴィクトール、大公位を返上するわ」
そこには執務室で向かい合うアリシテア王国国王であるヴィクトールと大公妃であるマリアンヌの姿があった。
「いきなりどうされたのだ?」
「ライルが最期に言ったのよ。『好きに生きよ』って。だから旅に出るわ」
「それなら位を返上せずとも、護衛を連れて諸国漫遊をすればいいのでは? 既に喪が明けて数ヶ月、誰も咎めはしないだろう」
「色々と回りたいのに護衛がついてきたのでは身動きが取りづらいわ。それに戻って来るつもりはないもの」
「私としては義母さんが行方知れずになるのはいただけないのだが。父さんにも顔向けができない」
「そこは心配いらないわよ。最終目的地はケビン君の所だから」
「ケビンの所か……あそこには実娘のアリスもいるし、孫のアレックスもいる。そこで余生を過ごすというのも納得できるな」
「そういうわけだから後のことは頼むわよ。貴方ならライルと同じ偉大な国王になれるわ」
「ふむ。そう言われては、この国をもっとより良く発展させていくしかないな。父さんに負けぬ国王となろう」
こうしてマリアンヌは貴族位を返上して旅に出ることになる。マリアンヌが大公位を返上した理由として、ヴィクトールは『余生を娘や孫とともに過ごすため』というものにして各貴族へ手紙で知らせるのだった。
それから旅支度を終えたマリアンヌはローラに別れを告げると、ヴィクトールの時のように行き先を教えて不安がらないようにした。
「ヴィクトールと仲良くね。ヴィクトールが側妻を取らないつもりなら、貴女がもっといっぱい子供を産むのよ」
「はい。私も申してはいるのですが『今はまだローラとの時間を過ごしたい』と言われてしまっては、女としてその気持ちに答えたくて……それに私も陛下とともにいる時間が好きでして……」
「わかったわ。困ったことがあったらいつでも帝城へ連絡するのよ。ヴィクトールは自分の力だけで解決しようとするところがあるから、貴女が陰で支えてあげて」
「はい。お義母様もお元気で。ケビン君や奥方様たちにもよろしくお伝えください」
ローラへの挨拶が終わったマリアンヌは部屋に戻りドレスから冒険者服装に着替えたら、スキルの【隠密】を久しぶりに使っては昔のことを思い出し微笑みを浮かべ、王城から誰にも気づかれることなく抜け出すのであった。
城下に出たマリアンヌはそのまま王都を抜け出して、サラのいるカロトバウン家を目指して駆けていた。
しれっと引退してから久しぶりの運動とあってか、体の調子を確かめながら目的地へと進んでいく。
「やっぱり体が重いわね。太ったつもりはないんだけどなぁ……このままだとサラに笑われてしまうわ」
今まで貴族令嬢や王妃、大公妃として振る舞ってきた世界から、何の柵もない冒険者という立場になったためマリアンヌの気分は高揚していた。
その気分はかつてサラとともに冒険者をやっていた頃と同じであり、通りすがりのゴブリンを一撃一殺で仕留めていくほどで、仕留めたことなど意に介さずルンルンと道中を進んでいく。
そしてマリアンヌが森へ入ると、ゴブリンに囲まれてしまい手こずっている冒険者たちと出くわしてしまう。
「あらあら、身の程を弁えないからよ」
ここでも一撃一殺。助けられた冒険者たちはおろか殺されたゴブリンたちでさえも何が起こったのか理解できない。
そのようなポカンとした冒険者たちへマリアンヌが声をかける。
「自分の丈にあった魔物と戦いなさい。実力がないのなら森の深くまで入るべきじゃないわ」
そう言い残してマリアンヌはまたもやルンルンと道中を進んでいく。
「なあ、今のは何だ?」
「俺に聞くなよ」
「いつの間にゴブリンが死んだの?」
「私に聞かないでよ」
「「「「はぁぁ……」」」」
「帰るか……」
「そうだな」
「素材……いらないみたいだね」
「あの人にとっては価値がないのよ」
お礼を言う前に立ち去られて、なおかつ倒したゴブリンは放置されて、冒険者たちはもったいないからと解体を始めては素材を回収する。
帰りの道中でも似たような殺し方をされているゴブリンを見つけては、『あの人だな』という声に出さずとも一致した感想を抱いて、同じように解体をしては回収して帰路へとつくのだった。
そのようなことなど露知らず、マリアンヌは数時間かけてようやくサラの家へと辿りついた。
「確実に鈍っているわね。こんなに時間がかかるなんて」
それからマリアンヌはドアノッカーを鳴らすと、出てきた使用人に対してサラに会いに来たことを告げる。
そして応接室に通されたマリアンヌはサラがやって来ると、ニコリと微笑んで挨拶を交わした。
「そろそろ来る頃合だと思ったわ」
「あら、お見通しだったの?」
「マリーがあそこに固執する理由がないもの」
「それで? 会いに行ってもいいかしら?」
「別にいいわよ」
「意外とあっさりしているのね。てっきり『私が行くまで我慢しなさい』って言われるかと思ったけど」
「私はいつでもケビンとおしゃべりできるもの」
「魔導通信機を使っているの?」
「違うわよ。指輪よ」
「指輪?」
「そう。マリーのと違って私の指輪は、どこにいてもケビンと直接おしゃべりができるのよ」
「何それ、ズルい」
「母親の特権よ。抱いてもらったあとで家に送り届けてくれた時に、そういう風に改造してくれたの」
「えっ……もう抱かれたの?!」
「ギースとのちょっとした行き違いが原因だったけど、いっぱい愛してくれたわ」
「……ズルいわね。だから余裕なのね」
「ふふっ」
「先乗りして自慢しようと思っていたのに」
「ケビンは手強いわよ。いつも大好きって言ってくれるのに、何故か渋って中々抱いてくれなかったから」
「それって母親として好きってことでしょう? 女として見てなかったってことじゃない」
「そんなことないわよ。ギースがいなかったらお嫁さんにするって言ってくれたこともあるから」
「愛されてるわね」
「2番目だけどね」
「そうなの? 1番目は誰?」
「ソフィさんよ」
「あぁぁ……納得だわ」
「でも1番好きなのは私なのよ。2番目はソフィさん」
「言葉遊びね」
「それでも嬉しいわ。ケビンの1番と2番が取れたから」
それからマリアンヌとサラはおしゃべりに花を咲かせて、マリアンヌはサラの好意でその日の夜はカロトバウン家に泊まることとなる。
翌日の朝、朝食をいただいたマリアンヌはサラに挨拶をすると、再びルンルン気分で出発した。
「ふふっ、待ってなさいよケビン君。サラの許可が出た以上、私を止められる者はいないわ」
その後もマリアンヌは馬車を使うこともなく、鈍った体を鍛え直すために自分の足で旅を続けるのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ぶるっ……
「どうしたの? ケビン」
「いや……なんか寒気が……」
「お姉ちゃんが温めてあげるわ!」
寒気がするケビンを温めようとしてシーラが抱きつくと、それを見ていたソフィーリアは含みのある笑みを浮かべてケビンを見つめるが、ケビンがそれに気づくことはない。
「風邪かしら?」
「いや、俺は病気にならないから風邪とかじゃないよ」
「うーん……お姉ちゃん心配だわ」
ケビンはたかだか寒気が走っただけで心配してくれるシーラが愛おしくなり抱きしめ返すと、感謝の気持ちをお返しに乗せてキスをする。
「ちゅ……ダメよ……みんなが見てる……」
「姉さんの愛情へのお返しだよ」
「ん……お姉ちゃん恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしがる姉さんが可愛すぎて止まれない」
「うぅぅ……」
シーラが顔を真っ赤にしながらもケビンに可愛がられていくが、寒気がすると言ったケビンを温めるために抱きつき回した腕を離すことはなかった。
「相変わらずシーラは耐性がないですわね」
「攻められると弱いよねー」
そのようなシーラを見る他の嫁たちは感想をこぼしながらも、仲睦まじい2人を温かい目で見守るのであった。
全員が長女となる女児を産み、ターニャの子はテレサ、ミンディの子はミリー、ニッキーの子はニキータ、ルイーズの子はルーシー、ジュリアの子はジュエルと名付けられた。
念願の我が子を産むことができた5人は至福の表情を浮かべてケビンへお礼を伝えると同時に、我が子を見てはメロメロとなっている。
そのような慶事が帝城で起こっている頃、別の場所では新たな動きが見受けられようとしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ヴィクトール、大公位を返上するわ」
そこには執務室で向かい合うアリシテア王国国王であるヴィクトールと大公妃であるマリアンヌの姿があった。
「いきなりどうされたのだ?」
「ライルが最期に言ったのよ。『好きに生きよ』って。だから旅に出るわ」
「それなら位を返上せずとも、護衛を連れて諸国漫遊をすればいいのでは? 既に喪が明けて数ヶ月、誰も咎めはしないだろう」
「色々と回りたいのに護衛がついてきたのでは身動きが取りづらいわ。それに戻って来るつもりはないもの」
「私としては義母さんが行方知れずになるのはいただけないのだが。父さんにも顔向けができない」
「そこは心配いらないわよ。最終目的地はケビン君の所だから」
「ケビンの所か……あそこには実娘のアリスもいるし、孫のアレックスもいる。そこで余生を過ごすというのも納得できるな」
「そういうわけだから後のことは頼むわよ。貴方ならライルと同じ偉大な国王になれるわ」
「ふむ。そう言われては、この国をもっとより良く発展させていくしかないな。父さんに負けぬ国王となろう」
こうしてマリアンヌは貴族位を返上して旅に出ることになる。マリアンヌが大公位を返上した理由として、ヴィクトールは『余生を娘や孫とともに過ごすため』というものにして各貴族へ手紙で知らせるのだった。
それから旅支度を終えたマリアンヌはローラに別れを告げると、ヴィクトールの時のように行き先を教えて不安がらないようにした。
「ヴィクトールと仲良くね。ヴィクトールが側妻を取らないつもりなら、貴女がもっといっぱい子供を産むのよ」
「はい。私も申してはいるのですが『今はまだローラとの時間を過ごしたい』と言われてしまっては、女としてその気持ちに答えたくて……それに私も陛下とともにいる時間が好きでして……」
「わかったわ。困ったことがあったらいつでも帝城へ連絡するのよ。ヴィクトールは自分の力だけで解決しようとするところがあるから、貴女が陰で支えてあげて」
「はい。お義母様もお元気で。ケビン君や奥方様たちにもよろしくお伝えください」
ローラへの挨拶が終わったマリアンヌは部屋に戻りドレスから冒険者服装に着替えたら、スキルの【隠密】を久しぶりに使っては昔のことを思い出し微笑みを浮かべ、王城から誰にも気づかれることなく抜け出すのであった。
城下に出たマリアンヌはそのまま王都を抜け出して、サラのいるカロトバウン家を目指して駆けていた。
しれっと引退してから久しぶりの運動とあってか、体の調子を確かめながら目的地へと進んでいく。
「やっぱり体が重いわね。太ったつもりはないんだけどなぁ……このままだとサラに笑われてしまうわ」
今まで貴族令嬢や王妃、大公妃として振る舞ってきた世界から、何の柵もない冒険者という立場になったためマリアンヌの気分は高揚していた。
その気分はかつてサラとともに冒険者をやっていた頃と同じであり、通りすがりのゴブリンを一撃一殺で仕留めていくほどで、仕留めたことなど意に介さずルンルンと道中を進んでいく。
そしてマリアンヌが森へ入ると、ゴブリンに囲まれてしまい手こずっている冒険者たちと出くわしてしまう。
「あらあら、身の程を弁えないからよ」
ここでも一撃一殺。助けられた冒険者たちはおろか殺されたゴブリンたちでさえも何が起こったのか理解できない。
そのようなポカンとした冒険者たちへマリアンヌが声をかける。
「自分の丈にあった魔物と戦いなさい。実力がないのなら森の深くまで入るべきじゃないわ」
そう言い残してマリアンヌはまたもやルンルンと道中を進んでいく。
「なあ、今のは何だ?」
「俺に聞くなよ」
「いつの間にゴブリンが死んだの?」
「私に聞かないでよ」
「「「「はぁぁ……」」」」
「帰るか……」
「そうだな」
「素材……いらないみたいだね」
「あの人にとっては価値がないのよ」
お礼を言う前に立ち去られて、なおかつ倒したゴブリンは放置されて、冒険者たちはもったいないからと解体を始めては素材を回収する。
帰りの道中でも似たような殺し方をされているゴブリンを見つけては、『あの人だな』という声に出さずとも一致した感想を抱いて、同じように解体をしては回収して帰路へとつくのだった。
そのようなことなど露知らず、マリアンヌは数時間かけてようやくサラの家へと辿りついた。
「確実に鈍っているわね。こんなに時間がかかるなんて」
それからマリアンヌはドアノッカーを鳴らすと、出てきた使用人に対してサラに会いに来たことを告げる。
そして応接室に通されたマリアンヌはサラがやって来ると、ニコリと微笑んで挨拶を交わした。
「そろそろ来る頃合だと思ったわ」
「あら、お見通しだったの?」
「マリーがあそこに固執する理由がないもの」
「それで? 会いに行ってもいいかしら?」
「別にいいわよ」
「意外とあっさりしているのね。てっきり『私が行くまで我慢しなさい』って言われるかと思ったけど」
「私はいつでもケビンとおしゃべりできるもの」
「魔導通信機を使っているの?」
「違うわよ。指輪よ」
「指輪?」
「そう。マリーのと違って私の指輪は、どこにいてもケビンと直接おしゃべりができるのよ」
「何それ、ズルい」
「母親の特権よ。抱いてもらったあとで家に送り届けてくれた時に、そういう風に改造してくれたの」
「えっ……もう抱かれたの?!」
「ギースとのちょっとした行き違いが原因だったけど、いっぱい愛してくれたわ」
「……ズルいわね。だから余裕なのね」
「ふふっ」
「先乗りして自慢しようと思っていたのに」
「ケビンは手強いわよ。いつも大好きって言ってくれるのに、何故か渋って中々抱いてくれなかったから」
「それって母親として好きってことでしょう? 女として見てなかったってことじゃない」
「そんなことないわよ。ギースがいなかったらお嫁さんにするって言ってくれたこともあるから」
「愛されてるわね」
「2番目だけどね」
「そうなの? 1番目は誰?」
「ソフィさんよ」
「あぁぁ……納得だわ」
「でも1番好きなのは私なのよ。2番目はソフィさん」
「言葉遊びね」
「それでも嬉しいわ。ケビンの1番と2番が取れたから」
それからマリアンヌとサラはおしゃべりに花を咲かせて、マリアンヌはサラの好意でその日の夜はカロトバウン家に泊まることとなる。
翌日の朝、朝食をいただいたマリアンヌはサラに挨拶をすると、再びルンルン気分で出発した。
「ふふっ、待ってなさいよケビン君。サラの許可が出た以上、私を止められる者はいないわ」
その後もマリアンヌは馬車を使うこともなく、鈍った体を鍛え直すために自分の足で旅を続けるのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ぶるっ……
「どうしたの? ケビン」
「いや……なんか寒気が……」
「お姉ちゃんが温めてあげるわ!」
寒気がするケビンを温めようとしてシーラが抱きつくと、それを見ていたソフィーリアは含みのある笑みを浮かべてケビンを見つめるが、ケビンがそれに気づくことはない。
「風邪かしら?」
「いや、俺は病気にならないから風邪とかじゃないよ」
「うーん……お姉ちゃん心配だわ」
ケビンはたかだか寒気が走っただけで心配してくれるシーラが愛おしくなり抱きしめ返すと、感謝の気持ちをお返しに乗せてキスをする。
「ちゅ……ダメよ……みんなが見てる……」
「姉さんの愛情へのお返しだよ」
「ん……お姉ちゃん恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしがる姉さんが可愛すぎて止まれない」
「うぅぅ……」
シーラが顔を真っ赤にしながらもケビンに可愛がられていくが、寒気がすると言ったケビンを温めるために抱きつき回した腕を離すことはなかった。
「相変わらずシーラは耐性がないですわね」
「攻められると弱いよねー」
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