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第12章 イグドラ亜人集合国

第335話 新種発見! ゴブりっち

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 ケビンたちが奥へ進むと最初の横へ繋がる通路の所まで辿りつく。そこはシーラの魔法によって塞がれており、透過されている先ではアンデッドが先へ進もうと氷壁をガリガリと削っている様子が窺えた。

 その様子は1種のホラーのようでもあり、ケビンはゾワゾワっと鳥肌を立ててしまう。

「右と左……どちらに進むべきか……」

 ケビンがどちらに進むか悩んでいるところ、話し合いで最終的に決まったのはアリスが受けたクエストなのでアリスに任せようということだった。

 そしてアリスが選んだ右の通路の氷をケビンが溶かし始めると、ティナが隙間から矢を射掛け始めて、こちらへ来ようとしているアンデッドを倒していく。

 氷を半分ほどの高さまで溶かしたら、今度はアリスとシーラが魔法を打ち込み始めてある程度倒したところで残りの氷を全て溶かし、クリスとニコルが飛び出した。

 矢継ぎ早に斬り伏せていく2人をしりめに、ケビンは戦闘の邪魔にならないようにと【無限収納】の中へどんどん回収していく。

 アンデッドを退けつつ先を進むケビンたちは、しばらくしたらシーラの放った氷壁へと行きついた。

「ぐるっと1周って感じかな」

「先へと進む道でなくてすみません」

「いや、構わないよ。簡単に終わったらつまらないし。それよりもこの地下通路って何気に広いよな」

「それはここが大昔に造られた戦時中の避難場所だからだよ。街や周辺にある村の住民たちを避難させられるように造られたからね」

「ということは、生活空間があるわけか。いよいよもってゴブリンの巣だった可能性が高くなるな」

「アンデッドになっていなくても、Aランククエスト確定の集落になっていそうだね」

「管理が杜撰だな。こんな所なんか潰してしまえばいいのに」

「いつか起こる戦争のために取ってあるんだよ。現に戦争は起きたからね」

「それにしてもそんな情報をどこで手に入れたんだ?」

「学院の授業で習うよ。この国の歴史ってやつだよ」

「知ってたなら受付嬢に場所を聞かなくてもよかったじゃないか。それに初等部の教科書にそんなのは載ってなかったぞ?」

「一応聞いておかないと別の地下通路だったら無駄足になるから。それとケビン君の教科書は1年と2年のだけでしょ? しかも2年は途中までだったし。歴史を知りたいなら今度一緒に勉強する? 先生役をやってあげるよ」

「それならソフィーリアに頼まないとな。やるとしても放課後の教室がいい」

「ふふっ、いったい何のお勉強を期待しているのかな?」

 クリスの妖しげな視線を受けて、ケビンはいつかソフィーリアにあの空間をまた作ってもらおうと決意するのであった。それは決して歴史の授業を習うためではないことは言わなくともわかるだろう。

 それからケビンが氷を溶かすと元の通路まで戻ってきたので、今度は反対側の左の氷を溶かして先へ進むことにしたのだった。

 その後もぐるぐると回されては、居住区だったり厨房だったりと生活空間がチラホラと目立ち始めると次第に通路は下り坂となり、地下へどんどん潜って行く感覚を味わう。

 道中で向かい来るアンデッドはゴブリンがメインのようで、これだけの数ならキングがいそうだとメンバーたちの予想が見え始めてきた頃、少し拓けた部屋へと到着する。

 そこで待ち構えていたのは、ゴブリンナイトの成れの果てであるアンデッドたちだった。

「ナイトのアンデッドって……戦力落ちてない?」

「単純なことしかできないのにね」

「きっとパワーでゴリ押しなんだよ」

 単純な行動しかできないナイトは、パワーでゴリ押しする前にティナたちによっていとも簡単に倒されてしまうのである。

「親玉がいたとして、そいつは馬鹿なのか?」

「アンデッドを使役する親玉も所詮はアンデッドだから、そこまで賢くないんじゃない?」

「それにしてもなぁ……繁殖させるくらいの知恵があるならまともなはずなんだけどなぁ」

「それよりもケビン、先を急ぎましょう。お姉ちゃん飽きてきちゃった」

「確かに今のところアンデッドだけだしねぇ」

 ケビンは親玉がいたとして、いったい何が目的なのか腑に落ちない感覚を抱えながらも、シーラの「飽きてきた」という気持ちも理解できるために先へと歩みを進めていく。

 やがて辿りついた大広間には、多種類のゴブリンアンデッドで埋め尽くされていた。広間から見える横の数部屋は檻となっていて、繁殖用のゴブリンたちが所狭しと詰め込まれている。

「あれ? 親玉は?」

「アレじゃないの? 真ん中にちょこんと座ってるわよ?」

「アレってゴブリンだよな?」

「ゴブリンね」

 悠長にそんなことを話し込んでいるケビンたちが襲われないのも、ひとえにケビンが結界でアンデッドたちが来ないように閉じ込めているからだった。

 ケビンはアンデッドたちの後方で手作りのイスらしき物に座っている親玉?っぽく見えなくもないゴブリンを鑑定すると、驚きの事実が判明してしまう。

「ああ、あいつが親玉だ。【死霊魔法】を覚えている」

 ケビンが親玉である証拠をメンバーへ伝えると、ティナはゴブリンがそのような魔法を覚えるはずがないと主張して、それを聞いたクリスは新種の可能性を言葉にする。

 ケビンもクリスの考えには賛成のようで、新種である可能性を秘めたゴブリンの名前を口にした。

「名前がゴブリンネクロマンサーになってるから、メイジから進化でもしたのかな?」

「ゴブリンリッチとかじゃないんだ?」

「名前が長いからそっちにする? ゴブりっちとか」

「なんだか可愛くなったね」

「可愛いと言えば、アリスはアレいらないよな?」

「あんなのはいりません! 名前だけ可愛くてもダメです!」

「だよな。あいつはギルドに提出するから、俺が確保するよ」

「わかったわ。まずはアンデッドを仕留めてから普通のゴブリンを倒しましょう」

 ケビンとクリスのやり取りで勝手に名前を変えられてしまったゴブリンネクロマンサーは、アンデッドに命令を出しているのかぎゃあぎゃあと騒いでいた。

「とりあえずこのまま戦うから一方的に倒しちゃっていいよ。こっちの攻撃は入るようにしたから、クララ以外は魔法攻撃でよろしく」

 ケビンはゴブりっちを結界で囲むと、クララを除く全員へ魔法攻撃の指示を出すのであった。

 一方的なアンデッドの駆除が終わると、次は繁殖用のゴブリンたちである。檻の中には苗床にされたのか餌として与えられたのかはわからないが、人骨が転がっていた。

「ゴブリンのメスとか子供とかいるけど、情けはかけないでね。所詮はゴブリンだから」

「わかってるわ」

 ケビンがアンデッドを全部回収すると、メンバーたちはそれぞれの檻へと向かって魔法を放ち始める。

 魔法によって檻が壊れると、中にいたゴブリンが逃げ出そうとしていたが、魔法が当たったり近接で滅多斬りにされたりと、為す術なく倒されていく。

 やがて全ての駆逐作業が終わると、ケビンはゴブリンの死体を全て回収したら、檻の中にあった人骨と装備品だったであろう物とギルドカードが残っていたのでそれらも回収した。

「ケビン君、あの新種はどうするの?」

「見た目が一緒だから死体だと新種なのかどうか判断できそうにないし、眠らせてから運ぶよ。街に着く前に外からは見えないようにするから大丈夫だろ」

 その後、地下通路の掃除が終わったケビンたちは外に一旦出ると、アンデッドの成れの果てを全て出して、クララへ燃やし尽くすようにケビンが指示を出す。そしてそれが終わったら街へと戻って、ギルドへ報告に向かうのだった。

 ギルドに入ると受付まで行ってアリスがクエスト終了の報告を終えると、ケビンが横から受付嬢へギルドマスターに話があると伝えて、今から会えるかどうかの予定を尋ねる。

 受付嬢がギルドマスターへ確認しに行ったら、しばらく待つつもりだったケビンの所へ受付嬢が足早に戻ってきて、今からすぐに会うと伝言を伝えられるとそのままギルド長室へ案内されるのだった。

 ギルド長室で簡単な挨拶を終わらせたケビンは早速本題を話し始める。

「まず、今回の地下通路はゴブリンの巣になってた。規模は地下通路の構造がわかってたら想像できるだろ?」

「そのようなことになっていたのか」

「あそこの管理は誰がしているんだ? 予想だと領主になるんだが」

「その通りだな」

「では、領主に管理が杜撰だと伝えておいてくれ」

「それは……」

「ギルドマスターならそのくらいできるだろ?」

「だが……」

「ギルドは独立組織なのに渋るということは、裏で繋がっているな?」

 ケビンから受ける指摘にギルドマスターは言葉を詰まらせてしまう。それは奇しくも認めているようなものであり、それを見られてしまえばもはや言い逃れはできなくなった。

「どういった癒着があるのかは知らんが、王都支部に報告はさせてもらうぞ?」

「ま、待ってくれ! 領主にこのことは伝える。だから王都へ報告するのだけは……」

「諦めろ。見逃せば俺まで不正を幇助したことになる。ということで、貴方にはこれ以上の報告は無意味だな。残りの報告は王都支部のギルドマスターへする」

 ケビンはそれだけ言うと、もう用はないと言わんばかりにギルド長室を後にした。

 ギルドを出ようとしたケビンが顔見知りの2人を見つけて声をかける。

「仲良くしているようだね」

「あ、こんにちは!」
「こんにちは!」

「ちょっと伝えたいことがあるから外に行こうか? そっちの3人も知り合いならついてきていいよ」

 ケビンは喧嘩を仲裁したことのある2人を連れて外に出ると、仲間と思われる3人も後に続いた。

 そして揃ったところで遮音の結界を張ると、ギルドマスターのことを伝えるのだった。

「――ということだから、ここの支部はやめた方がいいよ。これから先は落ち着くまでバタバタするだろうしね」

「そんな……」
「ギルドマスターなのに……」

「とりあえずせっかく知り合った仲だし教えただけだから、あとはどうするのかをみんなで話し合うといい」

 それだけ伝えたケビンは結界を解くと立ち去ろうとして、後ろからかけられた言葉でズッコケそうになるのである。

「エックスさん、ご親切にありがとうございます!」
「エックスさん、私たち頑張ります!」

「ちょ、ちょっと待とうか。エックスさんって何?」

 振り向いてそう伝えるケビンへの返答は思いもしないことであった。

「受付嬢がエックスって言ってたから名前だと思っていたのですが」
「エックスさんじゃないんですか?」

「あぁぁ……あの時か……」

 受付嬢が無闇に騒ぎ立てたせいで自分の名前がエックスになったことを知ったケビンは、5人へギルドカードを見せて説明を始める。

「俺の名前はケビン、エックスはランクのことだから」

「「「「「え……え……英雄ぅぅぅぅっ!」」」」」

 5人が叫び出したことで周りを通行していた住民たちは一斉に注目をして、口々に騒ぎ始めるのである。

(おい、今英雄って聞こえなかったか?)
(聞こえたぞ、確かに英雄って叫んでた)

(あの青年が……)
(人は見かけによらねぇな)

(え……あの青年がもしかして戦争を終わらせた英雄なの?)
(若くてカッコイイじゃない。年上だけど興味あるかしら?)
(貴女は旦那がいるでしょ)
(貴女だっているじゃない)
(それなら、2人でお相手してもらう?)
(いいわね、秘密は共有した方が安心だわ)

 周りの騒ぎが大きくなり始めたケビンは空中に爆発魔法を放ち、その音に驚いた住民たちが一斉に空へ注目したのを見計らって結界を張ると、5人へ結界から出ないように伝えるのだった。

「ふぅぅ……これでもう認識されないな」

「ごめんなさい」

「いや、過ぎたことは仕方ない。俺も軽率なところがあったし」

「ケビン君、あそこの人妻2人がケビン君に抱いて欲しいって言ってたよ」

「クリス……せっかく落ち着けたのに爆弾を投下しないでくれ」

「ケビン君にもスパイスが必要かなぁって。ソフィさんも言ってたし」

「原因はソフィか……」

「お仕置きする?」

「身重なソフィにできるわけないだろ」

 ケビンとクリスの会話で置いていかれている5人は改めてケビンへお礼を伝えると、この街から出て帝国を目指すことを伝えるのであった。

「そうか……まぁ、無理のないように頑張って」

「「「「「はい!」」」」」

 それからケビンは人の少ない場所まで移動すると、結界を解いて5人と別れたら何事もなかったかのように街の外へ出て王都へと転移した。

 王都についたケビンたちは、久しぶりにカーバインへと挨拶に向かうためギルドを訪れていた。

 そして、カーバインへの挨拶が済むと嫁たちは暇だろうからと併設の酒場で待つように伝えて、嫁たちがぞろぞろと部屋を出ていったらケビンだけで話を進めていく。

「久しぶりだな」

「お久しぶりです」

「で、厄介事か?」

「何故ですか?」

「それ以外で俺に会いに来るわけないだろ?」

「心外ですね」

「じゃあ、厄介事がないなら世間話だけでいいな?」

「……少しお話したいことが」

「世間話だろ?」

「……厄介事……です」

 カーバインは溜息をつきつつケビンの話に耳を傾けた。そしてケビンの報告が全て終わると先程よりも長く強い溜息がカーバインの口から漏れだしてくる。

「癒着の内容は?」

「恐らく金かと。交易都市でもそうでしたし」

「ああ、あそこのギルドマスターを潰したのもお前だったな。そして次はセボサのギルドマスターか。ギルドの一掃でもするつもりか?」

 人聞きの悪いことをカーバインから言われてしまうケビンだったが、ギルドマスターの悪事を暴いてしまっている以上、強気に出ることもできなかった。

「まぁ、なんだ。セボサのギルドマスターはこっちで処理しよう。領主のことはお前から陛下へ伝えてくれ。領主の処罰はうちの管轄ではないからな」

「わかりました」

「次は新種か?」

「解体場へと移動しましょうか? 素材も卸したいですし、冒険者と思われる亡骸も回収してきましたので」

「それは助かる。もし家族がいたなら亡くなった後とはいえ、本人と会わせてやりたいしな」

 それからカーバインとケビンは解体場へと足を運んで、ライアットにことの次第を説明すると、まずは解体場の隅に冒険者の亡骸を並べた。

「見つけた時には既に白骨化していたので、近くに落ちていたギルドカードとともに並べてあります」

「重ね重ね助かる。あとはギルドで受け持とう」

 そしてここからが本題で、不可視にしていた結界を可視状態にして新種と思われるゴブリンをお披露目をする。

「ゴブリンの新種【ゴブりっち】です」

「何だ、その見た目に似合わず可愛い名前は」

「正式名称は【ゴブリンネクロマンサー】で、長いなぁと思ってクリスと会話していたら【リッチ】という単語が出てきて、ゴブリンのリッチということで【ゴブりっち】と命名しました」

 その後はゴブりっちが死霊魔法を使ってアンデッドを使役することや、メイジから進化したものではないか? などの情報を伝えていき、2人へ死体のままだとただのゴブリンと見分けがつかないので生きたまま連れてきたことを説明する。

「それが本当なら初めて見る新種だが、ライアットは何か知っているか?」

「いや、俺も初めて聞くゴブリンだ。そもそも最弱のゴブリンが他の魔物をアンデッド化して使役するなぞ聞いたことがないし、あったとしたら大騒ぎになるから間違いなく新種だろう」

「そうか……で、どうやって調べるかだが……」

「それなら隷属の首輪をつけるしかないな。冒険者の中にはそれでテイマーもどきをしているやつもいるしな」

「ああ、それでいいなら今から作ってつけますよ」

 ケビンはサクサクと【創造】で隷属の首輪を作り出すと、それを動けなくしたゴブりっちの首にはめる。付与効果に【言語理解】をつけて人の指示がわかるようにした。

「お前は今から人種の者へ危害を加えてはいけない。人種の者の指示は絶対だ。とりあえずそこで立って静かにしていろ」

 ケビンがそう伝えるとゴブりっちが気をつけをして、直立不動の姿勢をとった。

「主はどちらにしますか?」

「相変わらず規格外だな……」

「お前は何でもありだな……」

 ケビンの取った行動に対して、2人はいつものことながら呆れ果ててしまうのであるが、その後の話し合いで魔物に詳しいライアットが主となり、ゴブりっちの能力を試すのである。

「ちょうどいい死体は……」

「ああ、それならここに」

 ケビンが【無限収納】からゴブリンの死体をその場に出すと、ライアットはゴブりっちへアンデッド化させるように指示を出す。

 すると死体だったゴブリンがむくりと起き上がり、ぼーっと立ち尽くしていた。

「アンデッドだな……」

「ゴブりっちが命令を出していないから立っているだけですね」

「新種確定か……」

 ライアットが続いてゴブりっちへアンデッドを歩かせるように指示を出すと、アンデッドはトコトコと歩いて行ったら、振り返って元の位置まで戻ってくる。

「よし、確認は取れた。各国の首都マスターへこのことを伝えておく。発見者はケビンで名前はゴブリンネ「【ゴブりっち】です!」……やはりその名前なのか……」

 名前をつけたことで若干の愛着が湧いているケビンは、断固として【ゴブリンネクロマンサー】ではなく【ゴブりっち】という名前にするよう推すのであった。

 そう主張したあとのケビンは、ゴブりっちの持つスキルや魔法をライアットに伝えていくと、当然の疑問が2人から返ってくる。

「何故わかる?」
「何か魔導具でも使ったのか?」

 2人の質問に対してケビンはステータスの見れる【鑑定】持ちであることを教えると、2人は天を仰いで大きな溜息をつくのだった。

「俺はもう疲れた……帰りに受付に寄ってランクアップしとけ。どうせお前たちのことだから馬鹿みたいに討伐してるんだろ? AじゃないやつはAにするように伝えておく。あと領主のことは忘れずに伝えておけよ。あぁぁ……頭痛い……」

「カーバインも気の毒だな。俺は解体場の責任者で本当によかったよ。それとお前には昔から驚かされてばかりだな」

 カーバインが哀愁漂う背中を見せながらとぼとぼと解体場を後にして去っていくと、ケビンはゴブりっちをどうするのかライアットへ尋ねた。

「せっかく新種を手に入れたんだ。俺の従魔としてギルドに登録する」

「それじゃあ、住処が必要ですね。あと名前も付けないといけないし」

「どうせお前が何か作るんだろ? 名前もお前が決めてくれ」

「じゃあ……ゴブりっち、お前の名前は今から【ゴブゾウ】だ」

「ギャ」

 ケビンはそれから解体場の隅に移動すると、ゴブゾウのための家を作り始めた。家の中は浴室とトイレ・洗面をつけて、あとは10畳ほどの広さにベッドとテーブルセットも備え付けると、ゴブゾウの生活空間を整えた。

「今日からここがゴブゾウの家だ。表札にちゃんとゴブゾウって書いて置いたからな」

「ギャッギャッ!」

「喜んでいるのはわかるが、言葉が話せないのは不便だな……」

 ケビンはこれからここで働いていくであろうゴブゾウに対して、意思疎通がちゃんとできるようにしたいと思い、サナ協力の元、新しいスキルを作るのだった。

『マスター、そのスキルは難しいと思います。禁則事項に抵触する恐れが……』

『ダメ元でやってみてくれ。俺からも原初神様へ祈ってみる』

 ケビンがその場で跪いて原初神へ祈りを捧げると、それを見ているライアットは何をしているのか理解できずに呆然としている。

 そして、しばらくケビンがそうしているとサナからの報告が入る。

『システムから許可が降りました。これによりマスターの望みが叶います』

『ありがとう、サナ。ありがとうございます、原初神様』

 ケビンは早速作ったスキルを使ってゴブゾウへスキルを与えた。

「ゴブゾウ、喋れるか?」

「喋れるゴブ」

「みんながお前を怖がらないように肉体を改造するぞ?」

「マスターに従うゴブ」

 続いてケビンは作れなさそうだったスキルを使って、ゴブゾウの肉体構造を変化させていく。ケビンのスキルによって光に包まれたゴブゾウの体が変化していき、やがて収まるとディフォルメされたゴブゾウが姿を現す。

「よし、終わりだ。これで誰もお前を怖がらない。これからはここでライアットさんの言うことをよく聞いて、頑張って働きながら人と同じ生活をするんだ」

「わかったゴブ」

「あと、恋人とか欲しくなったらライアットさんに言え。俺のところに連絡が来るようにしておくから」

「ありがとうゴブ」

「家の中の物の使い方はライアットさんに教えてもらえばいい。それと、その首輪は2度と外れない。外せたり壊せたりするのは俺だけだからな」

「構わないゴブ」

 今回、ケビンがゴブゾウへ行ったのは【人種言語】のスキルを与えて、人との会話を可能にするものだった。ついでに首輪に付与させていた【言語理解】もスキルとして与えて、最後には自身のスキルを使ってゴブゾウを醜悪な姿からディフォルメされた姿へと変化させたのだった。

 ケビンはこれらを行うために【スキル付与】と【肉体構造変化】を創造しようとしていたが、このスキルは使い方によって危険な代物になるので禁則事項に抵触する恐れがあるため、原初神へ祈りを捧げてお願いしていたのだった。

 ケビンの次から次に巻き起こすありえないことを見ていたライアットや、解体作業をしていた他の職員たちは揃って自分の頬をつねっていた。

「ライアットさん、ゴブゾウのことをよろしくお願いします」

「お願いゴブ」

「あ……ああ……」

 その後、用事を済ませたケビンはギルドの中で待たせていた嫁たちと合流するとそのまま王城へ行って、謁見の予約を入れたら即順番が回ってきたので領主のことをヴィクトール国王へ伝えてから、セボサの街の外れへと転移して携帯ハウスでのんびり過ごすのであった。

 ケビンたちがギルドを出てからしばらくすると、ゴブゾウの様子を見に来たカーバインがライアットと同じように自分の頬をつねって現実逃避をしてしまう姿が目撃されるのは、また別の話である。
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