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第13章 出会いと別れ
第415話 儂は幸せ者じゃ……
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ある日の昼下がり、ケビンはいつものように玉座でのんびりと過ごしていた。ロナは相変わらずケビンに抱っこされるのが好きなようで、今日も膝上に乗ってのんびりと過ごしている。
「パパー」
そこへケビンを呼ぶ声が聞こえて視線を向けると、ソフィーリアの息子であるテオがゆっくりと歩いてきていた。
「テ……テオっ!」
おぼつかない足取りではあるものの、ハイハイを卒業しているテオはゆっくりとその足を進めていく。
「が、頑張れ!」
ケビンはすぐさま立ち上がって抱っこしに行きたい衝動を抑えつつも、テオが頑張って玉座まで辿りつけるのを今か今かと心待ちにする。
「ついたー」
やがてケビンの所まで時間はかかったものの辿りついたテオをケビンは褒めちぎり、ロナを隣へ座らせるとご褒美に抱っこするのだった。
「テオは凄いなーいっぱい歩けたぞ」
「テオはすごい!」
「ああ、凄いぞ!」
テオが歩いてケビンへ近寄ったことを褒められると、それを見ていた他の子供たちまで嫉妬したのかケビンの所まで目指そうとする。
「パーパ!」
シーラの息子であるシーヴァとティナの息子であるシルヴィオが競い合うかのように歩き始めて危なっかしい場面ではあるが、『子供はのびのび育てる』という母親たちの意向によりケビンの過保護さは効果を発揮できない。
それもひとえにハイハイの時ならケビンは何もしなかったが、子供たちが立って歩き始めると転びそうになる度にケビンが魔法で救出をするという場面が多発して、母親たちから「転んで痛い思いをしないと上達しない」という猛反発を受けてしまい、泣く泣く救出を諦める形となった。
その時のケビンは密かに『転ばなくても歩けるようになるのに……』と思ったことは、ケビンの心の内に仕舞われるのだった。
そしてシーヴァとシルヴィオがケビンの元へ辿りつくと、テオの時と同じように褒めちぎっては抱っこをする。
「シーヴァとシルヴィオも凄いなー」
「すごいすごい!」
「すごーい」
そのような平和な日々が過ぎていく中で、季節は冬へと移り変わり風雲急を告げる報せがケビンの元へ届くのだった。
その日はケビンが執務室で珍しく年明け後の仕事をこなしているとバタバタと駆けつける音が聞こえたかと思いきや、ドアを思い切り開け放って慌てながら飛び込んでくるアリスの姿があった。
「ケ、ケビン様っ! た、た、大変なことが――」
「アリス、とりあえず落ち着いて」
「す、すみません!」
アリスが深呼吸をしてある程度の落ち着きを取り戻したところで、ケビンは慌てていた理由を問いかける。
「それで何があったの?」
「お、お父様が……」
「ライル大公がどうしたの?」
「た、倒れられたとお母様から魔導通信機で連絡が来て……頭が真っ白になってどうしたらいいかわからなくて……居ても立っても居られずケビン様の元へ……」
「わかった。すぐに向かおう」
ケビンはそれから他の嫁にことの次第を説明したらアリスとアレックスを連れて、アリシテア王国のケビン用客室へと転移した。
それからすぐさまライル大公の私室へ3人で訪れると、そこにはベッドに横たわるライル大公とベッド脇のイスに腰掛けるマリアンヌ大公妃の姿があった。
「お父様!」
ライルの姿を目にしたアリスがすぐに傍へ駆け寄り、横たわる父親の手を取ると必死に呼びかける。
「おお……アリスか……元気そうじゃの……」
「はい、アリスはケビン様のおかげで元気に過ごせています」
そこへ遅ればせながらアレックスの手を引いてケビンも近寄り、覇気のないライルへ声をかける。
「お義父さん、アレックスを連れて会いに来たよ」
「おお、ケビンか……アレックスはまた大きくなったのぅ……」
「じーじ、げんきない?」
「そうじゃの……いささか疲れてしもうたの……」
「パパ、じーじげんきない。まほうつかって」
生を終えようとしているライルへは効果がないが、ケビンはアレックスの要望に応えて回復魔法を行使する。
「じーじ、これでげんきになる?」
「ああ、アレックスのおかげでじーじは元気をもらったぞ。さっきよりも元気になったみたいじゃ」
自分の死期を悟っているライルは、アレックスへ心配をかけまいとして元気を装うのだった。
「じーじあそぼ」
「すまんのぅ……じーじはまだ遊べるまで元気になっておらんのじゃ」
「いっぱいねたらげんきになるよ」
「そうじゃの……アレックスと遊べるようにいっぱい寝ないといけないのぅ」
ライルとアレックスの話のキリが良くなったところで、ケビンは家族の時間が持てるようにとアレックスを連れて外へ出ようとする。
「アレックス、じーじを休ませてあげるために外に出ようか」
「うん。じーじまたね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。また明日会おうかの」
それからケビンはアレックスを連れて客室へと戻り、アレックスの相手をしながら時を過ごしていく。
その日からケビンたちは王国のお世話になることとなり夕食はライル夫妻が抜けた人数で食事を摂ると、重苦しい雰囲気の中で状況がわかっていないアレックスだけが元気に喋っており、今この状況においてはその元気さがありがたく最悪なところまで気落ちせずに助けられているのだった。
翌日、アレックスがライルの様子を見に行ったあとは、ローラ王妃の息子であるバージルの相手をしたりして時間を過ごし、アリスは少しでも一緒にいられるようにライルの元でマリアンヌと過ごしていた。
それから数日間はそのような日々が続いていくが、その間に早馬で報告を受けた元第1王女のロザリー侯爵夫人と元第2王女のスザンヌ侯爵夫人が登城しライルの元へと駆けつけると、涙ながらに父親へと語りかけていく。
そしてある日の夜のこと、ライルが床に伏せてからは傍でずっと看病をし続けているマリアンヌへ静かにライルが語りかけた。
「ありがとう、マリアンヌ……」
「いきなりどうしたの、あなた」
「儂はマリアンヌと出会えて幸せじゃった。エレンが先に逝ってから立ち直れたのもマリアンヌのおかげじゃ」
「夫を支えるのは妻の役目よ」
「儂はマリアンヌを幸せにできたじゃろうか」
「当たり前じゃない。あなたと一緒にいられてとても幸せよ」
「そうか……それだけが心残りじゃった……」
「これからも幸せにしてくれるのでしょう?」
「そうじゃの……それができればよいのじゃが……」
マリアンヌはライルの手を握ると元気が出るように先である未来の話をしていく。その話は護衛も連れずに2人だけで気ままな旅をしようという内容だ。
「儂はもう歳じゃしゴブリンにさえ負けてしまうぞ。マリアンヌを守ってやれん」
「ふふっ、私が守るわ」
それからマリアンヌはライルへ今まで隠していたギルドカードを見せると、元冒険者であることを告げるのだった。
「はは……マリアンヌはお転婆であったのか。これは良い秘密を知ったの」
「そうよ。昔はサラと一緒に冒険をしたんだから」
「それであのように仲が良いわけか……納得じゃ……」
「だから早く元気になって2人だけで冒険をしましょう。先ずは保養地タミアね、あそこの温泉はいいものらしいわ」
「良いのぅ……温泉か……」
「それにアレックスとも遊ぶ約束をしているのだから、早く元気にならなきゃ嫌われるわよ?」
「……そうじゃのぅ……アレックスと遊ぶ約束をしてしまったのぅ……」
「じーじきらいって言われたくないでしょう?」
「それを言われたら堪えるの……」
それからも必死にマリアンヌはライルへと語りかけて楽しい内容の話を続けていくが、それを止めるかのようにライルがマリアンヌへ語りかけた。
「アレックスには謝っておいてくれんか……ケビンにも礼を頼む……我が国があるのは戦争を終わらせたケビンのおかげじゃからな……」
「謝るにしてもお礼を言うにしても、あなたが自分で伝えなきゃダメよ」
「娘たちは嫁ぎ、ヴィクトールは国王となった……世継ぎも生まれた……良き家族に恵まれ……最期は最愛の妻に看取られ……儂は幸せ者じゃ……」
「ダメよ、これからも幸せになるのよ!」
次第に声音が弱まってくるライルへマリアンヌは必死に呼びかけ続けるが、ライルの瞳は静かに閉じようとされていた。
「……マリアンヌよ、残りの人生は……好きに…………生きよ……」
「……あなた……」
「…………あり……が……」
今までマリアンヌの手を掴んでいたライルの手が力を失うと、静かにベッドへと倒れ込んでいく。
「ねぇ起きて……起きてライル……2人で冒険をするのよ。それで温泉に行くのでしょう?」
「……」
瞳を閉じて安らかに眠るライルの体を揺さぶりマリアンヌは必死に呼びかけるが、その後、ライルが2度と目を覚ますことはなかった。
泣き続けるマリアンヌはライルが身罷ったことを誰にも告げず、ライルが静かに寝るベッドへ入り込むとこれで最後となる共寝をして、今まで一緒に過ごした時間を思い出してはそれを物言わぬライルへ語りかけながら、時には笑みもこぼれはするものの最後は泣き疲れて静かに瞳を閉じた。
翌日、ライルが亡くなった晩にマリアンヌが報せずに最後の夜を共に過ごしたことに対して誰も咎めるようなことはせず、泣き腫らしたマリアンヌの顔を見てヴィクトールが後のことは請け負うと言うが、毅然とした態度で妻として最後の仕事となる亡き夫の葬儀を進めると言っては、元王妃としての威厳を見せつけた。
そして、第17代国王であったライル大公の葬儀は当然のごとく国を挙げての国葬となり、王都に住まう人々は善政を敷いていた偉大な王の最期に涙しながら別れを惜しんだ。
国葬は遠方に住む貴族もいるため早馬を出して報せると、開始時期をずらして約2週間ほど続き、その間の防腐処理はケビンの力によって施されていた。
そのおかげか、駆けつけた貴族たちはライルの遺体を見てもただ眠っているだけのようにしか見えず、誰しもが「寝ているだけで目を覚ますのでは?」と口にする。
貴族の他には同盟国であるミナーヴァ魔導王国のエムリス国王夫妻も来ており、さすがに王都までは遠すぎるのと急であるためケビンが転移にて連れてきていた。
当然そこにはケビンの家族たちも参加しており、子供たちは遊んでくれたライルが亡くなったことを理解できずに「じーじをおこしてあそぼう」と口々にするが、そこは母親たちが子供へ言い聞かせるように「お星様になる準備をしているから起こしたらダメなのよ」と、大人しく子供たちだけで遊ぶように伝えるのだった。
こうして数々の人たちから別れを惜しまれるライル大公は享年66歳となるその長い生涯に幕を閉じると、後に歴史の中の偉大な王の1人としてその名を後世に語り継がれていくのであった。
「パパー」
そこへケビンを呼ぶ声が聞こえて視線を向けると、ソフィーリアの息子であるテオがゆっくりと歩いてきていた。
「テ……テオっ!」
おぼつかない足取りではあるものの、ハイハイを卒業しているテオはゆっくりとその足を進めていく。
「が、頑張れ!」
ケビンはすぐさま立ち上がって抱っこしに行きたい衝動を抑えつつも、テオが頑張って玉座まで辿りつけるのを今か今かと心待ちにする。
「ついたー」
やがてケビンの所まで時間はかかったものの辿りついたテオをケビンは褒めちぎり、ロナを隣へ座らせるとご褒美に抱っこするのだった。
「テオは凄いなーいっぱい歩けたぞ」
「テオはすごい!」
「ああ、凄いぞ!」
テオが歩いてケビンへ近寄ったことを褒められると、それを見ていた他の子供たちまで嫉妬したのかケビンの所まで目指そうとする。
「パーパ!」
シーラの息子であるシーヴァとティナの息子であるシルヴィオが競い合うかのように歩き始めて危なっかしい場面ではあるが、『子供はのびのび育てる』という母親たちの意向によりケビンの過保護さは効果を発揮できない。
それもひとえにハイハイの時ならケビンは何もしなかったが、子供たちが立って歩き始めると転びそうになる度にケビンが魔法で救出をするという場面が多発して、母親たちから「転んで痛い思いをしないと上達しない」という猛反発を受けてしまい、泣く泣く救出を諦める形となった。
その時のケビンは密かに『転ばなくても歩けるようになるのに……』と思ったことは、ケビンの心の内に仕舞われるのだった。
そしてシーヴァとシルヴィオがケビンの元へ辿りつくと、テオの時と同じように褒めちぎっては抱っこをする。
「シーヴァとシルヴィオも凄いなー」
「すごいすごい!」
「すごーい」
そのような平和な日々が過ぎていく中で、季節は冬へと移り変わり風雲急を告げる報せがケビンの元へ届くのだった。
その日はケビンが執務室で珍しく年明け後の仕事をこなしているとバタバタと駆けつける音が聞こえたかと思いきや、ドアを思い切り開け放って慌てながら飛び込んでくるアリスの姿があった。
「ケ、ケビン様っ! た、た、大変なことが――」
「アリス、とりあえず落ち着いて」
「す、すみません!」
アリスが深呼吸をしてある程度の落ち着きを取り戻したところで、ケビンは慌てていた理由を問いかける。
「それで何があったの?」
「お、お父様が……」
「ライル大公がどうしたの?」
「た、倒れられたとお母様から魔導通信機で連絡が来て……頭が真っ白になってどうしたらいいかわからなくて……居ても立っても居られずケビン様の元へ……」
「わかった。すぐに向かおう」
ケビンはそれから他の嫁にことの次第を説明したらアリスとアレックスを連れて、アリシテア王国のケビン用客室へと転移した。
それからすぐさまライル大公の私室へ3人で訪れると、そこにはベッドに横たわるライル大公とベッド脇のイスに腰掛けるマリアンヌ大公妃の姿があった。
「お父様!」
ライルの姿を目にしたアリスがすぐに傍へ駆け寄り、横たわる父親の手を取ると必死に呼びかける。
「おお……アリスか……元気そうじゃの……」
「はい、アリスはケビン様のおかげで元気に過ごせています」
そこへ遅ればせながらアレックスの手を引いてケビンも近寄り、覇気のないライルへ声をかける。
「お義父さん、アレックスを連れて会いに来たよ」
「おお、ケビンか……アレックスはまた大きくなったのぅ……」
「じーじ、げんきない?」
「そうじゃの……いささか疲れてしもうたの……」
「パパ、じーじげんきない。まほうつかって」
生を終えようとしているライルへは効果がないが、ケビンはアレックスの要望に応えて回復魔法を行使する。
「じーじ、これでげんきになる?」
「ああ、アレックスのおかげでじーじは元気をもらったぞ。さっきよりも元気になったみたいじゃ」
自分の死期を悟っているライルは、アレックスへ心配をかけまいとして元気を装うのだった。
「じーじあそぼ」
「すまんのぅ……じーじはまだ遊べるまで元気になっておらんのじゃ」
「いっぱいねたらげんきになるよ」
「そうじゃの……アレックスと遊べるようにいっぱい寝ないといけないのぅ」
ライルとアレックスの話のキリが良くなったところで、ケビンは家族の時間が持てるようにとアレックスを連れて外へ出ようとする。
「アレックス、じーじを休ませてあげるために外に出ようか」
「うん。じーじまたね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。また明日会おうかの」
それからケビンはアレックスを連れて客室へと戻り、アレックスの相手をしながら時を過ごしていく。
その日からケビンたちは王国のお世話になることとなり夕食はライル夫妻が抜けた人数で食事を摂ると、重苦しい雰囲気の中で状況がわかっていないアレックスだけが元気に喋っており、今この状況においてはその元気さがありがたく最悪なところまで気落ちせずに助けられているのだった。
翌日、アレックスがライルの様子を見に行ったあとは、ローラ王妃の息子であるバージルの相手をしたりして時間を過ごし、アリスは少しでも一緒にいられるようにライルの元でマリアンヌと過ごしていた。
それから数日間はそのような日々が続いていくが、その間に早馬で報告を受けた元第1王女のロザリー侯爵夫人と元第2王女のスザンヌ侯爵夫人が登城しライルの元へと駆けつけると、涙ながらに父親へと語りかけていく。
そしてある日の夜のこと、ライルが床に伏せてからは傍でずっと看病をし続けているマリアンヌへ静かにライルが語りかけた。
「ありがとう、マリアンヌ……」
「いきなりどうしたの、あなた」
「儂はマリアンヌと出会えて幸せじゃった。エレンが先に逝ってから立ち直れたのもマリアンヌのおかげじゃ」
「夫を支えるのは妻の役目よ」
「儂はマリアンヌを幸せにできたじゃろうか」
「当たり前じゃない。あなたと一緒にいられてとても幸せよ」
「そうか……それだけが心残りじゃった……」
「これからも幸せにしてくれるのでしょう?」
「そうじゃの……それができればよいのじゃが……」
マリアンヌはライルの手を握ると元気が出るように先である未来の話をしていく。その話は護衛も連れずに2人だけで気ままな旅をしようという内容だ。
「儂はもう歳じゃしゴブリンにさえ負けてしまうぞ。マリアンヌを守ってやれん」
「ふふっ、私が守るわ」
それからマリアンヌはライルへ今まで隠していたギルドカードを見せると、元冒険者であることを告げるのだった。
「はは……マリアンヌはお転婆であったのか。これは良い秘密を知ったの」
「そうよ。昔はサラと一緒に冒険をしたんだから」
「それであのように仲が良いわけか……納得じゃ……」
「だから早く元気になって2人だけで冒険をしましょう。先ずは保養地タミアね、あそこの温泉はいいものらしいわ」
「良いのぅ……温泉か……」
「それにアレックスとも遊ぶ約束をしているのだから、早く元気にならなきゃ嫌われるわよ?」
「……そうじゃのぅ……アレックスと遊ぶ約束をしてしまったのぅ……」
「じーじきらいって言われたくないでしょう?」
「それを言われたら堪えるの……」
それからも必死にマリアンヌはライルへと語りかけて楽しい内容の話を続けていくが、それを止めるかのようにライルがマリアンヌへ語りかけた。
「アレックスには謝っておいてくれんか……ケビンにも礼を頼む……我が国があるのは戦争を終わらせたケビンのおかげじゃからな……」
「謝るにしてもお礼を言うにしても、あなたが自分で伝えなきゃダメよ」
「娘たちは嫁ぎ、ヴィクトールは国王となった……世継ぎも生まれた……良き家族に恵まれ……最期は最愛の妻に看取られ……儂は幸せ者じゃ……」
「ダメよ、これからも幸せになるのよ!」
次第に声音が弱まってくるライルへマリアンヌは必死に呼びかけ続けるが、ライルの瞳は静かに閉じようとされていた。
「……マリアンヌよ、残りの人生は……好きに…………生きよ……」
「……あなた……」
「…………あり……が……」
今までマリアンヌの手を掴んでいたライルの手が力を失うと、静かにベッドへと倒れ込んでいく。
「ねぇ起きて……起きてライル……2人で冒険をするのよ。それで温泉に行くのでしょう?」
「……」
瞳を閉じて安らかに眠るライルの体を揺さぶりマリアンヌは必死に呼びかけるが、その後、ライルが2度と目を覚ますことはなかった。
泣き続けるマリアンヌはライルが身罷ったことを誰にも告げず、ライルが静かに寝るベッドへ入り込むとこれで最後となる共寝をして、今まで一緒に過ごした時間を思い出してはそれを物言わぬライルへ語りかけながら、時には笑みもこぼれはするものの最後は泣き疲れて静かに瞳を閉じた。
翌日、ライルが亡くなった晩にマリアンヌが報せずに最後の夜を共に過ごしたことに対して誰も咎めるようなことはせず、泣き腫らしたマリアンヌの顔を見てヴィクトールが後のことは請け負うと言うが、毅然とした態度で妻として最後の仕事となる亡き夫の葬儀を進めると言っては、元王妃としての威厳を見せつけた。
そして、第17代国王であったライル大公の葬儀は当然のごとく国を挙げての国葬となり、王都に住まう人々は善政を敷いていた偉大な王の最期に涙しながら別れを惜しんだ。
国葬は遠方に住む貴族もいるため早馬を出して報せると、開始時期をずらして約2週間ほど続き、その間の防腐処理はケビンの力によって施されていた。
そのおかげか、駆けつけた貴族たちはライルの遺体を見てもただ眠っているだけのようにしか見えず、誰しもが「寝ているだけで目を覚ますのでは?」と口にする。
貴族の他には同盟国であるミナーヴァ魔導王国のエムリス国王夫妻も来ており、さすがに王都までは遠すぎるのと急であるためケビンが転移にて連れてきていた。
当然そこにはケビンの家族たちも参加しており、子供たちは遊んでくれたライルが亡くなったことを理解できずに「じーじをおこしてあそぼう」と口々にするが、そこは母親たちが子供へ言い聞かせるように「お星様になる準備をしているから起こしたらダメなのよ」と、大人しく子供たちだけで遊ぶように伝えるのだった。
こうして数々の人たちから別れを惜しまれるライル大公は享年66歳となるその長い生涯に幕を閉じると、後に歴史の中の偉大な王の1人としてその名を後世に語り継がれていくのであった。
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