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第13章 出会いと別れ
第405話 店の名は……
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翌朝、朝食を済ませたケビンは実家に寄って帰る旨を伝えると、騎士組を連れてひとまずドワンの所へ向かい騎士装備と冒険者装備の製作を依頼するのだった。
それが終わってから元に戻って携帯ハウスを回収すると、イルゼたちも連れて大所帯で帝城へ帰ることになった。
久方ぶりの我が家へ帰ってきたケビンは憩いの広場へ転移すると、新たな女性を連れていたことで嫁たちからいつも通り揶揄われてしまう。
「やっぱりただじゃ帰ってこないわね」
「安定のハンティング」
そのような時に旧知の仲であるシーラが目ざとくターニャに気づいた。
「ターニャじゃない!?」
「久しぶり」
「やっと捕まえてもらえたのね」
シーラに捕まったターニャはズルズルと引っ張られてイスに座らされると、ケビンとの経緯を尋ね始める。
助けられた経緯を話し始めるターニャを他所に、ケビンは他の女性たちもイスへ座らせるとプリモを子供たちへ紹介して一緒に遊ばせるのだった。
「……パパ……」
「約束だ、おいで」
ケビンへ近づいたパメラが呼びかけると、ケビンはパメラを抱きかかえて出かける前の約束を果たした。
「……この子だれ……」
ケビンの片腕にはパメラが抱っこされていたがもう片方の腕にいる少女のことが気になったパメラがケビンへ尋ねると、ケビンはロナのことを紹介する。
「パメラの新しい妹だよ。名前はロナで恥ずかしがり屋さんだから上手く喋れないんだ。パメラはお姉さんだから優しくするんだよ?」
「……うん……」
ケビンはそのままソフィーリアの所へ向かうと、ロナの状態を改善できないか問いかけた。
「記憶を消したあと精神を癒す方法があるわ」
ソフィーリアの提示する方法は仮に襲われる前まで記憶を消した場合は、両親は何処へ行ったのかという矛盾点が発生して結局盗賊に殺されたことを説明せねばならず、それを聞いた時にショックを受けるというものだ。
そして次に両親ごと記憶を消した場合は、自分の両親はいったい誰なのかという問題が発生する。
最終手段は記憶を全て消して何もわからない状態から始めるというものだったが、さすがにそれは人格が変わるということでケビンは賛成できなかった。
「精神だけ回復できないか?」
「回復した時点でまた狂うわよ? 現実が嫌で心を閉ざして生きる気力を失ったんだから」
「偽の記憶は?」
「両親を誰にするの? 年齢的にあなたは無理よ。それにここにいる適正年齢の女性たちも無理よ。ロナが植え付けられた記憶で普通にお母さんと呼んでも、慣れていない彼女たちだと反応しない場合もあるわ。それをするのだったら彼女たちの記憶も操作して、ロナを娘として認識させないといけないのよ」
「うーん……」
「人格を変えず元のロナのままで回復させるなら現状維持が1番よ。多少は反応するように回復させてあとは時間に任せるしかないわ」
そのような時にケビンの服を掴んでいたパメラが服を引くと、ケビンへ向けて声をかけた。
「……パパ……だいじょうぶ……」
「ん?」
「……パメラ……お姉さんだから……がんばる……」
「パメラ……」
パメラが初めて見せる慣れていない相手への思いやりに対して、ケビンはパメラの成長が嬉しくなり感慨深いものを感じ取るのだった。
「わかった。ロナのことはパメラも手伝ってくれ」
パメラの言葉によりケビンはロナの記憶を弄る手段をやめて、パメラの時と同様に時間をかけて癒していく方針で他のみんなにも伝えた。
それからソフィーリアの手によってロナの精神を発狂しない程度に回復させると、何も反応を示さなかったロナに少しだけ変化が現れる。
「ロナは俺の家族だからな」
「……っ……」
「無理しなくてゆっくり元気になってくれたらいい」
「……ぅ……」
「……ロナ……パメラは……お姉ちゃん……」
パメラがロナの手を取って喋りかけると、ロナの瞳は少しだけパメラへと向く。
「……ぉ……」
そこへパタパタと駆けてきたプリモがロナへ話しかけた。
「ロナちゃん、プリモだよ。お兄ちゃんが悪いおじさんたちをやっつけて助けてくれたの。早く元気になってまた一緒に遊ぼうね。ここはお友だちがいっぱいいるんだよ」
「……ぁぁ……」
プリモの姿を認めたロナは瞳からポロポロと涙を流し始める。
「ロナちゃんどうしたの? どこか痛いの? お兄ちゃん、ロナちゃんが痛がってるよ。泣いてるよ」
「プリモとお話できたから嬉しくて泣いたんだよ」
「そうなの? ロナちゃん、これからもいっぱい話せるよ。夜は一緒に寝ようね」
プリモはロナへ伝えるだけ伝えたら元の場所へ戻っていって、子供たちとの遊びを再開させるのだった。
「さて、ナディア。お店を作りに行こうか?」
「え……」
ナディアが唐突な話についていけず困惑しているのを他所に、ケビンはパメラを下ろすとロナをソフィーリアへ預けようとする。
「ソフィ、ロナのことを頼む」
「嫌よ」
ソフィーリアから聞かされるまさかの拒絶の一言でケビンが言葉を失っていると、悪戯が成功したとばかりにニッコリ笑ったソフィーリアがその理由を告げた。
「あなたと離れたくないみたいよ?」
ソフィーリアが指さすところへ視線を向けたケビンは、ロナが少しだけ服を掴んでいるのを見て驚いてしまう。
「ロナ……」
「パパと一緒にいたい子を取り上げるわけにもいかないでしょう?」
「わかった。ロナ、一緒にお出かけするか?」
「……ぅ……」
ロナの意思が確認できたところでケビンはロナを抱きなおすと、ナディアを連れて城下へ繰り出すのである。
そしてやってきたのは商業ギルドで、空いている土地を物色するために職員へ確認すると別室へ通されて帝都の地図を見せられる。
「ナディア、好きな所を選んでいいよ」
ケビンからそう伝えられたナディアが選んだのは中心地から離れた端の空き地で、如何にも客が敬遠しそうな場所だった。
「何でそこを選んだの?」
「土地代がお安かったので」
「はぁぁ……」
ナディアがケビンに気を使って安い土地を選んだことで、ケビンは諦めて中心地に近い空き地を買うのだった。
「ケビンさん!」
「ナディア、夫婦になったんだから遠慮はナシだ。ラネトレーの時みたいに遠慮しながら生活するのか?」
「それは……」
こうしてケビンに言いくるめられたナディアは何も言えず、ケビンが職員から土地の権利書を受け取るとそのまま現地へと向かいギルドをあとにする。
そして購入した土地へやってきたケビンはナディアの要望を聞きつつ建物を作っていき、それを目にした都民たちは「陛下がまた何かしている」と口々にしてはギャラリーとして見学するのだった。
そのようなギャラリーが見守る中で外観が終わったケビンは内装へと取りかかり、ナディアの要望通り作り上げていき足らない点はケビンのアレンジが加わり着々と作業が進んでいく。
当初ナディアの考えでは棚を作って商品を並べていく方針だったが、ケビンが防犯上の観点から全てガラスケースの中へ収納して展示する形へ変更して、客が勝手に取り出せないように処置した。
「ケビンさん、これではお客様に香水の匂いがわかりませんよ?」
「それはこれを使う」
ケビンが用意したのは開閉式小瓶で蓋を閉じている時は匂いが漏れ出さなくて、小瓶の中に吸水性のフィルター棒が入っている物だった。
そしてその中へケビンがナディアからもらった香水を少しだけ入れると蓋を閉めて、フィルター棒が香水を吸い上げたのを確認したらナディアへそのまま渡すのだった。
「蓋を開けて嗅いでみて」
ケビンに言われるままナディアが小瓶の蓋を開けて嗅いでみると、ほのかにケビンへ渡した香水の香りが漂ってきて今までにない試嗅の方法に目を見開いていた。
「その方法なら試しで使われていって損失分がどんどん出るようなこともないし、店内で試用されて他の香水の香りと混ざり過ぎて、本来の匂いがわからなくなることもないだろ?」
「そこまでお考えになるなんて香水屋をしていたのですか?」
「いや、したことないよ。それよりもこの香水の名前って何? なくなったら買いに来るから」
「名前はまだないです。閉店後に趣味で作った分ですから売ろうとして作った物ではないので。ですが、そうですね……名前は【ラヴァーズ】にします」
「ラヴァーズ?」
「ケビンさんとの出会いの時につけていた香水で、ケビンさんが好きって言ってくれた香水でもあります。そしてケビンさんへこの身も心も捧げた日です。私にとってこれ以上ない思い出の香水です。ですから“愛しき人”って意味を込めて【ラヴァーズ】にしました」
「それを聞いてしまうと使う時や買う時に意識して照れるね」
「ふふっ、そう言っていただけて嬉しいです。やっぱりこれは売りに出さず非売品にしますね。私とケビンさん、2人だけの限定品です」
そして内装の作業が終わったケビンはナディアへ店の名前をどうするか尋ねることにしたら、ナディアが店の名前で悩みに悩んだ結果で導き出した答えは如何にもナディアらしいものであった。
「【エンカウンター】にします」
「その心は?」
「“出会い”です。私はラヴァーズでケビンさんと出会いました。他の方にも私の香水で少しでも素敵な出会いができる手助けになればと。恋人、趣味、仕事。出会いの形は人それぞれですから」
ナディアの考え出した店の名前が決まったところで、ケビンは外観にその文字を入れて香水屋の完成となる。
「陛下、今度は何屋さんを作ったんだ?」
ギャラリーの1人であった向かいのお店から、男性がケビンへ声をかけてきた。
「香水屋だ。俺の嫁が経営するから贔屓にしてやってくれよ?」
「はは、陛下は嫁さんだらけだな。俺にもモテる秘訣を教えてくれよ」
「ちゃんと奥さんに第2夫人の許可を取ったらな」
「あぁ、あいつは俺がガツンと言えば従うから問題ねぇよ」
「へぇーガツンとねぇ……本当にご主人は奥さんへガツンと言えるのか?」
ケビンは店の主人の後ろに足音を忍ばせて近づく女性の姿を見て、挑発することに決めたのだった。
「あったりめぇよ! 女房の尻に敷かれるなんざ男じゃねぇ!」
そこでガシッと肩を掴んだ女性が店の主人へ声をかけた。
「あんた、何をガツンって言うんだい?」
「か、母ちゃん!? な、何でもねぇよ、最近暑いからガツンと一発雨でも降らねぇかなぁと」
「あれぇ? ご主人、新しい嫁さんを作るために奥さんへガツンと言って従わせるんじゃなかったの?」
「へ、へいきゃっ!?」
主人が額から汗をダラダラ流しながらケビンの裏切りに驚いていると、掴まれている肩からミシミシと音が鳴り始める。
「へぇー新しい嫁さんを迎えるのかい? ちょっと店を閉めて奥で話そうか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ母ちゃん! 店を閉めたら売上が――」
「大丈夫さ、1日休んだくらいじゃ潰れないさね。陛下が即位されてから重税を敷かれることもないからねぇ。みっちり話し合いができるってもんだ」
「陛下、助けてっ!」
「いいよ」
ケビンはトコトコと店の主人の前へ行くと店の主人が助かったと安堵するのも束の間、ケビンは不意打ちで小瓶を店の主人の口へ突っ込んで中身を飲ませるのだった。
「んんー!? ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁ、陛下っ、いったい何を飲ませたんだ!?」
「心が落ち着く薬だよ。ご主人は焦っている状態だったからね」
「そ、そりゃあ、ありがてぇ話だ……って、心が落ち着いてもこの状況が変わらねぇじゃねえか!」
「良かったね、あんた。これで落ち着いて話ができるじゃないか」
「全然落ち着けねぇよ! むしろ体が熱くなってるんだ。陛下、これは間違いなく落ち着く薬なのかよ!?」
「ああ、落ち着くよ。その薬は【賢者タイム】っていう薬でね、奥さんにメロメロになって欲情したあと、その気持ちを発散させると大草原で寝転がる感じみたいに心が落ち着くんだ」
「そ、それって……」
「そうかいそうかい。平和になったからそろそろ作ろうかと思ってたんだよねぇ。娘は嫁に行っちまって跡継ぎがいないし、あたしも歳だから跡取りくらいは作っておかないとねぇ」
「それじゃあ奥さん、ご主人からしっぽり搾り取ってあげてね」
「へ、陛下ぁぁぁぁっ!」
そのまま店の主人をズルズルと引きずって女性は奥へと姿を消した。この後、店のご主人はこってり奥さんに搾り取られてしまうのだがご主人の滾りは治まらず、逆襲に出たご主人によって朝まで襲われ続けてしまうのだった。
翌日、この店の開店が遅くなったのは言うまでもなく、事情を知らないお客たちは体調でも崩したのかと心配していたが、崩すには崩したが病気的なものではなくて性的なものだったので、店のご主人は話を濁しながら苦笑いをして接客をしたのである。
後にこの店の奥さんは元気な男の子を産んで、立派な跡継ぎとして育てたのはまた別の話である。
それはさておき、店のご主人が拉致されたのはいいものの奥さんが店を閉めていなかったので、原因の一端を担っているケビンがちゃんと閉店にしていると周りの都民たちから声をかけられた。
「陛下、俺にも【賢者タイム】をくだせぇ!」
「私にも!」
「俺っちも!」
「あたいも!」
次々とケビンが店の主人へ飲ませた薬を欲しがる都民たちにタジタジとなりながら、ケビンが先程面白がって作っただけの【賢者タイム】を再度作っては都民たちへ渡していく。
「それは副作用とかないから安心していいよ。それと、みんな明日になったら礼儀として使った人たちへこう言うんだよ。『昨晩はお楽しみでしたね』って」
そして、ケビンから【賢者タイム】を受け取った都民たちは、嬉々としてその場を去って行く。
「お出かけは楽しかったかい?」
「……ぅ……」
「それじゃあ帰ろうか」
「はい」
何事もなかったかのようにケビンは帝城へと帰っていくが、ケビン作の【賢者タイム】を手に入れた都民たちはその日の内に使って彼方此方でハッスルする声が響きわたって朝まで続いたかと思いきや朝方は獣のような声となり、事情を知らない都民が怖がって衛兵へ通報する珍事となってしまう。
そしてそのお宅へ事情を窺った衛兵がケビンの齎した精力剤だと聞いて頭を抱えつつも都民へ心配ないことを説明したら、こっそり『俺ももらいに行こうかな?』と最近元気のなくなった分身のために気持ちが揺らいでいたのはこの衛兵だけの秘密である。
それから衛兵を通じて朝の出来事が帝城へ報告されて、ケビンがケイトに呼び出されて怒られたのは言うまでもない。
「えっ、朝までやってたの!? 効きすぎたかな?」
「効きすぎたじゃないでしょ! 彼方此方であの声が響いてたらしいのよ!」
オブラートに包むケイトの言葉に対して、ケビンはニヤリとして聞き返すのだった。
「あの声って何?」
「あの声は……あの声よ!」
「あの声じゃよくわかんないから、どんな声なのか試そうか?」
「なっ!? いくら私があ、安定期に入ったからって激しくしたらダメなのよ!」
「ん? 誰もケイトで試そうとは言ってないんだけど?」
「~~ッ!」
「カワイイね。拉致決定!」
こうしてケビンはケイトを手玉にとって拉致すると、体に負担が出ないように優しく愛していたが、最終的には気絶させてしまうのだった。
「優しくしたのに何故だ……」
その後、ケビン作の【賢者タイム】が市販されるかどうかは、神のみぞ知るところだが神であるソフィーリアには見通せない未来であった。
それが終わってから元に戻って携帯ハウスを回収すると、イルゼたちも連れて大所帯で帝城へ帰ることになった。
久方ぶりの我が家へ帰ってきたケビンは憩いの広場へ転移すると、新たな女性を連れていたことで嫁たちからいつも通り揶揄われてしまう。
「やっぱりただじゃ帰ってこないわね」
「安定のハンティング」
そのような時に旧知の仲であるシーラが目ざとくターニャに気づいた。
「ターニャじゃない!?」
「久しぶり」
「やっと捕まえてもらえたのね」
シーラに捕まったターニャはズルズルと引っ張られてイスに座らされると、ケビンとの経緯を尋ね始める。
助けられた経緯を話し始めるターニャを他所に、ケビンは他の女性たちもイスへ座らせるとプリモを子供たちへ紹介して一緒に遊ばせるのだった。
「……パパ……」
「約束だ、おいで」
ケビンへ近づいたパメラが呼びかけると、ケビンはパメラを抱きかかえて出かける前の約束を果たした。
「……この子だれ……」
ケビンの片腕にはパメラが抱っこされていたがもう片方の腕にいる少女のことが気になったパメラがケビンへ尋ねると、ケビンはロナのことを紹介する。
「パメラの新しい妹だよ。名前はロナで恥ずかしがり屋さんだから上手く喋れないんだ。パメラはお姉さんだから優しくするんだよ?」
「……うん……」
ケビンはそのままソフィーリアの所へ向かうと、ロナの状態を改善できないか問いかけた。
「記憶を消したあと精神を癒す方法があるわ」
ソフィーリアの提示する方法は仮に襲われる前まで記憶を消した場合は、両親は何処へ行ったのかという矛盾点が発生して結局盗賊に殺されたことを説明せねばならず、それを聞いた時にショックを受けるというものだ。
そして次に両親ごと記憶を消した場合は、自分の両親はいったい誰なのかという問題が発生する。
最終手段は記憶を全て消して何もわからない状態から始めるというものだったが、さすがにそれは人格が変わるということでケビンは賛成できなかった。
「精神だけ回復できないか?」
「回復した時点でまた狂うわよ? 現実が嫌で心を閉ざして生きる気力を失ったんだから」
「偽の記憶は?」
「両親を誰にするの? 年齢的にあなたは無理よ。それにここにいる適正年齢の女性たちも無理よ。ロナが植え付けられた記憶で普通にお母さんと呼んでも、慣れていない彼女たちだと反応しない場合もあるわ。それをするのだったら彼女たちの記憶も操作して、ロナを娘として認識させないといけないのよ」
「うーん……」
「人格を変えず元のロナのままで回復させるなら現状維持が1番よ。多少は反応するように回復させてあとは時間に任せるしかないわ」
そのような時にケビンの服を掴んでいたパメラが服を引くと、ケビンへ向けて声をかけた。
「……パパ……だいじょうぶ……」
「ん?」
「……パメラ……お姉さんだから……がんばる……」
「パメラ……」
パメラが初めて見せる慣れていない相手への思いやりに対して、ケビンはパメラの成長が嬉しくなり感慨深いものを感じ取るのだった。
「わかった。ロナのことはパメラも手伝ってくれ」
パメラの言葉によりケビンはロナの記憶を弄る手段をやめて、パメラの時と同様に時間をかけて癒していく方針で他のみんなにも伝えた。
それからソフィーリアの手によってロナの精神を発狂しない程度に回復させると、何も反応を示さなかったロナに少しだけ変化が現れる。
「ロナは俺の家族だからな」
「……っ……」
「無理しなくてゆっくり元気になってくれたらいい」
「……ぅ……」
「……ロナ……パメラは……お姉ちゃん……」
パメラがロナの手を取って喋りかけると、ロナの瞳は少しだけパメラへと向く。
「……ぉ……」
そこへパタパタと駆けてきたプリモがロナへ話しかけた。
「ロナちゃん、プリモだよ。お兄ちゃんが悪いおじさんたちをやっつけて助けてくれたの。早く元気になってまた一緒に遊ぼうね。ここはお友だちがいっぱいいるんだよ」
「……ぁぁ……」
プリモの姿を認めたロナは瞳からポロポロと涙を流し始める。
「ロナちゃんどうしたの? どこか痛いの? お兄ちゃん、ロナちゃんが痛がってるよ。泣いてるよ」
「プリモとお話できたから嬉しくて泣いたんだよ」
「そうなの? ロナちゃん、これからもいっぱい話せるよ。夜は一緒に寝ようね」
プリモはロナへ伝えるだけ伝えたら元の場所へ戻っていって、子供たちとの遊びを再開させるのだった。
「さて、ナディア。お店を作りに行こうか?」
「え……」
ナディアが唐突な話についていけず困惑しているのを他所に、ケビンはパメラを下ろすとロナをソフィーリアへ預けようとする。
「ソフィ、ロナのことを頼む」
「嫌よ」
ソフィーリアから聞かされるまさかの拒絶の一言でケビンが言葉を失っていると、悪戯が成功したとばかりにニッコリ笑ったソフィーリアがその理由を告げた。
「あなたと離れたくないみたいよ?」
ソフィーリアが指さすところへ視線を向けたケビンは、ロナが少しだけ服を掴んでいるのを見て驚いてしまう。
「ロナ……」
「パパと一緒にいたい子を取り上げるわけにもいかないでしょう?」
「わかった。ロナ、一緒にお出かけするか?」
「……ぅ……」
ロナの意思が確認できたところでケビンはロナを抱きなおすと、ナディアを連れて城下へ繰り出すのである。
そしてやってきたのは商業ギルドで、空いている土地を物色するために職員へ確認すると別室へ通されて帝都の地図を見せられる。
「ナディア、好きな所を選んでいいよ」
ケビンからそう伝えられたナディアが選んだのは中心地から離れた端の空き地で、如何にも客が敬遠しそうな場所だった。
「何でそこを選んだの?」
「土地代がお安かったので」
「はぁぁ……」
ナディアがケビンに気を使って安い土地を選んだことで、ケビンは諦めて中心地に近い空き地を買うのだった。
「ケビンさん!」
「ナディア、夫婦になったんだから遠慮はナシだ。ラネトレーの時みたいに遠慮しながら生活するのか?」
「それは……」
こうしてケビンに言いくるめられたナディアは何も言えず、ケビンが職員から土地の権利書を受け取るとそのまま現地へと向かいギルドをあとにする。
そして購入した土地へやってきたケビンはナディアの要望を聞きつつ建物を作っていき、それを目にした都民たちは「陛下がまた何かしている」と口々にしてはギャラリーとして見学するのだった。
そのようなギャラリーが見守る中で外観が終わったケビンは内装へと取りかかり、ナディアの要望通り作り上げていき足らない点はケビンのアレンジが加わり着々と作業が進んでいく。
当初ナディアの考えでは棚を作って商品を並べていく方針だったが、ケビンが防犯上の観点から全てガラスケースの中へ収納して展示する形へ変更して、客が勝手に取り出せないように処置した。
「ケビンさん、これではお客様に香水の匂いがわかりませんよ?」
「それはこれを使う」
ケビンが用意したのは開閉式小瓶で蓋を閉じている時は匂いが漏れ出さなくて、小瓶の中に吸水性のフィルター棒が入っている物だった。
そしてその中へケビンがナディアからもらった香水を少しだけ入れると蓋を閉めて、フィルター棒が香水を吸い上げたのを確認したらナディアへそのまま渡すのだった。
「蓋を開けて嗅いでみて」
ケビンに言われるままナディアが小瓶の蓋を開けて嗅いでみると、ほのかにケビンへ渡した香水の香りが漂ってきて今までにない試嗅の方法に目を見開いていた。
「その方法なら試しで使われていって損失分がどんどん出るようなこともないし、店内で試用されて他の香水の香りと混ざり過ぎて、本来の匂いがわからなくなることもないだろ?」
「そこまでお考えになるなんて香水屋をしていたのですか?」
「いや、したことないよ。それよりもこの香水の名前って何? なくなったら買いに来るから」
「名前はまだないです。閉店後に趣味で作った分ですから売ろうとして作った物ではないので。ですが、そうですね……名前は【ラヴァーズ】にします」
「ラヴァーズ?」
「ケビンさんとの出会いの時につけていた香水で、ケビンさんが好きって言ってくれた香水でもあります。そしてケビンさんへこの身も心も捧げた日です。私にとってこれ以上ない思い出の香水です。ですから“愛しき人”って意味を込めて【ラヴァーズ】にしました」
「それを聞いてしまうと使う時や買う時に意識して照れるね」
「ふふっ、そう言っていただけて嬉しいです。やっぱりこれは売りに出さず非売品にしますね。私とケビンさん、2人だけの限定品です」
そして内装の作業が終わったケビンはナディアへ店の名前をどうするか尋ねることにしたら、ナディアが店の名前で悩みに悩んだ結果で導き出した答えは如何にもナディアらしいものであった。
「【エンカウンター】にします」
「その心は?」
「“出会い”です。私はラヴァーズでケビンさんと出会いました。他の方にも私の香水で少しでも素敵な出会いができる手助けになればと。恋人、趣味、仕事。出会いの形は人それぞれですから」
ナディアの考え出した店の名前が決まったところで、ケビンは外観にその文字を入れて香水屋の完成となる。
「陛下、今度は何屋さんを作ったんだ?」
ギャラリーの1人であった向かいのお店から、男性がケビンへ声をかけてきた。
「香水屋だ。俺の嫁が経営するから贔屓にしてやってくれよ?」
「はは、陛下は嫁さんだらけだな。俺にもモテる秘訣を教えてくれよ」
「ちゃんと奥さんに第2夫人の許可を取ったらな」
「あぁ、あいつは俺がガツンと言えば従うから問題ねぇよ」
「へぇーガツンとねぇ……本当にご主人は奥さんへガツンと言えるのか?」
ケビンは店の主人の後ろに足音を忍ばせて近づく女性の姿を見て、挑発することに決めたのだった。
「あったりめぇよ! 女房の尻に敷かれるなんざ男じゃねぇ!」
そこでガシッと肩を掴んだ女性が店の主人へ声をかけた。
「あんた、何をガツンって言うんだい?」
「か、母ちゃん!? な、何でもねぇよ、最近暑いからガツンと一発雨でも降らねぇかなぁと」
「あれぇ? ご主人、新しい嫁さんを作るために奥さんへガツンと言って従わせるんじゃなかったの?」
「へ、へいきゃっ!?」
主人が額から汗をダラダラ流しながらケビンの裏切りに驚いていると、掴まれている肩からミシミシと音が鳴り始める。
「へぇー新しい嫁さんを迎えるのかい? ちょっと店を閉めて奥で話そうか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ母ちゃん! 店を閉めたら売上が――」
「大丈夫さ、1日休んだくらいじゃ潰れないさね。陛下が即位されてから重税を敷かれることもないからねぇ。みっちり話し合いができるってもんだ」
「陛下、助けてっ!」
「いいよ」
ケビンはトコトコと店の主人の前へ行くと店の主人が助かったと安堵するのも束の間、ケビンは不意打ちで小瓶を店の主人の口へ突っ込んで中身を飲ませるのだった。
「んんー!? ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁ、陛下っ、いったい何を飲ませたんだ!?」
「心が落ち着く薬だよ。ご主人は焦っている状態だったからね」
「そ、そりゃあ、ありがてぇ話だ……って、心が落ち着いてもこの状況が変わらねぇじゃねえか!」
「良かったね、あんた。これで落ち着いて話ができるじゃないか」
「全然落ち着けねぇよ! むしろ体が熱くなってるんだ。陛下、これは間違いなく落ち着く薬なのかよ!?」
「ああ、落ち着くよ。その薬は【賢者タイム】っていう薬でね、奥さんにメロメロになって欲情したあと、その気持ちを発散させると大草原で寝転がる感じみたいに心が落ち着くんだ」
「そ、それって……」
「そうかいそうかい。平和になったからそろそろ作ろうかと思ってたんだよねぇ。娘は嫁に行っちまって跡継ぎがいないし、あたしも歳だから跡取りくらいは作っておかないとねぇ」
「それじゃあ奥さん、ご主人からしっぽり搾り取ってあげてね」
「へ、陛下ぁぁぁぁっ!」
そのまま店の主人をズルズルと引きずって女性は奥へと姿を消した。この後、店のご主人はこってり奥さんに搾り取られてしまうのだがご主人の滾りは治まらず、逆襲に出たご主人によって朝まで襲われ続けてしまうのだった。
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それはさておき、店のご主人が拉致されたのはいいものの奥さんが店を閉めていなかったので、原因の一端を担っているケビンがちゃんと閉店にしていると周りの都民たちから声をかけられた。
「陛下、俺にも【賢者タイム】をくだせぇ!」
「私にも!」
「俺っちも!」
「あたいも!」
次々とケビンが店の主人へ飲ませた薬を欲しがる都民たちにタジタジとなりながら、ケビンが先程面白がって作っただけの【賢者タイム】を再度作っては都民たちへ渡していく。
「それは副作用とかないから安心していいよ。それと、みんな明日になったら礼儀として使った人たちへこう言うんだよ。『昨晩はお楽しみでしたね』って」
そして、ケビンから【賢者タイム】を受け取った都民たちは、嬉々としてその場を去って行く。
「お出かけは楽しかったかい?」
「……ぅ……」
「それじゃあ帰ろうか」
「はい」
何事もなかったかのようにケビンは帝城へと帰っていくが、ケビン作の【賢者タイム】を手に入れた都民たちはその日の内に使って彼方此方でハッスルする声が響きわたって朝まで続いたかと思いきや朝方は獣のような声となり、事情を知らない都民が怖がって衛兵へ通報する珍事となってしまう。
そしてそのお宅へ事情を窺った衛兵がケビンの齎した精力剤だと聞いて頭を抱えつつも都民へ心配ないことを説明したら、こっそり『俺ももらいに行こうかな?』と最近元気のなくなった分身のために気持ちが揺らいでいたのはこの衛兵だけの秘密である。
それから衛兵を通じて朝の出来事が帝城へ報告されて、ケビンがケイトに呼び出されて怒られたのは言うまでもない。
「えっ、朝までやってたの!? 効きすぎたかな?」
「効きすぎたじゃないでしょ! 彼方此方であの声が響いてたらしいのよ!」
オブラートに包むケイトの言葉に対して、ケビンはニヤリとして聞き返すのだった。
「あの声って何?」
「あの声は……あの声よ!」
「あの声じゃよくわかんないから、どんな声なのか試そうか?」
「なっ!? いくら私があ、安定期に入ったからって激しくしたらダメなのよ!」
「ん? 誰もケイトで試そうとは言ってないんだけど?」
「~~ッ!」
「カワイイね。拉致決定!」
こうしてケビンはケイトを手玉にとって拉致すると、体に負担が出ないように優しく愛していたが、最終的には気絶させてしまうのだった。
「優しくしたのに何故だ……」
その後、ケビン作の【賢者タイム】が市販されるかどうかは、神のみぞ知るところだが神であるソフィーリアには見通せない未来であった。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
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