面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

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第13章 出会いと別れ

第417話 ご覧のスポンサーの提供でお送りしました

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 月が変わり5月となったある日のこと、女性騎士団に合格した者たちが順次帝城へと姿を現し、受付役はアルフレッドたちで対応すると兵舎への案内役はニッキーとルイーズでこなして、ケビンの作り出した兵舎へと新人たちは案内されていく。

「私は夢でも見ているのでしょうか……」

「何ですかね、これ……」

 理解不能な建物を前に新人たちは呆然と立ち尽くし、誰しもが足を止めて首が痛くなりそうなほど兵舎を見上げてしまうのだった。

「これから建物はいつでも見れるのです。ぼさっとせずに早くついてきなさい」

 到着した新人たちを中へ案内しているのはミンディで、最初の頃は優しい口調だったものの、同じ反応を何度も見ていれば対応もおざなりになってしまいさっさと終わらせたい気持ちが勝っていた。

 そして上官となる者から注意を受けた新人たちは元気よく返事をするとミンディのあとへついて行き、中に入ったら入ったでまたもや呆然としてしまい同じように注意を受けて心象を悪くしないように必死である。

「貴女はこちらですわ」

「貴女はこちらです」

 中で待ち受けていたのはターニャとジュリアであり、ロビーで新人たちを迎え入れて順次各部屋へ案内をしていく。その間ロビーで待たされている新人たちはミンディが施設の説明を行い、移動先で混乱して遅延のないように計らってはいるが、それでも転移ポータルを経験しては呆然としてしまうので遅々として円滑には進んでいなかった。

 ようやく予定者の迎え入れが終わった頃には辺りは夕暮れ時となり、この日は旅疲れを癒すという目的で新人たちを休ませるのだった。

 だが、本当の理由としてはターニャたちが疲れ果てたというものだ。それもそのはず、新人たちがバラバラに来たため時間がかかったことも然る事乍ら人数が多かったということもある。それを5人で回したので思いのほか重労働となってしまったのだ。

「こんなことなら時間指定をして一気に案内すれば良かったわね」

「それは今更言っても仕方のないことです」

「疲れたっス~」

「クタクタだよー」

「単純作業は堪えます」

「さぁ、お城に戻ってご飯を食べたらお風呂で疲れをとりましょう」

 こうして迎え入れ行事が終わった5人は、お風呂から上がるとベッドで死んだように眠るのであった。

 明くる日、ターニャたちは朝食を食べ終わるとそそくさ兵舎へと向かっていく。今日は身辺整理を終わらせているかどうかの調査をして、意識の高さを確認する作業が朝からあるのだった。

 それによって取り纏め役を決めたりして班編成を行い、纏まりやすくして団結力を高めていく方針である。

「総員、ロビーに集合!」

 兵舎についたターニャはマイクを使い、新人たちをロビーへ集合させるため館内放送を入れる。

 この装置はケビンの作り出したもので各部屋や通路にスピーカーが設置されていて、ロビーに何故かある受付みたいな所に設置してあるマイクを使えば館内放送を入れることができるのだった。

 バタバタとした足音が建物内に響き渡ると、次から次に新人たちがロビーに現れてきて、ターニャたちの前で何も言わずとも整列していく。

「これは転移ポータルの数を増やしてもらうべきですわね」

「一気に呼び寄せることは想定していなかったと思いますよ」

 ターニャたちが懸念しているのは各階に転移ポータルは1個ずつしか設置されていないため、総員集合をかけた際にどうしても転移待ちになってしまうということだ。

 使用してみて初めて新たな問題点が出たことでターニャは後でケビンにお願いしようと決めたら、先ずは今日やる予定のことを新人たちへ通達していく。

 その結果、どうやら懸念していた身辺整理は昨日のうちに済ませていたようで、ターニャの目論見は早くも崩れ去ってしまった。

「嬉しい誤算ですわ」

「試験を受け面接に合格した時点で意識は高かったのです。良い傾向ではないですか」

 早くも次に行うことを考えねばならず困っているターニャのところへ、不意にケビンが兵舎へ入ってきた。

「ケビン君!?」

 驚くターニャを他所にケビンはキリッとした表情でそれを窘める。

「騎士団長、公私混同するとは何事かね」

「――ッ!」

「君は部下にも公私混同を教育するつもりか?」

「も、申しわけありません!」

 ターニャがすぐさま膝をついて非礼を詫びると、ケビンはイタズラが成功したかのようにニヤッと笑みを浮かべてターニャへ声をかける。

「とまぁ冗談はさておき、何か困ったことはない? まだ泊まって1日目だから細かいことは気がつかないかもしれないけど、何か不便だなぁって感じたこととか」

「え……冗談……?」

「たまには真面目なところも見せようかなっと」

 それを聞いたターニャは背景にゴゴゴゴゴと背負っているかのような雰囲気を醸し出したら、笑っているケビンへ声を荒らげた。

「いくら何でもやって良いことと悪いことがあるんだよ! 私の威厳がなくなったらどうするのよ、ケビン君のバカァっ!」

「くくく……ターニャ、素が出てるよ。新人さんもびっくりしてポカンとしてるし」

「ケビン君のせいだよ、どうしてくれるのよ!」

「しょうがない……新人諸君に告げる。騎士団長は見ての通り可愛いところがあるから、みんなも盛り上げていくように。想像してみてくれ、堅物で面白みのない騎士団長とおっちょこちょいな愛嬌のある騎士団長。君たちが上官に持ちたいと思うのはどっちの騎士団長だ?」

 ケビンがそう告げると一同を見渡したあと、右と左に移動するように伝えて多数決を取る。

 その結果、満場一致で選ばれたのは愛嬌のある騎士団長だった。

「ほら、新人さんたちも堅物ターニャより愛嬌ターニャが好きだってさ」

「うぅぅ……私の威厳が……」

「これで新人たちとの距離が少しは短くなっただろ?」

「ケビンさん……結構酷いですね」

「で、困ったことは?」

 それからターニャたちは総員集合をかけた時のことを報告して、転移ポータルを増やせないか尋ねてみたところ思いもしない答えが返ってくる。

「あれは1人用じゃないけど」

「「「「「えっ!?」」」」」

 ケビンが伝えたのは同じ目的地なら、1度に5人は転移させることができるというものだった。

「言ってなかった?」

「「「「「言ってない!」」」」」

「いや、だって見たらわかるだろ? どう見ても1人用にしては場所取りすぎだろ?」

「魔導具なんて専門外なんだから見てもわからないよ!」

「まぁ、誰にでも失敗はつきものさ」

「ケビン君のは失敗じゃなくて説明不足だよ!」

 その後、目的地が各階にわかれたりすると結局足らないということでターニャの要望通り置くと計5台となるため、ケビンは1階フロアの改造を行って転移ルームを増設したらそこへ転移ポータルを設置して終了する。

「……」

 目の前でポンポン自分たちの住む場所が改造されてしまい、新人たちは呆然としてそれを眺めることしかできなかった。

 それからケビンはターニャへ今日の予定を聞くと班編成を行いたいが班長等を誰にしようかと決めかねていたことを知り、ケビンが各階でグループ分けをしたら班長と副班長をやりたい人の立候補を取ろうとしたのだが立候補者が現れず、かといって顔を合わせたばかりの人たちで推薦者が出るわけでもなし、最終的にはケビンがこっそり鑑定を使って人となりを知ったあと班長と副班長を指名する。

「今から各階での班長と副班長を指名していくから呼ばれたら返事をするように。では、2階の班長はイヴェット、副班長はヴァイオレット」

「「はい」」

「3階の班長はテレーズ、副班長はステファンヌ」

「「はい」」

「4階の班長はロジーヌ、副班長はパスカル」

「「はい」」

「5階の班長はオデット、副班長はニノン」

「「はい」」

「6階の班長はミッシェル、副班長はローレンス」

「「はい」」

「それぞれの階がそのまま班の数字になる。ちなみに第1班の班長はターニャで副班長はミンディだ」

「「え……」」

「おや……団長、副団長ともあろうお方が揃って返事もできないのかね?」

「「……はい」」

「よろしい。では、気になっているであろう質問を受け付ける」

 その言葉で真っ先に手を挙げたのはターニャだった。

「ターニャ君」

「……ケビン君のその喋りは何? あと、班長と副班長をポンポン指名していったけど、その理由は?」

「ふむ、この喋り方については気分であると言っておこう。追求は受け付けない。次に班長と副班長を指名した件は適任と思えたからだ。もし彼女たちの働きぶりを見て私の判断が間違っていると思ったならば、その時点で変更して構わない」

「……わかりました」

「他に質問はないかね?」

 そこで1人の女性が手を挙げる。

「そこの君」

「あの……ずっと疑問に思っていたのですが、貴方はどなたなのでしょうか? 団長たちが従っているところを鑑みると将軍閣下でしょうか?」

「ほう……将軍か……それをしてみるのも面白そうではあるな」

「将軍閣下ではないとしたら……」

「さぁ、ここで問題だ。私の正体を見事言い当てたら1ポイント進呈しよう」

 ケビンが悪ノリで暴走しているがミンディたちもターニャに説明されず事実を知って驚愕した過去があるので、言わばこれは登竜門であると結論づけると新人を見守ることにして口を挟もうとはしなかった。

「……宰相閣下でしょうか?」

「ファイナルアンサー!?」

「……え?」

「まだライフラインでオーディエンスとフィフティ・フィフティとトークが残されているが使うかね?」

「え……らいふらいん? ……お、おーでえんす?」

「先ずはオーディエンスからか……ではその結果を教えよう。宰相は10人、近衛騎士団長が10人、宮廷魔術師長が15人、村人A?が14人だ。不投票が5人ほどいるな……」

「宮廷魔術師長が1番多い……宰相じゃないの……? ってゆーか、何で村人A!?」

「残るライフラインは2つ。フィフティ・フィフティとトーク……」

「ふぇ、ふぇふてぇ・ふぇふっ……つぅー……舌噛んだっ、言いにくい!」

「挑戦者はフィフティ・フィフティへ望みを託すが……その結果は…………じゃん! 宮廷魔術師長と村人A?が残ったぁ! 頼みの綱の宰相がここで消えてしまったぁ!」

 とうとう遊んでいるうちにケビンの興が乗ってしまい、テンションがうなぎ登りになってノリノリで進行を務めていた。

 そのような中で新人は予想していた宰相が消えてしまい、既にケビンの術中にハマって真面目に選択肢の中から選ぼうとしている。

「そんな……宰相じゃなかったなんて……それなら宮廷魔術師長を選ぶべきなの……? 宮廷魔術師長の方が人数多かったし……」

「これで残るライフラインはトークのみとなったぁ!」

「つ、使います!」

 藁にもすがる思いで最後のトークを使うと宣言した新人へ、ケビンは嬉々として大した説明もせずに進行していく。

「さぁ、最後のライフラインをここで使ってきた挑戦者! そのトークのお相手は……第1班のメンバーだ! 制限時間は1分、よーいスタート!」

「え……どういう意味ですか!?」

「さぁ、早く話さないと制限時間がどんどん減ってしまうぞ」

「だ、団長、助けてください!」

「えぇーと……これってどう答えればいいんだろ……」
「素直に答えればいいのでは?」
「でも、微妙な数字っスよ」
「不投票が5人だからねー」
「私たちのせいですか!?」

「不投票って団長たちのことだったんですか!?」

「残り30秒……」

 容赦なく伝えられる残り時間に新人が焦り始める。

「団長! 時間が、時間が!」

「よ、よく言われてるのは村人Aだよ!」
「でも選択肢は“村人A?”ですよ」
「“?”がキモっスね!」
「実は村人Bだったりとかー?」
「ケビンさんなら村人Kが妥当かと」

「残り10秒……」

「団長、早くぅぅっ!」

「え、えっと……」

「残り5秒……」

「だ、団長!」

「……が、頑張って! てへっ」

「カ、カワイィィっ!」

「ターイムオーバー!」

 結局トークでは最終的にターニャのてへぺろで終わってしまいまともな回答は得られず、新人もターニャのてへぺろにやられて素直に可愛いと感想を口にするグダグダ展開となってしまった。

「さぁ、答えをどうぞ! さぁ、さぁ!」

「む、村人Kで!」

 ケビンによって煽られてしまったためうっかり“村人A?”ではなく、ジュリアの発言した“村人K”を回答してしまう新人だったが、テンパっていて自分のミスに気づかずにいた。

「ファイナルアンサー!?」

「ふぁいなるあんさー!」

「ん、んー…………」

『ここで一旦CMです』

『この世界にCMなんてないだろ』

『♪~(落ちつきのある音楽)あなたの隣でいつも温かさに溢れるその光……外では夜道を照らす光……家の中では家族を包み込む光……そう、その名もランタン……最高のパートナーをあなたに……あなたのパートナーにきっと巡り逢える魔導具工房マジカル……最高の時間を魔導具とともに……』

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 ケビンがサナへ猛烈にツッコミを入れてやり取りしている間も、それを知らぬ新人は答えを待ち続けて焦らされていく。

 そしてそれは周りにいるオーディエンスたちも同様であった。

「引っ張るねーケビン君……」
「新人が可哀想ではありますね」
「焦らしプレイがパないっス!」
「夜も焦らす時あるよねー」
「でも、そのあとは飛ぶような気持ちよさです」

「……あの……答えは……?」

 新人の言葉で我に返ったケビンは、まだ答えを言ってなかったことを思い出してしまう。

「…………んー……残念っ!」

「そんな……」

「ということで、今まで貯めたポイントは全て没収となる」

「ああっ……」

 そのようなやり取りの中で冷静にターニャがツッコミを入れた。

「元々0ポイントだよね?」
「そこは触れてはいけません」
「自分も参加してみたいっス!」
「ポイント貯まると何かあるのかなー?」
「1日デート権とかがいいです」

 こうして遊びに満足したケビンは後のことをターニャたちへ任せると、そのまま帝城へと帰ってしまうのであった。
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