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第12章 イグドラ亜人集合国

第351話 ドラゴン「痛い……」

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 ケビンによって挑発されたドラゴンがバトルフィールドへ到着すると、一際大きく咆哮する。

「グルァァァァッ!」
「『虫けらどもが我がブレスの餌食にしてくれる』」

「へぇーひと鳴きでそこまでの言葉になるのか……なんか変な感じだな」

 クララによる龍語通訳は面白そうという1点だけで、どうせだからとケビンがスピーカーを設置して観客たちにもわかるようにしたこともあり、臨場感溢れる形になったが一部の大人たちは冷や汗を流している。

 だが、ケビンの結界内にいるおかげで威圧されても恐慌状態に陥ることなく、怖いはずなのに心は穏やかという何とも言えない気持ちを抱え込んでいた。

「クララさん、凄いです! まるで劇を見ているようです!」
「凄い、凄い!」
「ドラゴン大きい!」

 スカーレットは本物のドラゴンを見れた上にクララの通訳で何を言っているのかが理解できて興奮を顕にし、子供たちもスカーレットに感化されて大はしゃぎしていたのだった。

「……ソフィママ、ドラゴン……おおきい……」

「そうね、大きいわね。パメラがパックンって食べられないようにママたちがやっつけるのよ」

「……ママたち……すごい……」

「ママたちが頑張れるようにいっぱい応援しましょうね」

「……する……」

 ソフィーリアに引っ付いているパメラは、初めて見るドラゴンの大きさに他の子供たち同様の感想を抱いて口にするが、ソフィーリアは上手いこと誘導して嫁たちの活力へ繋がるようにパメラが応援する形へと導くのであった。

 そしてその会話はケビンが魔法によって嫁たちへ伝わるように配慮しており、嫁たちのマスコット的な位置づけであるパメラの応援するという言葉を聞いて、嫁たちはやる気を更に漲らせていた。

「みんな、やるわよ!」

 やる気に満ち溢れたティナの言葉が合図となり、上空から見下ろしているドラゴンへ各々が魔法を仕掛けていく。

 各チームが詠唱を始める中で1番乗りを果たしたのは【詠唱省略】をマスターしているシーラであり、お得意の氷魔法が空へ向かって解き放たれる。

「《アイスアロー》」

 無数の氷矢が飛んでいく中、ドラゴンは鬱陶しいと言わんばかりに尻尾で簡単に薙ぎ払った。

「ガルァァァァッ」
「『こんなゴミみたいな魔法が我に効くわけないだろ、虫けらめが』」

「トカゲの分際で私の魔法をゴミ扱いしてんじゃないわよ! この飛ぶしか脳のない赤トカゲ!」

 クララの通訳を嫁たちにも聞こえるようにしていたケビンだったが、シーラが憤って“トカゲ”発言をしたのでクララが怒らないかヒヤヒヤしていたが、その視線を察してかクララはケビンへ声をかける。

「別に怒っておらぬよ。あ奴らは紅の所属だからな。私の白種を貶しているわけではないだろう? 元より赤種は好かんのだ。どんどん馬鹿にして良い」

「良かった……みんなにもあとで白種だけは家族扱いするように伝えておくよ」

「おお、私の種たちも家族にしてくれるのか? 主殿は懐が深いの」

「言うなれば他の白種はクララの同族で、クララを嫁にした俺からしてみれば遠い親戚みたいなもんだからな」

 ケビンとクララが会話している中、シーラからコケにされたドラゴンは罵倒を浴びて憤り、有利であった空中戦を捨てて地上へ降りるのであった。

「グルァァァァッ!」
「『ゴミ虫がっ、我をトカゲ扱いだと! 更には我が空を飛ぶだけしか脳がないだとっ! 楽に死ねると思うなよ、その身のことごとくを燃やし尽くしてくれるわ!』」

「なぁ……何でそんなに吼えていないのにそこまで長々と喋ってるんだ? それにシーラの言葉も理解しているようだし」

「ドラゴンは元々知能が高いのだ。人間の言葉を喋れる者は少ないが理解はしておるぞ。あと、あの咆哮には思念が乗るからの。それを言葉にしておるのだよ」

「生き物って凄いんだな」

 ケビンの感想を他所に、地上へ降りたドラゴンへ詠唱が終わった嫁たちが次々と魔法を放っていく。

 さすがのドラゴンも周囲360度から放たれる魔法には対処ができないようで、降りたことによってむざむざとダメージを受けることになってしまうのだった。

「ハッ、所詮はトカゲね。空を飛んでいないだけで無様な有様じゃない!」

 シーラは未だに怒りが治まらないのか、ドラゴンへ対して更に罵倒を浴びさせる。

「グルァァァァッ!」
「『ゴミ虫がぁぁぁぁっ!』」

 シーラの言葉によってブチ切れてしまったドラゴンは、周りの魔法など気にせずにシーラへ向かってブレスを吐き出した。

「《アイスウォール》極厚バージョン!」

 ブレスを放たれたシーラが全面に分厚い氷壁を作り出してブレス攻撃を凌いでいると、頭に血が上っている今がチャンスと捉えたヒット・アンド・アウェイ組のアリスやライラ、ルルが瞬時に間合いを詰めてドラゴンへ斬りかかった。

 3人の狙いは打ち合わせ通り翼の1点狙いで、長剣二刀流のルルが1枚を担当して、双剣術のライラと短剣1本のアリスがもう1枚を担当していた。

 ルルの攻撃はケビンから二刀流の手ほどきを直接受けていたおかげもあり、他の2人に比べて手数が圧倒的に違うのでたった1度の攻撃でその翼を使い物にならなくした。

 それはひとえに指導を受けていた頃は、ケビン教信者として狂ったかのように恍惚と技術を吸収していた面があり、さすがのケビンもその様子を見てドン引きするくらいであった。

 ライラの双剣術は二刀流とは違い短剣術から我流で学んだものであり、元々が暗殺に特化しているので手数を増やすというよりも確実に斬るという手法である。

 アリスはまだ発展途上の最中であり実戦で教わった1撃離脱を愚直に守って、斬りつけたあとはその場を離れていた。

「ギュルァァァァッ」
「『痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!』」

 痛みを主張するドラゴンは尻尾をバッタンバッタンさせて、シーラへ放っていたブレスは既に止まっており、それよりも痛みが勝っているようだった。

「あぁぁ……何と言うか、言葉がわかってしまうと哀れだな……」

「今までまともにダメージを食らうことがなかった種族だからのぅ。ドラゴンは基本的に激しい痛みに弱いのだ。更にあれは若い奴なのだろう。戦闘経験が足りぬ」

 クララの通訳で相手の意識が逸れてしまったことを知ってしまった嫁たちは、悪者の笑みに似たような表情を一部浮かべる者たちがいて、ここぞとばかりに怒涛の集中攻撃が始まった。

「ハハハハハッ! 私を馬鹿にした罰よ、凍えなさい! 《氷河時代の顕現アイスエイジ》」

「グルゥ……」
「『あ……』」

 妙にハイテンションとなっているシーラがトドメとばかりに十八番を放つと、氷漬けとなったドラゴンの彫刻が1体完成して初戦の幕を下ろすのであった。

「ケビンっ、お姉ちゃんやったわよ! ドラゴンに勝ったわ!」

 トドメを刺したシーラが走りよってきてケビンに抱きつくと、喜びを顕にしてはしゃぐのだった。

「頑張ったね、カッコよかったよ」

「ケビンが見ててくれたから張り切ったわ!」

 シーラに続いて戻ってくる嫁たちにもケビンは称賛を送って労うと、少し休憩して次の戦闘を始めることにしたら、子供たちがケビンのところへ駆け寄ってきた。

「パパ!」

「ん?」

「ドラゴン触りたい!」

「え……」

「触りたい!」

「んー……」

「パパぁ……ダメ?」

 うるうるした瞳で懇願してくる子供たちにケビンが抗えるはずもなく、約束事をして許可をだすのである。

「口と爪には触らないこと。あと、血が流れ出している所も触ったらダメだよ。約束できるかな?」

「「「「「できる!」」」」」
「できます!」
「私が見ていますので」

 ケビンはドラゴンの死体を一旦【無限収納】の中に回収すると、もう1度出して綺麗な状態にしたら、念のためにアルフレッドへと声をかける。

「……アルフレッド!」

「はい!」

「アルフレッドたちも彼女を連れて触ってくるといい。そのついでに子供たちが危ないことをしないように見ててくれ」

「了解です!」

「あと、見学組の嫁たちも触ってみたいなら行ってきていいよ」

 子供たちが行くことになりその母親は付き添いで一緒に行って、他の奴隷たちも物珍しさでゾロゾロ歩いて行くと、アルフレッドたちは全体を守るような形で位置についてドラゴンの所へ向かって行った。

「あなた、私もパメラを連れて行くわね」

「ああ、よろしく頼む」

「パメラ、ママと一緒にドラゴンを見に行きましょう?」

「……うん……」

 ソフィーリアはパメラと手を繋いで歩いて行き、ドラゴンの所へ到着したらパメラへ触るように声をかけた。

「パメラ、もう動かないから触っても平気よ」

 ソフィーリアの言葉を聞いてパメラが触り出すと、最初はツンツンしていたのが危なくないとわかればペタペタと触り始める。

「……かたい……」

「そうよ、ドラゴンの皮膚はとっても固いの。それをママたちがやっつけたのよ」

「……ママ……すごい……?」

「凄いわね。パメラにとって自慢のママたちよ」

「……ん……」

 ソフィーリアと手を繋いでは違う場所へ連れて行って、ドラゴンの体を彼方此方触って堪能したパメラは、ソフィーリアと一緒にケビンの所へ戻ってくる。

「……パパ……ママたちすごい……」

「そうか、ママたちは凄かったか。ママたちへ直接言いに行ってごらん。きっと喜んでパメラを抱っこしてくれるよ」

「……ん……がんばる……」

 何かを決意したパメラがソフィーリアの手を離してトコトコとティナたちの所へ向かうと、ソファで休憩していたティナたちが迎え入れるのだった。

「いらっしゃい、パメラちゃん。ドラゴンはどうだった?」

「……かたい……」

「パメラちゃんの応援があったから頑張れました!」

「……すごい……」

「ああっ、パメラちゃんに褒められました! 感動です!」

「パメラちゃん、ママも頑張ったんですよ?」

「……アビーママ……すごい……」

「ああっ、パメラちゃんはカワイイですね。抱っこしていいですか?」

「……ん……」

 アビゲイルがパメラを抱きかかえると周りから羨む声が挙がるが、初めてパメラから注意を受ける。

「……じゅんばん……けんか……ダメ……」

「おお、パメラちゃんが凄い。ティナは嫌われないようにしないとね」

「ちょ、クリス! 私だけじゃないでしょ!」

「あはは、ジョーダンだよ」

 少ししてアビゲイルから離れたパメラは狙いを定めると、次なる嫁の元へと向かった。

「……だっこ……」

「……え?」

 パメラが狙いを定めたのは新顔となるクズミである。

「……だっこ……」

「え、えぇっと……」

「クズミ、パメラちゃんを抱っこしてあげて。初めての人に自分から行くのは珍しいのよ?」

 ティナから言われたクズミはパメラを抱っこすると、膝上に乗ったパメラの視線は既に狩人となっていた。

「ふえっ!?」

「……すごい……」

 パメラの行動によってクズミが素っ頓狂な声を挙げてしまうと、その光景を目にしたティナは納得顔で言うのだった。

「あぁぁ……狙ってたんだ……」

「大きいもんねぇ……」

「洗礼」

 嫁たちの視線の先にいるパメラは、クズミの胸をこれでもかと言うほどこねくり回して堪能していた。

「ちょ、ちょっと、パメラちゃん? え、どういうことですか?」

「パメラちゃんはねぇ、おっぱいが大好きなんだよ」

「えっ!? どういうことですか、クリス?」

「お義母さんのおっぱいを触ってからティナのおっぱいを触ったら、触り心地を堪能するのに目覚めたみたいでねぇ。それから日にちを重ねてみんなのおっぱいをひと通り触っていったんだよ。クズミは新顔だったから触りたかったんだろうね。だから初めてだけど抱っこをせがんだんだよ」

「えぇー……ちなみにクララは?」

「普通に触らせてたよ。着物だから直に」

 まさかおっぱい触りたさに抱っこをせがまれたとは思わずに、クズミは言い表しようのない気持ちに陥るのである。

「まぁ、パメラちゃんに気に入られたと思えば安いもんだよ? 基本的に懐かないから。今はだいぶマシになってるけどお義母さんが来る前までは酷かったからね」

「そんなにですか?」

「パメラちゃんが近づくのはケビン君とソフィさん、それとアビーだけだったの。他の人には一切自分から近づかなくて、こっちから近づけるのはケイトたち一部の奴隷だけ。私たちが近づこうとしたら怖がられちゃうんだよ」

「私なんか1番酷かったわよ。初対面で近づいた時に豹変して泣きながら謝り続けられたもの。損な役割だったわ」

 クズミはパメラの過去を他の嫁たちから聞くことになるが、膝上で幸せそうに胸を触っているパメラからは全く想像ができなかった。

「パメラちゃん、おっぱいがそんなに好きなんですか?」

「……すき……パパもすき……」

「パパ……?」

「パメラちゃんのおっぱい好きに拍車をかけたのはケビン君なの」

「あの時はサーシャがガチ凹みしてたよね」

「残酷な一言」

「思い出させないで……」

 それからクズミは当時のケビンがパメラへおっぱいマイスターへの道を指し示したことを知ると、どうしようもない旦那様だと思い至ってしまい呆れた視線をケビンに向けながらも、当時のパメラを救った点は誇らしく思うのであった。
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