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第12章 イグドラ亜人集合国
第299話 新たな旅の前触れ
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夢見亭の最上階へ転移したケビンは、早速コンシェルジュたちを部屋へ呼び出すのであったが、ケビンからの呼び出しとあって、時間をかけずにコンシェルジュたちは部屋へと訪れる。
「みんなに会うのは久しぶりだね」
「ご壮健で何よりです」
ケイラが代表して返答すると、ケビンはここへ来た目的を話し始める。
話が進むにつれて、戦争のことは当然知っていたコンシェルジュたちであったが、ケビンが皇帝となったことまでは知らず、驚きで目を見開いていた。
そして内政官としてコンシェルジュたちを引き抜きたいと申し出た時に、マヒナが真っ先に反応して即断即決の行動をとる。
「今すぐ退職届を提出してきます!」
すぐにでも出ていこうとしたマヒナをケビンが引き止めてから説得すると、渋々マヒナは退職届を作成しようとしていたことをやめるのである。
「もしオーナーがダメだと言っても、私1人でケビン様の所へ向かいますから」
「うーん……そこはオーナーと個別に話し合って。とりあえず、オーナーと話をしたいんだが可能かな?」
「可能です。ですが、オーナーはお忙しい身の上となりますので、こちらへ顔を出すことは滅多にありません。連絡を取る手段は魔導具となります」
「魔導具? そこの通信魔導具みたいなもの?」
「はい」
それからケビンは別室へと案内されてソファへ座ると、ケイラがテーブルの上に1つの魔導具を置いた。
「こちらがオーナーと唯一やり取りできる魔導具となります」
その魔導具の見た目は部屋にある通信魔導具とは違い、煌びやかに装飾が施されていて、ケビンが理由を尋ねたところ他の通信魔導具と混同してしまわないようにするための配慮らしい。
それからケイラが魔導具を起動させると、しばらくしてから応答を示すランプが点灯した。
「オーナー、コンシェルジュ代表のケイラでございます」
『……ケイラ? なんやあったん?』
「本日はケビン様がオーナーとお話したいと申されておりまして」
『……』
「あの、オーナー?」
『……そこにいてはるん?』
「はい、お待ちしております」
『……5分後にかけなおしや』
プツンっと魔導具が切れてしまうと、オーナーとの通信が途絶えてしまった。
「もしかして仕事の邪魔した?」
「いえ、仕事中であれば通信は受け取りませんので、それはないかと思いますが……」
――5分後
再びケイラが魔導具を起動させるとオーナーへの通信を始める。
「オーナ『お久しぶりですね、ケイラ。今日はどうされたのですか?』」
「「……」」
ケイラが呼びかける途中で声をかぶせてきたその声音は、口調が変わっているのはもちろんのこと、声も少し高くなり余所行きの喋り方であるのは誰が聞いても明らかであった。
『ケイラ、聞こえていますか? おかしいですね、先程は使えていたはずなのに壊れてしまったのかしら?』
あまりの変わりようにケビンとケイラが言葉を失っていると、オーナーは魔導具の故障を疑い始めるのだった。
『ケイラ、ケイラ、聞こえているのですか?』
オーナーからの呼びかけにハッとしたケイラが応答する。
「も、申し訳ありません。聞こえております」
『はぁぁ……良かったです。壊れたかと思いましたよ?』
「すみません。少し状況についていけず困惑しておりました」
『あら、そちらで何かあったのですか?』
あくまでも5分前の出来事がなかったかのように振る舞うオーナーに対して、ケビンとケイラはお互いに顔を合わせると苦笑いを浮かべるのである。
「いえ、些細なことですのでお気になさらず。それで、本日はケビン様がオーナーとお話があるようなので、お越しいただいております」
オーナーへの気遣いからか、ケイラはオーナーに合わせて先程の件がなかったかのように振る舞い始めた。
『まあっ! かの有名な英雄様が一体どのようなお話をお持ちになったのかしら?』
ケイラが視線で訴えかけると、ケビンが魔導具へ話しかけ始める。
「初めまして、私はケビン・ヴァン・エレフセリアと申します。本日はこのような機会を設けていただき感謝します」
『これはどうもご丁寧に。私は夢見亭のオーナーである、クズミ・ユキービと申します』
「本日のご要件は率直に申しますと、私専属となっているコンシェルジュたちを引き抜きたいと思いまして」
『そうですか……それは構いませんが条件がございます』
「構わないのですか?」
『ええ、ケビン様専属ということはケビン様の配下も同義。ただ雇い主が変わるということです。最上階はケビン様の物ですからケビン様以外に仕えることはないのです』
「それで条件とは?」
『以前、お食事でもとお誘いしたことは覚えていらっしゃいますか?』
「カジノを荒らしてしまった時ですね」
『ふふっ、そうです。あの後は大変だったのですよ? 元を取るのに働き詰めになりまして』
「すみません」
『お気になさらずに。ちょっとした意趣返しですから。それでお食事するために私のいる所へ来て欲しいのです』
「それは構いませんが、一体どちらにいらっしゃるのですか?」
『今はアリシテア王国を離れているのです。アリシテア王国から見て西側の密林地帯はご存知ですか?』
クズミからの問いにケビンが頭を捻っていると、どこから取り出したのかケイラが世界地図を広げて、密林地帯に指をさして教えてくれるのだった。
「……ああ、はい。把握しました」
『私はそこにあるイグドラ亜人集合国に滞在しているのです』
「亜人集合国?」
『数多の亜人種がそこで寄り添い生活をしております。代表は各種族の種族長たちから1人選ばれて任期制となっております』
「同行者がいても構いませんか? 新たな土地に向かうのは冒険者として心躍るものがありますので」
『構いませんよ』
それからケビンとクズミはある程度のやり取りを終えてから、通信を終わらせた。
「意外にも簡単に許可がおりたね」
「ですが、移動となるのは条件を達成してからでしょう」
「それは心得てる。その前に移動させては不義を働くから」
「今のことは他の者たちにも知らせておきます」
こうしてケビンは優秀な人材確保のために、イグドラ亜人集合国への旅に出ることとなったのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――クズミside
イグドラ亜人集合国の首都イグドラにて、大きな屋敷に1人で住む女性がベッドでゴロゴロと寝入っていた。
この屋敷には使用人は一切おらず、家のことは全てベッドで寝ている女性が魔法を使って行っている。
そんな女性の元へ通信魔導具から着信を知らせる音が鳴る。
「ん……んぅ……」
寝ぼけた状態の中、手探りで魔導具を起動させると相手先からの声が聞こえてきた。
『オーナー、コンシェルジュ代表のケイラでございます』
ケイラから連絡があるなんてほんまに珍しぃ。なんやあったんやろか?
『本日はケビン様がオーナーとお話したいと申されておりまして』
今この子何言うたん? ケビン……? ケビン言うたら最上階をあげた子やないの? まだ眠うて頭がようまわらんわぁ。
『あの、オーナー?』
もしかしてそこにおるんかいな……?
『はい、お待ちしております』
ケイラの言葉でウチは一気に覚醒してしまった。
何してくれはるん!? ケビンはんは戦争を終わらせた英雄やで、寝起きで対応なんてあきまへんえ。小っ恥ずかしいわぁ、とりあえず時間稼ぎせなあかん。
ウチは5分後にまた連絡を寄越すように言うて、通信魔導具をプツンっと切ってしまう。
「寝起きの声とか恥ずかしすぎるわぁ」
クズミはベッドの上で枕に顔を埋めてバタバタと脚をベッドへ叩きつけては、右へ左へと枕に顔を埋めたまま転がり続けるのだった。
「そうやわ、今はそれどころやない。ケビンはんと喋るために落ちつかな。さっきのことはなかったことにすればえぇんや」
――5分後
再びケイラからの着信が届いたのでウチは落ち着いて起動させたら、ケイラに先んじて手早う喋りかけた。
『オーナ「お久しぶりですね、ケイラ。今日はどうされたのですか?」』
これでいけるはずです。そうです、先程のは夢だったのです。
……それにしてもケイラからの応答がありませんね。魔導具が壊れてしまったのでしょうか? 遠距離通信魔導具は希少ですし、お値段も高いから壊れて欲しくはないのですが。
とりあえず私はケイラへ聞こえているのか、再度呼びかけてみた。
『も、申し訳ありません。聞こえております』
はぁぁ……良かった。壊れてなかったようですね。
『すみません。少し状況についていけず困惑しておりました』
あら、何か困惑することでもあったのかしら?
『いえ、些細なことですのでお気になさらず。それで、本日はケビン様がオーナーとお話があるようなので、お越しいただいております』
そうよ、それよ! カジノで遊んでた小さかった子供がどんどん頭角を現して、ダンジョンを制覇するだけでは留まらず、あの戦争を終結するまでに成長したんだから凄いことよね。
一体今日はどのようなお話があるのかしら?
『初めまして、私はケビン・ヴァン・エレフセリアと申します。本日はこのような機会を設けていただき感謝します』
まだまだ若いというのに私に丁寧な挨拶をしていただけるなんて、これはちゃんとこちらも名乗らなくてはいけませんね。
「これはどうもご丁寧に。私は夢見亭のオーナーである、クズミ・ユキービと申します」
『本日のご要件は率直に申しますと、私専属となっているコンシェルジュたちを引き抜きたいと思いまして』
ケイラたちの引き抜きですか……最上階専属のコンシェルジュだから引き抜かれても特に困りませんね。ですが、この際ですから縁を結んでおきましょう。
「そうですか……それは構いませんが条件がございます」
『構わないのですか?』
「ええ、ケビン様専属ということはケビン様の配下も同義。ただ雇い主が変わるということです。最上階はケビン様の物ですからケビン様以外に仕えることはないのです」
『それで条件とは?』
私は以前、機会があれば食事をしたいとお誘いした旨を伝えると、ケビン様は忘れずに覚えていらっしゃったみたいだ。
『カジノを荒らしてしまった時ですね』
「ふふっ、そうです。あの後は大変だったのですよ? 元を取るのに働き詰めになりまして」
あの時は本当に大変でした。久しぶりに資産を大きく失うことになって働き詰めでしたね。まあ、久々の仕事で楽しかったこともありますが。
『すみません』
「お気になさらずに。ちょっとした意趣返しですから。それでお食事するために私のいる所へ来て欲しいのです」
『それは構いませんが、一体どちらにいらっしゃるのですか?』
即答されるなんて決断が早いですね。まだ私の滞在している場所すら伝えていないというのに。
「今はアリシテア王国を離れているのです。アリシテア王国から見て西側の密林地帯はご存知ですか?」
『……ああ、はい。把握しました』
少し間があったということはケイラが地図でも広げたのかしら? 相変わらず細かいところに気が付く子ですね。
「私はそこにあるイグドラ亜人集合国に滞在しているのです」
『亜人集合国?』
あら、冒険者なのに知らないのでしょうか? ドワーフの集落は冒険者にとって楽園であるというのに。これは少し国について教えておいた方がよろしいようです。
「数多の亜人種がそこで寄り添い生活をしております。代表は各種族の種族長たちから1人選ばれて任期制となっております」
『同行者がいても構いませんか? 新たな土地に向かうのは冒険者として心躍るものがありますので』
さすが冒険者ですね。新天地のこととなると食いつきが違うようです。パーティーメンバーと一緒に冒険しながら訪れるのですね。
そして私は同行者がいても問題ないことを告げたあとは、大まかなことを決めてケビン様との通信を終えるのだった。
「はぁぁ……疲れましたぁ……久々の仕事モードは疲れますね」
だらしなくベッドに身を倒す私は天井を見つめると、これからのことを考えてしまいワクワクする。
「お食事が楽しみですね。それにあのことも相談してみましょう。ケビン様なら良いお知恵をお持ちかもしれません」
ベッドでゴロゴロしていた私は、色々なことを考えながら再び眠りにつくのであった。
「みんなに会うのは久しぶりだね」
「ご壮健で何よりです」
ケイラが代表して返答すると、ケビンはここへ来た目的を話し始める。
話が進むにつれて、戦争のことは当然知っていたコンシェルジュたちであったが、ケビンが皇帝となったことまでは知らず、驚きで目を見開いていた。
そして内政官としてコンシェルジュたちを引き抜きたいと申し出た時に、マヒナが真っ先に反応して即断即決の行動をとる。
「今すぐ退職届を提出してきます!」
すぐにでも出ていこうとしたマヒナをケビンが引き止めてから説得すると、渋々マヒナは退職届を作成しようとしていたことをやめるのである。
「もしオーナーがダメだと言っても、私1人でケビン様の所へ向かいますから」
「うーん……そこはオーナーと個別に話し合って。とりあえず、オーナーと話をしたいんだが可能かな?」
「可能です。ですが、オーナーはお忙しい身の上となりますので、こちらへ顔を出すことは滅多にありません。連絡を取る手段は魔導具となります」
「魔導具? そこの通信魔導具みたいなもの?」
「はい」
それからケビンは別室へと案内されてソファへ座ると、ケイラがテーブルの上に1つの魔導具を置いた。
「こちらがオーナーと唯一やり取りできる魔導具となります」
その魔導具の見た目は部屋にある通信魔導具とは違い、煌びやかに装飾が施されていて、ケビンが理由を尋ねたところ他の通信魔導具と混同してしまわないようにするための配慮らしい。
それからケイラが魔導具を起動させると、しばらくしてから応答を示すランプが点灯した。
「オーナー、コンシェルジュ代表のケイラでございます」
『……ケイラ? なんやあったん?』
「本日はケビン様がオーナーとお話したいと申されておりまして」
『……』
「あの、オーナー?」
『……そこにいてはるん?』
「はい、お待ちしております」
『……5分後にかけなおしや』
プツンっと魔導具が切れてしまうと、オーナーとの通信が途絶えてしまった。
「もしかして仕事の邪魔した?」
「いえ、仕事中であれば通信は受け取りませんので、それはないかと思いますが……」
――5分後
再びケイラが魔導具を起動させるとオーナーへの通信を始める。
「オーナ『お久しぶりですね、ケイラ。今日はどうされたのですか?』」
「「……」」
ケイラが呼びかける途中で声をかぶせてきたその声音は、口調が変わっているのはもちろんのこと、声も少し高くなり余所行きの喋り方であるのは誰が聞いても明らかであった。
『ケイラ、聞こえていますか? おかしいですね、先程は使えていたはずなのに壊れてしまったのかしら?』
あまりの変わりようにケビンとケイラが言葉を失っていると、オーナーは魔導具の故障を疑い始めるのだった。
『ケイラ、ケイラ、聞こえているのですか?』
オーナーからの呼びかけにハッとしたケイラが応答する。
「も、申し訳ありません。聞こえております」
『はぁぁ……良かったです。壊れたかと思いましたよ?』
「すみません。少し状況についていけず困惑しておりました」
『あら、そちらで何かあったのですか?』
あくまでも5分前の出来事がなかったかのように振る舞うオーナーに対して、ケビンとケイラはお互いに顔を合わせると苦笑いを浮かべるのである。
「いえ、些細なことですのでお気になさらず。それで、本日はケビン様がオーナーとお話があるようなので、お越しいただいております」
オーナーへの気遣いからか、ケイラはオーナーに合わせて先程の件がなかったかのように振る舞い始めた。
『まあっ! かの有名な英雄様が一体どのようなお話をお持ちになったのかしら?』
ケイラが視線で訴えかけると、ケビンが魔導具へ話しかけ始める。
「初めまして、私はケビン・ヴァン・エレフセリアと申します。本日はこのような機会を設けていただき感謝します」
『これはどうもご丁寧に。私は夢見亭のオーナーである、クズミ・ユキービと申します』
「本日のご要件は率直に申しますと、私専属となっているコンシェルジュたちを引き抜きたいと思いまして」
『そうですか……それは構いませんが条件がございます』
「構わないのですか?」
『ええ、ケビン様専属ということはケビン様の配下も同義。ただ雇い主が変わるということです。最上階はケビン様の物ですからケビン様以外に仕えることはないのです』
「それで条件とは?」
『以前、お食事でもとお誘いしたことは覚えていらっしゃいますか?』
「カジノを荒らしてしまった時ですね」
『ふふっ、そうです。あの後は大変だったのですよ? 元を取るのに働き詰めになりまして』
「すみません」
『お気になさらずに。ちょっとした意趣返しですから。それでお食事するために私のいる所へ来て欲しいのです』
「それは構いませんが、一体どちらにいらっしゃるのですか?」
『今はアリシテア王国を離れているのです。アリシテア王国から見て西側の密林地帯はご存知ですか?』
クズミからの問いにケビンが頭を捻っていると、どこから取り出したのかケイラが世界地図を広げて、密林地帯に指をさして教えてくれるのだった。
「……ああ、はい。把握しました」
『私はそこにあるイグドラ亜人集合国に滞在しているのです』
「亜人集合国?」
『数多の亜人種がそこで寄り添い生活をしております。代表は各種族の種族長たちから1人選ばれて任期制となっております』
「同行者がいても構いませんか? 新たな土地に向かうのは冒険者として心躍るものがありますので」
『構いませんよ』
それからケビンとクズミはある程度のやり取りを終えてから、通信を終わらせた。
「意外にも簡単に許可がおりたね」
「ですが、移動となるのは条件を達成してからでしょう」
「それは心得てる。その前に移動させては不義を働くから」
「今のことは他の者たちにも知らせておきます」
こうしてケビンは優秀な人材確保のために、イグドラ亜人集合国への旅に出ることとなったのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――クズミside
イグドラ亜人集合国の首都イグドラにて、大きな屋敷に1人で住む女性がベッドでゴロゴロと寝入っていた。
この屋敷には使用人は一切おらず、家のことは全てベッドで寝ている女性が魔法を使って行っている。
そんな女性の元へ通信魔導具から着信を知らせる音が鳴る。
「ん……んぅ……」
寝ぼけた状態の中、手探りで魔導具を起動させると相手先からの声が聞こえてきた。
『オーナー、コンシェルジュ代表のケイラでございます』
ケイラから連絡があるなんてほんまに珍しぃ。なんやあったんやろか?
『本日はケビン様がオーナーとお話したいと申されておりまして』
今この子何言うたん? ケビン……? ケビン言うたら最上階をあげた子やないの? まだ眠うて頭がようまわらんわぁ。
『あの、オーナー?』
もしかしてそこにおるんかいな……?
『はい、お待ちしております』
ケイラの言葉でウチは一気に覚醒してしまった。
何してくれはるん!? ケビンはんは戦争を終わらせた英雄やで、寝起きで対応なんてあきまへんえ。小っ恥ずかしいわぁ、とりあえず時間稼ぎせなあかん。
ウチは5分後にまた連絡を寄越すように言うて、通信魔導具をプツンっと切ってしまう。
「寝起きの声とか恥ずかしすぎるわぁ」
クズミはベッドの上で枕に顔を埋めてバタバタと脚をベッドへ叩きつけては、右へ左へと枕に顔を埋めたまま転がり続けるのだった。
「そうやわ、今はそれどころやない。ケビンはんと喋るために落ちつかな。さっきのことはなかったことにすればえぇんや」
――5分後
再びケイラからの着信が届いたのでウチは落ち着いて起動させたら、ケイラに先んじて手早う喋りかけた。
『オーナ「お久しぶりですね、ケイラ。今日はどうされたのですか?」』
これでいけるはずです。そうです、先程のは夢だったのです。
……それにしてもケイラからの応答がありませんね。魔導具が壊れてしまったのでしょうか? 遠距離通信魔導具は希少ですし、お値段も高いから壊れて欲しくはないのですが。
とりあえず私はケイラへ聞こえているのか、再度呼びかけてみた。
『も、申し訳ありません。聞こえております』
はぁぁ……良かった。壊れてなかったようですね。
『すみません。少し状況についていけず困惑しておりました』
あら、何か困惑することでもあったのかしら?
『いえ、些細なことですのでお気になさらず。それで、本日はケビン様がオーナーとお話があるようなので、お越しいただいております』
そうよ、それよ! カジノで遊んでた小さかった子供がどんどん頭角を現して、ダンジョンを制覇するだけでは留まらず、あの戦争を終結するまでに成長したんだから凄いことよね。
一体今日はどのようなお話があるのかしら?
『初めまして、私はケビン・ヴァン・エレフセリアと申します。本日はこのような機会を設けていただき感謝します』
まだまだ若いというのに私に丁寧な挨拶をしていただけるなんて、これはちゃんとこちらも名乗らなくてはいけませんね。
「これはどうもご丁寧に。私は夢見亭のオーナーである、クズミ・ユキービと申します」
『本日のご要件は率直に申しますと、私専属となっているコンシェルジュたちを引き抜きたいと思いまして』
ケイラたちの引き抜きですか……最上階専属のコンシェルジュだから引き抜かれても特に困りませんね。ですが、この際ですから縁を結んでおきましょう。
「そうですか……それは構いませんが条件がございます」
『構わないのですか?』
「ええ、ケビン様専属ということはケビン様の配下も同義。ただ雇い主が変わるということです。最上階はケビン様の物ですからケビン様以外に仕えることはないのです」
『それで条件とは?』
私は以前、機会があれば食事をしたいとお誘いした旨を伝えると、ケビン様は忘れずに覚えていらっしゃったみたいだ。
『カジノを荒らしてしまった時ですね』
「ふふっ、そうです。あの後は大変だったのですよ? 元を取るのに働き詰めになりまして」
あの時は本当に大変でした。久しぶりに資産を大きく失うことになって働き詰めでしたね。まあ、久々の仕事で楽しかったこともありますが。
『すみません』
「お気になさらずに。ちょっとした意趣返しですから。それでお食事するために私のいる所へ来て欲しいのです」
『それは構いませんが、一体どちらにいらっしゃるのですか?』
即答されるなんて決断が早いですね。まだ私の滞在している場所すら伝えていないというのに。
「今はアリシテア王国を離れているのです。アリシテア王国から見て西側の密林地帯はご存知ですか?」
『……ああ、はい。把握しました』
少し間があったということはケイラが地図でも広げたのかしら? 相変わらず細かいところに気が付く子ですね。
「私はそこにあるイグドラ亜人集合国に滞在しているのです」
『亜人集合国?』
あら、冒険者なのに知らないのでしょうか? ドワーフの集落は冒険者にとって楽園であるというのに。これは少し国について教えておいた方がよろしいようです。
「数多の亜人種がそこで寄り添い生活をしております。代表は各種族の種族長たちから1人選ばれて任期制となっております」
『同行者がいても構いませんか? 新たな土地に向かうのは冒険者として心躍るものがありますので』
さすが冒険者ですね。新天地のこととなると食いつきが違うようです。パーティーメンバーと一緒に冒険しながら訪れるのですね。
そして私は同行者がいても問題ないことを告げたあとは、大まかなことを決めてケビン様との通信を終えるのだった。
「はぁぁ……疲れましたぁ……久々の仕事モードは疲れますね」
だらしなくベッドに身を倒す私は天井を見つめると、これからのことを考えてしまいワクワクする。
「お食事が楽しみですね。それにあのことも相談してみましょう。ケビン様なら良いお知恵をお持ちかもしれません」
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