面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

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第12章 イグドラ亜人集合国

第303話 パメラとお出かけ、そしてティナが失ったもの

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 ある日のこと、ケビンは朝食を終えて憩いの広場でくつろいでいると、思い立ったかのようにパメラへと話しかける。

「パメラ、おいで」

 ケビンに呼ばれたパメラは、玉座の横から立ち上がるとケビンの前へやって来る。

 パメラが来たところで、ケビンは抱き上げて膝の上に座らせた。

「今からお出かけしようと思うけど、パメラは外へ出る勇気はある?」

「……パパ……いっしょ……?」

「ああ」

「……ママは……」

「アビーママは仕事だから、今はソフィママしかいないよ」

 パメラがソフィーリアへ視線を向けると、その視線に気づいたソフィーリアがニッコリと微笑み返す。

「パメラは他のママたちはまだ苦手か?」

「……うん……」

 パメラがしょんぼりしてしまったので、ケビンが頭を撫でながらパメラへ言葉を返す。

「気負わなくていい。パメラのペースで仲良くなればいいから。クリスとアリスとレティは少し平気なんだろ?」

「……おかし……くれる……」

 お菓子に釣られて気を許してしまうパメラへ苦笑いしつつも、ケビンはその方法もありかと思うのである。

「近づいても平気だったのか?」

「……はなれたところ……おいてくれる……」

「優しいママたちだな」

「……うん……」

 そして、ケビンがパメラを抱き上げて席を立つと、ソフィーリアの元へと向かうのだった。

「ソフィ、パメラと3人でデートするぞ」

「あら、親子デートね」

「うぅ……ズルい。でもパメラちゃんがいるし……」

「諦めが肝心」

「ケビン、お姉ちゃんもデートがしたい」

「私もしたいなぁ」

「パメラちゃん、お外に出るのですか?」

「頑張ってください、パメラちゃん」

 すかさずスカーレットが応援のつもりで飴玉をパメラへ見せてテーブルへ置こうとするが、パメラが手を伸ばしてスカーレットの手を掴んだ。

「はうっ」

「……あめ……」

「ああ、パメラちゃんが手を握ってくれています。私、幸せです」

「……あめ……」

「そうでした。飴です、どうぞ楽しんでください」

 スカーレットが包み紙を外してから受け取った飴玉を、パメラはそのまま口に入れてコロコロと転がし始める。

「パメラ、食べるよりも先に言うことがあるだろ?」

 ケビンから注意を受けると、パメラがバカ正直に口から飴玉を取り出して、スカーレットへ視線を向ける。

「……あり……がとぅ……」

 パメラはお礼を言い終えるや否や、再び飴玉を口に入れてコロコロと転がし始めるのだった。その様子にスカーレットはメロメロになってしまう。

「ああ、パメラちゃんが天使です」

「レティはズルいです。私もパメラちゃんと手を繋ぎたかったです」

「出遅れたぁ……」

 パメラへ少し近づける組が三者三様で言葉を口にすると、近づけない組が作戦を練り出す。

「飴よ、飴玉が鍵なのよ」

「飴玉常備必須」

「お菓子ね」

 嫁たちの行動にケビンが苦笑いしていると、ソフィーリアが立ち上がり声をかける。

「さあ、あなた。デートに行きましょう」

「ああ、そうだな」

 ケビンは偽装魔法をかけると、淡い光がソフィーリアとパメラを包み込む。

「え……誰?」

「ソフィとパメラに偽装魔法をかけたんだよ。このまま出たら街で大騒ぎだろ?」

「ケビン君は?」

「俺はスキルで持ってるから魔法をかける必要がない。城門まではこの姿で行かないとアルフレッドがビックリするからな」

 ティナの疑問にケビンが答えていくと、あとの者たちに留守番を頼んで城を出るのだった。

 ケビンは城門を出るところでアルフレッドへ街に出かけてくることを伝えて、ソフィーリアとパメラのことも忘れずに伝えた。

 ケビンたちが貴族地区を抜けてから賑わっている街中へと辿りつくと、パメラはケビンの体に顔を隠してギュッと抱きつく。

「大丈夫、怖くないよ」

 そのまま歩くと噴水広場について、ケビンたちはそこで一旦腰を落ち着けることにした。

「あなた、パメラにはまだ早かったんじゃないの?」

「そうかもしれないが、何事も思い切りが大事だからな。それに、しばらく旅に出て会えなくなるから、その前にパメラとの時間を作ってやりたかったんだ」

「それなら毎日帰ってくればいいじゃない」

「毎日帰ってきたら冒険してるって感覚にならないだろ」

「大人になっても子供のままね」

「それよりもソフィ、体の調子は大丈夫なのか? 辛かったらちゃんと言うんだぞ」

「心配しすぎよ」

「何せ初めての子供だからどこまでが大丈夫なのかどうなのか、経験がないからよくわからないんだよ」

 ケビンの様子にソフィーリアが微笑んでいる中で、往来では賑やかに人が行き来している。

 そのような中で、ケビンの体に顔を隠しているパメラへケビンが優しく声をかける。

「パメラ、少しでいいから人々を見てごらん。みんな明るい笑顔で日々を生きているんだ。もう、パメラに酷いことをする人はいないよ」

「……ほんとう……?」

「ああ、少しだけ見てみればいい」

 パメラはケビンから言われた通りに少しだけ視線を往来に向けると、そこでは笑いながら話している人や、店先で食べ物を買う人たちで賑わっていた。

「どうだい? 怖い顔をした人はいないだろう?」

「……うん……」

「これがパパの守ってるものだ。人々が笑って過ごせる国を造りたいんだ。もう、パメラみたいな子を生み出さないためにね」

「……パパ……」

「少しずつでいい。パメラもあの人たちみたいな素敵な笑顔をパパたちに見せてくれないか? そうしたらパパたちは元気が出てもっと仕事を頑張れるようになる」

「……ママも……?」

「そうよ、パメラが笑ってくれたら私もお仕事頑張れるわ」

「……だっこ……」

 パメラがソフィーリアへ両手を伸ばして抱っこの合図を送ると、ソフィーリアはケビンからパメラを受け取り抱っこをして、優しく頭を撫でるのであった。

「甘えん坊ね」

「……ママ……すき……」

「私も大好きよ、パメラ」

 それからしばらく噴水広場で和んだあとは、3人で出店の買い食いをしたりしながら穏やかな時間を過ごして、お昼にはご飯を食べるために帝城へと帰って行く。

「あなた、収穫はあった?」

「何だ、バレバレか」

「私がパメラを抱いてからは周りに意識を向けていたでしょ?」

 パメラがソフィーリアへ抱っこされてからというもの、ケビンは周囲の会話を聞きながら情報収集を行っていたのだった。

「少し街道が荒れているみたいだな」

「整備するの?」

「そうだな……雨季に入る前にしておかないと、馬車が足を取られてしまう」

 やがて帝城についたケビンは昼食を済ませると、早速ケイトとアイリスを会議室に呼び寄せて話し合いをするのだった。

「帝都に繋がる街道の件で何か陳情は来ているか?」

「何も来ていないわよ」

「おかしいな」

「どうかなさいましたの?」

 ケビンは街で手に入れた情報を2人に説明し始めると、呆れた視線をケイトに向けられ、困惑した表情をアイリスが浮かべる。

「はぁぁ……1つ聞いてもいいかしら?」

「何だ?」

「街道が消えたわけじゃないのでしょう?」

「そうだな。少しデコボコになってるらしい」

「それくらいの道なんて、どこの国でも同じようにあるわ」

「そうなのか?」

「そうですの。こちらに来る時もそういった道は、帝国に限らずアリシテア王国でもありましたの」

「そんなもんなのか?」

「貴方が日頃から馬車に乗って街道を通らないからよ。転移でぽんぽん飛んで行くから現状が把握できないのよ」

「だって、一瞬で行けるのに数日から数ヶ月も時間をかけられないだろ? そんなものは疲れる上に面倒くさいだけだ」

「普通の人はそうなのよ。でも、そう言いながら次の旅は転移じゃなくて冒険するのでしょう?」

「新天地へ向けて冒険するのは冒険者の醍醐味だからな。ひとっ飛びしたあとに転移の一瞬で終わらせたら面白くないだろ」

「そういうワガママだけは王侯貴族らしいわね」

「常識がおかしくなりそうですの」

「それで? 街道は整備しなくてもいいのか?」

「この国は誰の国?」

「ん? 一応、俺だな」

「一応じゃなくて皇帝である貴方のものなの。貴方が整備したいと思うならすればいいのよ」

「でも国庫を使うわけだしな……」

「それは当たり前のことですの」

 あーでもない、こーでもないと議論を交わしていくと、国庫を使うことを渋るケビンに呆れた視線と諦めた気持ちを乗せてケイトは告げるのだった。

「そこまで言うなら貴方が整備すればいいじゃない。できるんでしょ? 街道整備くらい」

「それが妥当か」 

「皇帝自ら街道整備なんてありえないんですの……」

 常識というものがゲシュタルト崩壊していく中で、アイリスは瞳の光を失い遠くの方を見つめるのであった。

 そして、結局ケビン自らすることになった街道整備は、こだわりの職人と化したケビンの手によって難易度が跳ね上がってしまうのだった。

 粗方のプランが組み上がったケビンの取った行動は、甘い誘惑という名の人員確保である。

 その人員確保のため、憩いの広場にいる嫁たちへケビンが甘い誘惑を囁くのだった。

「ちょっと帝都の外に出るけど一緒にデートする人いる? ちなみにソフィは身重だからお留守番ね」

 ケビンが告げた『帝都の外』という言葉に、ケイトは事情がわかっているため視線を逸らしたが、何も知らない嫁たちが食いついてくる。

「行くわ!」

「行く」

「お姉ちゃんも!」

「もちろん行くよー」

「私もお出かけしたいです」

「パメラちゃんはいないですけど、行きたいです!」

 ソフィーリア以外の嫁たちが名乗りを上げてついて行く意向を示すと、ケビンは早速みんなを連れて帝都の外へと転移した。

 転移場所でケビンが偽装魔法をかけて身元がバレないようにすると、ティナを見たニーナが噴き出してしまう。

「ぶふっ! ウケる!」

「ちょ、ニーナ! 人のことを見て何笑ってんのよ!」

「厶……ムキムキ……ぷぷっ……マッチョ」

「えっ? どういうこと!?」

 ケビンから偽装魔法をかけられたティナは仕事の都合上、女性ではなく力仕事が得意そうなマッスル兄貴へと変化していたのだった。

 そしてティナが混乱の中、クリスとスカーレットもその姿を変えていく。

「クリス、レティ!? 貴女たち普通にマッチョな男になってるわよ!」

「ん? そうなの?」

「男の人に見えているということですか?」

「ティナ……ぷぷっ……よりマシ……ぶふっ!」

「ちょ、ニーナ! さっきから笑いすぎよ!」

 ニーナがティナの姿で大いに笑っていると、その身が淡い光に包まれていく。

「ぶふぅぅっ! ニーナがムキムキマッチョになってる! あはははは!」

「え……」

「あはは! ニーナ、マッスル兄さんだ!」

 マッスル兄貴2号となったニーナは、先程のお返しとばかりにティナから大爆笑され、クリスからは指をさされてしまうのであった。

 その後はアリスとシーラが偽装魔法を受けて細マッチョ男性の見た目になると、マッスル兄貴2人が率いるむさい男集団が完成するのだった。

 ようやく笑いの渦から逃れることのできたティナが、ケビンに向かって質問をする。

「ねぇケビン君、何でこんな見た目なの? デートよね?」

「ああ、労働デートだよ。土木関係者って筋肉のある男の人たちだろ? だから女性じゃなくて筋肉のある男性なんだよ」

 その言葉でティナたちはケビンに謀られてしまったと気づいてしまう。気づかないのは全幅の信頼をしているアリスとスカーレットだった。

 シーラはケビンといられればいいみたいで見た目は気にせず、クリスは楽しいから全く気にしていない。

 その後、街門についたケビンは衛兵に声をかけてこれからすることを伝えると、衛兵は皇帝から声をかけられたことにより萎縮してしまうのである。

「それじゃあ、今からできる所まで街道整備を行うから」

「何をすればいいの?」

 もう諦めてしまったティナはサクサクと仕事を終わらせてしまおうと、ケビンに指示を仰ぐのだった。

「まずは【土魔法】が使える人は、デコボコしている街道を少し凹ませて平にならして。魔法が使えない組は、平になった街道にこのタイルを置いていくこと」

 ケビンがお手本で街道を少し凹ませて平にならしたあとに、その上へ白いタイルを置いていくと、シーラが気になることをケビンへ尋ねる。

「ケビン、その内タイルがズレたり壊れたりするんじゃない? 馬車が何台も上を通るのよ?」

「その辺は大丈夫だよ。付与効果をつけてあるからズレないし壊れないし、あとは汚れない」

「それだけの物だと盗まれるわよ?」

「それも大丈夫。不動の効果だから設置したら動かないよ」

「え……失敗したらどうなるの?」

「ここにいる者たちなら動かせるようにしてある。ちなみに動かすためには手を使わないとダメだから、タイルを踏んでズレることはないよ」

「凄いわね、ケビン!」

「それじゃあ、みんな作業を開始して。俺は街道がグネグネ曲がらないようにある程度先の方まで行って調整しておくよ」

 ケビンがその場にタイルを山のように【無限収納】から取り出すと、【マップ】を使いながら大きい馬車が行き交えるほどに街道を広げて、草を排除していき進むのだった。

 残された嫁たちは動き出して、土魔法を使えない組が自分のマジックポーチへタイルを回収して、その間に魔法組が土魔法で道をならしていく。ならされた道ができあがると土魔法を使えない組が綺麗にタイルを敷き詰めていった。

 見た目がマッチョの集団たちが黙々と作業をしている光景は、傍から見たらとても異常に見えてしまい、街人たちは街道整備を行っているとわかっているものの、声をかけづらく不安感を拭えないでいた。

 その証拠に街から出る者や街へ入る者たちは、マッチョ集団を避けるために街道から外れて道のりを進むのであった。

 作業をコツコツと進めているティナたちは、既に自分たちが異様な集団であることすら頭に残っておらず、道を避けて進む人々に作業を中断させないよう気遣って貰っていると思い、お礼の言葉をかけていく。

 だが、マッスル兄貴率いるマッチョ集団から出てくる声は、本来の姿を知らない者からすればオネエ言葉となっているため、通る人々は関わらないように軽く会釈をして顔を引き攣らせながらその場を去っていくのだった。

「なんかここを通る人たちってよそよそしくない?」

「ティナのムキムキが怖いんじゃない? がちむちマッチョだから」

「今度する時は私も細マッチョにしてもらおう」

「あ、それなら私はティナさんの姿になってみたいです」

 もう既にここにいる者たちは感覚が麻痺していて、マッチョな男性に偽装することへ何ら抵抗感がなくなってしまっていた。

「何か大切なものを失った気がするのよねぇ……」

「ティナの大切なものって、家族かケビン君くらいじゃないの? 簡単に失えるものじゃないよ? エルフは長命だし、ケビン君は最強だし」

「それもそうね。でも少し訂正よ、他の家族や帝城に住まう家族のことも大切なんだからね」

「私もティナさんと一緒です!」

 ティナたち3人が作業をしつつ会話しているが、ティナ自身が失ったものの大きさを知るのはまだ先のことである。
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