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第9章 三国動乱

第257話 相対

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 ケビンはサラを自宅に送り届けたあと、帝国領の砦へ転移してそのまま帝城を目指して飛び立った。

 帝国領のことを全く知らなかったケビンは自宅でギースに地図を見せてもらうと、帝城の位置をある程度把握して無駄に帝国領を飛び回るという手間を回避した。

 帝城への道中はシーラが輸送中でないか確認を怠らず、【マップ】機能とサナをフル活用していたが、見つけることはできなかった。

 やがて帝城が【マップ】上に表示されると、ケビンはシーラの反応を捉えることができて安堵する。

 そしてそのまま城門へと降り立つと、門兵から当然の如く問いただされる。

「何者だ!」

「ここに青髪の女性が連れてこられたはずだ」

「朝に届いたやつか」

「連れて帰らせてもらう」

「ッ!」

 他の門兵が懐から取り出した笛を吹くとけたたましく音が鳴り、わらわらと騎士たちが城内から出てくる。帝城付近の貴族街に至っては、何事かと遠巻きに様子を窺っている者がいた。

 ケビンは刀を抜き放ち前へ向かって歩き出すと、その様子に騎士たちも剣を抜き放ち構える。

 極々自然体で歩くケビンに待ちきれなくなった騎士が斬り掛かるが、ケビンは騎士を鎧ごと斬り捨てた。

 それを皮切りに次々と騎士たちが襲いかかっては、ケビンから返り討ちにされてしまい、その場で崩れることになり死体となっていく。

 次々に襲いかかってくる騎士たちを斬っては捨て斬っては捨てを繰り返しながら、ケビンは皇帝の待ち構える謁見の間まで歩いて行くのだった。

 やがて荘厳な扉を前にしたケビンは、刀を鞘に収めたらその扉を開けて中へ足を進めると、謁見の間は広々としており、左右の壁には両手を鎖で繋がれた女性たちが展示物のように並べられていた。

 人間の女性もいればエルフや獣人といった別種族の女性もいる。中には珍しく羽や尻尾を生やした魔族と思えるものまで存在していた。

 その女性たちは鞭で打たれたのか、所々服は裂けておりその痕が痛々しく残っている。

 ケビンが視線を前に向けると捜していたシーラの姿を捉えることができたが、他の女性たちと同様で所々鞭の痕や血の滲んだ跡が窺えて、玉座の隣で魔封じの首輪が付けられ両手を鎖に繋がれているのであった。

 シーラのその顔からは涙を流した跡があり、ケビンの神経を逆撫でるには充分すぎるほどの光景だ。

「……ケ……ビン……」

 虚ろげな表情でケビンを見つめ呼びかけるシーラの姿に、ケビンの中で何かがピシリッとひび割れる音がする。

「城を騒がせているのは貴様か? こいつが反応しているところから推察するとお前がケビンか? ずっと同じ名を口にするもんでな、鞭打ちの刑で心をへし折ってやろうかと思ったが……いいことを思いついた。お前を叩き伏せてその目の前で犯す方が面白そうだな」

「……き……さまっ!」

 ケビンは玉座に座るニヤけた顔つきの歳若く見える皇帝へ瞬時に詰め寄ると、怒りの乗った拳をその顔面に思い切り叩き込む。

 皇帝はそのまま玉座を壊して後ろの壁へとぶつかるが、ケビンにとって思いもしないことが起こるのであった。

 本来ならケビンの本気の拳をまともに受けて無事で済む者などいない。むしろ、殴られた時点で致命傷と言ってもいいほどだ。

 だが、目の前の皇帝は笑いながら平然と立ち上がっていた。

「クックック……いいぞ、いいぞ、その力! 我が名はチューウェイト・カゴン! 欲しいものは全て手に入れる、ありとあらゆる俺の欲したこの世の全てだ! そして、お前のその力もこの俺によこせ!」

 チューウェイトが姿を消すと今度はケビンが殴り飛ばされる番であった。吹き飛ばされたケビンはそのまま荘厳な扉を壊して通路の壁へとめり込む。

「ぬるい、ぬるいぞ! もっと力を見せてみろ!」

 刀を使って斬り刻もうかと思っていたケビンはチューウェイトの1撃をその身に受けて、その威力から逆に刀が壊されることを懸念してしまい、チューウェイトと同様に自らの拳で殴ることに決めた。

 そしてケビンが壁から抜け出ると、そのままチューウェイトへ間合いを詰めて応酬の連打をその身に打ち込むが、チューウェイトは連打を受けながらもその口元は口角が上がり、狂気の瞳をギラつかせていた。

 やがて、2人の壮絶な戦いに城が耐えられないのか、天井から欠片が降り始める。

「きゃっ!」

 ケビンが声のした方へ一瞬視線を流すと、鎖に繋がれた女性の前に瓦礫が落ちていたのを視界に収める。

 それを見たケビンは周囲の女性たちに結界を張り、その身を包み込んで崩壊し始めた城から守るのであった。

「よそ見してる場合か? コラァッ!」

 気を逸らしてしまったケビンの隙をチューウェイトが見逃すはずもなく、ケビンは重い1撃をその身に受けてしまう。

「ぐっ!」

 その拳を気合いで耐え忍んだケビンは、再び連撃をチューウェイトと交わしながら魔法を撃ち込むが、チューウェイトはその魔法すら拳で撃ち落としていく。

「そんなちゃちな魔法が効くと思ってんのか!」

 それでもケビンは魔法を駆使して、ちょこちょこと邪魔な魔法に気を散らしたチューウェイトへ拳をめり込ませた。

 再び殴り飛ばされたチューウェイトはフラフラとした足取りで立ち上がると、次第に雰囲気が変わっていき可視化できるほどの魔力がその身に吹き荒れ始める。

「くっ、このままじゃラチがあかねぇな。お前の力を手に入れるために見せてやる。これこそが全てを欲する俺の本気の力だぁぁぁぁっ!」

 フラフラとしていたチューウェイトが両拳を握り込み力を溜めて天井を仰ぐと、その身から魔力の奔流が吹き荒れて体を覆い尽くす。

 そして、チューウェイトの姿が消えてケビンの眼前に現れた瞬間、チューウェイトが吹き荒れる魔力の奔流とともに拳を叩き込むと、ケビンは思い切り吹き飛ばされてしまう。

 そこからは先程のお返しと言わんばかりに、一瞬で間合いを詰めたチューウェイトがケビンに対して拳の連打を撃ち込んでいく。

「いいな、いいなぁっ! この力だ、この力こそ俺が手に入れた魔王としての力だっ!」

「魔王だと……?」

 目の前の人間が魔王と名乗り、それを聞いたケビンが『魔族でないのに魔王……?』と訝しむが、その間も拳のやりとりは続いていたので考えるのは後回しにしたのだった。

「俺を見下してた奴等は全て殺してこの力に変えてやったぞ! 力こそが全てのこの国に最も適した力だ! そしてお前を殺してその力も奪ってやる!」

 チューウェイトが喋り続ける中で、ケビンもただやられているばかりではなく殴り返しては互いに応酬の連打となるが、次第にチューウェイトのスピードについていけなくなったケビンが血を撒き散らしながら被弾していき、とうとう力負けしたケビンが吹き飛ばされると、それを見たチューウェイトは酷く落胆してしまう。

「おい……そんなもんなのか、お前の力は? 最初の1撃みたいな力はどうした? 怒りが冷めてきてるんじゃねぇのか?」

「……ごふっ」

 チューウェイトの問いかけに這いつくばるケビンは答えられず、血を吐き出すだけであった。

「チッ、仕方ねぇ。つまらねぇ方法だがやらねぇよりかはマシか」

 チューウェイトは何を思ったのかケビンに歩み寄るわけではなく、逆に背を向けてシーラの方へ向いて歩いて行く。

「や……めろっ!」

 チューウェイトがシーラに危害を加えると思い至ったケビンは、回復魔法を使って体を動かせるまで回復すると、再びチューウェイトへ殴りかかるがタイミングよくカウンターを貰ってしまい、先程以上のダメージを受けてしまって床を舐めることになる。

「がはっ!」

「力をコントロールできない己の未熟さを恨むんだな」

 やがてシーラの元へ辿りついたチューウェイトは手を伸ばすが、先程張っていたケビンの結界に阻まれて邪魔される。

「しゃらくせぇぇっ!」

 ケビンの張った結界をチューウェイトが拳1つで壊すと、おもむろに怯えているシーラの服を掴んでビリビリに破いた。

「いやぁぁぁぁっ!」

 チューウェイトは下着姿となったシーラの髪を鷲掴むと引っ張り、倒れ伏しているケビンに見せつける。

「ほら、見てみろ。お前の守りたかったもんだぞ」

「見ないでっ! 見ないでぇぇ!」

 シーラはケビン以外の好きでもない男性に肌を晒してしまったことで、瞳から涙が止め止めなく溢れ出し抵抗の言葉を口にするが、チューウェイトにとってはそんなことはどうでもよかった。

 全ては自分の欲する欲望のまま、ケビンの力を手に入れることしか考えていないのだった。

「さて、次は上か? 下か? ケビン、お前に選ばせてやる。どっちがいい?」

「き……さま……」

 チューウェイトに髪を掴まれ泣き叫ぶシーラの姿を見て、何もできない自分に嫌気が差し、抗えない理不尽に怒りを覚え、ケビンの持つ称号が発動して影響を及ぼし、心の内にドス黒い感情が蠢き出すとソフィが封印した心の奥にある闇へと手を伸ばす。

『マスター、いけません! その先は――』

『姉さんを助けられるならどうでもいい』

『ですがっ!』

 その闇の中身を知らないサナは、ソフィが封印したものだからきっと良くないものがあると感じて必死にケビンを止めるが、その声はケビンに届かず虚しく響くだけである。

 そして、触れてはいけない部分から漏れだしてきているものに、自分の求める力があると感じ取ったケビンは、心の内で蠢くドス黒い感情にその身を委ねるのであった。

 ――よこせ、その怒りを、憎悪を、殺意を

『健! いけな――』
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