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第12章 イグドラ亜人集合国

第370話 パパさん、大忙し!

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 ソフィーリアがテオを出産してからのケビンはイクメンでも目指しているのかというほど育児に力を注ぎ、テオが泣けばすぐさま駆けつけてベビーベッドから抱きかかえてあやしていた。

 そのような日常が続く中で、ソフィーリアがケビンへあることを指摘する。

「あなた、育児を手伝ってくれて嬉しいけど、お悩み相談のことを忘れてないかしら?」

「あ……」

 テオを抱っこしてあやしていたケビンは思わずその手を止めてしまい、止まったことでテオが泣き出してしまう。

「あぁ、よしよし。ごめんよぉテオ」

 その様子を見ていた他の嫁たちは、ケビンの変わりっぷりに言葉を交わしていた。

「ケビン君って親バカになるわね」
「既定路線」
「男の子でアレなら女の子だとどうなるんだろ」
「お母様みたいに溺愛しそうだわ」
「ケビン様は素敵なパパさんです!」
「素敵なパパさんは大歓迎です!」
「私を震えさせた主殿がああなるとはのぅ」
「あれでXランクや言われても信じられへんえ」

 嫁たちが口々に感想をこぼしていると、ソフィーリアはケビンからテオを取り上げるのだった。

「あぁぁ、俺のテオ……」

「仕事を忘れてしまうパパにはテオを抱かせないわ」

「そんな、殺生な……」

「早く解決してきなさい。これだけ女性がいるのだから主夫の枠はないわよ」

「ソフィが冷たい……」

「あなたはこの子にカッコイイパパの姿を見せたくないの? 男の子なんだからカッコイイパパに憧れを抱くはずよ。『将来はパパみたいな男になる!』って言われてみたくない?」

「……言われたい」

「それならあなたはあなたにしかできないことをしないとダメじゃない。クズミの悩みを解決するのにも繋がるのよ。あなたは妻の悩みを放置するつもり?」

「自分が間違っておりました」

「わかったなら早速取り掛かりなさい。そうしたら帰ってきた時にはテオと一緒に出迎えるわ」

「……テオ、パパは仕事をするぞ! 代表たちの悩みがなんだってんだ。そんなものはサクッと解決してやる!」

 そのように意気込むケビンは、すぐさま転移で仕事に出かけるのであった。

「ソフィさんが凄い……」
「転がしてる」
「敵わないなぁ」
「ケビンがやる気になったわ」
「ソフィ様は凄いです!」
「尊敬です!」
「主殿もソフィ殿には敵わんようだの」
「ソフィはん、おおきに」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 やる気になったケビンが転移してきたのはミナーヴァの王城だった。そこでモニカに会いに行くと長男が誕生したことを報告して進捗状況を尋ねる。

 モニカから聞き出した内容は既に貴族たちへの通達は終わっており、続々と近い領地の者から王城へ獣人族が集められているとのことだった。

 その際にはケビンの渡した魔導具が役に立っているようで、登城するためにやってきた貴族たちへ魔導具を使い、国に黙って隠し持つことがないように確認しているとのことだ。

 集められた獣人族は現段階でも意外と多いようで、騎士が扮する冒険者に護衛をさせて本国へ送り届ける予定にしているそうだが、その役目をケビンが引き受けることにした。

 そして現段階で集まっている獣人族たちをケビンは馬車に乗せたら、イグドラへ向けて出発するのだった。

 その道中は以前と同じ行程で夜には強制的に獣人族を眠らせてから転移でショートカットする方法を取っているが、以前と違うのは夜になると必ずテオへ会いに帰ってテオ成分を補給してから明け方には馬車へと戻るということだ。

 そして年が明けて新たな年を迎えた頃に、第2便が無事にイグドラへ送り届けられた。

 その後、第3便目もつつがなく終わらせて季節が春に入ると、ケビンは第4便目の準備に取り掛かった。

 獣人族の送り便を始めて3ヶ月も経過していたので、ケビンは奴隷商にも顔を出したがイドショーレが買い付けていた獣人族は犯罪を犯した奴隷であり、犯罪者には罪を償わせるといったシバーヌの意向もあってかケビンが買うことはなかった。

「借金もしくはありえないけど身売りとかの奴隷か、不当に犯罪奴隷に落とされたものは残しておいてくれ。あと、魔族がいたら絶対に買う。人族に関しては面白そうな経歴だったら買うつもりだ」

「では、それ以外の獣人族の犯罪奴隷は通常通り売りに出します」

 イドショーレと別れたケビンは王城へ向かうと獣人族の奴隷を引き取るが、4便目とあってか数も少なく馬車1台で再びミナーヴァを出発した。

 それから第4便目をつつがなく送り届けているの途中で、残りの行程も半分を切るとソフィーリアから唐突に連絡が入る。

『あなた、その便は急ぎでお願い』

『どうした?』

『次の子が生まれるわよ?』

『――ッ!』

 それからのケビンは凄まじかった。夜になり全員を強制的に眠らせると転移して関所付近まで一気に距離を詰めて行程を進めたのだった。

 当然疑問を抱かれるので人数が少なく馬車のスピードも速かったことや、いつも通り夜間に走っていたこともあるというデタラメな嘘で獣人族たちを言いくるめるのである。

 関所を越えてからは嘘を真実にすべく、馬車のスピードを上げたらバイコーンをローテーションで回すようにして夜間も走り続けるようにすると、イグドラまで一気に行程を進める。奴隷たちにもそれを目に見てわからせるために強制睡眠をさせずに放置した。

 そしてその甲斐もあってか、イグドラ領へ入ってから3日目の昼には代表の家へと到着したのだった。

 シバーヌへの挨拶もそぞろにケビンは獣人族たちを引き渡すと、急いでイグドラを出てから人気のない場所で転移を使い帝城へと帰った。

 帝城へ帰りついたケビンはすぐさま分娩室へ向かい、機材を起動したらスタンバイモードにしていつでも対応可能な状態へと移行したら、憩いの広場に向かって誰が生まれそうなのかソフィーリアへ尋ねるのだった。

「サーシャよ。今は自室で休ませてるわ」

「わかった」

 ケビンはサーシャの部屋へ行き帰宅の挨拶を済ませたら説明を施して、部屋から分娩室のベッドへと転移させる。

 ケビンが先程スタンバイモードにした機材を復帰させていくと、サーシャをスキャニングしてバイタルが安定していることを確認するのだった。

「サーシャ、きつくないか?」

「ケビン君が傍にいてくれるから平気よ。とうとう私もママになるのね」

「そうだな。正真正銘のママだ」

「ふふっ、嬉しいわ。そういえば嬉しい繋がりだけど、おっぱいが大きくなったのよ」

「赤ちゃんに母乳をあげないといけないからな」

「これならパメラちゃんに『ない』って言われることもなくなるわ」

「まだ気にしていたのか」

「パメラちゃんを初めて抱っこできた時に言われたからね。記憶に深く刻まれているのよ」

 その後もサーシャと他愛ない会話をしつつ、ケビンは付きっきりでサーシャの状態を観察してあまり傍を離れないようにした。

 数日サーシャと一緒に過ごしていたら、サーシャが産気づく前に新たな情報がソフィーリアから齎される。

『あなた、そろそろレティを分娩室へ転移させて』

『マジか!?』

 ケビンはサーシャへ一言告げるとスカーレットの自室へと転移して、サーシャ同様に分娩室のベッドへと転移させた。

「レティも来たのね」

「はい。ドキドキします」

「それにしてもレティの腹は大きいよな」

「私の体が小さいからでしょうか?」

「んー……そうなのかもな。体が小さいから余計に大きく見えるのかもな」

「アリスも確かに大きく見えたわ。やっぱり体が小さいと目立つんでしょうね」

「でも、アリスは私よりも小さく見えますけど……」

「……あ、ケビン君……」

「何?」

「これ……生まれるかも?」

「ええっ! 何で疑問形!?」

 ケビンはサーシャを分娩台へ転移させると、見事に破水していたのがわかってしまった。

「サーシャ、落ち着いて頑張るんだぞ」

「わかってるわ。女性たちはみんなソフィさんに教わってるもの」

「サーシャさん、頑張ってください」

「ありがとう、レティ」

 その後サーシャはケビンとスカーレットの応援を受け、数時間後無事に赤ちゃんを出産する。そして生まれた子にケビンが処置を施したらサーシャへ見せてあげるのだった。

「頑張ったな、サーシャ。女の子だぞ」

「……カワイイ……」

 サーシャは瞳から雫をこぼしながら我が子を見つめるのであるが、その赤子を見ているスカーレットからも元気な声が挙がる。

「カ、カ……カワイイです! ……あ……」

「ん? どうした?」

「あ、あの……お……お……お漏らしを……してしまいまして……」

 スカーレットは顔を真っ赤に染めあげながらケビンへ恥ずかしそうに伝えるのだが、サーシャがすかさずフォローを入れる。

「大丈夫よ、みんな通る道だから」

「そうだぞ。何も恥ずかしいことはない」

 ケビンはサーシャをベッドへ転移させてから赤ちゃんを隣に寝かせると、その後はスカーレットへ近づいて頭を撫でながら、尿漏れを魔法で綺麗にすることを伝えたらそのスカーレットから制止がかかった。

「あの……まだ止まらなくて……」

 まだ止まらないと報告を受けたケビンはそのまま待つつもりだったが、ふと違和感に気づいたケビンはスカーレットへ声をかける。

「おしっこの臭いがしないからちょっと確認するね?」

「は、恥ずかしいです……」

 ケビンが前開きの服を開くとスカーレットの自己申告通りの尿漏れではなく、見事に破水していたのだった。

「ちょ、これおしっこじゃなくて破水だからっ!」

「そうなんですか?」

 キョトンと首を傾げるスカーレットを分娩台に転移させると、痛がっている様子もないのでケビンが訝しりながら訪ねると、スカーレットは特に痛みなど感じていないと答えるのである。

「今までトントン拍子に出産できていたのに、ここに来てパターンが変わるとは」

「私は痛くない方がいいです。痛いのは怖いです」

「んー……サーシャを見てたならわかると思うけど、どっちみち産む時は痛いからね? 痛くないのがいいなら魔法で痛みを消すけどどうする?」

「うーん……迷ってしまいます……」

「レティ……痛みは消さない方がいいわ。これもママになるための試練なのよ」

「わかりました。サーシャさんが言うなら頑張って耐えます。私もママになりますから痛みに怖がっていては子供みたいです」

「そうだ、サーシャの出産で忘れていたが遅れてしまったけどお昼を食べようか? 食べやすい果物とか用意するけど食欲はある?」

「少しだけお願いするわ」

「私も食べたいです」

 それから3人で食事を摂ったあとはスカーレットのなかなか始まらない陣痛に不安になりながらも、モニターに目を通して問題ないことを確認する作業が続く。

 その後、調子が戻ってきたサーシャが思い出したかのようにケビンへ尋ねて、ケビン自身もハッとするのである。

「ケビン君、この子の名前をまだ聞いてなかったわ」

「そうだった。レティが破水してそれどころじゃなかったな」

「私のためにすみません」

「いいのよ。名前は今すぐ決めないと何かあるってわけでもないし、レティの出産の方が急を要することだから。で、ケビン君、名前は決めてあるの?」

「名前はエミリーだ。働き者とか勤勉って意味だけどサーシャの子供にピッタリかなって。ダメなら違うのをまた考えるから気兼ねなく言ってくれ」

「ううん、エミリーでいいわ。私みたいに頑張り屋さんになって欲しいもの。素敵な名前をありがとう、パパ」

 不意打ちでサーシャから急にパパと呼ばれたケビンは恥ずかしくなり、視線を逸らしてそっぽを向くのであった。

「ふふっ、照れてるパパはカワイイわね、エミリー」

 それからしばらくしてサーシャはみんなにエミリーをお披露目するため憩いの広場へと向かうが、ケビンは念のためにサーシャへ回復魔法をかけてから向かわせるのだった。

 その後これといって何事もなくスカーレットと会話をしていたケビンだったが、唐突にスカーレットがケビンへ報告する。

「来ました!」

「何が?」

「“じんつう”です! 女の子の日以上に痛いです!」

「その例えは俺には理解できないが、ようやくきたね」

 ケビンはモニターをチェックしながら陣痛が起こったタイミングを記録していき、スカーレットへ声をかけながら出産のタイミングを待つのであった。

 やがて等間隔になった陣痛を経てから、間隔が短くなっていくと痛みと戦うスカーレットの出産が始まる。

「レティ、いきんで!」

「ふんっぅぅぅぅ! 痛ぁーい! 痛いですー!」

「レティ、落ち着いて」

「ぐっ「いきまないで息を吐いて!」フーフー……」

「そう、落ち着いて呼吸して」

 それからもスカーレットの頑張りは続いてようやく赤ちゃんを出産したら、ケビンは処置をしてスカーレットへ見せるのだった。

「よく頑張ったぞ、レティ! 女の子だ!」

「ケビン様ぁっ、まだ出るぅぅぅぅっ!」

「えぇぇぇぇっ!?」

 ケビンは慌ててスカーレットのお腹を見ると確かにまだぽっこりしてしたことで、慌ててベビーベッドをその場で作ると赤ちゃんを寝かせてスカーレットの足元へと移動した。

「レティ、ふ、2人目が見えてるぞ!? 2回目だからさっきの要領で頑張るんだぞ!」

「はいぃぃぃぃっ!」

 そして不思議に思ったケビンがモニターへ視線を向けると、画面の隅の方に小さく【NEXT】の文字があったことで何となくタッチしてみると、2人目となる赤ちゃんのバイタルが表示されていた。

「わかりずれぇぇぇぇっ!」

 自分で作っておきながら機械に文句をつけるケビンであるが、その隣ではスカーレットが未だ頑張っている最中である。

「フーフー……」

「――ッ! 頑張れ、レティ!」

 ちょっとしたアクシデントがあったものの、スカーレットは無事に2人目も出産することに成功した。

 それを見てケビンは赤ちゃんに処置をしつつ『3人目はない……よな?』と疑心暗鬼に陥りながらも、モニターへ目を通して【NEXT】の【NEXT】がなかったことでようやく安堵する。

「レティ、2人目も女の子だ。双子だよ」

「はぁはぁ……良かったです……2人ともちゃんと産んであげられました」

「ああ、レティはもう立派なママだ」

「嬉しいです。でも、ケビン様……赤ちゃんの名前は大丈夫ですか? 双子だとは思いませんでしたし」

「並列思考を使ったから大丈夫だ。1人目がフェリシアで2人目がフェリシティだ。双子なんて中々ないからな、名前の意味は幸運だよ」

「良かったです。幸運ですか……まさにそのとおりですね」

「お疲れ様、レティ。ベッドへ移動して双子と添い寝の時間だ」

「ふふっ、ケビン様より先に添い寝できるなんて役得です」

「母親の特権だな」

 それからケビンはスカーレットをベッドへと転移させて、スカーレットの左右それぞれに双子を寝かせるのであった。
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