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第9章 三国動乱

第243話 同行枠争奪戦

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 ケビンは実家でしばらく怠惰な生活を送っていた。各国が緊張状態であるのに関わらず帝国が中々動きを見せないということも起因している。

 最初のうちは王城へ足繁く通っては情報収集に努めていたが、全く事態が変わることもなく漫然とした日々が過ぎていく中で、緊張感も薄れていき次第に怠惰な生活を送ることへ落ち着くこととなる。

 そのような中で我慢しきれなくなったケビンは、冒険を再開しようと決意するのであった。

 目的地となったのはアリシテア王国と魔導王国に挟まれた、南側に広がる森林地帯である。ここにはティナの故郷である集落があり、道中で魔導王国にあるニーナの実家に寄って両親に挨拶をした上で、そのあとティナの実家に行く経路となる。

 これをケビンが思いついたのはクリスの実家で両親に挨拶をして、その数日後にはサーシャに顔を見せに行った時に、クリスの時と同じようにサーシャを連れて実家の両親に挨拶をしたからだ。

 このことをケビンが2人に相談したら涙を流して喜んでいた。やっぱり両親への挨拶というものは特別なものであるらしい。

 そしてケビンが旅立つと知れ渡れば、例の如く同行枠を決める熾烈な争いが若手メイド隊の中で行われた。

「ねぇ、前から思ってたんだけど、どうやって勝負を決めてるんだ?」

 リビングでくつろいでいたケビンが、メイドたちの集まっている場所へ向かい声をかけると、代表してプリシラがそれに答えた。

「時間がない時はくじ引きでございます。猶予がある場合は総当たり戦のチェスにて決めております」

「で、今回は?」

「ケビン様がいつ発たれてもおかしくないので、くじ引きになります」

「その勝負ごとの内容、今回は俺が決めてもいい?」

「もちろんでございます」

「じゃあ、あみだくじで」

「あみだくじ? ですか?」

「あみだくじっていうのはみんなで線を引いて公平さを出すから、くじ引きよりかはマシだと思うよ。くじ引きだと取る順番で不公平さが出てしまうだろ? しかも途中で当たりなんか引かれてしまったら、まだ引いてない人のガッカリ感が半端ない」

「さすがケビン様! 引けなかった人へのご配慮、神の如しです!」

「あ、うん。相変わらずだね……」

 ケビンの言葉にルルが反応して歓喜の声を上げると、ケビンはいつも通りのルルに呆れてしまう。

「百聞は一見にしかずだし、やりながらした方がわかりやすいかな。ちょっと色々と準備するから待ってて」

 それからしばらくして、ケビンはあみだくじの準備を終えるとメイドたちに説明を行うのだった。

「それじゃあ、この範囲の中で縦線と縦線を繋ぐように、みんな1回ずつ横線を1本書き足して」

 それぞれが好きな場所に横線を1本書き足していくと、ケビンは紙を折り曲げていく。

「はい、この範囲でまた同じように書き足して」

 また1本ずつ書き足されていくと、同じように折り曲げていく。

「これで最後だよ」

 最後に1本ずつ書き足されていくと、ケビンは縦線が見えるか見えないかのところまで折り曲げていった。

「それじゃあ、次はこの箱の中にみんなで手を入れて」

 ケビンが【無限収納】から穴のあいた箱を取り出して、全員の手を入れさせる。

「みんな手を入れたね? 底の方に折り曲げた紙があるから1つだけ掴んで」

 メイドたちは掴みましたとそれぞれ申告して、それを聞いたケビンは箱を解体すると、紙を握っている状態のメイドたちの手が顕となる。

「さぁ、紙を開いてみて。そこに書かれている番号があみだくじでの番号だから」

 メイドたちはそれぞれ自分の握っていた紙を広げると、中に書いてある番号を確認する。

「よし、1番ライラ、2番ルル、3番プリシラ、4番ニコル、5番ララだね。それじゃあ、あみだくじを始めよう」

 ケビンはあみだくじに書いてある番号のところに、メイドたちそれぞれの名前を書き記していく。

「まずはライラから。あっみだくじ、じゃじゃーん♪ あっみだくじ、じゃじゃーん♪」

 ケビンが久しぶりに見せる子供の時のような楽しんでいる姿に、メイドたちは勝負ごとよりもその光景を見れたことで、いつしか自然と笑みはこぼれ温かく見守るのであった。

「じゃじゃーん! ライラはここ! 名前を書いておくね。次はルル、いってみよー! あっみだくじ、じゃじゃーん♪ あっみだくじ――」

「はぁ……ケビン様、尊いです……」

「「「「……」」」」
 
 それからもケビンはあみだくじを進めていき、全員分終わるとメイドたちに声をかけた。

「それじゃあ、ゴール地点に俺が書いた名前のところにみんな指を置いてね」

 メイドたちは言われた通りに指先を、ケビンの書いた名前のところに置く。

 メイドたちの指が置かれたのを確認すると、ケビンは最後の折り畳まれた部分を開けるべく準備をした。

「いくよー? みんな心の準備はいいかなー? せーのっ!」

 ケビンが最後の部分を開けると、当たりを引けた人物が誰なのか全員が知ることになる。

「じゃじゃーん! 今回の旅の同行者はララに決定しましたー!」

「ッ!」

「おめでとうございます、ララ」

「くっ! いけると思っていたのに……」

「良かったね、ララ」

「お姉ちゃん、ガンバだよ!」

 ララはまさか自分が同行するとは思わずに驚きで目を見開いていた。それもそのはず、運の絡む勝負ごとにはめっぽう弱く『自分には運がない』と、諦めとともにいつも負けていたからだ。

 そんなララは自分が勝てたことを信じられず、『ケビン様が何かしたのでは?』と思い、尋ねてみることにするのであった。

「ケビン様、何かされたのですか? 私が勝つことはありえないのですが」

「ん? 俺がしたのは公平を期すために、全員の運の要素をゼロに変更しただけだよ。つまり、運のいい、悪いをなくしたってこと。生まれ持って運のいい人とかいるしね」

「くっ! そういうことだったのか……」

 ララと違いニコルは運のいい方で、今回の同行枠をゲットする気満々であった。

「それで私が勝てたのですね……」

「ということは、ララは運の悪い人?」

「はい。運の絡む勝負ごとはほぼ負けます」

「そっか……ララ、おめでとう」

「ありがとうございます、ケビン様」

 ケビンの称賛にララはニッコリと笑いながらお礼の言葉を口にした。

「じゃあ、出発前に冒険者登録をしに行こうか?」

「ケビン様、それは不要にございます」

 ケビンがララの冒険者登録をしようと提案するも、プリシラはその言葉に待ったをかける。

「どういうこと?」

「以前、ルルがダンジョン都市から戻ってきた際に、ギルドカードを見せびらかしながら自慢げにケビン様との冒険の話をいたしまして、それを目の当たりにした私たちはサラ様に許可を頂き、既に冒険者登録を済ませてしまっているのです」

「……ルル……」

 ケビンが呆れた視線をルルに向けるも、ルルからしたらご褒美でしかない。

「ああっ! ケビン様からの視線……光栄です!」

「はぁぁ……」

「ちなみにルル以外の者はBランクまで上げております」

「よくそんな暇があったね?」

「ケビン様と冒険するために、ルル以外の皆で協力したのです」

「え? ルルは何してたの?」

「皆の仕事を押し付けました」

「おぅ……プリシラ……根に持ったんだね」

「いえ、そのようなことは……」

 当時、ルルから受けたウザイくらいの自慢話に、プリシラのこめかみはピクピクとしながら平静を装い、ルルを省いた4人で話し合った結果、サラに陳情して冒険者登録ができるようにお願いしたのであった。

 当然、Fランクのままでは意味がないとして、これまたルルを除いた4人で話し合い、仕事をルルにある程度押し付けてランクを上げようということに決まったのである。

 若手メイド隊のリーダーとして強権を発動したプリシラは、ルルに皆の仕事をある程度押し付けては4人でランク上げに精を出したのだ。

 ケビンが実家に戻って留学するまでの極わずかな短期間で冒険者ランクを上げるために、綺麗どころの女性4人組を見逃すはずもない絡んできた冒険者たちを、有無を言わせず叩きのめしてはクエストに勤しむという毎日を繰り返していた。

 結果、ケビンが留学するまでの極わずかな期間でBランクまで上げることができて、そこで打ち止めとなったのである。

「まぁ、プリシラを怒らせたルルの自業自得だね。みんな揃ってるし、ちょうどいいからこれを渡しておくよ」

 ケビンはマジカル商会のサブ会員証をプリシラ以外に渡していく。

「プリシラには既に渡してあるけど、それは俺の作った商会のサブ会員証だから、商業ギルドに魔導具を売りに行く時とか必要になる物だよ。あとは露天販売する時とかにも必要だね。もし、販売を頼むようなことがあったら手伝ってくれると助かる」

 メイドたちは受け取ったサブ会員証を、早速失くさないようにと大事にポケットの中へ仕舞い込むのであった。

 それを見たケビンがふと思いつき、【無限収納】から材料を取り出して物作りを始める。

 大した時間もかけず作業が終わり、完成した物をそれぞれに渡すと説明を始めた。

「それは見てわかる通りでポーチだけど、魔導具だからマジックポーチになる。冒険者をやっていたなら装備品とか色々あるでしょ? それの中に収納するといいよ。容量はだいたい王都ギルドの解体場を超えるくらいで時間経過はなし。付与効果は個人認証と清潔と不朽をつけてある」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

「それじゃあ、ララは旅の支度をしておいてね」

「はい、よろしくお願いします」

 ケビンは用事が済むとリビングへと戻って、再びくつろいではのんびりとした生活を送りだす。

 この数日後、ケビンはティナとニーナの両親へ挨拶をするために、旅へと出発するのであった。
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