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第8章 ミナーヴァ魔導王国
第234話 月日は流れて……
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ケビンが魔導学院に通いだして3年の月日が経過した。今年で4年生となっているケビンは、卒業に向けて研究と論文の作成に精を出しているのだった。
1年時の魔導具祭よりターナボッタとよくつるむようになったケビンは、武器に魔法を付与する魔導具の研究を手伝ったりもして、ターナボッタの卒業時にはだいぶ形となっていた。
ケビンが2年時の魔導具祭では、ターナボッタにとって4年間の集大成となる最後の締めくくりであるにも関わらず、金賞を1度受賞して満足したからと参加はしなかったので、ケビンの魔導具が金賞に選ばれた。
そんなターナボッタの卒業後の進路は、魔法剣士として名を馳せるための冒険者であった。拠点を交易都市に置いてドワンと魔導具の完成を目指すようである。
そのような中、ケビンはケビンで親善試合を無敗で4連覇、魔導具祭では金賞を取り続けて3連覇と前人未到の成績を残し、入学当初は変人扱いされていたものの、今となっては連覇のし過ぎで【連覇王】と呼ばれて誰もが一目置く存在となっている。
ちなみに親善試合でついた二つ名は【絶対王者】と【無敗の帝王】である。ケビンとしては兄姉のように、【〇帝】みたいな同じものが良かったと密かに思っていたりする。
そんな青春(?)を送っていたケビンも手を焼くことがあった。それはスカーレットの件である。
いくら戦いに強かろうと賞を取るほどの魔導具を作り出そうとも、スカーレットというある意味猪突猛進な少女に対しては困り果てていた。
エムリス曰く【鬼嫁】ことモニカが公認したことによって、ケビンが休日で自宅にいる時は、憚られることなく堂々と城門を通過して遊びに来ていたのだ。
そんなスカーレットに反応したのは言うまでもなくティナである。初日には「新しい女を連れ込んだ!」と大騒ぎして、そんなティナをニーナが静かに罵倒して収拾がつかなくなったほどだ。
スカーレットもスカーレットで、“新しい女”の部分を否定せず普通に「新しい女でお友だちになりました」と言ってしまい、ティナの興奮を一層引き上げるのに一役買っていた。
そんなスカーレットとの付き合いは3年も過ぎてしまえば、必然と扱いにも慣れてしまい適度に手のひらで転がしているのだった。
友だち付き合いをするようになってケビンがわかったことは、3歳年上で強者のバトルに惹かれてしまうミーハーだということである。
ミーハーになった原因は勇者物語というありふれた本を読んでから、強者同士の熱きバトルに目醒めたらしい。その本は本当のことも書いてあるらしく端からフィクションとして否定することもできないらしい。
当然スカーレットイチオシの強者は勇者ではなく既にケビンとなっている。物語の死んでいる主人公より今生きているケビンをとったことになる。
スカーレットは自分の小遣いをやりくりして、フェブリア学院で開催される闘技大会の記録映像を入手するのが趣味となっており、ケビンの存在を知ってからは、ケビンが参加した親善試合の記録映像を全てエムリスにオネダリして入手している。
小遣いで入手しないのは確実に手に入れるためであり、ケビンが出場するようになってプレミア度が跳ね上がったことが原因だ。
エムリスはエムリスで入手後にしこたまモニカから怒られるのであったが、可愛い娘のオネダリは怒られるとわかっていても拒否できるものではなかった。
そして毎年行われる親善試合にもスカーレットは当然のようについて行き、ケビンを応援するので必死になっている。
2回目の親善試合ではVIPルームから飛び出して、観客席にいるサラの元へ向かってはケビンのあずかり知らぬところで挨拶を済ませてしまい、ケビンが舞台に入場するとサラと一緒にいる光景を目の当たりにして、呆気に取られてしまったのは言うまでもない。
その行動力たるやまさに猪突猛進、サラがニコニコとして受け入れてたこともあり、ケビンとしては「戻れ」と言う気にもなれなかった。
更には王女同士ということもあってか、アリスと意気投合してケビン談議に花を咲かせては、仲良く並んで応援していたのだった。
そのような平和(?)な日常を謳歌していたケビンは、副業でもある商人としての仕事もこなしていた。
ケビンは日常生活で使いそうな魔導具を作り出したら、その魔導具をティナたちに渡して露天販売してもらい確かな手応えを得ることができれば、商業ギルドで納品依頼が出るのを待ってから、少しずつ売りさばくという手法を取っていた。
そんなことを続けていたら露天販売する時には人集りができてしまい、入手困難になる前に何とかマジカル商会の魔導具を手に入れようと、鬼気迫る形相を浮かべて買いに来るのだ。
中には一般人に扮した商人が転売を画策して買い付けに来ていたが、ケビンがティナたちに渡した簡易鑑定を付与したメガネで看破されてしまい、普通に買いに来ただけの一般人優先で販売していった。
ちなみにメガネをかけたティナたちを見たケビンが、ギャップ萌えをしてしまったのは言うまでもない。
簡易鑑定のメガネが作られた経緯は、2年生の時に新たな同居人となったクリスの提案だ。その性能は一般人に扮した商人が視界内に入ると、その人を黄色い文字で【商人】と教えてくれるだけの機能だ。
実際には【鑑定】を付与して、“商人”以外の情報は見えないように制限をかけているだけだ。制限をかけたのは、プライバシーがダダ漏れになってしまうことをケビンが配慮した結果だ。
提案したクリスが懸念していたのは、ケビンの作り出した魔導具を他の商人が買い占めて価格を跳ね上げた状態で転売されてしまえば、ケビンの印象が悪くなるとのことだった。
転売自体はよくあることなのでケビンとしてはどうでも良かったのだが、「元々が高価な魔導具で入手が困難」と売り手が言ってしまえば、その情報が定着してしまうこともあり、ケビンの魔導具で苦労せずに悪徳商人が儲けるのを嫌った意見でもあった。
それでも全ての転売屋を制限することなどできないので、ケビンは「程々でいいよ」とクリスに伝える。
クリスは腐ってもSクラスの優等生だったことを感じさせてしまうほどの秀才ぶりであった。さすがにこれは、ダメなクリスしか見たことのないケビンにとっては新鮮過ぎる姿であった。
そのような経緯があり、あくまでもリーズナブルな価格帯に設定して、納得のいく買い物を一般人にしてもらうことが露天販売の目的になっている。
それにより、納得のできる買い物だと口コミで広めてもらい、更なる顧客の獲得を目指していた。
その増えた顧客がケビンの作り出した魔導具欲しさに商業ギルドへと発注をかけて、更には売り子をティナたちにすることにもよって、ケビンがいなくても商品が売れていくことを狙った作戦でもある。
その作戦は見事にハマり転売目的で買っていた人は、待てば通常価格で手に入る商業ギルドに客が流れたこともあり、在庫を抱えてしまうことになった。
その在庫は結局のところ通常価格で商業ギルドへ納品するしかなくなり、骨折り損のくたびれもうけとなるのであった。独自のルートで貴族たちにパイプのある商人であれば、待つことのできない貴族相手に売りさばいて事なきを得ているのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ある日のこと、卒業に向けての魔導具製作で悩んでいるケビンに、ティナは冒険者ギルドで手に入れた噂話を知らせていた。
「ケビン君……」
「……何?」
「忙しいところ悪いけど、知らせておきたいことを耳にしたの」
「魔導具関係で何かあった?」
「魔導具の売れ行きは好調よ。それとは違ってちょっと良くない噂を耳にして……」
「ティナ、報告はちゃんとしないと伝わらないよ」
ティナと行動をともにしていたクリスは事情を知っているようで、ティナの後押しをしていた。数年も一緒にいれば気の知れた間柄となり、お互いに呼び捨てで呼び合うようになっていた。
「えっとね、今日は冒険者ギルドに行ってたんだけど、そこで冒険者たちの話してた噂話を聞いたのよ。それで色々な人に話を聞いてみたら結構な数の人たちが知っていて、その噂話に信憑性が出てきたの」
「それで、その噂話の中身は?」
「……近々、戦争が起こるみたい……」
「この国で?」
「それはわからない。不穏な動きを見せているのは、この国の北にある帝国だから」
「確かその国ってアリシテア王国とも隣接してたよね?」
「そうなの。だから両国とも警戒を強めているみたい。アリシテア王国とミナーヴァ魔導王国は友好関係にあるから問題ないのだけれど、アリシテア王国にはアリスちゃんがいるじゃない?」
「あぁ、今年で中等部を卒業するんだったね」
「国が戦争するかもしれないって時に、私たちと冒険をするのもどうかなって……」
「気もそぞろになるだろうね」
「スカーレットちゃんもどう動くか予想がつかないし……」
「レティは完全に未知の領域だね」
ケビンはここ数年でスカーレットのことを、“レティ”と愛称で呼ぶようになった。それは“スカーレット”の名前が長く感じて、面倒くさくなった結果の所業だ。
スカーレット自体は愛称で呼ばれ始めて、ますますケビンにのめり込むようになるのだが、そんな裏事情があったことなど露ほども知らない。
「よし、アリスに会いに行ってくる」
「どうするの?」
「高等部に進学するように伝える。王都で陛下たちの近くにいた方がいいだろう」
「スカーレットちゃんは?」
「自宅待機だな。そもそもエムリス陛下が許さないだろ」
「「あぁぁ……」」
愛娘を溺愛しているエムリスの行動を容易に想像できてしまうため、ティナたちは納得の表情を浮かべるのであった。
「とりあえず学院を卒業するまでは現状維持で、それからのことはその時に考えよう」
ティナたちに方針を伝えたところで、早速ケビンはアリスの元へと転移するのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
王城内へ転移したケビンはアリスのところへ向かうと、そのまま引き連れて国王の私室へと足を運んだ。
ケビンはドアをノックして中へと入り、ここへ来た用事を簡単に説明する。
「今日来たのは他でもない帝国のことだよ」
「既に知っておったか……」
「ケビン君は耳が早いのね」
「ティナさんたちが情報を仕入れてきてね」
「そうか……」
「何か詳しいことってわかってるの?」
「……ここのところ平和を維持していたのじゃが、現皇帝の崩御が近いらしい。あの国は絶対君主制を取っており、現皇帝が亡くならない限りは次代の皇帝を名乗れないのじゃ」
「へぇーでも高齢になったら政とか無理なんじゃないの? 亡くなりそうならベッドでの生活だよね?」
「それでもじゃ。口が動くのなら皇帝の座はそのままじゃ。唯一の例外は意思疎通ができなくなった時だけじゃの。その時だけは存命中であっても皇帝の座は次代に譲られ、この法だけが皇帝を唯一縛ることができるものじゃ。国を失くすわけにもいかんからの」
「暗殺とかは?」
「ないの。あの国は完全実力主義じゃから暗殺などして皇帝の座についても、すぐに力あるものから殺されるだけじゃ」
「ん? それなら今の皇帝を実力で殺せばいいんじゃない? ベッドに寝ているような人なら簡単でしょ?」
ケビンは簡単に皇帝の座につけそうな方法を提示してみるも、国王の回答は既に過去にあった昔話であった。
「昔そういうことがあったと歴史書に記述されておる。結果は血で血を洗う凄惨な末路じゃ。その時ばかりは国が疲弊して滅びかけるところじゃったらしい。その過去から学び、無益な殺し合いは禁じられておる」
「なんかアホみたい……」
国王の話を聞いたケビンは皇帝の座が欲しくて争う中、国を滅ぼしかけるというアホな末路を辿った結果、無益な殺生はやめましょうという結論に呆れてしまうのであった。
「それにの、今は自身の武を何よりも重んじており、暗殺や弱った者を殺すことは忌避されておる行為での、より一層皇帝の座が磐石になっておるのじゃ」
「つまり現皇帝を弑逆するのは、最低の行いとして誰もしないってことだね」
「そうじゃ。まだ若々しく現役時代であれば挑む者もおったかもしれんがの」
「で、次の皇帝になる者が厄介だと」
「その通りじゃの。現皇帝はこの国とミナーヴァ魔導王国が友好を結んでからは、さすがに2国を相手取るのは愚策としてなりを潜めていたのじゃが、次の皇帝候補の皇子が今のところあの国では1番強くての。更には好戦的な性格で気性も荒いらしい。それまでは別の者が皇帝候補に挙がっておったんじゃが、ある日を境に第1皇子が力をつけ始めての、今では誰も歯が立たなくなってしまったのじゃ」
「聞いただけで厄介そうだね」
「その厄介な皇子が掲げているのが大陸統一なのじゃ」
「あぁぁ……自国以外はいらないと」
ケビンは在り来りな天下統一を目指す皇子の姿が、容易に想像できてしまった。
「そうじゃ。帝国こそ大陸の覇者であるべきだと言っておってな。属国化も許さず全てを飲み込むつもりらしい」
「そいつ確実に馬鹿だよね? 領土が広がればその分統治も面倒になるのに」
「そこは致し方ないの。武力こそが全ての国じゃからの」
「知力も必要なのに……」
ケビンと国王の話が一段落すると、アリスが気になっていたことをケビンに尋ねる。
「ケビン様、私は何故連れてこられたのですか?」
「あぁ、今の話が関係するから聞いてもらおうと思ってね」
「帝国ですか?」
「そう。中等部を卒業したら冒険者になるって言ってただろ?」
「はい」
「それを勝手ながら延期することにした」
「えっ!? 何かお気に障ることでも致しましたか!?」
「違うよ。自国が戦争になるかもしれないのに、アリスを連れ回すわけにはいかないから。優しいアリスのことだから、陛下やマリーさん、ヴィクトさんに何かあるかもしれないと思ったら気が気じゃないだろ?」
「……」
「俺の知っているアリスはそういう心を持っているからね。だから、このまま中等部を卒業したら高等部に進学して欲しい」
ケビンの言葉にアリスは俯いていた。中等部を卒業したら晴れてケビンと一緒に行動できると思っていた矢先、戦争が起こるかもしれないからと高等部への進学を薦められたのだ。
アリスとてそれは話を聞いて理解していた。久しくなかった戦争が起きようとしているのだ。歴史書でしか知らない戦争だが、凄惨なことになるのは目に見えて明らかだ。
果たしてそのような状態で平然としていられるのか、ケビンが心配しているのはそういう部分なのだろうと、そこも理解していた。
「ダメかな? 俺はアリスの悲しむ顔なんて見たくないんだ。学院に通っていたら戦争の状況も逐一知ることができるだろ? 冒険者になってしまうと、場所によっては情報の鮮度が落ちてしまうこともある」
「……」
「高等部の卒業時には必ず迎えに来るよ」
「……本当ですか?」
「あぁ、約束する」
「アリスを見捨てたりしませんか?」
一人称が“私”から“アリス”に変わった心境を感じ取ったケビンは、できるだけ優しく言葉を返していく。
「アリスは俺の婚約者だろ? 見捨てるわけないじゃないか」
「戦争が終わっていなくても、アリスを迎えに来てくれますか?」
「その時ばかりは致し方ないね。俺とアリスの冒険を邪魔する帝国は滅ぼすことにするよ」
「ふふっ、そんなことをしたら民たちが路頭に迷ってしまいますよ?」
帝国を滅ぼすと言ったケビンの軽口に、悲愴していたアリスは微笑みをこぼす。
「やっぱりアリスは笑っている時のほうが素敵だよ」
「ケビン様のためならアリスはいつでも笑顔を見せますよ」
「ふふっ、仲良しね」
ケビンの要望にアリスが納得したところで、国王がケビンに話しかけた。
「ケビンよ」
「何?」
「魔導学院でかなり頑張っておるようじゃの」
「魔術は奥が深いからね」
「ミナーヴァ国王から書状が届いてな、ケビンに爵位をやりたいそうじゃ」
「……え?」
国王からの突拍子もない話にケビンの思考は停止するが、愛娘ラブのあのエムリスが勝手に敵視しているケビンに爵位を与えるなど甚だ疑問であるが故に、すぐにケビンは誰の意図が隠されているのかを理解した。
「あの国では研究成果によって爵位を与えるであろう?」
「それ、絶対にエムリス陛下じゃないよ。2人の王妃殿下が絡んでると思う」
「そうなのか?」
「あの国の実権は確かにエムリス陛下が持ってるけど、エムリス陛下は王妃殿下たちに尻に敷かれてて、第1王妃殿下が楽しければいいという策士で、第2王妃殿下が行動力のある鬼嫁なんだよ」
「ほう……思わぬところで面白い話が聞けたのぅ。でじゃ、本来は国をまたがって爵位を得るなんてことは普通はない。最初に貰った国の所属になるからの」
「そりゃそうだろうね」
「ミナーヴァ国王と相談したのじゃがな、2国から爵位を得るならお互いの領土からケビンに土地をやろうかという話になったのじゃ」
「……それ、かなり面倒くさいよね?」
「そうじゃのぅ……1つの領地内に国籍が2つじゃからのぅ」
「うーん……パスで」
「やはりそうなるよのぅ……何か良い方法をミナーヴァ国王と相談せねばの」
「いや、爵位を貰わなかったら済むよね?」
「……ケビンよ、向こうの王女とも懇意にしておるのじゃろ?」
国王の言葉に状況を見守っていたアリスが反応を示した。
「スカーレットさんですね!」
「あの子は元気いっぱいよね」
「恐らくアリスの時と同じかな? 降嫁させるための爵位かもしれないけど……」
「それなら今の伯爵の地位だけでよいよのう?」
「そうだね。だから繋ぎ止めておくための爵位の可能性が高い。あぁぁ……絶対第1王妃殿下の策略だ。腹黒王妃め……」
「仕方ないじゃろ。親善試合でも見たが、あれは完全にケビンに惚れ込んでおるぞ」
「私もそう思います!」
「ケビン君のお嫁さんがどんどん増えていくわね」
「はぁぁ……勘弁してよ」
「ならば切り捨てるかの? そうすればこの話は白紙に戻るぞ?」
「ケビン様、スカーレットさんを捨てるのですか?」
純粋なアリスの何気ない一言がケビンの心を深く抉る。
「うっ……捨てるって言い方は酷くない? お友だちになっただけなのに……」
「ケビン君、諦めも肝心よ? 数年も付き合いがあるなら今更縁を切れないでしょう?」
「でもねぇ……友だちって感覚だったから」
「アリスの時は一目会って決めたじゃない」
「アリスの場合は純真さに惚れたってのがあったから」
ケビンの言葉にアリスが頬を染めて照れていると、王妃は悩んでいるケビンを後押しする。
「ケビン君が認めてしまえば友情から愛情に変化するわよ。心なんてすぐに変わるわ」
「……善処してみます」
「ふふっ、それでいいのよ。今すぐ好きになれって話でもないのだし、まだ先は長いのだからおいおいでいいわよ」
「はぁぁ……」
「頑張るのじゃぞ」
「楽しくなるわ。サラに教えてあげなきゃ!」
ケビンのため息が虚空へ消えていく中、国王はケビンに少しだけ同情して、王妃はサラに話す土産話ができたことを喜び、アリスは未だに照れているのか俯いていたのだった。
1年時の魔導具祭よりターナボッタとよくつるむようになったケビンは、武器に魔法を付与する魔導具の研究を手伝ったりもして、ターナボッタの卒業時にはだいぶ形となっていた。
ケビンが2年時の魔導具祭では、ターナボッタにとって4年間の集大成となる最後の締めくくりであるにも関わらず、金賞を1度受賞して満足したからと参加はしなかったので、ケビンの魔導具が金賞に選ばれた。
そんなターナボッタの卒業後の進路は、魔法剣士として名を馳せるための冒険者であった。拠点を交易都市に置いてドワンと魔導具の完成を目指すようである。
そのような中、ケビンはケビンで親善試合を無敗で4連覇、魔導具祭では金賞を取り続けて3連覇と前人未到の成績を残し、入学当初は変人扱いされていたものの、今となっては連覇のし過ぎで【連覇王】と呼ばれて誰もが一目置く存在となっている。
ちなみに親善試合でついた二つ名は【絶対王者】と【無敗の帝王】である。ケビンとしては兄姉のように、【〇帝】みたいな同じものが良かったと密かに思っていたりする。
そんな青春(?)を送っていたケビンも手を焼くことがあった。それはスカーレットの件である。
いくら戦いに強かろうと賞を取るほどの魔導具を作り出そうとも、スカーレットというある意味猪突猛進な少女に対しては困り果てていた。
エムリス曰く【鬼嫁】ことモニカが公認したことによって、ケビンが休日で自宅にいる時は、憚られることなく堂々と城門を通過して遊びに来ていたのだ。
そんなスカーレットに反応したのは言うまでもなくティナである。初日には「新しい女を連れ込んだ!」と大騒ぎして、そんなティナをニーナが静かに罵倒して収拾がつかなくなったほどだ。
スカーレットもスカーレットで、“新しい女”の部分を否定せず普通に「新しい女でお友だちになりました」と言ってしまい、ティナの興奮を一層引き上げるのに一役買っていた。
そんなスカーレットとの付き合いは3年も過ぎてしまえば、必然と扱いにも慣れてしまい適度に手のひらで転がしているのだった。
友だち付き合いをするようになってケビンがわかったことは、3歳年上で強者のバトルに惹かれてしまうミーハーだということである。
ミーハーになった原因は勇者物語というありふれた本を読んでから、強者同士の熱きバトルに目醒めたらしい。その本は本当のことも書いてあるらしく端からフィクションとして否定することもできないらしい。
当然スカーレットイチオシの強者は勇者ではなく既にケビンとなっている。物語の死んでいる主人公より今生きているケビンをとったことになる。
スカーレットは自分の小遣いをやりくりして、フェブリア学院で開催される闘技大会の記録映像を入手するのが趣味となっており、ケビンの存在を知ってからは、ケビンが参加した親善試合の記録映像を全てエムリスにオネダリして入手している。
小遣いで入手しないのは確実に手に入れるためであり、ケビンが出場するようになってプレミア度が跳ね上がったことが原因だ。
エムリスはエムリスで入手後にしこたまモニカから怒られるのであったが、可愛い娘のオネダリは怒られるとわかっていても拒否できるものではなかった。
そして毎年行われる親善試合にもスカーレットは当然のようについて行き、ケビンを応援するので必死になっている。
2回目の親善試合ではVIPルームから飛び出して、観客席にいるサラの元へ向かってはケビンのあずかり知らぬところで挨拶を済ませてしまい、ケビンが舞台に入場するとサラと一緒にいる光景を目の当たりにして、呆気に取られてしまったのは言うまでもない。
その行動力たるやまさに猪突猛進、サラがニコニコとして受け入れてたこともあり、ケビンとしては「戻れ」と言う気にもなれなかった。
更には王女同士ということもあってか、アリスと意気投合してケビン談議に花を咲かせては、仲良く並んで応援していたのだった。
そのような平和(?)な日常を謳歌していたケビンは、副業でもある商人としての仕事もこなしていた。
ケビンは日常生活で使いそうな魔導具を作り出したら、その魔導具をティナたちに渡して露天販売してもらい確かな手応えを得ることができれば、商業ギルドで納品依頼が出るのを待ってから、少しずつ売りさばくという手法を取っていた。
そんなことを続けていたら露天販売する時には人集りができてしまい、入手困難になる前に何とかマジカル商会の魔導具を手に入れようと、鬼気迫る形相を浮かべて買いに来るのだ。
中には一般人に扮した商人が転売を画策して買い付けに来ていたが、ケビンがティナたちに渡した簡易鑑定を付与したメガネで看破されてしまい、普通に買いに来ただけの一般人優先で販売していった。
ちなみにメガネをかけたティナたちを見たケビンが、ギャップ萌えをしてしまったのは言うまでもない。
簡易鑑定のメガネが作られた経緯は、2年生の時に新たな同居人となったクリスの提案だ。その性能は一般人に扮した商人が視界内に入ると、その人を黄色い文字で【商人】と教えてくれるだけの機能だ。
実際には【鑑定】を付与して、“商人”以外の情報は見えないように制限をかけているだけだ。制限をかけたのは、プライバシーがダダ漏れになってしまうことをケビンが配慮した結果だ。
提案したクリスが懸念していたのは、ケビンの作り出した魔導具を他の商人が買い占めて価格を跳ね上げた状態で転売されてしまえば、ケビンの印象が悪くなるとのことだった。
転売自体はよくあることなのでケビンとしてはどうでも良かったのだが、「元々が高価な魔導具で入手が困難」と売り手が言ってしまえば、その情報が定着してしまうこともあり、ケビンの魔導具で苦労せずに悪徳商人が儲けるのを嫌った意見でもあった。
それでも全ての転売屋を制限することなどできないので、ケビンは「程々でいいよ」とクリスに伝える。
クリスは腐ってもSクラスの優等生だったことを感じさせてしまうほどの秀才ぶりであった。さすがにこれは、ダメなクリスしか見たことのないケビンにとっては新鮮過ぎる姿であった。
そのような経緯があり、あくまでもリーズナブルな価格帯に設定して、納得のいく買い物を一般人にしてもらうことが露天販売の目的になっている。
それにより、納得のできる買い物だと口コミで広めてもらい、更なる顧客の獲得を目指していた。
その増えた顧客がケビンの作り出した魔導具欲しさに商業ギルドへと発注をかけて、更には売り子をティナたちにすることにもよって、ケビンがいなくても商品が売れていくことを狙った作戦でもある。
その作戦は見事にハマり転売目的で買っていた人は、待てば通常価格で手に入る商業ギルドに客が流れたこともあり、在庫を抱えてしまうことになった。
その在庫は結局のところ通常価格で商業ギルドへ納品するしかなくなり、骨折り損のくたびれもうけとなるのであった。独自のルートで貴族たちにパイプのある商人であれば、待つことのできない貴族相手に売りさばいて事なきを得ているのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ある日のこと、卒業に向けての魔導具製作で悩んでいるケビンに、ティナは冒険者ギルドで手に入れた噂話を知らせていた。
「ケビン君……」
「……何?」
「忙しいところ悪いけど、知らせておきたいことを耳にしたの」
「魔導具関係で何かあった?」
「魔導具の売れ行きは好調よ。それとは違ってちょっと良くない噂を耳にして……」
「ティナ、報告はちゃんとしないと伝わらないよ」
ティナと行動をともにしていたクリスは事情を知っているようで、ティナの後押しをしていた。数年も一緒にいれば気の知れた間柄となり、お互いに呼び捨てで呼び合うようになっていた。
「えっとね、今日は冒険者ギルドに行ってたんだけど、そこで冒険者たちの話してた噂話を聞いたのよ。それで色々な人に話を聞いてみたら結構な数の人たちが知っていて、その噂話に信憑性が出てきたの」
「それで、その噂話の中身は?」
「……近々、戦争が起こるみたい……」
「この国で?」
「それはわからない。不穏な動きを見せているのは、この国の北にある帝国だから」
「確かその国ってアリシテア王国とも隣接してたよね?」
「そうなの。だから両国とも警戒を強めているみたい。アリシテア王国とミナーヴァ魔導王国は友好関係にあるから問題ないのだけれど、アリシテア王国にはアリスちゃんがいるじゃない?」
「あぁ、今年で中等部を卒業するんだったね」
「国が戦争するかもしれないって時に、私たちと冒険をするのもどうかなって……」
「気もそぞろになるだろうね」
「スカーレットちゃんもどう動くか予想がつかないし……」
「レティは完全に未知の領域だね」
ケビンはここ数年でスカーレットのことを、“レティ”と愛称で呼ぶようになった。それは“スカーレット”の名前が長く感じて、面倒くさくなった結果の所業だ。
スカーレット自体は愛称で呼ばれ始めて、ますますケビンにのめり込むようになるのだが、そんな裏事情があったことなど露ほども知らない。
「よし、アリスに会いに行ってくる」
「どうするの?」
「高等部に進学するように伝える。王都で陛下たちの近くにいた方がいいだろう」
「スカーレットちゃんは?」
「自宅待機だな。そもそもエムリス陛下が許さないだろ」
「「あぁぁ……」」
愛娘を溺愛しているエムリスの行動を容易に想像できてしまうため、ティナたちは納得の表情を浮かべるのであった。
「とりあえず学院を卒業するまでは現状維持で、それからのことはその時に考えよう」
ティナたちに方針を伝えたところで、早速ケビンはアリスの元へと転移するのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
王城内へ転移したケビンはアリスのところへ向かうと、そのまま引き連れて国王の私室へと足を運んだ。
ケビンはドアをノックして中へと入り、ここへ来た用事を簡単に説明する。
「今日来たのは他でもない帝国のことだよ」
「既に知っておったか……」
「ケビン君は耳が早いのね」
「ティナさんたちが情報を仕入れてきてね」
「そうか……」
「何か詳しいことってわかってるの?」
「……ここのところ平和を維持していたのじゃが、現皇帝の崩御が近いらしい。あの国は絶対君主制を取っており、現皇帝が亡くならない限りは次代の皇帝を名乗れないのじゃ」
「へぇーでも高齢になったら政とか無理なんじゃないの? 亡くなりそうならベッドでの生活だよね?」
「それでもじゃ。口が動くのなら皇帝の座はそのままじゃ。唯一の例外は意思疎通ができなくなった時だけじゃの。その時だけは存命中であっても皇帝の座は次代に譲られ、この法だけが皇帝を唯一縛ることができるものじゃ。国を失くすわけにもいかんからの」
「暗殺とかは?」
「ないの。あの国は完全実力主義じゃから暗殺などして皇帝の座についても、すぐに力あるものから殺されるだけじゃ」
「ん? それなら今の皇帝を実力で殺せばいいんじゃない? ベッドに寝ているような人なら簡単でしょ?」
ケビンは簡単に皇帝の座につけそうな方法を提示してみるも、国王の回答は既に過去にあった昔話であった。
「昔そういうことがあったと歴史書に記述されておる。結果は血で血を洗う凄惨な末路じゃ。その時ばかりは国が疲弊して滅びかけるところじゃったらしい。その過去から学び、無益な殺し合いは禁じられておる」
「なんかアホみたい……」
国王の話を聞いたケビンは皇帝の座が欲しくて争う中、国を滅ぼしかけるというアホな末路を辿った結果、無益な殺生はやめましょうという結論に呆れてしまうのであった。
「それにの、今は自身の武を何よりも重んじており、暗殺や弱った者を殺すことは忌避されておる行為での、より一層皇帝の座が磐石になっておるのじゃ」
「つまり現皇帝を弑逆するのは、最低の行いとして誰もしないってことだね」
「そうじゃ。まだ若々しく現役時代であれば挑む者もおったかもしれんがの」
「で、次の皇帝になる者が厄介だと」
「その通りじゃの。現皇帝はこの国とミナーヴァ魔導王国が友好を結んでからは、さすがに2国を相手取るのは愚策としてなりを潜めていたのじゃが、次の皇帝候補の皇子が今のところあの国では1番強くての。更には好戦的な性格で気性も荒いらしい。それまでは別の者が皇帝候補に挙がっておったんじゃが、ある日を境に第1皇子が力をつけ始めての、今では誰も歯が立たなくなってしまったのじゃ」
「聞いただけで厄介そうだね」
「その厄介な皇子が掲げているのが大陸統一なのじゃ」
「あぁぁ……自国以外はいらないと」
ケビンは在り来りな天下統一を目指す皇子の姿が、容易に想像できてしまった。
「そうじゃ。帝国こそ大陸の覇者であるべきだと言っておってな。属国化も許さず全てを飲み込むつもりらしい」
「そいつ確実に馬鹿だよね? 領土が広がればその分統治も面倒になるのに」
「そこは致し方ないの。武力こそが全ての国じゃからの」
「知力も必要なのに……」
ケビンと国王の話が一段落すると、アリスが気になっていたことをケビンに尋ねる。
「ケビン様、私は何故連れてこられたのですか?」
「あぁ、今の話が関係するから聞いてもらおうと思ってね」
「帝国ですか?」
「そう。中等部を卒業したら冒険者になるって言ってただろ?」
「はい」
「それを勝手ながら延期することにした」
「えっ!? 何かお気に障ることでも致しましたか!?」
「違うよ。自国が戦争になるかもしれないのに、アリスを連れ回すわけにはいかないから。優しいアリスのことだから、陛下やマリーさん、ヴィクトさんに何かあるかもしれないと思ったら気が気じゃないだろ?」
「……」
「俺の知っているアリスはそういう心を持っているからね。だから、このまま中等部を卒業したら高等部に進学して欲しい」
ケビンの言葉にアリスは俯いていた。中等部を卒業したら晴れてケビンと一緒に行動できると思っていた矢先、戦争が起こるかもしれないからと高等部への進学を薦められたのだ。
アリスとてそれは話を聞いて理解していた。久しくなかった戦争が起きようとしているのだ。歴史書でしか知らない戦争だが、凄惨なことになるのは目に見えて明らかだ。
果たしてそのような状態で平然としていられるのか、ケビンが心配しているのはそういう部分なのだろうと、そこも理解していた。
「ダメかな? 俺はアリスの悲しむ顔なんて見たくないんだ。学院に通っていたら戦争の状況も逐一知ることができるだろ? 冒険者になってしまうと、場所によっては情報の鮮度が落ちてしまうこともある」
「……」
「高等部の卒業時には必ず迎えに来るよ」
「……本当ですか?」
「あぁ、約束する」
「アリスを見捨てたりしませんか?」
一人称が“私”から“アリス”に変わった心境を感じ取ったケビンは、できるだけ優しく言葉を返していく。
「アリスは俺の婚約者だろ? 見捨てるわけないじゃないか」
「戦争が終わっていなくても、アリスを迎えに来てくれますか?」
「その時ばかりは致し方ないね。俺とアリスの冒険を邪魔する帝国は滅ぼすことにするよ」
「ふふっ、そんなことをしたら民たちが路頭に迷ってしまいますよ?」
帝国を滅ぼすと言ったケビンの軽口に、悲愴していたアリスは微笑みをこぼす。
「やっぱりアリスは笑っている時のほうが素敵だよ」
「ケビン様のためならアリスはいつでも笑顔を見せますよ」
「ふふっ、仲良しね」
ケビンの要望にアリスが納得したところで、国王がケビンに話しかけた。
「ケビンよ」
「何?」
「魔導学院でかなり頑張っておるようじゃの」
「魔術は奥が深いからね」
「ミナーヴァ国王から書状が届いてな、ケビンに爵位をやりたいそうじゃ」
「……え?」
国王からの突拍子もない話にケビンの思考は停止するが、愛娘ラブのあのエムリスが勝手に敵視しているケビンに爵位を与えるなど甚だ疑問であるが故に、すぐにケビンは誰の意図が隠されているのかを理解した。
「あの国では研究成果によって爵位を与えるであろう?」
「それ、絶対にエムリス陛下じゃないよ。2人の王妃殿下が絡んでると思う」
「そうなのか?」
「あの国の実権は確かにエムリス陛下が持ってるけど、エムリス陛下は王妃殿下たちに尻に敷かれてて、第1王妃殿下が楽しければいいという策士で、第2王妃殿下が行動力のある鬼嫁なんだよ」
「ほう……思わぬところで面白い話が聞けたのぅ。でじゃ、本来は国をまたがって爵位を得るなんてことは普通はない。最初に貰った国の所属になるからの」
「そりゃそうだろうね」
「ミナーヴァ国王と相談したのじゃがな、2国から爵位を得るならお互いの領土からケビンに土地をやろうかという話になったのじゃ」
「……それ、かなり面倒くさいよね?」
「そうじゃのぅ……1つの領地内に国籍が2つじゃからのぅ」
「うーん……パスで」
「やはりそうなるよのぅ……何か良い方法をミナーヴァ国王と相談せねばの」
「いや、爵位を貰わなかったら済むよね?」
「……ケビンよ、向こうの王女とも懇意にしておるのじゃろ?」
国王の言葉に状況を見守っていたアリスが反応を示した。
「スカーレットさんですね!」
「あの子は元気いっぱいよね」
「恐らくアリスの時と同じかな? 降嫁させるための爵位かもしれないけど……」
「それなら今の伯爵の地位だけでよいよのう?」
「そうだね。だから繋ぎ止めておくための爵位の可能性が高い。あぁぁ……絶対第1王妃殿下の策略だ。腹黒王妃め……」
「仕方ないじゃろ。親善試合でも見たが、あれは完全にケビンに惚れ込んでおるぞ」
「私もそう思います!」
「ケビン君のお嫁さんがどんどん増えていくわね」
「はぁぁ……勘弁してよ」
「ならば切り捨てるかの? そうすればこの話は白紙に戻るぞ?」
「ケビン様、スカーレットさんを捨てるのですか?」
純粋なアリスの何気ない一言がケビンの心を深く抉る。
「うっ……捨てるって言い方は酷くない? お友だちになっただけなのに……」
「ケビン君、諦めも肝心よ? 数年も付き合いがあるなら今更縁を切れないでしょう?」
「でもねぇ……友だちって感覚だったから」
「アリスの時は一目会って決めたじゃない」
「アリスの場合は純真さに惚れたってのがあったから」
ケビンの言葉にアリスが頬を染めて照れていると、王妃は悩んでいるケビンを後押しする。
「ケビン君が認めてしまえば友情から愛情に変化するわよ。心なんてすぐに変わるわ」
「……善処してみます」
「ふふっ、それでいいのよ。今すぐ好きになれって話でもないのだし、まだ先は長いのだからおいおいでいいわよ」
「はぁぁ……」
「頑張るのじゃぞ」
「楽しくなるわ。サラに教えてあげなきゃ!」
ケビンのため息が虚空へ消えていく中、国王はケビンに少しだけ同情して、王妃はサラに話す土産話ができたことを喜び、アリスは未だに照れているのか俯いていたのだった。
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