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第8章 ミナーヴァ魔導王国

第200話 新天地へ

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 クランバトルから数ヶ月後、季節は早くも秋となりて少し肌寒い季節が訪れていた。

 あれからケビンたちは都市外ダンジョンも制覇して、コアのマスター登録を済ませると都市内のダンジョンとリンクさせた。

 ダンジョンの中身も都市内と同じ仕様にしており、違う点と言えば少しだけ出てくる魔物が変わったことと、宝箱の中身を防具メインにしたことだ。

 2つのダンジョンを手に入れたことで、都市内ダンジョンの方は都市外ダンジョンと違い、武器メインのドロップに切り替えた。

 ちなみにケビンは王都ギルドで素材を卸した際に、サーシャとカーバインに呆れられて、ダンジョン名も不名誉なものがついていたことを知る。

 都市内ダンジョンは【K’sダンジョン 本店】となっており、都市外ダンジョンは【K’sダンジョン 2号店】となっていた。

 それを聞いたケビンが、地面に両手をつき項垂れてしまったことは想像に難くない。

 鮮血の傭兵団とも相変わらずの付き合いで、顔を合わせるとカイエンから手合わせを申し込まれる程には仲良くなってしまったと言える。

 全くもって遺憾である。

 そんなカイエンにケビンは手合わせではなく情報を提供することにして、【K’sダンジョン 本店】には武器が、【K’sダンジョン 2号店】には防具がそれぞれドロップしやすいことを教えて難なく逃れるのである。

 カイエン率いる鮮血の傭兵団は以前のように素行が悪くなるのではなく、ケビンとのバトルで刺激されてしまい純粋に強さを求めるようになってからはダンジョン攻略に勤しんでいて、ギルドとしては問題行動がなくなって大助かりなのだが、肝心の素材に関しては一切卸して貰えず泣きを見るハメになっている。

 そんなギルドに対してケビンは自業自得だと言ってのけて、鮮血の傭兵団同様に素材は一切卸していない。

 それからケビンは時期も時期なのでそろそろミナーヴァ魔導王国へと旅立つためにカイエンに挨拶を済ませると、そそくさと準備を進めていった。

 1番の問題は自分の持ち部屋となった夢見亭の最上階だ。何年も離れるわけだから維持管理の問題が発生したが、コンシェルジュたちに相談するとありがたいことにその役目を買って出てくれた。

 対価としてのお礼は、最上階を好きなときに使っていいというものにした。お金を払おうとしたら頑なに拒否されたのだ。

 一通りダンジョン都市でやることが終わったケビンたちは、ミナーヴァ魔導王国へ行く前に一旦実家に帰ることにしたのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 冒険者活動を一旦休業にして実家に戻ってきたケビンたち。

 家につくとルルを通常業務に戻らせ、ティナさんたちは俺の自室でくつろいでもらっている。

 そんな中、俺は母さんに今まであったことの報告をしていた。

「――ということがあったんだよ」

「クランを1つ潰したのね。ケビンを罵倒するなんて万死に値するわ」

「実際侮辱されたのはティナさんたちと陛下なんだけどね」

「それでもケビンだって何か言われたのでしょう?」

「まぁね。俺のことは我慢できるけど大事な人のことは我慢できなかったんだよ」

「優しいのね、ケビンは」

 そんなケビンは今現在、サラに腕を絡め取られて抱きつかれている。膝上に乗せようとしたサラは思いのほかケビンの身長が伸びており、膝上を諦めて腕をからませて抱きつく感じにしたのだった。

 ケビンとしてはようやく膝上抱っこを卒業してくれたかと安堵したのも束の間、腕を絡め取られて抱きつかれてしまい、サラの大きな胸が腕に当たっており膝上抱っこよりも過酷な試練を耐え忍んでいた。

「それにしてもダンジョンを4回も制覇したのね。お母さん、鼻が高いわ」

「成り行きだけどね。1回制覇したらダンジョンマスターになっちゃって、ダンジョンを自由に改造できるようになったから新しくしたダンジョンを再度制覇したんだよ」

「凄いわね。ダンジョンの支配者になっちゃったのね」

「このことは秘密にしてるんだけどね。今のところパーティーメンバーと母さんしか知らないし」

「秘密のことならお母さんは誰にも話さないわ。お父さんにも内緒よ」

 その日のケビンはサラと久々の団欒を過ごしていた。久々ついでにサラへ「ご飯を作って」とねだると、ニコニコ顔のサラが腕によりをかけてケビンにご飯を作るのであった。

 それからしばらくは自宅で過ごして、時折城に遊びに行ってはアリスと過ごしたり、マリーに捕まっては一緒に過ごしたり、国王たちと食事を楽しんだりと有意義な生活を送っていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 やがて季節は巡り春となる。無事に魔導学院の試験を合格したケビンは、この春より晴れて1年生として学院へ通うことになる。

 この学院での目標は、魔術関連の造詣を深めて魔導具の製作に役立てることである。

「ケビン様、出発のお時間です」

「わかった」

 今回は身の回りの世話係としてプリシラが同行してきた。明るいオレンジ色のウェーブがかったロングヘアに赤い瞳が特徴であり、若手メイドのまとめ役をしているそうだ。

 何故ルルではないのかと言うと、例により同行者枠を賭けた熱きバトルが繰り広げられたらしい。

 そんなバトルを勝ち抜いたのがプリシラというわけだ。朝から張り切って仕事をするのは構わないが、着替えを手伝おうとするのはやめて欲しい。

 そんなプリシラに見送られて俺は魔導学院の入学式に参加した。年齢は問わないとあってか、普通に大人の学生もいるみたいだ。

 おじさんやおばさんの学生とは話が合わなそうだが、何とかやっていけるだろう。

 長い入学式も終わり配属先のクラスへ赴くと、多種多様な人たちでごった返していた。

 俺が言うのも何だが小さな子供から上は明らかに家庭を持っていそうな中年の男女、あと、エルフがチラホラいるようだ。

 教室内は1人1人に机があるのではなく5人掛け用の講義机が中央にあり、両サイドは3人掛け用の講義机だった。それが5列ほど並んでいて、後ろに行くにつれて段差をつけて高くしているようであった。

 座席は決まっておらず自由なのか生徒たちはまばらに座っており、俺はすかさず窓際最後尾の特等席を確保した。

 しばらくすると担任が入ってきたようで自己紹介を始める。

「あぁぁ……俺がこのクラスを受け持つことになった、ラッセルだ」

 ラッセルと名乗った者はボサボサ頭に無精髭を生やして白衣を着ている、如何にも研究に没頭していそうな見かけ30代の男性だが、明らかに気だるそうな感じを醸し出していた。

 この後はやる気のないラッセル主導のもと、生徒たちの自己紹介が行われ解散することになる。

 今日はもうこれで終わりらしく、明日からは本格的な授業が始まるみたいだ。せめてもの救いはラッセルが授業を受け持つことはなく、それぞれ専門の教師が教鞭を振るうのだそうだ。

 さすがにラッセルからやる気のない授業は受けたくないようで、クラスの生徒たちも安堵している。

 そんなわかりきった生徒たちの態度を気にするでもなく、ラッセルは教室を後にする。

 早くも用事がなくなった俺は下校することにして家路へとついた。俺の住まいは学院に通うとあって宿屋を借りるのではなく、ちょっとした借家を借りている。

 宿屋を借りて実家か夢見亭からの転移という方法もあったが、毎度毎度転移するのは面倒くさいので今の状態に落ち着いた。

 家に関しては特に何も求めていないので、極々一般的な普通の家屋を借りている。

 最低限生活ができればそれほど豪華な家屋を借りる必要もなかったが、プリシラがやけに豪華な家屋に固執していた。

 伯爵である俺が一般的な普通の家屋に住むのは如何なものかと物申してきたが、他国で貴族位をひけらかすほど愚かではないので、理路整然と論破して大人しくさせた。

 そもそも俺自体に貴族位を盾に威張りちらす思考がないから、どっちにしろプリシラの意見が通ることはない。

 明日からは念願の魔術関連の知識が学べるかと思うと、気持ちが昂ってしまって夜は中々寝付けなかったが、知らず知らずのうちに深い眠りへと誘われてしまっていた。
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