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第12章 イグドラ亜人集合国

第333話 セボサの街にて

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 帝城で数日間過ごしたケビンは旅の続きを再開するため、出発の挨拶を女性たちへしていく。

 とうとう嫁たちが妊娠したこともあってか、前回よりも居残り組からは熱い見送りをされてしまう。

 そして、ニーナが妊娠したことによって戦闘メンバーから欠員が1名出てしまったが、人数的に問題ないこともありそのままのメンバーで継続することになった。

 前回帰った地点に転移したケビンたちはバイコーンの背に乗ると、のんびりしながら次の街を目指し始める。

 それから数日後、【セボサ】の街に到着したケビンたちは冒険者ギルドへ赴き、旅の間で倒していった魔物の素材を卸すのであった。

 アリスたちのランクも上がったことでクエストにも幅が出て、Aランクまでのクエストを受けれるようになると、アリスは早速そのランクのクエストを探し始める。

「ケビン様、どれがよろしいでしょうか?」

「アリスが受けてみたいクエストで構わないよ」

「迷ってしまいます」

 アリスが背伸びをしながらクエストを確認する姿を見て、ケビンは後ろで萌えの心境に達するのである。

(あぁ……つま先立ちのアリスが可愛い……)

 やがて悩んだ末にクエストを決めたのか、アリスは一生懸命に背伸びをして片手を伸ばしながら貼り紙を取ろうとする。

(ヤバい……お持ち帰りしたい……)

 そこへアリスの様子を見ていたクララがヒョイっと、アリスが取ろうとしていた貼り紙を取ってしまう。

「これがよいのか?」

「はい! それです!」

(ぬあぁぁっ! クララめ……アリスの萌えポイントを終わらせるとは……)

 そしてアリスが選んだクエストをケビンが覗き見ると、どうやら地下通路に蔓延るアンデッドの討伐依頼であることがわかった。

「アンデッドか……」

「はい! まだ出会ったことがありませんので……ダメですか?」

 上目遣いでケビンの様子を窺うアリスに、ケビンが抵抗できるわけもなくすんなりと2つ返事で了承するのだった。

 それからアリスと一緒に受付へ向かうと、クエスト受注に際しての注意事項を受ける。

「光属性の上級魔法を使える方はパーティーにいますか?」

「はい、います!」

「上級の浄化魔法は使えますか?」

「どうなんでしょう……?」

 アリスは自信なさげに答えると、ケビンの方を振り向くのである。そのアリスの視線を受けたケビンが受付嬢へと質問をする。

「それが使えないと何かあるのか?」

「はい、今まで他の冒険者がクエストを受けましたが、その魔法が使えずにアンデッド化してしまいました」

「おいおい、それをずっと放置しているのかよ!?」

 ケビンのご尤もな意見に対して、受付嬢は申しわけなさそうに答えるのであった。

 受付嬢の話によると、元々は簡単なCランククエストだったのだがCランクパーティーの冒険者が一部犠牲となりアンデッド化して、逃げ帰ってきた仲間の報告を受けた受付嬢がギルドマスターへ報告をすると、事態を重く見たギルドマスターがBランククエストにランクを上げて光属性の魔法を使えることを条件にしたと言う。

 しかし、次にクエストを受けたBランクパーティーの冒険者が下級の浄化魔法しか使えなかったようで更に犠牲が出てしまい、またもやアンデッド化した冒険者の被害が出たそうである。

 そして元はCランクだったクエストランクが、とうとうAランクまでに上がったとのことで、そのクエストを受ける条件が上級の浄化魔法を使うことができるかどうかということだった。

「ケビン様……上級の浄化魔法はお使いすることができますか?」

「ああ、問題ないよ」

「アンデッドなど燃やし尽くせばよかろう」

「地下通路で燃やし尽くすほどの火を使うわけにはいかないだろ。自殺行為もいいところだぞ」

「何かダメなのか? 簡単だと思ったのだが」

「それについてはあとで教えてやる。そもそもアンデッドが蔓延るなら教会に助力を求めれば良かっただろ。教会の奴らは専門家じゃないか」

 ケビンの指摘に受付嬢は答えづらそうに、助力を求められない理由を述べるのである。

「その……神聖皇国に寄付金を吹っかけられまして……」

「何で他国のやつがしゃしゃり出て来るんだ?」

「各地の教会は神聖皇国の所属でして……」

「えっ!? そうなの?」

 今更ながらにケビンはこの世界の教会のあり方を知るのであった。

「ケビン、知らなかったの? 学院で習ったはずよ?」

「俺がまともに通った学院はミナーヴァだぞ。そんなことは教わってない」

「あぁ、フェブリアの方は授業をサボっていた上に途中で辞めたわね」

「ケビン様、ちなみに神聖皇国はフィリア教の教えを説いていますよ」

「フィリア教?」

「女神フィリア様の教えです」

「何だそりゃ? 女神の教えを説いているのに金の亡者なんてアホの集まりだな。もう、そいつらが亡者だけにアンデッドだろ」

「主殿、上手いことを言っておるようだが、クエストは受けぬのか?」

「ああ、そうだったな。神聖皇国のせいで話が脱線してしまった。アリス、そのクエスト受けていいよ」

「ありがとうございます!」

 アリスと他のメンバーがギルドカードを受付に提出すると、クエスト受注処理をしようとした受付嬢が大声を挙げる。

「ウ……ウロボロスぅぅぅぅっ!?」

 受付嬢が叫んだことで、ケビンたちはギルド内の視線を一斉に浴びることとなる。

(おい、今ウロボロスって聞こえなかったか?)
(ウロボロスって、あのウロボロスか!?)
(あのウロボロス以外に何があるってんだ)

(ちっ、噂通りハーレムじゃねぇか!)
(うらやまけしからん!)

(あの人がリーダーかしら?)
(確かに中心にいるからそう見えるわね)
(カッコイイわぁ……)
(私もクランに入りたい……)
(あなたじゃ顔面偏差値が低いから無理よ)
(あっ? 表出ろや、ブス!)
(上等だ、偏差値0女!)
 
 受付嬢のせいで彼方此方からひそひそ話が始まり、中には喧嘩をおっ始めるためにギルドの外へと出ていく女性冒険者の姿もあった。

「騒がしいな。受付嬢さん、手続きを早く済ませてくれる?」

「えっ!? あ、はい。あの貴方のギルドカードが提出されてませんが?」

「ああ、俺はクエストを受けるつもりがないから出さないよ」

「え……? あの……先程の話から察するに、上級魔法が使えるのであればクエストへご同行されるのですよね?」

「同行はするよ。でも、俺がクエストを受けても意味がないんだよ」

「あの……ギルドの規定で同行される方も提出をお願いしているんですが……意味がないとはいったい……?」

 ケビンは仕方なく自分のギルドカードを受付に出すと、それを見た受付嬢が固まり身動きひとつしなくなった。

「もうそれ以上ランクが上がることがないから意味がないってこと。素材の買い取り報酬だけで食っていけるしね」

 受付嬢がカタカタと震える手でギルドカードを取ると、まさか自分がXランクの冒険者と出会うなど微塵も思っていなかったので、信じられないような表情でケビンとギルドカードを交互に見ながら絶叫してしまう。

「え……? えっ……!? エックスぅぅぅぅっ!」

 再び大声を挙げる受付嬢にギルド内の視線が一斉に集まる。

(おい、今エックスって聞こえなかったか?)
(何だそれ?)
(さぁ?)
(なら言うなよ)

(リーダーの名前かしら?)
(エックスさんって言うの?)
(変わった名前だけど、そこがまたカッコイイわぁ)

 周りの冒険者たちはギルドの新しい規定でランクが増えていることを説明されていたが、自分には到達できない程遠いランクに興味はなく、ケビンのランクを人の名前だと誤認識する者たちが出始める。

「それ返してもらうね」

 面倒ごとは厄介だと感じたケビンは、受付嬢の持つギルドカードを【無限収納】の中にしまうのであった。

「ッ! 消えたっ!?」

「とりあえず手続きを済ませてくれる?」

 ケビンから再度催促された受付嬢は、慌ただしく動き出しながら未だかつてない速さで迅速に手続きを済ませるのだった。

 ようやく手続きの終わったケビンたちは、地下通路の入口の場所を聞くとギルドの外へと出てきたら、先程勇ましく出ていった女性冒険者2人がまだ喧嘩をしている最中であった。

「喧嘩だのぅ」

 周りに迷惑をかけない配慮からなのか、武器は一切使用しておらず取っ組み合いの殴り合いをしているようである。

 周りの住民たちも見慣れた光景なのか止めるような気配もなく、中にはどちらが勝つかで賭けをしている者たちまでいる。

 ケビンは喧嘩の原因を耳で拾っていたために原因の一端を担っているのが自分だとわかっていたので、スタスタと歩いていくと2人の間に入って放たれた拳をそれぞれ掴んだら、勇ましく行われていた喧嘩を止めるのだった。

「《ヒール》」

「「ッ!」」

「2人とも綺麗な顔をしているんだから殴り合いをしてはダメだよ? せっかくの綺麗な顔が台無しになってしまう」

「はにゃぁ~」
「ふにゃぁ~」

 ケビンから告げられた言葉に、2人はヘロヘロになってしまいその場で座り込んでしまう。

「2人とも可愛いんだからもう喧嘩をしないこと。わかった?」

「「ふぁい」」

「それじゃあ立とうか? そのままだと服が汚れてしまうよ?」

 ふらふらと立ち上がる2人を確認したら、ケビンは仕上げに汚れてしまった服を魔法で綺麗にするのだった。

 もう用はないとケビンが立ち去ろうとすると、2人がケビンへお礼の言葉を口にした。

「「ありがとうございました!」」

「どういたしまして」

「それで、その……」

「ん? 何?」

「クランへ入れてください!」
「お願いします!」

「ランクは?」

「「Cです!」」

「それじゃあ、Aになったら帝国にある冒険者ギルドの帝都支部へおいで。そこが本拠地だから」

「「頑張ります!」」

「2人とも本当は仲がいいでしょ? 息がピッタリだよ?」

「「幼馴染なんです」」

「そう、今後も仲良くね。あと、無理なクエストは受けないこと。俺からの指示は【命を大事に】だよ」

「「わかりました」」

 ケビンは2人に別れを告げたあと、嫁たちを引き連れて地下通路へと向かうのであった。

「はぁぁ……会話しちゃった」

「カッコよかったね」

「しかも回復までしてくれた上に、服まで綺麗になったよ」

「中の3人にも教えてあげようよ」

「そうだね、目指せAランク!」

 喧嘩をしていたとは思えないほどに仲良くギルドの中へ入った2人は、パーティーメンバーの3人へことの顛末を話して、思い切り羨ましがられるのである。

「私も喧嘩をしていればよかったかしら?」

「いいなぁ……2人は会話ができて」

「2人の拳を簡単に止めれるなんてカッコイイわぁ」

 こうして5人の女性冒険者パーティーはAランクへなるために、のんびりしていた冒険者稼業を真面目に取り組むようになるのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方で喧嘩の仲裁を終えたケビンは目的地に向かいながら、嫁たちによる揶揄いの相手をすることになる。

「いつもながら鮮やかなお手並みよねぇ……」

「あの2人、メロメロだったね」

「ケビンはもう少し自重した方がいいとお姉ちゃんは思うの」

「ケビン様は魅力的な殿方ですから」

「くっ……あの2人が羨ましい」

「主殿は【おなごホイホイ】なのか?」

「おい、クララ。その不名誉な言い方はやめろ。称号につく」

 そのような会話を続けながらも、ケビンたちは街の外へと出たらバイコーンの背に乗って、地下通路の入口がある岩場へと向かうのであった。
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