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第12章 イグドラ亜人集合国
第369話 頑張れ、パパさん!
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ケビンが奴隷を連れて帝城へ帰還してから数日、溜まった書類と格闘して業務を消化していくが、終わらせた先からケイトが新しい書類を持ってきてしまい山が消えても新たな山ができあがるのだった。
「なぁ、ケビン。戦おうぜ」
ケビンの執務室には今現在ヴァレリアが居座っていた。このやり取りも帝城へ帰ってきてから続くケビンの日常となりつつある。
「今は仕事中だ。戦いたいならクララに頼め。ヴァリーと一緒で格闘タイプだぞ」
「クララは子供扱いしやがるから嫌なんだよ」
クララとの戦いも日常となりつつあり、ケビンが相手をしない時はクララへとちょっかいをかけるのであるが、赤子をひねるかのように相手をされてしまいヴァレリアとしては思うところがあるのだった。
「あとはメイド隊だな。プリシラとは戦ったのか? プリシラも格闘ができるぞ」
「プリシラは厳しいから嫌なんだよ」
ヴァレリアは既にプリシラとも戦っており、プリシラ戦はクララの時よりも過酷で厳しい修行となるのである。それもひとえにヴァレリアがケビンを敬う姿勢を見せず、それを見兼ねたプリシラがサラ譲りの教育的指導を施すからだった。
「ワガママだなぁ。大人はワガママ言わないんだぞ?」
「嘘つけ! ケイトに聞いたぞ、ケビンはワガママ言ってよく仕事をサボるって」
「ケイトめ……余計なことを」
「なぁ、まだ終わらないのか? 暇だぞ」
「あぁぁ……わかった、わかった。相手をしてやるから庭に行くぞ」
「やったー!」
こうして根気よく説得を続けたヴァレリアの相手をするために、ケビンは一旦書類業務をやめてヴァレリアと庭へ向かうのだった。
そして1時間もしないうちにヴァレリアは動けなくなってしまう。
「くそー! やっぱ勝てねぇ」
「ヴァレリアに負けるようじゃこの国は治められないからな」
「そんなにこの国は強い奴らがいるのか?」
「人によりけりだけどな。ヴァレリア程度ならゴロゴロいるぞ」
「くぅー! ぜってぇ強くなってやる」
「まだ若いんだ。気長に頑張れ」
ヴァレリアへ稽古をつけたケビンは再び執務室へ戻ると、飽きてきた書類業務を片付けたのだった。
そしてみんなで楽しく昼食を摂っているところに、ソフィーリアが唐突に帰ってきた。
「おかえり、ソフィ」
「ただいま、あなた」
それから口々にソフィを迎える声を嫁たちがかけていき、ソフィーリアもそれに返答していく。
「あ、あのっ、私たちはご主人様に買われて新しく妻になりました奴隷でございます」
誰かもわからなかったリーチェたちへ他の奴隷が耳打ちをすると、すかさず立ち上がって挨拶をするのであった。
「知ってるわよ、リーチェ。私の名前はソフィーリアよ。それとそんなに緊張しなくていいわ。私たちは家族なんだから」
「あ、ありがとうございます! それにしてもご主人様と同じように転移が使えるのですね。いきなり現れてビックリしました」
「だって神だもの。何でもできるわ」
「「「「……は?」」」」
「お前、神様なのか? 鬼神様には見えないぞ?」
初顔合わせとなるリーチェたちが突拍子もないことで思考が停止すると、痛い子であるヴァレリアはたとえソフィーリア相手であろうとも平常運転で尋ねるのだった。
「あら、ヴァリーはさすがね。私相手でも緊張しないのね、偉いわよ」
「まぁ、俺は大人だしな」
「それでヴァリーの言う鬼神様だけど、それは別の神よ」
「そうなのか?」
「そうよ。ちなみに私はその鬼神よりも偉いわよ?」
「すげぇな!」
「ふふっ、凄いでしょう? 私は鬼神よりも大人なのよ」
「すげぇ、鬼神様よりも大人なのか!? 尊敬するぞ!」
「ありがとう。だったらケビンのことも尊敬してあげて。鬼神よりも大人だから」
「本当か!? ケビンって鬼神様よりも大人だったのか!?」
「そうよ。私の素敵な旦那様だから誰よりも大人なのよ」
「すげぇぞ、ケビン! 仕事をサボるのに誰よりも大人なのかよ!」
「グハッ」
ヴァレリアの純粋な気持ちからくる言葉がケビンの胸を突き刺した。そしてケビンはテーブルへ突っ伏すが、そのような有様に構わずヴァレリアは決意表明する。
「よし決めた! ケビンとソフィは尊敬するぞ」
「すぐに受け入れられるヴァリーは立派な大人ね、偉いわ」
「ははっ、ソフィからまた褒められた! 俺は立派な大人だ」
簡単に痛い子であるヴァレリアをソフィーリアが手懐けると、固まっていたリーチェたちはもし真実なら本人に尋ねるのが恐ろしくて先輩奴隷へこっそり真相を聞き出すのだった。
「あの、ソフィーリア様って本当に神様なんですか?」
「そうよ。この世界の管理をしている神様よ。フィリア教くらい知っているでしょう? 実際はフィリアじゃなくてソフィーリアなんだけどね。どうして名前を間違ってるのか不思議だわ」
「「「「……」」」」
「そしてご主人様の第1夫人で私たち全員の頂点よ。序列がつくのはソフィーリア様だけ。他に第2夫人とかはいなくてただの夫人になるのよ。これでソフィーリア様が別格扱いな理由がわかったでしょ?」
ケビンというとんでもない経歴を持つ者に数日前驚かされたばかりだと言うのに、今日もまた新たな事実で驚かせれてしまいリーチェたちは呆然としてしまう。
そのような中でソフィーリアが打ちひしがれているケビンを元気づけることを報告するのだった。
「あなた、落ち込んでいるところ悪いけど、もうすぐ生まれるわ」
「……は?」
ソフィーリアから齎された情報に、ケビンだけでなくこの場にいる大人たちも呆けてしまう。
「私たちの赤ちゃんのことよ」
「え……マジで?」
「マジよ」
ガタッと席を立ったケビンはソフィーリアへ近づくと、急いで安静にするように伝えるのだったが、そのソフィーリアはケビンの慌てている様子を堪能したら言われた通りにイスへ腰かけて体を休めるのだった。
それからのケビンは【出産受け入れ対策本部】を1人で設立すると、帝城の中に分娩室を作りだしたらサナと一緒に慌ただしく分娩用機材を【創造】で作り出していく。
『これだけあれば問題ないです』
『本当に大丈夫か!? 何か足りない物はないか? 忘れてる物とか?』
分娩室には医者も真っ青の地球産の最新機材が取り揃えられており、電力がないため全て空気中の魔素を取り込み動力源とする仕様になっている。
機材も機材で自重しないケビンと自重を増長させるサナのタッグが創り出した物なので、最新機材と言うよりも更に改造が施されており地球の文明では実現不可能なレベルの代物となっていた。
『これ以上の物があるとすれば、それは原初神様のお力くらいです』
『そうか。それなら問題ないな』
完全にオーバーテクノロジーと化している分娩室で、ようやくケビンはひと息ついた。
『マスター、今後のために分娩室の機材を増やしておきましょう』
『今後のため?』
『2人同時に出産とかなったらどうするんですか? 1人分しか作ってませんから機材が足りませんよ?』
『そうかっ!』
1人分だけ作っていたケビンはサナからの指摘で、また慌ただしく分娩用機材を複製していくと、ケビンは各部屋を作るよりもすぐにでも対応できるように、分娩室自体を拡張して全部で10人分の機材を準備した。
『マスター……さすがにこれは作りすぎでは?』
『備えあれば憂いなしだ』
急ピッチで進めた妊婦受け入れ態勢は万全のものとなり、これでケビンもようやく落ち着くことができたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
数日後、ケビンへ唐突にソフィーリアが伝える。
「あなた、生まれるわ」
「わかってる。機材はバッチリ整ってるから安心して過ごしてくれ」
「連絡じゃなくて報告よ、今生まれるの。準備は?」
「……は?」
「『歯』ね? 案外しりとりって続くものなのね。は、は……あっ! 破水しちゃった」
「ちょおぉぉぉぉっ!」
1人でしりとり縛りをして喋っていたソフィーリアがてへぺろと言わんばかりに舌を出すと、ケビンは『可愛いけど今はそうじゃないだろ!』と内心思いながらソフィーリアを連れて分娩室へ転移するのだった。
そして分娩台へソフィーリアを更に転移させて寝かせると、機材を大急ぎで起動していく。
「そんなに焦らなくても大丈夫よ」
「焦るだろ! 初めての出産なんだぞ!」
「ふふっ、慌ててるあなたって可愛いわ」
慌てているケビンと違って余裕のあるソフィーリアは、準備を次々と済ませていくケビンを眺めながら心を落ち着かせていた。
そしてすぐさま起動させた機材でソフィーリアの状態をスキャニングさせたケビンは、母子ともに状態が安定していることをモニターでチェックして少しだけ落ち着きを取り戻す。
ケビンは魔法で1度室内を全て無菌状態にしたら、その状態が維持されるように持続させていく。
「手術着よし、手術帽よし、マスクよし、手袋よし」
「あなた、無菌状態なのだからそこまでしなくても……何だか私が病原菌を持っているようだわ」
「それは断じて違う! これはTPOを弁えただけだ。あと、気分的なもんが入ってる」
ソフィーリアが難色を示したのであっさりと手術医コスプレをやめたケビンは、ソフィーリアの傍によって声をかける。
「陣痛は辛くないか」
「大丈夫よ。我慢できるわ」
そしてしばらくすると陣痛を繰り返していたソフィーリアの出産が始まり、赤ちゃんの頭が出てくるとソフィーリアへかけるケビンの言葉も興奮の色が滲み出てしまう。
「出てきた! ソフィ、頭が出てきたぞ!」
「うぅー、んぅー……フーフー」
「もう少し、頑張れソフィ! 俺がついてるからな!」
やがてソフィーリアが赤ちゃんを産み終わると、生まれてきた赤ちゃんは産声をあげる。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
ケビンは臍の緒の処置を済ませて魔法で綺麗にしたら、ソフィーリアへ我が子を見せるのだった。
「頑張ったな、ソフィ。元気な男の子だぞ」
「嬉しい……健と私の赤ちゃん……」
「ああ、俺たちの大事な赤ちゃんだ」
生まれてきた我が子を見たソフィーリアは涙を流しながら、そっと我が子へ触れるのだった。そのようなソフィーリアを分娩室備え付けのベッドへ転移させたら、ケビンは赤ちゃんをおくるみに包み込んで落ち着かせると、ソフィーリアの横へ寝かせる。
「ソフィ、初乳は出るか?」
「いつでも出せるから、この子が次に起きて泣いた時にあげるわ。それよりもあなた、この子の名前は?」
「テオにしようかと思う。神様からの贈り物って意味なんだけど、俺が考えたのでいいのか?」
「素敵な名前だからそれでいいわ。さすがにタロウとかイチロウとか言い出したらお仕置きしたけど」
ソフィーリアの指摘でケビンは思わずビクリとする。実際、子供の名前を事前に考えていた時に真っ先に思いついたのがそれだったからだ。
その候補はすぐさまサナから『ここは日本じゃないんですよ!』と否定されて、サナ協力の元でこの世界の人の名前とその意味を教えてもらったら、寝ずに延々と考え込んでようやく決めたのが“テオ”だったのだ。
「とりあえずゆっくりしててくれ。俺は他の嫁たちに無事生まれたことを伝えてくるから」
「ええ、私も少し休んだらこの子を抱いてそっちに行くわ」
「みんなにお披露目だな」
ソフィーリアにキスをしたケビンは憩いの広場へ転移して、その場にいた者たちへ長男が生まれたことを報告した。
嫁たちは次々とケビンへお祝いの言葉をかけて、無事に赤ちゃんが生まれたことを祝福するのだった。
そのような中でケビンへ呼びかける声が頭の中に響く。
『ケビンよ、おめでとう。ソフィーリアとテオを大切にするのじゃぞ』
『ありがとうございます、原初神様。2人……いや、家族は全員大切にします』
『そうじゃったの。今からどんどん増えるしの、皆を大切にするんじゃ』
ケビンはまさか原初神から直接祝いの言葉をもらえるとは思わずに、胸が熱くなるのであった。
『マスター、おめでとうございます』
『ありがとう、サナ。サナが手伝ってくれたから無事に生ませることができたし、名前の件でソフィからお仕置きされることもなかった。本当にありがとう』
『私はマスターのサポートナビゲーションシステムですから』
サナからも祝いの言葉をもらったケビンは素直な気持ちで感謝を伝えて、これからもともに生きることを心に誓うのだった。
それからしばらくしたらテオを抱いたソフィーリアが憩いの広場に現れて、瞬く間に嫁たちから囲まれてしまうのである。
「カワイイ~」
「テオくーん、こんにちはー」
「天使さんです」
ソフィーリアの腕の中でスヤスヤ眠るテオを眺めては、思い思いの感想を口にする嫁たちであった。
「なぁ、ケビン。戦おうぜ」
ケビンの執務室には今現在ヴァレリアが居座っていた。このやり取りも帝城へ帰ってきてから続くケビンの日常となりつつある。
「今は仕事中だ。戦いたいならクララに頼め。ヴァリーと一緒で格闘タイプだぞ」
「クララは子供扱いしやがるから嫌なんだよ」
クララとの戦いも日常となりつつあり、ケビンが相手をしない時はクララへとちょっかいをかけるのであるが、赤子をひねるかのように相手をされてしまいヴァレリアとしては思うところがあるのだった。
「あとはメイド隊だな。プリシラとは戦ったのか? プリシラも格闘ができるぞ」
「プリシラは厳しいから嫌なんだよ」
ヴァレリアは既にプリシラとも戦っており、プリシラ戦はクララの時よりも過酷で厳しい修行となるのである。それもひとえにヴァレリアがケビンを敬う姿勢を見せず、それを見兼ねたプリシラがサラ譲りの教育的指導を施すからだった。
「ワガママだなぁ。大人はワガママ言わないんだぞ?」
「嘘つけ! ケイトに聞いたぞ、ケビンはワガママ言ってよく仕事をサボるって」
「ケイトめ……余計なことを」
「なぁ、まだ終わらないのか? 暇だぞ」
「あぁぁ……わかった、わかった。相手をしてやるから庭に行くぞ」
「やったー!」
こうして根気よく説得を続けたヴァレリアの相手をするために、ケビンは一旦書類業務をやめてヴァレリアと庭へ向かうのだった。
そして1時間もしないうちにヴァレリアは動けなくなってしまう。
「くそー! やっぱ勝てねぇ」
「ヴァレリアに負けるようじゃこの国は治められないからな」
「そんなにこの国は強い奴らがいるのか?」
「人によりけりだけどな。ヴァレリア程度ならゴロゴロいるぞ」
「くぅー! ぜってぇ強くなってやる」
「まだ若いんだ。気長に頑張れ」
ヴァレリアへ稽古をつけたケビンは再び執務室へ戻ると、飽きてきた書類業務を片付けたのだった。
そしてみんなで楽しく昼食を摂っているところに、ソフィーリアが唐突に帰ってきた。
「おかえり、ソフィ」
「ただいま、あなた」
それから口々にソフィを迎える声を嫁たちがかけていき、ソフィーリアもそれに返答していく。
「あ、あのっ、私たちはご主人様に買われて新しく妻になりました奴隷でございます」
誰かもわからなかったリーチェたちへ他の奴隷が耳打ちをすると、すかさず立ち上がって挨拶をするのであった。
「知ってるわよ、リーチェ。私の名前はソフィーリアよ。それとそんなに緊張しなくていいわ。私たちは家族なんだから」
「あ、ありがとうございます! それにしてもご主人様と同じように転移が使えるのですね。いきなり現れてビックリしました」
「だって神だもの。何でもできるわ」
「「「「……は?」」」」
「お前、神様なのか? 鬼神様には見えないぞ?」
初顔合わせとなるリーチェたちが突拍子もないことで思考が停止すると、痛い子であるヴァレリアはたとえソフィーリア相手であろうとも平常運転で尋ねるのだった。
「あら、ヴァリーはさすがね。私相手でも緊張しないのね、偉いわよ」
「まぁ、俺は大人だしな」
「それでヴァリーの言う鬼神様だけど、それは別の神よ」
「そうなのか?」
「そうよ。ちなみに私はその鬼神よりも偉いわよ?」
「すげぇな!」
「ふふっ、凄いでしょう? 私は鬼神よりも大人なのよ」
「すげぇ、鬼神様よりも大人なのか!? 尊敬するぞ!」
「ありがとう。だったらケビンのことも尊敬してあげて。鬼神よりも大人だから」
「本当か!? ケビンって鬼神様よりも大人だったのか!?」
「そうよ。私の素敵な旦那様だから誰よりも大人なのよ」
「すげぇぞ、ケビン! 仕事をサボるのに誰よりも大人なのかよ!」
「グハッ」
ヴァレリアの純粋な気持ちからくる言葉がケビンの胸を突き刺した。そしてケビンはテーブルへ突っ伏すが、そのような有様に構わずヴァレリアは決意表明する。
「よし決めた! ケビンとソフィは尊敬するぞ」
「すぐに受け入れられるヴァリーは立派な大人ね、偉いわ」
「ははっ、ソフィからまた褒められた! 俺は立派な大人だ」
簡単に痛い子であるヴァレリアをソフィーリアが手懐けると、固まっていたリーチェたちはもし真実なら本人に尋ねるのが恐ろしくて先輩奴隷へこっそり真相を聞き出すのだった。
「あの、ソフィーリア様って本当に神様なんですか?」
「そうよ。この世界の管理をしている神様よ。フィリア教くらい知っているでしょう? 実際はフィリアじゃなくてソフィーリアなんだけどね。どうして名前を間違ってるのか不思議だわ」
「「「「……」」」」
「そしてご主人様の第1夫人で私たち全員の頂点よ。序列がつくのはソフィーリア様だけ。他に第2夫人とかはいなくてただの夫人になるのよ。これでソフィーリア様が別格扱いな理由がわかったでしょ?」
ケビンというとんでもない経歴を持つ者に数日前驚かされたばかりだと言うのに、今日もまた新たな事実で驚かせれてしまいリーチェたちは呆然としてしまう。
そのような中でソフィーリアが打ちひしがれているケビンを元気づけることを報告するのだった。
「あなた、落ち込んでいるところ悪いけど、もうすぐ生まれるわ」
「……は?」
ソフィーリアから齎された情報に、ケビンだけでなくこの場にいる大人たちも呆けてしまう。
「私たちの赤ちゃんのことよ」
「え……マジで?」
「マジよ」
ガタッと席を立ったケビンはソフィーリアへ近づくと、急いで安静にするように伝えるのだったが、そのソフィーリアはケビンの慌てている様子を堪能したら言われた通りにイスへ腰かけて体を休めるのだった。
それからのケビンは【出産受け入れ対策本部】を1人で設立すると、帝城の中に分娩室を作りだしたらサナと一緒に慌ただしく分娩用機材を【創造】で作り出していく。
『これだけあれば問題ないです』
『本当に大丈夫か!? 何か足りない物はないか? 忘れてる物とか?』
分娩室には医者も真っ青の地球産の最新機材が取り揃えられており、電力がないため全て空気中の魔素を取り込み動力源とする仕様になっている。
機材も機材で自重しないケビンと自重を増長させるサナのタッグが創り出した物なので、最新機材と言うよりも更に改造が施されており地球の文明では実現不可能なレベルの代物となっていた。
『これ以上の物があるとすれば、それは原初神様のお力くらいです』
『そうか。それなら問題ないな』
完全にオーバーテクノロジーと化している分娩室で、ようやくケビンはひと息ついた。
『マスター、今後のために分娩室の機材を増やしておきましょう』
『今後のため?』
『2人同時に出産とかなったらどうするんですか? 1人分しか作ってませんから機材が足りませんよ?』
『そうかっ!』
1人分だけ作っていたケビンはサナからの指摘で、また慌ただしく分娩用機材を複製していくと、ケビンは各部屋を作るよりもすぐにでも対応できるように、分娩室自体を拡張して全部で10人分の機材を準備した。
『マスター……さすがにこれは作りすぎでは?』
『備えあれば憂いなしだ』
急ピッチで進めた妊婦受け入れ態勢は万全のものとなり、これでケビンもようやく落ち着くことができたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
数日後、ケビンへ唐突にソフィーリアが伝える。
「あなた、生まれるわ」
「わかってる。機材はバッチリ整ってるから安心して過ごしてくれ」
「連絡じゃなくて報告よ、今生まれるの。準備は?」
「……は?」
「『歯』ね? 案外しりとりって続くものなのね。は、は……あっ! 破水しちゃった」
「ちょおぉぉぉぉっ!」
1人でしりとり縛りをして喋っていたソフィーリアがてへぺろと言わんばかりに舌を出すと、ケビンは『可愛いけど今はそうじゃないだろ!』と内心思いながらソフィーリアを連れて分娩室へ転移するのだった。
そして分娩台へソフィーリアを更に転移させて寝かせると、機材を大急ぎで起動していく。
「そんなに焦らなくても大丈夫よ」
「焦るだろ! 初めての出産なんだぞ!」
「ふふっ、慌ててるあなたって可愛いわ」
慌てているケビンと違って余裕のあるソフィーリアは、準備を次々と済ませていくケビンを眺めながら心を落ち着かせていた。
そしてすぐさま起動させた機材でソフィーリアの状態をスキャニングさせたケビンは、母子ともに状態が安定していることをモニターでチェックして少しだけ落ち着きを取り戻す。
ケビンは魔法で1度室内を全て無菌状態にしたら、その状態が維持されるように持続させていく。
「手術着よし、手術帽よし、マスクよし、手袋よし」
「あなた、無菌状態なのだからそこまでしなくても……何だか私が病原菌を持っているようだわ」
「それは断じて違う! これはTPOを弁えただけだ。あと、気分的なもんが入ってる」
ソフィーリアが難色を示したのであっさりと手術医コスプレをやめたケビンは、ソフィーリアの傍によって声をかける。
「陣痛は辛くないか」
「大丈夫よ。我慢できるわ」
そしてしばらくすると陣痛を繰り返していたソフィーリアの出産が始まり、赤ちゃんの頭が出てくるとソフィーリアへかけるケビンの言葉も興奮の色が滲み出てしまう。
「出てきた! ソフィ、頭が出てきたぞ!」
「うぅー、んぅー……フーフー」
「もう少し、頑張れソフィ! 俺がついてるからな!」
やがてソフィーリアが赤ちゃんを産み終わると、生まれてきた赤ちゃんは産声をあげる。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
ケビンは臍の緒の処置を済ませて魔法で綺麗にしたら、ソフィーリアへ我が子を見せるのだった。
「頑張ったな、ソフィ。元気な男の子だぞ」
「嬉しい……健と私の赤ちゃん……」
「ああ、俺たちの大事な赤ちゃんだ」
生まれてきた我が子を見たソフィーリアは涙を流しながら、そっと我が子へ触れるのだった。そのようなソフィーリアを分娩室備え付けのベッドへ転移させたら、ケビンは赤ちゃんをおくるみに包み込んで落ち着かせると、ソフィーリアの横へ寝かせる。
「ソフィ、初乳は出るか?」
「いつでも出せるから、この子が次に起きて泣いた時にあげるわ。それよりもあなた、この子の名前は?」
「テオにしようかと思う。神様からの贈り物って意味なんだけど、俺が考えたのでいいのか?」
「素敵な名前だからそれでいいわ。さすがにタロウとかイチロウとか言い出したらお仕置きしたけど」
ソフィーリアの指摘でケビンは思わずビクリとする。実際、子供の名前を事前に考えていた時に真っ先に思いついたのがそれだったからだ。
その候補はすぐさまサナから『ここは日本じゃないんですよ!』と否定されて、サナ協力の元でこの世界の人の名前とその意味を教えてもらったら、寝ずに延々と考え込んでようやく決めたのが“テオ”だったのだ。
「とりあえずゆっくりしててくれ。俺は他の嫁たちに無事生まれたことを伝えてくるから」
「ええ、私も少し休んだらこの子を抱いてそっちに行くわ」
「みんなにお披露目だな」
ソフィーリアにキスをしたケビンは憩いの広場へ転移して、その場にいた者たちへ長男が生まれたことを報告した。
嫁たちは次々とケビンへお祝いの言葉をかけて、無事に赤ちゃんが生まれたことを祝福するのだった。
そのような中でケビンへ呼びかける声が頭の中に響く。
『ケビンよ、おめでとう。ソフィーリアとテオを大切にするのじゃぞ』
『ありがとうございます、原初神様。2人……いや、家族は全員大切にします』
『そうじゃったの。今からどんどん増えるしの、皆を大切にするんじゃ』
ケビンはまさか原初神から直接祝いの言葉をもらえるとは思わずに、胸が熱くなるのであった。
『マスター、おめでとうございます』
『ありがとう、サナ。サナが手伝ってくれたから無事に生ませることができたし、名前の件でソフィからお仕置きされることもなかった。本当にありがとう』
『私はマスターのサポートナビゲーションシステムですから』
サナからも祝いの言葉をもらったケビンは素直な気持ちで感謝を伝えて、これからもともに生きることを心に誓うのだった。
それからしばらくしたらテオを抱いたソフィーリアが憩いの広場に現れて、瞬く間に嫁たちから囲まれてしまうのである。
「カワイイ~」
「テオくーん、こんにちはー」
「天使さんです」
ソフィーリアの腕の中でスヤスヤ眠るテオを眺めては、思い思いの感想を口にする嫁たちであった。
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仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
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