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第12章 イグドラ亜人集合国

第298話 第1回家族会議

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 翌日、目の覚めたケビンはシーラの寝顔を堪能していた。ケビンに寝顔を見られているとも思わずに、シーラは未だ夢の中である。

 しばらくするとシーラも目覚めてケビンと目が合ってしまう。

「ケ……ビン……?」

「おはよう、姉さん」

「……ッ!」

 ガバッと起き上がり逃げ出そうとしたシーラを、ケビンが体を掴んで捕獲する。

「今日は逃がさないよ。それに、裸のままで外に出るの?」

「はわっ!」

 ケビンに抱きつかれていることと自分が裸でいる状況を理解して、顔を真っ赤に染め上げるシーラであった。

「うぅ……ケビン、離して……お姉ちゃん恥ずかしいよぉ……」

「ダメ、朝の挨拶は?」

「……ぉ……はよぅ……」

「朝ご飯までまだ時間あるし、このまま過ごそうか?」

「むりぃ……」

 シーラが無理だと言ったにも関わらず、ケビンは裸のシーラを抱きしめたまま朝ご飯の時間まで過ごすのだった。

「お姉ちゃん死んじゃう……」

 恥ずかしくて悶えるシーラの呟きは気にしていないケビンには届かず、虚空へと消え去るのである。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 朝食を終えて少しくつろいでいたケビンは、外出すると今まで助力してくれていたライル国王の元を訪ねていた。

 正式に帝国がケビンの国となったことで、お役目を果たした国王夫妻が自国へと帰るためにケビンが送り届けるためだ。

「おはよう。お義父さん、お義母さん」

「おはよう、ケビン」

「おはよう、ケビン君」

 ケビンは部屋へ入ると自然な動作でソファへと腰を下ろして、準備の状況を確認し始める。

「この屋敷はどうするの?」

「ケビンが好きに使うとよい」

「それじゃあ、また来た時のために管理しておくよ」

「ふむ、帝国領の別荘というわけじゃな」

「他国に別荘があるなんて素敵ね」

「護衛たちも一緒に送っていいよね?」

「可能なのか?」

「大して魔力も使わないしね。馬車ごとごっそり送った方がいいでしょ?」

「とんでもない魔法じゃのぅ」

「旅の苦労が嘘みたいね」

 それからケビンは国王夫妻の荷物を【無限収納】にしまうと、護衛や馬車を屋敷の裏まで移動してもらって、馬車に国王夫妻が乗り込んだのを確認してから、アリシテア王国の王城広場へと転移した。

「ついたよ」

 馬車の扉を開けて国王夫妻へ声をかけたケビンは、中から2人が降りてくるのを待つ。

 いきなり現れたケビン一行に驚いた門番への対応は、事前の打ち合わせ通りで護衛たちが対応していた。

「本当に王城じゃのぅ」

「変な感覚だわ」

「中々楽しめたでしょ?」

 ケビンは2人に転移の面白さを体験してもらうために、わざと馬車に乗せて周りの風景がわからないようにして転移させたのだ。

 それから荷物を【無限収納】から取り出して護衛たちに預けると、ケビンは2人に別れの挨拶をして憩いの広場へと転移した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 国王夫妻を送り届けたケビンは、嫁たちを集めて突拍子もなく家族会議を開こうと開会の挨拶を始めるのである。

「それでは第1回家族会議を開きます。進行は議長であるこの私が務めさせていただきます」

「ふふっ」

「ケビン君、いきなりどうしたの?」

「ティナみたい」

 ティナのいきなり始める嫁会議と同じようにケビンによる家族会議が始まり、嫁たちはそれぞれ口を開いていく。

「ティナの嫁会議を真似しただけだよ」

「えっ? ケビン君、嫁会議のこと知ってるの!?」

「この前鑑定した時にティナのステータスに載ってた。嫁会議議長って」

「それで? ケビン君は何を議題にするのかな?」

 ケビンに問いかけたのはサーシャである。ギルドが復興したものの帝都周りの魔物に関してはケビンたちが狩りまくっていたせいもあり、今現在ギルドの仕事はあまりない状態でアビゲイル同様に仕事を休んでいるのだ。

「内政のできる人を増やしたいと思う」

「「「あぁぁ……」」」

 嫁たちの視線は一斉にティナへと向いた。

「えっ? 何でこっちを見るの?」

「ティナはさておき、現状、俺たちが冒険者寄りなのは言わなくてもわかると思う。俺、ティナ、ニーナ、アリス、クリス、シーラが冒険者で、サーシャ、アビーは冒険者ギルドの職員だ。唯一どちらにも属さないのが、ソフィとレティだ」

「冒険者家族」

「そこで、ギルドで働く2人を除いて内政ができる人物をあげると、俺、アリス、クリス、レティで、教えればできそうなのが、ニーナ、シーラとなる」

「あれ? 私は? 呼ばれてないよ?」

「あ、忘れてた」

 ケビンの一言で忘れられていたのも腹立たしいが、思い出してくれたならいいやと思ったティナをどん底に突き落とす言葉がケビンから告げられる。

「奴隷だけどケイトは当然できる側だな」

「え……?」

 ティナが他の嫁たちに視線で訴えかけるが、誰も視線を合わせようとはせずに逸らすばかりである。ソフィーリアに関してはニッコリ笑って見つめ返してくるだけだった。

「ケビンくぅん……」

 誰にも相手にしてもらえないティナは、涙目になりながらケビンを呼ぶのだった。

「ティナ……自分の胸に手を当てて考えてみるんだ。国を動かす内政はできそうか?」

「……」

 ティナは馬鹿正直にケビンから言われた通り、自分の胸に手を当てて考え込んだ。そして、自分が政に関わっている姿を想像してみる。

「……無理だよぉ」

 誰もがわかりきっていた答えをようやく導き出せたティナは、完全に涙目となって雫をこぼしてしまう。

「グスッ……」

 泣き出してしまったティナを抱き上げて膝上に乗せたケビンが、ティナの頭を撫でながら慰める。

「ティナはパーティー戦闘で力を発揮するタイプだから気にするな。誰でも得手不得手はあるんだ」

「そうです。私は本ばかり読んでいましたので戦闘なんてできません」

 唯一ティナとは真逆の立場となるスカーレットが、ケビンに続いてすかさずフォローを入れるのだった。

 そんなこともありながら、内政ができそうな伝手はないか各人に尋ねるも答えは芳しくない。

「ケビン君、うちの妹は確保してるんだよね?」

「ああ、昨日の披露宴で申し出があった。クリスの妹だし、学院部を卒業しているのなら期待できそうだからな」

「そもそも何で内政のできる人を集めるの?」

 ケビンの膝上という特等席で元気を取り戻したティナが、不思議そうにケビンへ尋ねると、返ってきた言葉はケビンらしさで溢れていたのだった。

「自分でするのが面倒くさいから」

「「「……」」」

「ちょっと貴方、皇帝になっても丸投げするつもり?」

 周りの女性たちが絶句する中で、ケビンの1番の被害者であるケイトがまた丸投げされるのではないかと物申している中、ソフィーリアはそんなケビンのことを理解しているのか、ニコニコと微笑んでいるだけである。

 そのような中で、仕事の重要性を理解している王族であるアリスがケビンへ無理であることを伝えるが、それで引き下がるほどケビンは甘くはなかった。

「ケビン様、さすがに皇帝のお仕事は人に任せられないと思います」

「アリス、考えてもみてくれ。俺が城に縛りつけられたら、一体いつアリスと冒険に行けばいいんだ? アリスは城内の冒険だけで満足してくれるか? ちなみにクエストは内政オンリーで冒険者ランクは上がらないし、戦闘は書類が敵となる」

「ケビン様、アリスが間違っておりました! 優秀な家臣育成のためにも仕事は割り振っていくべきです!」

 ケビンと冒険ができなくなると聞いて、すぐさまアリスは自分の意見を曲げて手のひらを返し、ケビン擁護派へと鞍替えしてソフィーリアの仲間入りを果たす。

「アリス様……」

 味方になってくれたと思っていたケイトは、アリスの手のひら返しがあまりにも鮮やかすぎて呆れてしまう。

「ケイトさん、これは最重要案件なのです。ケビン様の自由がなくなると私と冒険に行くどころか、カジノで遊ぶことさえもままならないのです」

「え……カジノ……?」

 冒険とは全く関係のない『カジノ』という言葉に、ケイトは訳がわからなくなってしまうが、その言葉にケビンが閃きを得る。

「それだっ! カジノだ!」

「旦那様、もしかしてカジノで人を集めるのですか?」

「ギャンブル求人?」

 話の流れ的に内政の人事をカジノで決めてしまうのではないのかと、アビゲイルが疑問を呈するとニーナもそれに続く。

「楽しそうだね!」

「クリス……ギャンブルで求人なんてしたら、ほとんどの人が知力じゃなくて運だけの人材になるわよ?」

 クリスがギャンブル求人に賛同するとサーシャが呆れて言葉を返すが、シーラが軌道修正を行いケビンへ結論を聞くと、スカーレットはどうなるのか知りたくてうずうずしていた。

「で、ケビン。結局のところどうするの?」

「私、気になります!」

「カジノと言えば夢見亭、夢見亭と言えば最上階……」

「え……もしかして……」

 夢見亭の最上階を散々使ったことのあるティナとニーナが、ケビンの意図を理解し始める。

「そう、ケイラさんたちを引き抜く!」

 ドヤっとしたケビンの顔に待ったをかける者がいる。それはケイラたちのことを知らない嫁たちである。

 それからケビンは夢見亭のケビン専属となっているコンシェルジュたちのことを説明すると、新たな問題点をサーシャから指摘される。

「引き抜くって無理じゃない? 私みたいにギルドの異動をするわけじゃないのだから」

「そうですよ、旦那様。そんなことをすれば夢見亭のオーナーがなんと言うか……」

「そこら辺はちゃんと考えている。まずは本人たちの意思確認をしてからオーナーへ話を通そうと思う」

「旦那様、その方たちは内政をできそうなのですか? 言ってはなんですが宿屋の従業員と内政官の仕事では全然違いますよ?」

「あの人たちはダンジョン都市の色々なことを把握してるんだぞ? そんな人たちの頭が悪いと思うか?」

「それほどなの?」

 サーシャの疑問も尤もであると考えたケビンは、例え話としてサーシャにアリシテア王国の王都をくまなく案内できるか尋ねて、ケイラたちの凄さを感じてもらうのであった。

「私には無理ね」

「そういうことだ。ということで、ちょっと出かけてくる」

 こうして第1回家族会議は閉会して、ケビンは内政官を得るためにダンジョン都市にあるマイルームへと転移するのだった。
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