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第11章 新規・新装・戴冠・結婚

第288話 ステータス確認が思わぬ事態へ

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 メイド隊が終われば残るは奴隷たちとナナリーである。ケビンはまずナナリーの健康状態を確認するために呼び寄せた。

 そしてケビンに呼ばれたナナリーは、さも歩けませんとアピールして両手を広げている。

「さっきまで普通に歩いてたよな?」

「ケビンさんの前だと歩けなくなる病が発症してしまうのです」

「何だ、そのヘンテコな病気は?」

「恋の病です」

「……」

 まさか1児の母親に「恋の病」と言われてしまうとは思わずに、ケビンは沈黙してしまう。

「今、失礼なこと考えてますね?」

「いや……」

「私だってまだ若いんですよ? 罰として抱っこしたまま確認してください」

 あとがつっかえているのでこのままでは先に進まないと思い、ケビンは抱っこしたままナナリーを見ることにした。

「ふふっ、ケビンさんのそういう優しいところが好きです」

「どういたしまして」



ナナリー
女性 21歳 種族:人間
身長:163cm
スリーサイズ:71(A)-50-72
職業:元主婦、マジカル商会従業員
   嫁会議傍聴者
子供:ナターシャ(長女5歳)
状態:痩せすぎで回復に向け療養中、恋の病(自称)
備考:ナターシャの母親。元の体型に戻すべく日々栄養のあるものを摂っている。ナターシャに優しく接しているケビンを見ると心が落ち着く。

スキル
【家事 Lv.2】【子育て Lv.3】

称号
薄幸(微)



嫁会議傍聴者
 嫁会議において嫁たちの話し合いを傍聴している者。

薄幸
 幸福に恵まれない運命にある者。(微)多少は報われることもある。



「病気はすっかり良くなったみたいだな」

「ケビンさんのお陰です」

 ステータスの内容を伝え終わるとナナリーを元の場所へ連れていくが、そのまま立ち去ろうとしたケビンにナナリーが物申してくる。

「ケビンさん、私にはないのですか?」

「何が?」

 ケビンが聞き返すとナナリーが口を突き出してきたので、ケビンはしょうがないと思いつつもナナリーへキスをした。

「えへへ」

「本当に甘えん坊なんだな」

 ナナリーの件が終わったケビンは、奴隷たちを順番に呼ぶべく元の場所へと戻って行った。

「ケイト」

「やっと順番が回ってきたわね」

「待ち遠しかったのか?」

「教会に行かなくてもステータスがわかるのよ? 早く見てもらいたいと思うじゃない」

「わかった」



ケイト
女性 20歳 種族:人間
身長:166cm
スリーサイズ:81(C)-56-82
職業:元男爵家令嬢、奴隷
   奴隷のまとめ役、元女帝
   マジカル商会従業員、嫁会議傍聴者
主人:ケビン
状態:王侯貴族とのやり取りで心労と疲労が溜まっている。
備考:ケビンが戻ってきたことにより、やっと肩の荷が下りた。女帝にされてしまった時は、戻ってきたら文句の1つでも言ってやろうと頑張っていたが、表情が戻っているケビンを見てしまい惚れた者の弱みだと、そんな気も失せてしまった。

スキル
【礼儀作法 Lv.5】【処理能力 Lv.3】
【指導 Lv.2】

称号
リーダーシップ



リーダーシップ
 自己の理念や価値観に基づいて人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動を行える者。



 ステータスを見終わったケビンは、ケイトを抱き上げると自分の上に座らせた。

「すまん、色々助かった」

「あら、この行動と言動からして、私が苦労していたのがわかったのかしら?」

 ケイトがケビンの首へごく自然に両腕を回すと、悪戯っぽく微笑んでケビンを責めるのだった。

「何かして欲しいことはあるか?」

「奴隷である私の口からは言えないわ」

 ケイトの望みを叶えようと尋ねてみるも教えてくれそうになかったので、ケビンが再び【完全鑑定】でケイトのステータスを詳細に見てから望みを叶えることにした。

「ん……くちゅ……ぁん……」

 ケイトが望んでいたのは『情熱的なキスをして欲しい』だったので、ケビンは躊躇いもせずにケイトへ口づけをするのであった。

「ダメよ……みんな見てる……あん……くちゅ……」

 キスの合間にケイトが力なく抗議するも本心からではないと百も承知だったので、ケビンはそのまま舌を侵入させてキスを続行した。

 しばらくキスを続けたあとケビンが唇を離すと、トロトロに蕩けてしまったケイトが潤んだ瞳でケビンを見つめて一言告げる。

「好きよ」

「知ってる」

 ケビンがケイトを抱えあげて別の場所へ座らせると、次の女性が既にイスへスタンバっているのだった。

「お願いします」

「ああ」



アンリ
女性 32歳 種族:人間
身長:162cm
スリーサイズ:88(E)-60-88
職業:奴隷、マジカル商会従業員
   嫁会議傍聴者
子供:アルソック(長男享年9歳)、アズ(長女6歳)
主人:ケビン
状態:今の生活で幸せを感じているが心配ごとが尽きない。
備考:夫から酒代欲しさに奴隷として子供共々闇商人へ売られてしまった。先に買われた長男がここにいないことで、普通の奴隷としてご主人に扱えて貰えているのだろうと思っている。できれば一緒に暮らせないかケビンに相談しようと思っている。

スキル
【家事 Lv.3】【子育て Lv.4】
【農作業 Lv.3】



 アンリのステータスを見てしまったケビンは、伝えてもいいのかどうか大いに悩んでしまう。

 そのような黙考しているケビンを他所に、アンリは何も言われないため次第と不安を募らせていく。もしかしたら相談しようと思っていたことで頭を悩ませているのではないかと。

「あ、あの……ご主人様……」

 思い切って声をかけたアンリにケビンは思考の淵から現実へ戻り、アンリに視線を向けた。

「気になさらないで下さい。これ以上の贅沢は望みません」

 勘違いをしているアンリに対して、ケビンはこれ以上ないくらいに悩まされてしまう。せっかく立ち直って明るくなっているのに不幸へと落としてしまうのかと。

 このような状況の経験値が足りないケビンは、自分ではどうしようもなくなってしまいサナへ助けを求めるのであった。

『サナ、すまないが助けてくれ』

『マスターは私のことを都合のいい女とばかりに使いますね』

『ごめん、今度サナだけとの時間を作るから許してくれ』

『仕方ないですね、約束ですよ?』

『約束だ』

『では、優しいサナからの助言です。隠すよりも伝えた方がよろしいでしょう。マスターが詳細を見れるのは既に周知の事実ですから』

『本当にそれでいいのか? せっかく立ち直ったのに……』

『確かに隠し続けるということも選択肢の内の1つです。もしかしたら一生知らずに過ごせるかもしれませんので。ですが、行方がわからないから余計に考えてしまうということもあります。さらにあとで何かの拍子に知ってしまった場合、何故教えてくれなかったのかと責められる可能性もありますからね』

『それもそうだが……』

『一生考えて生きさせるのか、教えて一時的に悲しみを与えるのかはマスター次第です。後者の場合はマスターが癒せば傷も塞がるでしょう。悲しみは周りの人たちの支えによっていつか癒えるものです』

『わかった、ありがとう。腹くくって話してみる』

『頑張ってください』

 サナとの相談を終えたケビンは、黙ったままアンリを抱き上げて向かい合うように座らせるが、突然のことにアンリはオロオロしてしまう。

「あの、ご主人様?」

 そしてケビンは覚悟を決めて口を開いた。

「アンリ……君の望みを俺は叶えてあげられない……」

「い、いえ、いいんです。これ以上何かを望むのは奴隷としてあるまじきことです」

「違う……そうじゃないんだ……」

「ご主人様……?」

「ステータスを見た時に君の望みも子供のことも全てわかった。だから、一緒に暮らしたいなら俺がお金を積んででも呼び寄せていいと思った」

「ですが、私だけがそのような待遇を受けるわけにも……」

「そうじゃない、いくらお金を積んでも呼び寄せられないんだよ……」

「え?」

 アンリはケビンの言葉を聞いて、それほど凄い大貴族にでも買われてしまったのだろうかと思い始めてしまう。お金を積んでも買い取れないのでは、相手はお金に困っていない人だと勘違いをしてしまったのだ。

「ごめん……俺がもっと早くに帝国を滅ぼしていれば……」

「え……え……」

 ケビンのたられば懺悔が始まると、アンリは話が噛み合っていないような感じに陥ってしまい、どういうことなのかわからなくなってきてしまう。

「……アルソックはもう……いない……」

「え……?」

 ケビンに一体何を言われているのかアンリは理解が追いつかなかった。周りの者たちは話の内容から、ケビンが何を見てしまったのか薄々と勘づいていく。そして何故ステータスを伝えず黙り込んだり、言いづらそうにしていたのかも。

「ごめん、アンリ……俺には人を生き返らせる力はない」

 ケビンはどうしようもない気持ちに押しつぶされて、アンリをギュッと抱きしめる。

 次第にアンリは何を言われてしまったのか理解していくと、瞳からポロリポロリと雫が落ちていき、そして堰を切ったように息子の名前を呼び続けて泣き出してしまう。

 アンリの姿を見てしまった一部の女性たちも会えていない子供がいたのか、ケビンの所へやってくると子供の安否確認のためにステータスを見て欲しいと願い出る。

 女性たちから懇願されてしまったケビンは、それぞれのステータスを見て伝えていくと、アンリ同様に子供の名前を呼んでは泣き出してしまうのだった。

 遊んでいた子供たちは泣いている大人たちを見て、自分の母親や他の女性たちの所へ行っては「どこか痛いの?」と口にして慰めていた。

 そのような何とも言えない雰囲気の中、ケビンがみんなに向けて口を開く。

「今日はお開きにしよう」

 ケビンの言葉に誰も反対するどころか、泣いている女性たちを気遣うようにそれぞれの部屋へと連れていくのであった。

 子供を失った母親たちは夕食の席には当然出てこずに部屋で悲しみに打ちひしがれているようであり、無理に連れ出すことも誰一人としてしなかった。

 重い雰囲気の中で夕食やお風呂が終わり、何も知らない子供たちだけはいつも通り明るく過ごしていたが、どこかいつもと違う雰囲気を察したのか大人に聞きに行くも「何でもないのよ」と言われて引き下がっていく。

 そしてケビンは夜になると、子供を失った母親たちを自室に呼んで言葉をかける。

「子供のいない俺には失った辛さがわからない。だから気休めの軽い言葉は口にはしない。その気持ちは理解できても共有することができないからだ。だから俺にできることをする。貴女たちの気持ちが落ち着くまで一緒に寝よう。1人でいたら悲しみが止まらず先に進むことができない。こんなことしかできない主人で申し訳ない」

 ケビンが頭を下げるとアンリが他の者に先んじて言葉をかける。

「頭をお上げください。ご主人様のせいではありませんし、ご主人様だって伝えることによって悲しみを他の人よりも受けています。辛い役目を背負わせてしまい申し訳ありませんでした」

「アンリの言う通りです。今もなお、私たちのために心を砕いていらっしゃるご主人様は、誰よりも私たちのことを考えているとわかりますから」

「お教え頂けて感謝しております。ずっと心配で気になっておりましたから。どうかお気になさらないでください」

「私たちもすぐには無理ですが先へ進めるように努力しますので、ご主人様もどうか先へお進みください」

「私たちと一緒に気持ちの整理を致しましょう。そしてまた、笑顔の絶えないご主人様にお戻りください」

 アンリたちを慰めようと呼んだケビンは逆に励まされてしまい、女性から母親となった者の心の強さを実感するのであった。

「それじゃあ寝よう」

 ケビンがアンリの手を引いてベッドへ歩き出すと、他の4人もその後へ続いていく。

「今日はアンリが俺の上だからな、明日はビアンカだ。順番に回していくから」

 ケビンがアンリの頭を自分の心臓の位置にくるように抱きかかえると、他の2人がケビンの左右を埋めて、その隣に残りの2人が寝転がる。

「心臓の音が聞こえるか? 俺が落ち込んだ時とかにしてもらったんだ。その音を聞いていると落ち着いてくるんだ」

「はい、聞こえています。ご主人様はドキドキしていらっしゃるようです」

「そりゃあ、アンリみたいな綺麗な人を抱きかかえているわけだしな、ドキドキもするさ。うるさいだろうが我慢してくれ」

 それを聞いたアンリがモゾモゾと上がっていくとケビンへキスをした。

「ちゅ……」

 唇を離したアンリがはにかみながらケビンに告げる。

「ご主人様、あまり私をドキドキさせないでください。寝れなくなっちゃいます」

「それはすまん」

「私たちもしちゃいますね」

 アンリが元の位置まで下がると、他の4人も同じようにケビンへキスをして就寝の挨拶をかけていくのだった。

「ああ、みんなおやすみ」

 こうしてアンリたちが悲しみに明け暮れるはずだった夜は、泣き疲れて眠りにつくのではなくケビンの温かみに包まれながら眠りにつくことができるのであった。
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