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第8章 ミナーヴァ魔導王国

第235話 完成した卒業用魔導具

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 ケビンがアリスに高等部へ進学するように伝えてからしばらく経ち、着々と卒業用の魔導具をケビンは製作していた。

 結局、ケビンが悩んだ末に出した結論は【簡易式結界陣】と名付けた魔導具を製作することである。

 戦争が起こるかもしれないという情報から着想を得て、何か自国の役に立てばと思ったのが切っ掛けであった。

 この【簡易式結界陣】はケビンの使うような規格外の結界ではなく、元々から知られている【光属性】の結界魔法を組み込んだ物である。

 それ故に、既存の結界魔法を組み込むこと自体は簡単に済むのだが、魔導具の大きさをコンパクトに纏める工程が何よりも苦労している。

 人1人分の大きさの結界ならそこまで苦労しないで済むが、それだとあまりにも利便性が低すぎる上に、兵士たち人数分の魔導具が必要となってくる。

 少人数での小競り合いならそれでもいいのだろうが、戦争である限り何千何万という兵士たちが導入されることになる。

 少なくとも本陣を守れるだけの広さは必要であり、その本陣には指揮官が必ずいるはずなので部隊が瓦解するような最悪の事態を避けるためにも、ある程度の範囲を包み込む結界が必要であった。

 ケビンが製作した試作1号は、大の大人が4人で担ぐような大きさや重さになってしまい、すぐさまボツとなった。

 ケビン自体は魔法で移動させることが可能であるために、この試作1号でも問題ないのだが、一般人レベルで考えるとそうはいかない。

 余分な部分の材料を削っては軽量化を図り、その都度魔術回路を組み直しては再度完成させる作業をここのところずっと続けていた。

 学院の授業に関しては全ての科目を合格ラインで修得しており、既に登校の意味すらなくなっている段階である。

 それも偏に3年生の段階で、ほとんどの履修科目を終わらせたことに起因する。

 4年生となってからは前期だけで残りの履修科目を終わらせて、後期からは自由登校の段階となっていた。

 その自由時間を魔導具製作につぎ込んでいたのだが、中々卒業用の魔導具が納得のいく形に至らなかったのである。

 気晴らしにとマジカル商会の商品を作っては、ティナたちに渡してあるポーチに入れ込んで商業ギルドへ足を運んだり、とある日はスカーレットの話し相手になったりもして適度に息抜きもしているが、思った以上に難航している。

「だぁぁぁぁっ!」

 いきなり叫び出したケビンにみんなの視線が集まる。

「ど、どうしたの? ケビン君……」

「行き詰まり?」

「魔導具って難しそうだね」

 ティナたちが心配して声をかけると、ケビンは思いの丈を吐露する。

「コンパクト化が難しいんだよ。軽量化を優先すれば効果範囲は狭まるし、効果範囲を優先すれば重量が増えてしまうんだ」

「ケビン様、1度ご休憩をなさって下さい。お茶をご用意致しますので」

「このままやっても上手くいかないし、そうさせてもらうよ」

 プリシラがケビンに休憩を薦めると、ケビンは素直に受けてソファでくつろぎだした。

「あぁぁ……疲れたぁ……」

「あ、あのケビン様……」

「んあ? あぁ、レティか。すまないな、話し相手になってやれなくて」

「い、いえ、ティナさんたちがお話して下さいますので」

「で、どうかしたのか?」

「あのままでも充分だとは思うのですが……」

 スカーレットの言う通り、ケビンの製作した魔導具は充分過ぎる程の効果を発揮している。本来、【光属性】を扱えない人でも魔力さえ流してしまえば結界が張れてしまうのだ。

 ところが、物作りに拘りだしたケビンは中々妥協することができなかった。そのまま学院に提出したところで、問題なく合格はするだろうことは間違いない。

 だがしかし、ケビンが見据えているのは学院の卒業用ではなく、戦地での利便性である。

 これがあるかないかで、かなりの戦局が変わってくるであろうことは想像に難くない。

「しかしなぁ……」

「ごめんなさい……指し出口でした」

「レティが謝ることは何もないぞ。これは妥協することができない俺の責任だ」

 プリシラが用意したお茶を飲みながら天井をボーッと眺めていると、何やら考え込んでいたクリスが口を開いた。

「ねぇねぇ、ケビン君!」

「何? クリスさん」

「魔導具をさあ、1個に留めなくて複数個で1つの形にしてみたらどうかな?」

「ッ!」

「そうしたら1個だけの時よりも、1個の重量や大きさもそこそこで収まると思うけど……どうかな? どうかな?」

 ケビンは天啓を得たと言わんばかりの表情を浮かべ、ガバッと立ち上がるとクリスに近づいて抱きついた。

「クリスさん、愛してる!」

 そして、喜びの丈をぶつけるかのようにクリスに熱い口づけをする。

「ッ! んん……」

「はわわ……」

 目の前で繰り広げられるその光景をしっかりと手で目隠ししながらも、指と指の間からガン見しているスカーレットであった。

「クリスさんのおかげで、いい作品ができそうだよ」

「えへへ。頑張ってね、応援してるよ」

 それからケビンは、元Sクラスの優等生からの助言を実行するために、早速新しい魔導具製作に黙々と取りかかると、その姿を横目にティナたちは女子トークを始めていた。

「ズルいわね」

「いいなぁ……」

「2人だって経験あるでしょ」

「あ、あの、皆さんはよくああいうことをされているのですか?」

「ああいうこと?」

「どういうこと?」

「そういうこと?」

「あ、あの、あのあの……キ……キス……」

 真っ赤になりながらスカーレットが口にすると、ティナたちは平然と言葉を返した。

「するわね」

「してる」

「不意打ちがたまらなくいいの」

「はわわ……」

 3人の堂々とした態度によって、逆にそのことを聞いたスカーレットの方が照れてしまうのであった。

「スカーレットちゃん……って、そういえばもう成人してたわね」

「はい」

「それならちゃん付けはやめた方がいいわね」

「レティにすればいいんじゃないかな? ケビン君もそう呼んでるから」

「じゃあ、レティね。レティもそのうちしてもらえるわよ」

「えっ!?」

「だってケビン君のこと好きでしょ?」

「ッ! ぅ……あぅ……」

 直球ストレートで尋ねられた言葉に、スカーレットは顔を赤くするばかりで上手く言葉にできなかった。

ニ:「免疫ない」

テ:「珍しいわね。王族ならしっかり教育されてそうだけど」

ク:「今どき珍しいよね」

ニ:「レティの父親は

テ:「あぁぁ……納得だわ」

ク:「娘ラブだもんね」

ニ:「そういうの一切触れさせなかった」

テ:「確かにありえるわね。絵本の知識だけしかなさそうね」

ク:「それはさすがにないと思うよ?」

ニ:「レティ自身気になる人がいなかった」

テ:「そこで現れたのがケビン君ってわけね」

ク:「王子様だね!」

ニ:「第1歩目がお友だち。王妃様の策略」

テ:「慣らすための訓練ってことね」

ク:「未だに慣れてないよね?」

ニ:「ここに来てもお話して帰るだけ」

テ:「デートしたいとか言わないものね」

ク:「今度ケビン君とデートしよ」

ニ:「今どき珍しく純情」

テ:「暴走する猪突猛進だけどね」

ク:「どこに行こうかなぁ……」

 3人がスカーレットに対しての考察を行っている最中、当の本人であるスカーレットは未だに赤くした顔とともに妄想の世界へと旅立っているのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 それからしばらくの月日が経つと、ケビンは完成させた魔導具を論文とともに学院へ提出した。

 完成した魔導具【簡易式結界陣】は、起点となる【光属性】の結界魔法を組み込んだ正八面体の魔導具と、それを補助するための3個の四角錐形の魔導具からなる相互干渉型連結式魔導具である。

 それぞれの大きさは両手で持てるほどであり、重さは別々に分けたおかげで1個あたり10キロにも満たない。

 この魔導具の1つ目の特徴は補助魔導具を4個に増やせば、三角錐形の結界から四角錐形の結界に変更できて、それ以上に増やすことも可能だということ。

 2つ目に起動前はそれぞれの魔導具に魔力を流さないといけないが、起動した後ならどれか1個の補助魔導具に魔力を補充すれば、他の魔導具と共有するということ。

 3つ目に補助魔導具を4個設置した場合、1個が何らかの形で破損してしまっても、残りの3個で三角錐形の結界に自動で移行するということ。

 最後に補助魔導具に魔力を流した人を認識して、結界内外の出入りが自由にできるという点である。

 この個人認証ばかりは、現在持ちうる知識の魔術回路や術式方陣でも実現することができなかったので、悩んだ結果、ケビンは付与魔法を使って可能にしたのだった。

 だが、デメリットも当然ある。それは結界の耐久力と連結させる有効距離の問題で、耐久力は通常の結界魔法と何ら変わりなく、攻撃されてしまえば維持するのに魔力を送り続けなければならないことと、連結させる有効距離は20メートルほどしかないということだ。

 魔導具を起動すれば頂点となる正八面体の魔導具が空中に浮かび上がり多角錐の結界が展開されるわけだが、耐久力については普通の耐久力がある分だけマシだろうと簡単に結論づけて、有効距離についても指揮官の天幕はそれほど大きくはならないだろうと妥協した。

 もし、天幕が大きくなるのであれば結界内に収まるように勝手に縮小するだろうという、その時の使う人任せの考えであった。

 提出されたケビンの魔導具を教員たちが確認をしたあと、その内容に驚愕してすぐさま王城へと知らされた。

 知らせを受けた国王や軍務部の責任者は、その多大なる価値や有用性をすぐさま理解して、そのまま放置するわけにもいかずケビンへの褒賞をどのようにするか主要人物を集めて会議を開くのであった。
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