292 / 661
第11章 新規・新装・戴冠・結婚
第288話 ステータス確認が思わぬ事態へ
しおりを挟む
メイド隊が終われば残るは奴隷たちとナナリーである。ケビンはまずナナリーの健康状態を確認するために呼び寄せた。
そしてケビンに呼ばれたナナリーは、さも歩けませんとアピールして両手を広げている。
「さっきまで普通に歩いてたよな?」
「ケビンさんの前だと歩けなくなる病が発症してしまうのです」
「何だ、そのヘンテコな病気は?」
「恋の病です」
「……」
まさか1児の母親に「恋の病」と言われてしまうとは思わずに、ケビンは沈黙してしまう。
「今、失礼なこと考えてますね?」
「いや……」
「私だってまだ若いんですよ? 罰として抱っこしたまま確認してください」
あとがつっかえているのでこのままでは先に進まないと思い、ケビンは抱っこしたままナナリーを見ることにした。
「ふふっ、ケビンさんのそういう優しいところが好きです」
「どういたしまして」
ナナリー
女性 21歳 種族:人間
身長:163cm
スリーサイズ:71(A)-50-72
職業:元主婦、マジカル商会従業員
嫁会議傍聴者
子供:ナターシャ(長女5歳)
状態:痩せすぎで回復に向け療養中、恋の病(自称)
備考:ナターシャの母親。元の体型に戻すべく日々栄養のあるものを摂っている。ナターシャに優しく接しているケビンを見ると心が落ち着く。
スキル
【家事 Lv.2】【子育て Lv.3】
称号
薄幸(微)
嫁会議傍聴者
嫁会議において嫁たちの話し合いを傍聴している者。
薄幸
幸福に恵まれない運命にある者。(微)多少は報われることもある。
「病気はすっかり良くなったみたいだな」
「ケビンさんのお陰です」
ステータスの内容を伝え終わるとナナリーを元の場所へ連れていくが、そのまま立ち去ろうとしたケビンにナナリーが物申してくる。
「ケビンさん、私にはないのですか?」
「何が?」
ケビンが聞き返すとナナリーが口を突き出してきたので、ケビンはしょうがないと思いつつもナナリーへキスをした。
「えへへ」
「本当に甘えん坊なんだな」
ナナリーの件が終わったケビンは、奴隷たちを順番に呼ぶべく元の場所へと戻って行った。
「ケイト」
「やっと順番が回ってきたわね」
「待ち遠しかったのか?」
「教会に行かなくてもステータスがわかるのよ? 早く見てもらいたいと思うじゃない」
「わかった」
ケイト
女性 20歳 種族:人間
身長:166cm
スリーサイズ:81(C)-56-82
職業:元男爵家令嬢、奴隷
奴隷のまとめ役、元女帝
マジカル商会従業員、嫁会議傍聴者
主人:ケビン
状態:王侯貴族とのやり取りで心労と疲労が溜まっている。
備考:ケビンが戻ってきたことにより、やっと肩の荷が下りた。女帝にされてしまった時は、戻ってきたら文句の1つでも言ってやろうと頑張っていたが、表情が戻っているケビンを見てしまい惚れた者の弱みだと、そんな気も失せてしまった。
スキル
【礼儀作法 Lv.5】【処理能力 Lv.3】
【指導 Lv.2】
称号
リーダーシップ
リーダーシップ
自己の理念や価値観に基づいて人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動を行える者。
ステータスを見終わったケビンは、ケイトを抱き上げると自分の上に座らせた。
「すまん、色々助かった」
「あら、この行動と言動からして、私が苦労していたのがわかったのかしら?」
ケイトがケビンの首へごく自然に両腕を回すと、悪戯っぽく微笑んでケビンを責めるのだった。
「何かして欲しいことはあるか?」
「奴隷である私の口からは言えないわ」
ケイトの望みを叶えようと尋ねてみるも教えてくれそうになかったので、ケビンが再び【完全鑑定】でケイトのステータスを詳細に見てから望みを叶えることにした。
「ん……くちゅ……ぁん……」
ケイトが望んでいたのは『情熱的なキスをして欲しい』だったので、ケビンは躊躇いもせずにケイトへ口づけをするのであった。
「ダメよ……みんな見てる……あん……くちゅ……」
キスの合間にケイトが力なく抗議するも本心からではないと百も承知だったので、ケビンはそのまま舌を侵入させてキスを続行した。
しばらくキスを続けたあとケビンが唇を離すと、トロトロに蕩けてしまったケイトが潤んだ瞳でケビンを見つめて一言告げる。
「好きよ」
「知ってる」
ケビンがケイトを抱えあげて別の場所へ座らせると、次の女性が既にイスへスタンバっているのだった。
「お願いします」
「ああ」
アンリ
女性 32歳 種族:人間
身長:162cm
スリーサイズ:88(E)-60-88
職業:奴隷、マジカル商会従業員
嫁会議傍聴者
子供:アルソック(長男享年9歳)、アズ(長女6歳)
主人:ケビン
状態:今の生活で幸せを感じているが心配ごとが尽きない。
備考:夫から酒代欲しさに奴隷として子供共々闇商人へ売られてしまった。先に買われた長男がここにいないことで、普通の奴隷としてご主人に扱えて貰えているのだろうと思っている。できれば一緒に暮らせないかケビンに相談しようと思っている。
スキル
【家事 Lv.3】【子育て Lv.4】
【農作業 Lv.3】
アンリのステータスを見てしまったケビンは、伝えてもいいのかどうか大いに悩んでしまう。
そのような黙考しているケビンを他所に、アンリは何も言われないため次第と不安を募らせていく。もしかしたら相談しようと思っていたことで頭を悩ませているのではないかと。
「あ、あの……ご主人様……」
思い切って声をかけたアンリにケビンは思考の淵から現実へ戻り、アンリに視線を向けた。
「気になさらないで下さい。これ以上の贅沢は望みません」
勘違いをしているアンリに対して、ケビンはこれ以上ないくらいに悩まされてしまう。せっかく立ち直って明るくなっているのに不幸へと落としてしまうのかと。
このような状況の経験値が足りないケビンは、自分ではどうしようもなくなってしまいサナへ助けを求めるのであった。
『サナ、すまないが助けてくれ』
『マスターは私のことを都合のいい女とばかりに使いますね』
『ごめん、今度サナだけとの時間を作るから許してくれ』
『仕方ないですね、約束ですよ?』
『約束だ』
『では、優しいサナからの助言です。隠すよりも伝えた方がよろしいでしょう。マスターが詳細を見れるのは既に周知の事実ですから』
『本当にそれでいいのか? せっかく立ち直ったのに……』
『確かに隠し続けるということも選択肢の内の1つです。もしかしたら一生知らずに過ごせるかもしれませんので。ですが、行方がわからないから余計に考えてしまうということもあります。さらにあとで何かの拍子に知ってしまった場合、何故教えてくれなかったのかと責められる可能性もありますからね』
『それもそうだが……』
『一生考えて生きさせるのか、教えて一時的に悲しみを与えるのかはマスター次第です。後者の場合はマスターが癒せば傷も塞がるでしょう。悲しみは周りの人たちの支えによっていつか癒えるものです』
『わかった、ありがとう。腹くくって話してみる』
『頑張ってください』
サナとの相談を終えたケビンは、黙ったままアンリを抱き上げて向かい合うように座らせるが、突然のことにアンリはオロオロしてしまう。
「あの、ご主人様?」
そしてケビンは覚悟を決めて口を開いた。
「アンリ……君の望みを俺は叶えてあげられない……」
「い、いえ、いいんです。これ以上何かを望むのは奴隷としてあるまじきことです」
「違う……そうじゃないんだ……」
「ご主人様……?」
「ステータスを見た時に君の望みも子供のことも全てわかった。だから、一緒に暮らしたいなら俺がお金を積んででも呼び寄せていいと思った」
「ですが、私だけがそのような待遇を受けるわけにも……」
「そうじゃない、いくらお金を積んでも呼び寄せられないんだよ……」
「え?」
アンリはケビンの言葉を聞いて、それほど凄い大貴族にでも買われてしまったのだろうかと思い始めてしまう。お金を積んでも買い取れないのでは、相手はお金に困っていない人だと勘違いをしてしまったのだ。
「ごめん……俺がもっと早くに帝国を滅ぼしていれば……」
「え……え……」
ケビンのたられば懺悔が始まると、アンリは話が噛み合っていないような感じに陥ってしまい、どういうことなのかわからなくなってきてしまう。
「……アルソックはもう……いない……」
「え……?」
ケビンに一体何を言われているのかアンリは理解が追いつかなかった。周りの者たちは話の内容から、ケビンが何を見てしまったのか薄々と勘づいていく。そして何故ステータスを伝えず黙り込んだり、言いづらそうにしていたのかも。
「ごめん、アンリ……俺には人を生き返らせる力はない」
ケビンはどうしようもない気持ちに押しつぶされて、アンリをギュッと抱きしめる。
次第にアンリは何を言われてしまったのか理解していくと、瞳からポロリポロリと雫が落ちていき、そして堰を切ったように息子の名前を呼び続けて泣き出してしまう。
アンリの姿を見てしまった一部の女性たちも会えていない子供がいたのか、ケビンの所へやってくると子供の安否確認のためにステータスを見て欲しいと願い出る。
女性たちから懇願されてしまったケビンは、それぞれのステータスを見て伝えていくと、アンリ同様に子供の名前を呼んでは泣き出してしまうのだった。
遊んでいた子供たちは泣いている大人たちを見て、自分の母親や他の女性たちの所へ行っては「どこか痛いの?」と口にして慰めていた。
そのような何とも言えない雰囲気の中、ケビンがみんなに向けて口を開く。
「今日はお開きにしよう」
ケビンの言葉に誰も反対するどころか、泣いている女性たちを気遣うようにそれぞれの部屋へと連れていくのであった。
子供を失った母親たちは夕食の席には当然出てこずに部屋で悲しみに打ちひしがれているようであり、無理に連れ出すことも誰一人としてしなかった。
重い雰囲気の中で夕食やお風呂が終わり、何も知らない子供たちだけはいつも通り明るく過ごしていたが、どこかいつもと違う雰囲気を察したのか大人に聞きに行くも「何でもないのよ」と言われて引き下がっていく。
そしてケビンは夜になると、子供を失った母親たちを自室に呼んで言葉をかける。
「子供のいない俺には失った辛さがわからない。だから気休めの軽い言葉は口にはしない。その気持ちは理解できても共有することができないからだ。だから俺にできることをする。貴女たちの気持ちが落ち着くまで一緒に寝よう。1人でいたら悲しみが止まらず先に進むことができない。こんなことしかできない主人で申し訳ない」
ケビンが頭を下げるとアンリが他の者に先んじて言葉をかける。
「頭をお上げください。ご主人様のせいではありませんし、ご主人様だって伝えることによって悲しみを他の人よりも受けています。辛い役目を背負わせてしまい申し訳ありませんでした」
「アンリの言う通りです。今もなお、私たちのために心を砕いていらっしゃるご主人様は、誰よりも私たちのことを考えているとわかりますから」
「お教え頂けて感謝しております。ずっと心配で気になっておりましたから。どうかお気になさらないでください」
「私たちもすぐには無理ですが先へ進めるように努力しますので、ご主人様もどうか先へお進みください」
「私たちと一緒に気持ちの整理を致しましょう。そしてまた、笑顔の絶えないご主人様にお戻りください」
アンリたちを慰めようと呼んだケビンは逆に励まされてしまい、女性から母親となった者の心の強さを実感するのであった。
「それじゃあ寝よう」
ケビンがアンリの手を引いてベッドへ歩き出すと、他の4人もその後へ続いていく。
「今日はアンリが俺の上だからな、明日はビアンカだ。順番に回していくから」
ケビンがアンリの頭を自分の心臓の位置にくるように抱きかかえると、他の2人がケビンの左右を埋めて、その隣に残りの2人が寝転がる。
「心臓の音が聞こえるか? 俺が落ち込んだ時とかにしてもらったんだ。その音を聞いていると落ち着いてくるんだ」
「はい、聞こえています。ご主人様はドキドキしていらっしゃるようです」
「そりゃあ、アンリみたいな綺麗な人を抱きかかえているわけだしな、ドキドキもするさ。うるさいだろうが我慢してくれ」
それを聞いたアンリがモゾモゾと上がっていくとケビンへキスをした。
「ちゅ……」
唇を離したアンリがはにかみながらケビンに告げる。
「ご主人様、あまり私をドキドキさせないでください。寝れなくなっちゃいます」
「それはすまん」
「私たちもしちゃいますね」
アンリが元の位置まで下がると、他の4人も同じようにケビンへキスをして就寝の挨拶をかけていくのだった。
「ああ、みんなおやすみ」
こうしてアンリたちが悲しみに明け暮れるはずだった夜は、泣き疲れて眠りにつくのではなくケビンの温かみに包まれながら眠りにつくことができるのであった。
そしてケビンに呼ばれたナナリーは、さも歩けませんとアピールして両手を広げている。
「さっきまで普通に歩いてたよな?」
「ケビンさんの前だと歩けなくなる病が発症してしまうのです」
「何だ、そのヘンテコな病気は?」
「恋の病です」
「……」
まさか1児の母親に「恋の病」と言われてしまうとは思わずに、ケビンは沈黙してしまう。
「今、失礼なこと考えてますね?」
「いや……」
「私だってまだ若いんですよ? 罰として抱っこしたまま確認してください」
あとがつっかえているのでこのままでは先に進まないと思い、ケビンは抱っこしたままナナリーを見ることにした。
「ふふっ、ケビンさんのそういう優しいところが好きです」
「どういたしまして」
ナナリー
女性 21歳 種族:人間
身長:163cm
スリーサイズ:71(A)-50-72
職業:元主婦、マジカル商会従業員
嫁会議傍聴者
子供:ナターシャ(長女5歳)
状態:痩せすぎで回復に向け療養中、恋の病(自称)
備考:ナターシャの母親。元の体型に戻すべく日々栄養のあるものを摂っている。ナターシャに優しく接しているケビンを見ると心が落ち着く。
スキル
【家事 Lv.2】【子育て Lv.3】
称号
薄幸(微)
嫁会議傍聴者
嫁会議において嫁たちの話し合いを傍聴している者。
薄幸
幸福に恵まれない運命にある者。(微)多少は報われることもある。
「病気はすっかり良くなったみたいだな」
「ケビンさんのお陰です」
ステータスの内容を伝え終わるとナナリーを元の場所へ連れていくが、そのまま立ち去ろうとしたケビンにナナリーが物申してくる。
「ケビンさん、私にはないのですか?」
「何が?」
ケビンが聞き返すとナナリーが口を突き出してきたので、ケビンはしょうがないと思いつつもナナリーへキスをした。
「えへへ」
「本当に甘えん坊なんだな」
ナナリーの件が終わったケビンは、奴隷たちを順番に呼ぶべく元の場所へと戻って行った。
「ケイト」
「やっと順番が回ってきたわね」
「待ち遠しかったのか?」
「教会に行かなくてもステータスがわかるのよ? 早く見てもらいたいと思うじゃない」
「わかった」
ケイト
女性 20歳 種族:人間
身長:166cm
スリーサイズ:81(C)-56-82
職業:元男爵家令嬢、奴隷
奴隷のまとめ役、元女帝
マジカル商会従業員、嫁会議傍聴者
主人:ケビン
状態:王侯貴族とのやり取りで心労と疲労が溜まっている。
備考:ケビンが戻ってきたことにより、やっと肩の荷が下りた。女帝にされてしまった時は、戻ってきたら文句の1つでも言ってやろうと頑張っていたが、表情が戻っているケビンを見てしまい惚れた者の弱みだと、そんな気も失せてしまった。
スキル
【礼儀作法 Lv.5】【処理能力 Lv.3】
【指導 Lv.2】
称号
リーダーシップ
リーダーシップ
自己の理念や価値観に基づいて人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動を行える者。
ステータスを見終わったケビンは、ケイトを抱き上げると自分の上に座らせた。
「すまん、色々助かった」
「あら、この行動と言動からして、私が苦労していたのがわかったのかしら?」
ケイトがケビンの首へごく自然に両腕を回すと、悪戯っぽく微笑んでケビンを責めるのだった。
「何かして欲しいことはあるか?」
「奴隷である私の口からは言えないわ」
ケイトの望みを叶えようと尋ねてみるも教えてくれそうになかったので、ケビンが再び【完全鑑定】でケイトのステータスを詳細に見てから望みを叶えることにした。
「ん……くちゅ……ぁん……」
ケイトが望んでいたのは『情熱的なキスをして欲しい』だったので、ケビンは躊躇いもせずにケイトへ口づけをするのであった。
「ダメよ……みんな見てる……あん……くちゅ……」
キスの合間にケイトが力なく抗議するも本心からではないと百も承知だったので、ケビンはそのまま舌を侵入させてキスを続行した。
しばらくキスを続けたあとケビンが唇を離すと、トロトロに蕩けてしまったケイトが潤んだ瞳でケビンを見つめて一言告げる。
「好きよ」
「知ってる」
ケビンがケイトを抱えあげて別の場所へ座らせると、次の女性が既にイスへスタンバっているのだった。
「お願いします」
「ああ」
アンリ
女性 32歳 種族:人間
身長:162cm
スリーサイズ:88(E)-60-88
職業:奴隷、マジカル商会従業員
嫁会議傍聴者
子供:アルソック(長男享年9歳)、アズ(長女6歳)
主人:ケビン
状態:今の生活で幸せを感じているが心配ごとが尽きない。
備考:夫から酒代欲しさに奴隷として子供共々闇商人へ売られてしまった。先に買われた長男がここにいないことで、普通の奴隷としてご主人に扱えて貰えているのだろうと思っている。できれば一緒に暮らせないかケビンに相談しようと思っている。
スキル
【家事 Lv.3】【子育て Lv.4】
【農作業 Lv.3】
アンリのステータスを見てしまったケビンは、伝えてもいいのかどうか大いに悩んでしまう。
そのような黙考しているケビンを他所に、アンリは何も言われないため次第と不安を募らせていく。もしかしたら相談しようと思っていたことで頭を悩ませているのではないかと。
「あ、あの……ご主人様……」
思い切って声をかけたアンリにケビンは思考の淵から現実へ戻り、アンリに視線を向けた。
「気になさらないで下さい。これ以上の贅沢は望みません」
勘違いをしているアンリに対して、ケビンはこれ以上ないくらいに悩まされてしまう。せっかく立ち直って明るくなっているのに不幸へと落としてしまうのかと。
このような状況の経験値が足りないケビンは、自分ではどうしようもなくなってしまいサナへ助けを求めるのであった。
『サナ、すまないが助けてくれ』
『マスターは私のことを都合のいい女とばかりに使いますね』
『ごめん、今度サナだけとの時間を作るから許してくれ』
『仕方ないですね、約束ですよ?』
『約束だ』
『では、優しいサナからの助言です。隠すよりも伝えた方がよろしいでしょう。マスターが詳細を見れるのは既に周知の事実ですから』
『本当にそれでいいのか? せっかく立ち直ったのに……』
『確かに隠し続けるということも選択肢の内の1つです。もしかしたら一生知らずに過ごせるかもしれませんので。ですが、行方がわからないから余計に考えてしまうということもあります。さらにあとで何かの拍子に知ってしまった場合、何故教えてくれなかったのかと責められる可能性もありますからね』
『それもそうだが……』
『一生考えて生きさせるのか、教えて一時的に悲しみを与えるのかはマスター次第です。後者の場合はマスターが癒せば傷も塞がるでしょう。悲しみは周りの人たちの支えによっていつか癒えるものです』
『わかった、ありがとう。腹くくって話してみる』
『頑張ってください』
サナとの相談を終えたケビンは、黙ったままアンリを抱き上げて向かい合うように座らせるが、突然のことにアンリはオロオロしてしまう。
「あの、ご主人様?」
そしてケビンは覚悟を決めて口を開いた。
「アンリ……君の望みを俺は叶えてあげられない……」
「い、いえ、いいんです。これ以上何かを望むのは奴隷としてあるまじきことです」
「違う……そうじゃないんだ……」
「ご主人様……?」
「ステータスを見た時に君の望みも子供のことも全てわかった。だから、一緒に暮らしたいなら俺がお金を積んででも呼び寄せていいと思った」
「ですが、私だけがそのような待遇を受けるわけにも……」
「そうじゃない、いくらお金を積んでも呼び寄せられないんだよ……」
「え?」
アンリはケビンの言葉を聞いて、それほど凄い大貴族にでも買われてしまったのだろうかと思い始めてしまう。お金を積んでも買い取れないのでは、相手はお金に困っていない人だと勘違いをしてしまったのだ。
「ごめん……俺がもっと早くに帝国を滅ぼしていれば……」
「え……え……」
ケビンのたられば懺悔が始まると、アンリは話が噛み合っていないような感じに陥ってしまい、どういうことなのかわからなくなってきてしまう。
「……アルソックはもう……いない……」
「え……?」
ケビンに一体何を言われているのかアンリは理解が追いつかなかった。周りの者たちは話の内容から、ケビンが何を見てしまったのか薄々と勘づいていく。そして何故ステータスを伝えず黙り込んだり、言いづらそうにしていたのかも。
「ごめん、アンリ……俺には人を生き返らせる力はない」
ケビンはどうしようもない気持ちに押しつぶされて、アンリをギュッと抱きしめる。
次第にアンリは何を言われてしまったのか理解していくと、瞳からポロリポロリと雫が落ちていき、そして堰を切ったように息子の名前を呼び続けて泣き出してしまう。
アンリの姿を見てしまった一部の女性たちも会えていない子供がいたのか、ケビンの所へやってくると子供の安否確認のためにステータスを見て欲しいと願い出る。
女性たちから懇願されてしまったケビンは、それぞれのステータスを見て伝えていくと、アンリ同様に子供の名前を呼んでは泣き出してしまうのだった。
遊んでいた子供たちは泣いている大人たちを見て、自分の母親や他の女性たちの所へ行っては「どこか痛いの?」と口にして慰めていた。
そのような何とも言えない雰囲気の中、ケビンがみんなに向けて口を開く。
「今日はお開きにしよう」
ケビンの言葉に誰も反対するどころか、泣いている女性たちを気遣うようにそれぞれの部屋へと連れていくのであった。
子供を失った母親たちは夕食の席には当然出てこずに部屋で悲しみに打ちひしがれているようであり、無理に連れ出すことも誰一人としてしなかった。
重い雰囲気の中で夕食やお風呂が終わり、何も知らない子供たちだけはいつも通り明るく過ごしていたが、どこかいつもと違う雰囲気を察したのか大人に聞きに行くも「何でもないのよ」と言われて引き下がっていく。
そしてケビンは夜になると、子供を失った母親たちを自室に呼んで言葉をかける。
「子供のいない俺には失った辛さがわからない。だから気休めの軽い言葉は口にはしない。その気持ちは理解できても共有することができないからだ。だから俺にできることをする。貴女たちの気持ちが落ち着くまで一緒に寝よう。1人でいたら悲しみが止まらず先に進むことができない。こんなことしかできない主人で申し訳ない」
ケビンが頭を下げるとアンリが他の者に先んじて言葉をかける。
「頭をお上げください。ご主人様のせいではありませんし、ご主人様だって伝えることによって悲しみを他の人よりも受けています。辛い役目を背負わせてしまい申し訳ありませんでした」
「アンリの言う通りです。今もなお、私たちのために心を砕いていらっしゃるご主人様は、誰よりも私たちのことを考えているとわかりますから」
「お教え頂けて感謝しております。ずっと心配で気になっておりましたから。どうかお気になさらないでください」
「私たちもすぐには無理ですが先へ進めるように努力しますので、ご主人様もどうか先へお進みください」
「私たちと一緒に気持ちの整理を致しましょう。そしてまた、笑顔の絶えないご主人様にお戻りください」
アンリたちを慰めようと呼んだケビンは逆に励まされてしまい、女性から母親となった者の心の強さを実感するのであった。
「それじゃあ寝よう」
ケビンがアンリの手を引いてベッドへ歩き出すと、他の4人もその後へ続いていく。
「今日はアンリが俺の上だからな、明日はビアンカだ。順番に回していくから」
ケビンがアンリの頭を自分の心臓の位置にくるように抱きかかえると、他の2人がケビンの左右を埋めて、その隣に残りの2人が寝転がる。
「心臓の音が聞こえるか? 俺が落ち込んだ時とかにしてもらったんだ。その音を聞いていると落ち着いてくるんだ」
「はい、聞こえています。ご主人様はドキドキしていらっしゃるようです」
「そりゃあ、アンリみたいな綺麗な人を抱きかかえているわけだしな、ドキドキもするさ。うるさいだろうが我慢してくれ」
それを聞いたアンリがモゾモゾと上がっていくとケビンへキスをした。
「ちゅ……」
唇を離したアンリがはにかみながらケビンに告げる。
「ご主人様、あまり私をドキドキさせないでください。寝れなくなっちゃいます」
「それはすまん」
「私たちもしちゃいますね」
アンリが元の位置まで下がると、他の4人も同じようにケビンへキスをして就寝の挨拶をかけていくのだった。
「ああ、みんなおやすみ」
こうしてアンリたちが悲しみに明け暮れるはずだった夜は、泣き疲れて眠りにつくのではなくケビンの温かみに包まれながら眠りにつくことができるのであった。
18
お気に入りに追加
5,261
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!
夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!!
国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。
幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。
彼はもう限界だったのだ。
「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」
そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。
その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。
その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。
かのように思われた。
「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」
勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。
本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!!
基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。
異世界版の光源氏のようなストーリーです!
……やっぱりちょっと違います笑
また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる