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第13章 出会いと別れ

第396話 女子会?

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 ケビンが他の者たちと別れて自室に戻ると、目の前のベッドへダイブしたらようやくひと息ついた。

「はぁ……ロナの治療は大変そうだな……介助すればご飯を食べてくれるのがせめてもの救いか……」

 これからのことでケビンがどうしようかと頭を悩ませていたら、ドアをノックする音が室内に響きわたる。

「ケビン君、入ってもいい?」

 ケビンからの了承を得て部屋へ入ってきたのはターニャであった。

「す、凄い大きなベッドだね……」

 ターニャが部屋へ入って真っ先に目についたのが、部屋を覆い尽くすほどの存在感あるベッドだ。

「あぁぁ……いつもの感覚で作ったから大きくなっちゃってね。逆にこの大きさに慣れてしまったからこっちの方が落ち着くんだよ」

 ケビンは立ち上がるとテーブルセットのイスへターニャを座らせて、対面のイスへ腰を下ろしたら【無限収納】の中からお茶を差し出した。

 出されたお茶をターニャがひと口飲むとゆっくり口を開く。

「今日は本当にありがとう」

「気にしなくていいよ」

「そういうわけにもいかないよ。私の判断ミスでみんなを危険に晒したから」

 ターニャたちが捕まった原因は村人扮する盗賊たちの接待を素直に受け取り、提供された食事を食べて眠らされたことだった。そして目を覚ました時には既に裸にされていて隷属の首輪をつけられていたという。

「あれは仕方がないよ。村人が丸ごと盗賊たちとすり替わっているって誰も思わないよ」

「でもケビン君は気づいたんだよね?」

「まぁ俺は冒険者だし村とかも適度に見てきたからね。違和感くらいは気づくし、何より今回は捜索任務で警戒していたっていう部分があるから」

「やっぱり冒険者の方が危機管理能力が高いね。もっと人を疑うべきだったな」

 そのような感想をターニャがこぼしつつも2人は楽しく会話をして、会えなかった分の期間を埋めるかのようにターニャはケビンとの時間を過ごしていく。

 そういう時間を2人で過ごしていたら、バタンと音を立ててドアが開かれると他の女性たちが次々に姿を現した。

「自分たちも混ぜて欲しいっス」

 元気よく先頭で入ってきたのはニッキーである。そのまま部屋の中を見渡したら躊躇いもなくベッドへ上がり込む。

 そしてニッキーに続けと言わんばかりに他の女性たちもベッドへ上がっていくと、その光景に唖然としていたケビンが再起動を果たして声を出した。

「ちょ、いきなりやって来て何してんの!?」

「女子会っス!」

「いや、それなら与えた部屋ですればいいだろ。ここは俺の部屋だぞ」

「思ったよりも部屋が広くてちょうどいいっス。ベッドも広くてふかふかっス」

「そもそも男がいるところで女子会なんてするもんじゃないだろ」

「ケビンさん、盗賊たちに捕まっていた私たちが出口のない所へ連れてこられて、「どうぞ休んでください」と言われて素直に休めるわけがありません」

「……それは……」

「ケビンさんを信用していないわけではないのです。ターニャの想い人ですし、人となりはある程度把握したつもりです。ですが植え付けられた恐怖や不安が消せないのも事実なのです」

 ケビンとニッキーのやり取りに横から口を挟んできたミンディがそう告げると、他の女性たちも口々に一緒にいて欲しい旨を伝えるのだった。

 ケビンは過去に帝国で救った奴隷たちのその時の状態を見ているので、ここにいる女性たちの言い分が理解できてしまうと追い出そうにも追い出せなくなってしまう。

 結局一緒にいることを許容したケビンが女子会なるものを行えるようにと、お菓子と飲み物を出しては振る舞うのであった。

「ベッドは魔法で綺麗にできるし、汚れるのは気にしなくていいから楽しんで」

 そしてケビンが1人でイスに座って過ごそうとすると、ニッキーから強引にベッドへ連れていかれて輪の中へと加えられてしまう。

「女子会に男性が混じるって……」

「気にしたら負けっス」

 ケビンが溜息とともに諦めると第4班のムードメーカーなのか、ニッキーが音頭をとって女子会が幕を開く。

「じゃあ先輩とケビンさんの馴れ初めからスタートっス」

「ちょ、ニッキー!」

「いやぁー気になるじゃないですか。騎士と冒険者の出会いですよー? 身分の壁を越えて片想いを続ける女騎士。そこへ至るエピソード……恋愛物語のようじゃないですかー」

 初っ端からケビンとの馴れ初めを話題に出されたターニャがニッキーを止めようとするが、ルイーズが更に追い討ちをかけるとミンディがしれっとケビンへ質問する。

「いつターニャと出会われたのですか?」

「フェブリア学院の1年生をやってる時かな。闘技大会で初めて会ったよ。姉さんの付き添いをして応援にきてたんだ」

「闘技大会ですか。懐かしいですね」

 ケビンとミンディがやり取りしている中、村人であるイルゼたちが聞きなれない闘技大会について質問をすると、ミンディが話についていけるように説明をしている間にニッキーがケビンへ更なる質問をする。

「ケビンさんって同い年くらいなのに学院で見たことがないっスよ? 何歳なんスか?」

「18だけど?」

「私たちの1つ上ですねーでも、あれだけ強かったら学院で有名になってるはずなのに何で見たことないんだろ……」

 今年高等部を卒業したばかりの新人騎士3人組は、在学中にケビンの姿を見たことがないので頭を捻るばかりである。

「ああ、それは俺が2年の途中で学院をやめたからだよ」

「15でですか? それでも見たことないのはおかしいのですが……」

 ケビンの言葉足らずな答えのせいで年齢を聞いて逆算をしたジュリアが馴れ初めの推理をして、高等部1年で在学中のターニャと出会い、2年で学院を辞めたと勘違いをしてボソリと呟いた言葉にケビンが訂正を加える。

「いや、初等部の時だから15じゃなくて8歳だよ」

「「「えっ……?」」」

「だからターニャさんと出会ったのは7歳の時の闘技大会」

 ケビンから伝えられた情報により、軽く10年は片想いを続けていたであろうターニャへ3人の視線が突き刺さる。

「な、何よ……」

「拗らせっスか?」
「一途ですねー」
「凄いです……」

「だから告白もお見合い話も断り続けて騎士になったのね。納得だわ」

 イルゼたちへの説明が終わっていたミンディはケビンと3人組の話を聞いて、学院部で友人となったターニャが告白やお見合い話を全て断っていた真相に気づいて納得してしまう。

 実は当時、学院部では“ターニャ百合説”が浮上していて、ミンディとしては本人に「貴女は女性にしか興味がないの?」と問うわけにもいかず、自分が狙われるのではと気が気ではない時期があったりもした。

 だが、友人関係を続けていくうちに男性に対してちゃんと興味を持っていることがわかり、その言い知れぬ不安はなくなったのである。

 そして一緒に騎士となり宿舎で相部屋になると、ネックレスを見つめてはケビンへ懸想しているのを見てしまい、ターニャの想い人がケビンという名の男性であることを知ったのだった。

「それにしても強かったっスね。盗賊たちが手も足も出なかったのには驚いたっス」
「窮地に駆けつける白馬の王子様よねー」
「物語みたいだった」

「いや、救えなかった人もいるし間に合ってなかったから、そんな大層なもんじゃないよ」

「それでもケビンさんが来なければ、私たち騎士を含めて今いる村の女性たちも最悪な未来しかありませんでした」

「そうです。穢されてしまいましたが元に戻していただきましたし」
「そうよね。子供を産んだのに生娘に戻るとは思わなかった」
「私もあいつらの子供を産まなくて済んで感謝しています」
「お姉ちゃんを救ってくれて感謝しかありません」

 女性たちからの言葉でケビンがポリポリと頭をかいて柄にもなく照れてしまっていると、横にいるターニャはそれを見て微笑むのであった。

「ほんと惚れてるっスね」
「そうだねーカッコよくて強い上に盗賊から助け出してくれて、惚れるなってのが無理よねー」
「あれだけ強いと冒険者だし、稼いでいるのかな?」

 3人組がターニャの様子をみて思い思いの言葉を口にしていると、イルゼがケビンへと話しかける。

「ケビンさん、よろしければ奴隷としてでも良いので傍に置いてくださいませんか?」

「え……何で奴隷じゃないのに奴隷になるの? もう自由なんだよ?」

「その……もう帰る場所も家族も失いましたし、かと言ってあんな目に合いましたのでこれから先は男性とも上手く付き合えるかわかりませんから。それに比べてケビンさんなら一緒にいても体が震えることがありませんので、雑用でも何でもしますから傍に置いてください」

「私もお願いします。プリモと一緒に雑用をしますので」

「わ、私も恩返しをさせてください」
「お姉ちゃんが行くなら私も」

 イルゼがケビンへ懇願すると、他の村人女性たちもあとへ続けと言わんばかりにケビンへとお願いしていくが、それに待ったをかける者がいた。

「みなさん、いくらケビンさんといえどみなさんを養うのは難しいのですよ。冒険者は貴族みたいなお金持ちではありません。お金を得るために命をかけて魔物を討伐したり、今回みたいに盗賊を討伐したりするのです。常に死と隣合わせでお金を稼ぐ。それが冒険者です。みなさんを養うとなったら今以上に危険なクエストを数多くこなしてお金を稼がなければなりません」

「ミ、ミンディ……」

「ターニャ、こういうことは貴女が伝えるのですよ。ケビンさんに惚れているのなら危険を増やすようなことを許容してはいけません」

「えぇーと、そうじゃなくて……」

 ミンディが勘違いでもないが勘違いをしていることでターニャがその勘違いを正そうと説明しようとするが、煮え切らないターニャにミンディが詰め寄るとタジタジとなりながら言葉を口にする。

「あ、あのね……怒らないで聞いてね?」

「だから何なのです。早く言いなさい」

「ケビン君……凄いお金持ちだよ? 商人もしているし、他にもしていることがあるから。と言うよりもその他が凄くて冒険者稼業があまりやれてないくらいなんだけど……」

「冒険者が冒険者稼業をしないでどうやって稼ぐのですか! 商人だって本人が趣味と言っているのですからそこまでの稼ぎになっていないはずです。それらを差し置いてするその他って何ですか!」

「こ……皇帝?」

「……はい?」

 捲し立てるミンディの勢いにターニャがビビりながらも答えた言葉で、ミンディのみならずその他の女性たちまで唖然としてしまう。

 そして静寂が場を支配する中で、ミンディが何かの聞き間違いではないかと再度ターニャへ問いただす。

「……もう1度言ってくれる?」

「皇帝」

 その言葉によって村人たちであるイルゼたちは聞きなれない雲の上の存在に思考を停止して、ミンディたちはそれなりの教養があり騎士である以上他国の重要人物は叩き込まれているので、大陸の中で唯一の帝国である国を治めている皇帝の名前を混乱する頭の中で必死に思い出していた。

 そう、ケビン・ヴァン・エレフセリアの名を。

 その名を思い出すとそれまでターニャへ向いていた騎士組の視線が一気にケビンへと変わり、信じられないようなものを見る顔つきとなる。

 その光景にケビンは苦笑いしながら応えるのだった。

「ターニャさんが言ってるのは本当のことだよ。俺の正式名はケビン・ヴァン・エレフセリアで、一応帝国の皇帝なんかをやってる」

「……助けに来た時は村人Aの服装だったっスよね?」
「いや、そもそも皇帝ケビン様って伝説の冒険者で……」
「救国の英雄で……」

「たった2人だけのXランク……」

「「「「えぇぇぇぇっ!?」」」」

 今日1番の驚きを見せた騎士組たちに対して、ターニャが何故気づかないのか疑問を呈すると逆ギレのように答えていくのである。

「村人Aを見て誰も皇帝だなんて思うわけないじゃないっスか!」
「ケビンなんてみんなが使う一般的な名前ですよー!」
「先輩の想い人が皇帝だなんて微塵も思わないです!」

「そもそも知ってたなら早く教えなさいよ!」

 班員たちから責め立てられるターニャは理不尽だと思いながらも、1人ボヤくのであった。

「私……班長なのに……」
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