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第13章 出会いと別れ
第429話 野営実習
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帝都を出発した実習生一行は街門で指導されたのがことのほか効いたのか生徒同士で助け合いながら荷物を運び続けていき、時折頃合いを見てケビンが休憩の指示を出しては休んで、ようやく目的地である森まで到着することができた。
「よーし、とりあえずお疲れさん。今から30分休憩だ。その後にパーティー分けをして実戦訓練に入るから、パーティーを組みたい人がいるなら今のうちに組んでおけよ。1パーティー5人でいくからな」
生徒たちが大きく息を吐きながら各自休憩に入ると、ケビンが言っていたように仲の良い生徒同士は早速パーティーを組み始める。
休憩の間のケビンは全く疲れてもいないので、同じく疲れていないジャンヌたちとこの後のことについて話を詰めていく。
「んー……シャル?」
「なに、お兄ちゃん」
「シャルはソロだとどのくらいまでやれる? アントならいけるか?」
「1体限定ならオークまでやれるよ。複数体ならゴブリンまでかな。生徒たちを守りながらだと複数体も厳しいかも」
「わかった。ノエミはどうだ? 魔術師なら回復術師のシャルよか結構いけるだろ?」
「私もシャルロットとあまり変わらないわぁ。完全なソロで先制攻撃ならオークの複数体もいけるけど、今回は生徒たちを守りながらだから無理はせずってところねぇ」
「今回は生徒たちに戦わせてサポートするって役割だから、俺たちが前に出るのは緊急時だけだ」
「それならシャルはゴブリンの複数体でもいけるよー」
「私もゴブリンならいけるわぁ」
「それじゃあ魔物たちはゴブリン2、3匹にしよう。さすがにホーンラビットだと張り合いがないだろうしな」
「ケビンさん、それ以外の魔物が出た場合はどうするんですか?」
「ある程度は先に間引いておくけどそこはジャンヌの判断に任せる。例えばウルフ1匹くらいで生徒たちが対処できそうな力量だったら戦わせても問題ない。他のみんなもそうしてくれ」
それから休憩が終わったらケビンが集合をかけて、既にパーティーを組んだ者たちはパーティー単位で分かれるように指示を出す。
その状態からあぶれた者たちをケビンが集めたら、鑑定を使いながらバランス良くパーティーを組ませていく。
こうして1パーティー5人の編成が終わり計6組のパーティーが出来上がったので、それぞれの引率としてジャンヌたちを分かれさせたら生徒たちの荷物はジャンヌたちが預かり、お昼までの1時間を周辺の探索に使って実戦に励むよう告げた。
「それじゃあ君たちは君たちなりの探索をしてくれ」
ケビンが受け持ったパーティーへ指示を出すと、そのパーティーは相談し合いながら森の中へと足を進める。
引率がケビンとあってか生徒たちは街門での印象が強く残っており、なおかつAランクである【森のさえずり】が敬っていたこともあるので、ケビンのことは怖い冒険者と思っていて探索をビクビクとしながら進めていた。
「そんなに固くならなくていい。リラックスして何か普通とは違う雰囲気を感じ取るんだ。欲を言えば足元に注意して薬草とか毒消し草とか、冒険に役立ちそうな物を探しながらするといざって時に役に立つ」
「「「「「はい!」」」」」
その後も適度にケビンがアドバイスをしていくと生徒たちの緊張もいくらか解れてきて、ケビンのアドバイスを実践しながら探索を頑張っていく。
そのような時に生徒の1人が「数十メートル先に何かがいる感じがする」と、仲間たちへ報告したら生徒たちの緊張が徐々に高まっていった。
そのまま生徒たちが静かに歩いていき注意しながら目を凝らすと、視線の先に1匹のゴブリンが木陰から姿を現したのを視界に捉える。
「ゴブリンだ」
「どうする?」
「魔法を撃ち込む?」
「遠距離の武器役がいないからそれがいいかも」
「それじゃあ魔法を撃ち込んで、あとは剣持ちが協力して対処するってことで」
静かに作戦を立てていた生徒たちは方針が決まると、魔法を使える魔術師希望の生徒が詠唱を始めて、前衛の近接タイプが剣を片手に構えていつでも襲いかかれる準備をする。
魔術師希望の生徒の詠唱が終わり火球がゴブリンに向けて飛んでいくと命中精度はそこまで高くないのか、左腕を掠めただけでゴブリンへ大したダメージを与えることはなかった。
「グギャー!」
「よし、行くぞ!」
「おう!」
攻撃を受けたゴブリンが怒って生徒たちの方へ駆けてくると、剣を片手に持った生徒2人が応戦のため突っ込んでゴブリンと近接戦を始める。
その生徒2人はちゃんと剣術の基礎を修めているようで、お互いに協力しながら危なげなくゴブリンを討伐することに成功した。
「やった、倒したぞ!」
「解体しないと」
その後、解体まで済ませた生徒たちにケビンが反省会を設けた。
「さて、今日の初戦闘はどうだった? 何か気づいた点とかある?」
ケビンの問いかけに対して魔法を放った少女が自分の至らない点を挙げると、ケビンは特にそれは問題ないとして少女へ告げる。
「その後に前衛2人がちゃんとフォローしたからそこは問題じゃない。君の悪い点を挙げるとするなら、森の中の戦闘で火属性を使ったことだよ。ほら、あそこの木がまだ燃えているだろ? このまま放っておくと火事になるかもね」
ケビンが指さした先にはゴブリンを掠めて飛んでいった火球が、そのまま延長線上の木に着弾していて燃えている光景だった。
「「「「「――ッ!」」」」」
その光景を目にした生徒たちは慌てて駆けつけて、必死になって土をかけながら消火活動に当たっていく。
やがて火は消えて惨事には至らなかったが、少女は自分のしたミスでかなり落ち込んでしまった。
「ちょっと質問。この中で水属性に適性がある生徒はいないのかな?」
ケビンの言葉によって、今更ながらにその方法を使えば簡単に火は消せたのだと思い至り、水属性持ちの生徒は何とも言えない表情となる。
「その反応だといるみたいだね。予想外な事態が起きた時こそ一旦落ち着いて冷静になろうか。慌ててもあまり良い結果が生まれることは少ないから」
「すみませんでした!」
「今回のは良い経験になっただろ? あとは戦闘終了後も気を抜かないこと。周りに意識を向けていたら、俺が指摘する前に燃えている木に気づけたはずだから」
「「「「「はい!」」」」」
その後も生徒たちは探索を続けていき頃合いになったところで、出発点となる森の入口へと戻り始める。
「あの……ケビン先生……」
「えっ……先生?」
生徒からいきなり先生呼びされてしまったケビンは、どことなくむず痒くなってしまい聞き返してしまった。
「はい。実習の先生なので……ダメですか?」
「いや、呼び方は好きに呼んでいいよ。特にこだわりはないし」
「ありがとうございます。それで、その……」
「聞きたいことがあるなら何でも聞いていいよ」
「魔法を上手く当てるにはどうしたら良いですか?」
「んー……そうだねぇ……いつもは訓練場で練習しているのかな?」
「はい。放課後や休みの日とかに」
「ということは、100メートル先の的当てしてる?」
「はい。よくご存知ですね」
「訓練場を見たことがあるからね。練習は的の真ん中に当てられる位置まで行ってそこから始めればいいよ。真ん中に10回連続で当てることができたら1メートル下がる。これをひたすら繰り返すだけ。そうしたら君の苦手とする距離がわかるから、その距離から反復練習すれば自然と命中精度は上がっていくよ」
「ありがとうございます」
それからも周りの生徒たちから質問が飛び交い、ケビンはそれに1つ1つ答えてアドバイスをしていく。そのようなことを繰り返していたら森を抜けて元の場所へ戻ってきたので、引率していた生徒たちには休んでおくように伝えた。
その後、チラホラと探索に向かっていた他のパーティーも戻ってきたところで、ケビンはお昼休憩の時間として1時間を自由時間とし、その間に食事や休憩をとるように生徒たちへ伝える。
それを聞いた生徒たちはバラけることなくパーティーで食事を摂るようにしたみたいで、持参した冒険者ならではの乾パンと干し肉を食べ始めてその味に顔をしかめるのであった。
ところ変わって生徒たちへの指示出しが終わったケビンはテーブルセットを取り出してジャンヌたちと食事をとるのだが、ケビンの振る舞う料理は冒険者の定番とはかけ離れておりちゃんとした食事だったために、それを見た生徒たちは羨ましそうな視線を向けながら目の前の干し肉に齧りつく。
「やっぱりベテランの冒険者は食事が違うんだな」
「俺もいつかはあんな食事を食べながら冒険してぇ」
「テーブルセットが出てくるなんて、やっぱりマジックポーチなのかな?」
「でもジャンヌ先生たちは見たこともないポーチをつけているけど、ケビン先生は何もつけてないよね?」
「じゃあどうやって出したの?」
生徒たちの会話など聞こえていないケビンたちは、質素な食事を摂っている生徒たちの前で美味しい食事を食べて歓談しながら昼休憩を過ごしていた。
そして午後からの実習が始まりパーティーごとに分かれた生徒たちは、再び探索するために森の中へと入っていく。
そしてケビンも午前中に受け持ったパーティーとともに森の中へと入り、ゴブリン捜しの探索を見守るのである。
「ケビン先生、ここはゴブリンしかいないのでしょうか?」
「他にもいるよ。森の浅い所だったらホーンラビットやゴブリンで、深くなるとフォレストウルフの群れだったり、オークだったり、あとはスパイダー種とかもいるね。スネーク種も割りといるかな」
「でもゴブリンしか見かけません」
「そりゃあ実習のためにホーンラビット以外は間引いたから、いつもより見当たらないのは当たり前だよ」
「他の魔物とは戦えないのでしょうか?」
「んー……自分たちの力を試してみたいのはわかるけど、ジャンヌが言っていたように力を過信すると早死するよ? それに君たちはまだ生徒だ。力試しは卒業してからでも遅くはないよ」
「そうですね。ゴブリン退治に専念します」
「とりあえず今の目標は、自分たちと同じ人数のゴブリンをいっぺんに相手取ることかな。それができれば強くなったと言えるだろうね」
「5匹のゴブリンですか……」
それから生徒たちは探索を続けてゴブリン退治に勤しむが中々目標である5匹のゴブリンとは出会えずに、会えても1~3匹程度でこの日の実習は終わってしまうのだった。
そして夕方になり生徒たちが全員戻ってきたところで、ケビンは男女に分けて野営のためのテント張り作業をするように伝える。
そのテントは3人用が11組あって、男女でわかれても足りる計算になっている。配置としてはパーティーごとに設置したら、一応の配慮として男女のテント間を離しているくらいだ。
テント張りに手こずる女子たちは男子の協力を得て、無事にテントを設置することができた。
それが終わると今度は焚き火の準備で、森から戻ってくる際に拾い集めていた枝をパーティーごとに焚いていく。
「焚き火は明日までずっと焚いたままにしておく。もし集めた枝を不足に感じるパーティーがいたら、明るいうちに引率者を連れて再度収集に行ってくれ」
ケビンがそう告げると生徒たちは自分たちの集めた枝へ視線を向けて明日の朝まで持つのか予測を立てていくと、それぞれが足りそうにないと感じてしまったのか引率者へ駆け寄っていく。それはケビンとて例外ではなく受け持ちのパーティーが駆け寄ってきた。
「ケビン先生……あの……」
「だから帰りに言っただろ? 『それだけでいいのか?』って」
「ごめんなさい……」
ケビンが周りを見ても同じような注意を別のパーティーたちが受けていたので、他の生徒たちも帰りしなは同じようなことを指摘されたのだろうと予測する。
生徒たちにとって今回が初めての野営実習ということでケビンも大目に見て手助けすることにしたら、生徒たちへ向けて口を開くのだった。
「今回が初めての野営実習で今日は君たちが頑張ったご褒美として、さっき言ったことは取り消して俺が手助けするから薪拾いには行かなくていい」
ケビンはそう告げると野営地から少し離れた場所まで歩いていき、木の前に立ったら【無限収納】から【黒焰】を取り出すとおもむろに鞘から抜き放ち一閃する。
そして何事もなかったかのように刀を鞘に収めたら、その場から横へ移動して風魔法で手前に倒した。するとドシーンと木が地面に打ちつけられる音が鳴り響き、その光景を目の当たりにした生徒たちは呆然と立ち尽くしてしまう。
「これは裏技だから真似しないように。本来のパーティーだとこんなに薪は必要ないから、木を1本切り倒すのはもったいない。ということで《煉獄》」
倒れた木に向かってケビンが《煉獄》を放つと不必要な葉っぱの部分だけを燃やし尽くしていき、後に残ったのは葉のない木のみである。
そこからケビンは木に熱を加えて適度に乾燥させると、刀で適度な大きさにスパスパと切り終えたら【無限収納】へ回収した。そして野営地の中心辺りに土魔法で囲いを作ったら【無限収納】から薪を出して、勝手に薪置き場を作り上げるのだった。
「いっぱいあるからって無駄遣いするなよ? かと言って薪をケチって火を消すことのないようにな。そこら辺はまぁ、慣れだな。ひと晩明かすのに必要な量はそのうち身につく」
一連の流れを見ていた生徒たちは目の前の出来事に理解が及ばず、現実逃避という名の安住の地を探し求める。
それからケビンはこのあとの予定を話して各パーティーで野営の順番を決めるように伝えると、あとは自由行動として野営地から離れないように指示を出したら自分用に携帯ハウスを設置して中へと入っていくのであった。
「よーし、とりあえずお疲れさん。今から30分休憩だ。その後にパーティー分けをして実戦訓練に入るから、パーティーを組みたい人がいるなら今のうちに組んでおけよ。1パーティー5人でいくからな」
生徒たちが大きく息を吐きながら各自休憩に入ると、ケビンが言っていたように仲の良い生徒同士は早速パーティーを組み始める。
休憩の間のケビンは全く疲れてもいないので、同じく疲れていないジャンヌたちとこの後のことについて話を詰めていく。
「んー……シャル?」
「なに、お兄ちゃん」
「シャルはソロだとどのくらいまでやれる? アントならいけるか?」
「1体限定ならオークまでやれるよ。複数体ならゴブリンまでかな。生徒たちを守りながらだと複数体も厳しいかも」
「わかった。ノエミはどうだ? 魔術師なら回復術師のシャルよか結構いけるだろ?」
「私もシャルロットとあまり変わらないわぁ。完全なソロで先制攻撃ならオークの複数体もいけるけど、今回は生徒たちを守りながらだから無理はせずってところねぇ」
「今回は生徒たちに戦わせてサポートするって役割だから、俺たちが前に出るのは緊急時だけだ」
「それならシャルはゴブリンの複数体でもいけるよー」
「私もゴブリンならいけるわぁ」
「それじゃあ魔物たちはゴブリン2、3匹にしよう。さすがにホーンラビットだと張り合いがないだろうしな」
「ケビンさん、それ以外の魔物が出た場合はどうするんですか?」
「ある程度は先に間引いておくけどそこはジャンヌの判断に任せる。例えばウルフ1匹くらいで生徒たちが対処できそうな力量だったら戦わせても問題ない。他のみんなもそうしてくれ」
それから休憩が終わったらケビンが集合をかけて、既にパーティーを組んだ者たちはパーティー単位で分かれるように指示を出す。
その状態からあぶれた者たちをケビンが集めたら、鑑定を使いながらバランス良くパーティーを組ませていく。
こうして1パーティー5人の編成が終わり計6組のパーティーが出来上がったので、それぞれの引率としてジャンヌたちを分かれさせたら生徒たちの荷物はジャンヌたちが預かり、お昼までの1時間を周辺の探索に使って実戦に励むよう告げた。
「それじゃあ君たちは君たちなりの探索をしてくれ」
ケビンが受け持ったパーティーへ指示を出すと、そのパーティーは相談し合いながら森の中へと足を進める。
引率がケビンとあってか生徒たちは街門での印象が強く残っており、なおかつAランクである【森のさえずり】が敬っていたこともあるので、ケビンのことは怖い冒険者と思っていて探索をビクビクとしながら進めていた。
「そんなに固くならなくていい。リラックスして何か普通とは違う雰囲気を感じ取るんだ。欲を言えば足元に注意して薬草とか毒消し草とか、冒険に役立ちそうな物を探しながらするといざって時に役に立つ」
「「「「「はい!」」」」」
その後も適度にケビンがアドバイスをしていくと生徒たちの緊張もいくらか解れてきて、ケビンのアドバイスを実践しながら探索を頑張っていく。
そのような時に生徒の1人が「数十メートル先に何かがいる感じがする」と、仲間たちへ報告したら生徒たちの緊張が徐々に高まっていった。
そのまま生徒たちが静かに歩いていき注意しながら目を凝らすと、視線の先に1匹のゴブリンが木陰から姿を現したのを視界に捉える。
「ゴブリンだ」
「どうする?」
「魔法を撃ち込む?」
「遠距離の武器役がいないからそれがいいかも」
「それじゃあ魔法を撃ち込んで、あとは剣持ちが協力して対処するってことで」
静かに作戦を立てていた生徒たちは方針が決まると、魔法を使える魔術師希望の生徒が詠唱を始めて、前衛の近接タイプが剣を片手に構えていつでも襲いかかれる準備をする。
魔術師希望の生徒の詠唱が終わり火球がゴブリンに向けて飛んでいくと命中精度はそこまで高くないのか、左腕を掠めただけでゴブリンへ大したダメージを与えることはなかった。
「グギャー!」
「よし、行くぞ!」
「おう!」
攻撃を受けたゴブリンが怒って生徒たちの方へ駆けてくると、剣を片手に持った生徒2人が応戦のため突っ込んでゴブリンと近接戦を始める。
その生徒2人はちゃんと剣術の基礎を修めているようで、お互いに協力しながら危なげなくゴブリンを討伐することに成功した。
「やった、倒したぞ!」
「解体しないと」
その後、解体まで済ませた生徒たちにケビンが反省会を設けた。
「さて、今日の初戦闘はどうだった? 何か気づいた点とかある?」
ケビンの問いかけに対して魔法を放った少女が自分の至らない点を挙げると、ケビンは特にそれは問題ないとして少女へ告げる。
「その後に前衛2人がちゃんとフォローしたからそこは問題じゃない。君の悪い点を挙げるとするなら、森の中の戦闘で火属性を使ったことだよ。ほら、あそこの木がまだ燃えているだろ? このまま放っておくと火事になるかもね」
ケビンが指さした先にはゴブリンを掠めて飛んでいった火球が、そのまま延長線上の木に着弾していて燃えている光景だった。
「「「「「――ッ!」」」」」
その光景を目にした生徒たちは慌てて駆けつけて、必死になって土をかけながら消火活動に当たっていく。
やがて火は消えて惨事には至らなかったが、少女は自分のしたミスでかなり落ち込んでしまった。
「ちょっと質問。この中で水属性に適性がある生徒はいないのかな?」
ケビンの言葉によって、今更ながらにその方法を使えば簡単に火は消せたのだと思い至り、水属性持ちの生徒は何とも言えない表情となる。
「その反応だといるみたいだね。予想外な事態が起きた時こそ一旦落ち着いて冷静になろうか。慌ててもあまり良い結果が生まれることは少ないから」
「すみませんでした!」
「今回のは良い経験になっただろ? あとは戦闘終了後も気を抜かないこと。周りに意識を向けていたら、俺が指摘する前に燃えている木に気づけたはずだから」
「「「「「はい!」」」」」
その後も生徒たちは探索を続けていき頃合いになったところで、出発点となる森の入口へと戻り始める。
「あの……ケビン先生……」
「えっ……先生?」
生徒からいきなり先生呼びされてしまったケビンは、どことなくむず痒くなってしまい聞き返してしまった。
「はい。実習の先生なので……ダメですか?」
「いや、呼び方は好きに呼んでいいよ。特にこだわりはないし」
「ありがとうございます。それで、その……」
「聞きたいことがあるなら何でも聞いていいよ」
「魔法を上手く当てるにはどうしたら良いですか?」
「んー……そうだねぇ……いつもは訓練場で練習しているのかな?」
「はい。放課後や休みの日とかに」
「ということは、100メートル先の的当てしてる?」
「はい。よくご存知ですね」
「訓練場を見たことがあるからね。練習は的の真ん中に当てられる位置まで行ってそこから始めればいいよ。真ん中に10回連続で当てることができたら1メートル下がる。これをひたすら繰り返すだけ。そうしたら君の苦手とする距離がわかるから、その距離から反復練習すれば自然と命中精度は上がっていくよ」
「ありがとうございます」
それからも周りの生徒たちから質問が飛び交い、ケビンはそれに1つ1つ答えてアドバイスをしていく。そのようなことを繰り返していたら森を抜けて元の場所へ戻ってきたので、引率していた生徒たちには休んでおくように伝えた。
その後、チラホラと探索に向かっていた他のパーティーも戻ってきたところで、ケビンはお昼休憩の時間として1時間を自由時間とし、その間に食事や休憩をとるように生徒たちへ伝える。
それを聞いた生徒たちはバラけることなくパーティーで食事を摂るようにしたみたいで、持参した冒険者ならではの乾パンと干し肉を食べ始めてその味に顔をしかめるのであった。
ところ変わって生徒たちへの指示出しが終わったケビンはテーブルセットを取り出してジャンヌたちと食事をとるのだが、ケビンの振る舞う料理は冒険者の定番とはかけ離れておりちゃんとした食事だったために、それを見た生徒たちは羨ましそうな視線を向けながら目の前の干し肉に齧りつく。
「やっぱりベテランの冒険者は食事が違うんだな」
「俺もいつかはあんな食事を食べながら冒険してぇ」
「テーブルセットが出てくるなんて、やっぱりマジックポーチなのかな?」
「でもジャンヌ先生たちは見たこともないポーチをつけているけど、ケビン先生は何もつけてないよね?」
「じゃあどうやって出したの?」
生徒たちの会話など聞こえていないケビンたちは、質素な食事を摂っている生徒たちの前で美味しい食事を食べて歓談しながら昼休憩を過ごしていた。
そして午後からの実習が始まりパーティーごとに分かれた生徒たちは、再び探索するために森の中へと入っていく。
そしてケビンも午前中に受け持ったパーティーとともに森の中へと入り、ゴブリン捜しの探索を見守るのである。
「ケビン先生、ここはゴブリンしかいないのでしょうか?」
「他にもいるよ。森の浅い所だったらホーンラビットやゴブリンで、深くなるとフォレストウルフの群れだったり、オークだったり、あとはスパイダー種とかもいるね。スネーク種も割りといるかな」
「でもゴブリンしか見かけません」
「そりゃあ実習のためにホーンラビット以外は間引いたから、いつもより見当たらないのは当たり前だよ」
「他の魔物とは戦えないのでしょうか?」
「んー……自分たちの力を試してみたいのはわかるけど、ジャンヌが言っていたように力を過信すると早死するよ? それに君たちはまだ生徒だ。力試しは卒業してからでも遅くはないよ」
「そうですね。ゴブリン退治に専念します」
「とりあえず今の目標は、自分たちと同じ人数のゴブリンをいっぺんに相手取ることかな。それができれば強くなったと言えるだろうね」
「5匹のゴブリンですか……」
それから生徒たちは探索を続けてゴブリン退治に勤しむが中々目標である5匹のゴブリンとは出会えずに、会えても1~3匹程度でこの日の実習は終わってしまうのだった。
そして夕方になり生徒たちが全員戻ってきたところで、ケビンは男女に分けて野営のためのテント張り作業をするように伝える。
そのテントは3人用が11組あって、男女でわかれても足りる計算になっている。配置としてはパーティーごとに設置したら、一応の配慮として男女のテント間を離しているくらいだ。
テント張りに手こずる女子たちは男子の協力を得て、無事にテントを設置することができた。
それが終わると今度は焚き火の準備で、森から戻ってくる際に拾い集めていた枝をパーティーごとに焚いていく。
「焚き火は明日までずっと焚いたままにしておく。もし集めた枝を不足に感じるパーティーがいたら、明るいうちに引率者を連れて再度収集に行ってくれ」
ケビンがそう告げると生徒たちは自分たちの集めた枝へ視線を向けて明日の朝まで持つのか予測を立てていくと、それぞれが足りそうにないと感じてしまったのか引率者へ駆け寄っていく。それはケビンとて例外ではなく受け持ちのパーティーが駆け寄ってきた。
「ケビン先生……あの……」
「だから帰りに言っただろ? 『それだけでいいのか?』って」
「ごめんなさい……」
ケビンが周りを見ても同じような注意を別のパーティーたちが受けていたので、他の生徒たちも帰りしなは同じようなことを指摘されたのだろうと予測する。
生徒たちにとって今回が初めての野営実習ということでケビンも大目に見て手助けすることにしたら、生徒たちへ向けて口を開くのだった。
「今回が初めての野営実習で今日は君たちが頑張ったご褒美として、さっき言ったことは取り消して俺が手助けするから薪拾いには行かなくていい」
ケビンはそう告げると野営地から少し離れた場所まで歩いていき、木の前に立ったら【無限収納】から【黒焰】を取り出すとおもむろに鞘から抜き放ち一閃する。
そして何事もなかったかのように刀を鞘に収めたら、その場から横へ移動して風魔法で手前に倒した。するとドシーンと木が地面に打ちつけられる音が鳴り響き、その光景を目の当たりにした生徒たちは呆然と立ち尽くしてしまう。
「これは裏技だから真似しないように。本来のパーティーだとこんなに薪は必要ないから、木を1本切り倒すのはもったいない。ということで《煉獄》」
倒れた木に向かってケビンが《煉獄》を放つと不必要な葉っぱの部分だけを燃やし尽くしていき、後に残ったのは葉のない木のみである。
そこからケビンは木に熱を加えて適度に乾燥させると、刀で適度な大きさにスパスパと切り終えたら【無限収納】へ回収した。そして野営地の中心辺りに土魔法で囲いを作ったら【無限収納】から薪を出して、勝手に薪置き場を作り上げるのだった。
「いっぱいあるからって無駄遣いするなよ? かと言って薪をケチって火を消すことのないようにな。そこら辺はまぁ、慣れだな。ひと晩明かすのに必要な量はそのうち身につく」
一連の流れを見ていた生徒たちは目の前の出来事に理解が及ばず、現実逃避という名の安住の地を探し求める。
それからケビンはこのあとの予定を話して各パーティーで野営の順番を決めるように伝えると、あとは自由行動として野営地から離れないように指示を出したら自分用に携帯ハウスを設置して中へと入っていくのであった。
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