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第7章 ダンジョン都市
第194話 ダンジョン制覇
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新装備にも慣れ始めたケビンたちは、明くる日にボスへ挑むべく入念な準備を整えて、当日は昼からウォーミングアップをしつつ、夕方にはボス部屋の前まで来ていた。
今までの扉よりも荘厳な見た目をしており、如何にもラスボス感満載ですと言わんばかりのその扉の前で、ケビンはメンバーに声を掛ける。
「みんな、心の準備はいい?」
「体は温まっているし問題ないわ」
「バッチリ」
「いつでも行けます」
「それじゃあ、行くよ……」
ケビンは扉を少しずつ開けるとそのまま中へと入って行く。他の者もケビンの後に続き、中へと侵入して行った。
部屋の中は暗がりが強く奥の方まで見渡せずに、戸惑いを見せるケビンたちであったが、扉脇の燭台に火が灯ると、連鎖反応のように次々と隣の燭台へと火が灯り出した。
全ての燭台に火が灯り部屋全体が見渡せるようになると、部屋の中央に巨大な魔法陣が浮かび上がり、ケビンたちは警戒の色を濃くする。
ひときわ輝きを放つ魔方陣から、徐々にその姿を現すのは蜥蜴のような形をしており、頭部の鬣は触手がウネウネと蠢いて、前後の足は鋭い爪が伸び、目は単眼で異様な光を放っている全長5メートル程の怪物であった。
「何あれ……」
「気持ち悪い……」
「生理的に無理……」
「異形ですね……」
名状しがたい何かはその巨大な目をギョロギョロと動かすと、やがてケビンたちの方を見つめ、己の敵であると判断したようだった。
「Kisyoooooh!」
「んん??!」
ケビンが何かに驚いていると、ティナがすかさず声を上げた。
「ケビン君!」
その声で我に返ると、目の前に大きく口を開いた名状しがたい何かは、今まさに、ケビンに喰らいつかんとしているところで、その巨大な目がギョロりとケビンを見つめていた。
ケビンはすかさず避けて事なきを得るが、仲間たちは一様にケビンに叱責するのである。
「何ボーッとしてるの!」
「戦闘中」
「冷や冷やさせないでください」
「いや、ちょっと気になって……」
そんなケビンたちを他所に、名状しがたい何かは地面を物凄いスピードで這ってきて、ギョロギョロとその目を動かし獲物を見定めていた。
そんな名状しがたい何かに、ティナが矢を放つと易々と避けてしまい、お返しとばかりに触手から紫色の液体が放たれる。
「げっ!」
ばっちいものでも避けるかのように、身を躱すティナが元いた場所に液体が降り注ぐと、ジュゥーっと音を立てて地面を溶かしていた。
そこへすかさずニーナの魔法が炸裂する。
「――《ファイアランス》」
炎の槍が一斉に名状しがたい何かに襲いかかると、それすらも奇妙な動きで躱していく。
その動きはまるで、行動を巻き戻したかのように、躊躇いもなく同じスピードで後ろへと下がる姿が見て取れた。
名状しがたい何かが戻った場所に、ルルが投げナイフを投擲するが、触手から出された液体で全てが溶かされた。
それを横から見ていたティナは矢を同時射撃するも、今度は前後の足が真横に向いたかと思えば、カニ歩きのようにシャカシャカと動いて避けていく。
「気持ち悪い……」
「無理……」
「……」
それから何度もティナたちは、何かに取り憑かれたかのように攻撃を繰り返すが、名状しがたい何かは縦横無尽に彼方此方へとその身を奇怪な動作で動かし、その尽くを躱し続けていた。
「もう嫌っ! ケビン君、何とかしてっ!」
ティナの必死な叫びに、ケビンはとりあえず魔法を放ってみることにした。
「《ロックバレット》《ロックバレット》――」
無数の礫が名状しがたい何かに襲いかかると、奇怪な動きで躱していくが、数が余りにも多くて捌ききれなくなったのか、その身にとうとう被弾してしまう。
「――Cksyoooooh!」
触手が何本か千切れ落ちてウネウネと蠢いていると、徐々にその形を変えていき、1メートル程になったミニチュア版の名状しがたい何かにその姿を変えていた。
「ちょ!? 数を増やしてどうすんのよ!」
「ふ……増えた……」
「……」
「そう言われても……増えるとは思ってなかったし、ダメージは与えたんだから、いいんじゃない?」
「減らして! 何がなんでも減らして!」
「んー……燃やしてみるか……《煉獄》」
ミニチュアが襲いかかろうと這いよって来ているところへ、ケビンの魔法が放たれた。
その魔法は対象に直接発動するタイプで、避けようにも避けれなかったミニチュアたちは、その身を燃やされながらもティナたちへと襲いかかっていく。
「「「Ch,Kisyoooooh!」」」
「いやぁぁぁぁっ! 来ないでぇぇえええっ!」
「ひっ――!」
「――ッ!」
ティナたちは気持ち悪さからか戦意を喪失して、純粋に逃げ回っているだけだった。
ケビンはそんな様子を横目に、逃げ回れているのなら問題ないかと思い、本体をどのようにして倒すか模索していた。
千切れていた触手の部分は既に再生しており、触手を攻撃するのは愚策として、他の部位でも同様に千切れると増えてしまうのか試すことにすると、1番千切りやすい尻尾の部分に魔法を放った。
「《ウインドカッター》」
死角からの攻撃にも関わらず、名状しがたい何かはまるで見えているかのように、その身を翻して魔法を避ける。
「【魔力探知】を持ってるのか? 直感的にあまり気が進まないけど、鑑定するか……」
名前:UNKNOWN(名状しがたい何か)
年齢:UNKNOWN 種族:UNKNOWN
職業:UNKNOWN
状態:混沌
Lv.ー
HP:UNKNOWN
MP:UNKNOWN
筋力:UNKNOWN
耐久:UNKNOWN
魔力:UNKNOWN
精神:UNKNOWN
敏捷:UNKNOWN
スキル
【自己再生】【自己増殖】
【気配探知 Lv.10】【魔力探知 Lv.10】
【UNKNOWN】……
魔法系統
【UNKNOWN】……
称号
?????の魔神
蜥蜴の支配者
這い寄るもの
迷い込んだもの
「UNKNOWNって、鑑定しきれないってことか? イレギュラーな存在?」
敵のステータスを鑑定したケビンはその内容に早々と倒すことを諦め、打開策を考えだして実行可能かどうかを確かめなければならなかった。
ケビンは名状しがたい何かを適度に牽制しつつ、ヘイトがティナたちに向かわないように、攻撃しつつも確認作業を始めた。
『サナ、転移先を宇宙空間に指定できるか? 出来ればこの星から遠く離れた場所で』
『遠く離れた場所は不可ですが、推進力代わりに爆発魔法を一緒に転移させれば、遠くの方へ追いやることは可能です。その後、対象がどう動くかは不明ですが』
『わかった。転移先の座標指定は任せる』
『了解しました』
サナと作戦を練っている間にも、ティナたちはミニチュアに追いかけ回されていた。
ただ逃げ回るだけではなく、適度に攻撃を放っては距離を取るというのを繰り返して、ケビンの放った魔法が効いているのか、少しずつ動きが悪くなりミニチュアたちも被弾する回数が増えている。
そんな中、ケビンは【マップ】により、名状しがたい何かたちをロックオンして、臨界ギリギリまで魔力を込めて凝縮した爆発魔法と同時に転移魔法を発動し、何処かわからない宇宙空間へとサナに制御を預けて転移させた。
「《転移》」
転移させられた名状しがたい何かたちは、急に視界が切り替わったことで若干の混乱状態に陥ったが、目の前の爆発寸前である魔法を視界内に収めると首を傾げて眺めていた。
「「「「Gyo?……」」」」
枷が無くなった爆発魔法は見る見るうちに膨張していき、その輝きは一層増していく。
「「「「――!!」」」」
目の前の魔法から身の危険を感じてしまった名状しがたい何かたちは、自らの力でその場から距離を置こうと離れ始めるが、そんなことはお構いなしに魔法は更に膨張を続けていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
地上では、夜の帳が指し迫ろうかとしている逢魔が時、大空に輝く1つの大きな物体に、母親と共に家へ帰ろうとしている子供がそれに気づいた。
「お母さん、お日様があるよ」
子供は空を指さして母親に伝えるが、そんな言葉に母親は笑いかけながら答えるのであった。
「お日様は今からおやすみの時間なのよ。今からはお月様が起きる時間なの」
「違うよぉ、だってあそこにお日様があるもん」
子供は母親と繋いだ手をグイグイと引っ張りながら、なおも空を指さしており、母親はそんな子供に釣られて指をさしている空へと視線を流した。
「え……うそ……」
「ね、言ったでしょ?」
子供は自分の言っていたことが間違いではないのだと、自慢げな表情を浮かべて母親へと声をかけるが、当の母親はそれどころではなかった。
そんな親子の光景を周りの者たちも気づき始め、同様に空へと視線を向けては、母親と同じように愕然とするのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――アリシテア王国・王城にて
慌ただしく国王の私室へとやって来る1人の騎士がいた。バタンと扉を勢いよく開けると跪き報告を上げる。
「も、申し上げます!」
「そんなに慌ててどうしたのだ?」
騎士の慌てぶりに、国王は咎めることはせず報告を促した。
「そ、空をご覧下さい!」
「空じゃと?」
騎士の言葉に聞き返している国王を他所に、一緒にいた王妃は椅子から立ち上がるとバルコニーへ足を運んだ。
「あ……あなた!」
王妃の焦りとも言える何かを感じ取った国王も、椅子から立ち上がりバルコニーへと向かって空を眺めると、そこには太陽と見間違うほどの大きな物体が浮かび上がっていた。
「な、なんじゃあれは!?」
国王が驚きの声を上げると、空にある大きな物体がひときわ輝いたあとに弾けてその姿を消滅させた。
「無く……なったのか……?」
「その……ようですわね」
「何も起こらんな……」
国王たちは空を眺め続けるが特にこれといって何も起こらず、肩透かしをくらったかのようになってしまうが、念のため騎士に指示を出すのであった。
「とりあえず、国内に何か被害が起こってないか、大至急調べあげるのだ!」
「か、畏まりました!」
騎士は、来た時と同様に慌ただしくその場を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ダンジョン
ケビンによって転移させられた名状しがたい何かたちがいなくなり、ティナたちはその場に腰を下ろして肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……ケ……ケビン君が……何かしたの?」
息も絶え絶えにティナがケビンへ尋ねると、ケビンがそれに答えた。
「この星の外に転移させたんだよ」
「……星? ……外?」
「まぁ、説明が面倒だから省くけど、簡単に言ったら人では辿り着けないような場所」
「よくわからないけど、もう安心していいのよね?」
「あいつらが戻ってこなければね」
「「「……」」」
戻ってくる可能性を示唆されたティナたちは、一様に顔を引き攣らせて嫌な汗を流すのであった。
『サナ、あいつらはどうなった?』
『魔法が爆発する前に、遠くへ離れようと動いていたみたいですが、爆発の運動エネルギーも相まって、かなり遠方に飛ばされたと思います』
『それじゃあ、問題ないな』
『その案件とは別に1つ、問題が発生しています』
『え!?……何?』
『地上で多くの者たちが爆発魔法を見ており、一時期パニックになった場所もあるようです』
『あぁ……黙っていれば俺だってわからないでしょ』
『はい。一部宗教においては神の御業として、何かのお告げだと囁かれておりますので』
『それなら放っておこう』
ケビンは地上のことなどお構いなしに、その話は打ち切るのであった。
ティナたちが嫌な疲れ方から回復すると、一行は最後の扉の前まで来ていた。
「これが最後よね?」
「そうあって欲しいけどね」
ケビンがその扉を開けると小部屋に魔法陣が設置してあり、外への転移魔法陣だと推察する。
「階段もないようだし、これで終わりみたいだ」
「それなら帰りましょうか?」
ケビンたちが魔法陣の上に乗ると、それが輝きだして転移魔法を発動するが、外へ出られると思っていたケビンたちは、薄暗い部屋の中にいたままであることに疑問を感じた。
「あれ?……失敗?」
ケビンは、視線を流すと奥に扉があることに気づく。
「まだ続きがあるようだよ?」
ケビンの言葉にティナたちも扉の存在に気付いて、一同は扉の前まで歩いて行くと躊躇いもなしにケビンが扉を開けた。
開かれた扉の先にはまたしても部屋があり、その奥には台座に置かれた水晶玉だけがポツンと存在していた。
「あれ、何かわかる?」
「わからないわ」
ティナの言葉にケビンは他の者へと視線を向けるが、ニーナやルルも首を横に振るだけで、ティナと同様にわからないようであった。
『サナ、あれは何だ? 予想ではダンジョンコアだと思うけど』
『その予想通りだと思われます』
『危険は?』
『ありません』
サナの言葉を聞いて危険がないと判断したケビンは、ダンジョンコアに近づいて行くと、おもむろに頭の中で機械音のような抑揚のない音声が聞こえてきた。
《マスター登録を開始します。コアへ接触を》
『水晶玉に触れればいいのか?』
《肯定》
水晶玉にケビンが触れると淡く輝きだして、次の言葉が聞こえてきた。
《マスター登録を完了しました》
そんなケビンの様子を、後ろから眺めていたティナたちが近づいてきて声をかけた。
「ケビン君、何をしているの?」
「これがマスター登録をするって言ってたから、言われた通りに触ってたんだよ」
「マスター登録?」
「多分だけど、このダンジョンが俺の物になった」
「ケビン様、凄いです!」
「それよりもケビン君、その水晶玉と会話してるの? 何も聞こえなかったけど」
「頭の中に、直接声が聞こえてくるんだよ」
「ふーん……」
ティナはイマイチ理解ができないのか、関心のない感じであった。
『なぁ、他の人たちにも声が届くように出来るか?』
《肯定。外部出力に切替開始……》
〈……完了。これにより、マスター以外の人物にも音声が届きます〉
今まで何も聞こえなかったティナたちが、その音声に反応した。
「ケビン君、声が聞こえてきた」
「不思議」
「水晶玉から聞こえますね」
「これがさっき言ってたやつだよ」
「それで、ダンジョンを手に入れて何が出来るの?」
ティナからご最もな意見が出てきたことで、ケビンはコアに確認することにした。
「なあ、マスターの出来ることって何だ?」
ケビンの質問にコアが答える。
〈ダンジョンの仕様変更が行えます〉
「具体的には?」
コアが説明したマスター権限は、以下の通りであった。
・ダンジョンの構造変更
・罠の配置、変更等
・宝箱の配置、変更等
・魔物の配置、変更等
・ボスの配置、変更等
・全ての作業において魔力が必要となる
・魔力の供給方法等
~コアに直接流し込む
~侵入者から吸収する(生命の危機はない)
~倒された魔物から一部還元する
・その他、付随する機能等
〈――以上です〉
「つまり、ダンジョンを好きに改造できるってことか?」
〈肯定〉
「ねぇ、ケビン君。ボス部屋に小細工が出来ないようにしたら?」
「ん? 何で?」
「鮮血の傭兵団に意趣返し出来るでしょ?」
「あぁ……確かに」
「そうすれば、今まで敬遠していた他の冒険者たちもダンジョンに来るようになって、魔力吸収の効率が上がるから一石二鳥じゃない?」
「ティナが冴えてる!?」
「ちょっ、ニーナ!」
ケビンはティナの意見を取り入れることにして、明くる日にダンジョンの改造を始めることにして、この日はマスタールームにある転移魔法陣で、外へと出るのだった。
今までの扉よりも荘厳な見た目をしており、如何にもラスボス感満載ですと言わんばかりのその扉の前で、ケビンはメンバーに声を掛ける。
「みんな、心の準備はいい?」
「体は温まっているし問題ないわ」
「バッチリ」
「いつでも行けます」
「それじゃあ、行くよ……」
ケビンは扉を少しずつ開けるとそのまま中へと入って行く。他の者もケビンの後に続き、中へと侵入して行った。
部屋の中は暗がりが強く奥の方まで見渡せずに、戸惑いを見せるケビンたちであったが、扉脇の燭台に火が灯ると、連鎖反応のように次々と隣の燭台へと火が灯り出した。
全ての燭台に火が灯り部屋全体が見渡せるようになると、部屋の中央に巨大な魔法陣が浮かび上がり、ケビンたちは警戒の色を濃くする。
ひときわ輝きを放つ魔方陣から、徐々にその姿を現すのは蜥蜴のような形をしており、頭部の鬣は触手がウネウネと蠢いて、前後の足は鋭い爪が伸び、目は単眼で異様な光を放っている全長5メートル程の怪物であった。
「何あれ……」
「気持ち悪い……」
「生理的に無理……」
「異形ですね……」
名状しがたい何かはその巨大な目をギョロギョロと動かすと、やがてケビンたちの方を見つめ、己の敵であると判断したようだった。
「Kisyoooooh!」
「んん??!」
ケビンが何かに驚いていると、ティナがすかさず声を上げた。
「ケビン君!」
その声で我に返ると、目の前に大きく口を開いた名状しがたい何かは、今まさに、ケビンに喰らいつかんとしているところで、その巨大な目がギョロりとケビンを見つめていた。
ケビンはすかさず避けて事なきを得るが、仲間たちは一様にケビンに叱責するのである。
「何ボーッとしてるの!」
「戦闘中」
「冷や冷やさせないでください」
「いや、ちょっと気になって……」
そんなケビンたちを他所に、名状しがたい何かは地面を物凄いスピードで這ってきて、ギョロギョロとその目を動かし獲物を見定めていた。
そんな名状しがたい何かに、ティナが矢を放つと易々と避けてしまい、お返しとばかりに触手から紫色の液体が放たれる。
「げっ!」
ばっちいものでも避けるかのように、身を躱すティナが元いた場所に液体が降り注ぐと、ジュゥーっと音を立てて地面を溶かしていた。
そこへすかさずニーナの魔法が炸裂する。
「――《ファイアランス》」
炎の槍が一斉に名状しがたい何かに襲いかかると、それすらも奇妙な動きで躱していく。
その動きはまるで、行動を巻き戻したかのように、躊躇いもなく同じスピードで後ろへと下がる姿が見て取れた。
名状しがたい何かが戻った場所に、ルルが投げナイフを投擲するが、触手から出された液体で全てが溶かされた。
それを横から見ていたティナは矢を同時射撃するも、今度は前後の足が真横に向いたかと思えば、カニ歩きのようにシャカシャカと動いて避けていく。
「気持ち悪い……」
「無理……」
「……」
それから何度もティナたちは、何かに取り憑かれたかのように攻撃を繰り返すが、名状しがたい何かは縦横無尽に彼方此方へとその身を奇怪な動作で動かし、その尽くを躱し続けていた。
「もう嫌っ! ケビン君、何とかしてっ!」
ティナの必死な叫びに、ケビンはとりあえず魔法を放ってみることにした。
「《ロックバレット》《ロックバレット》――」
無数の礫が名状しがたい何かに襲いかかると、奇怪な動きで躱していくが、数が余りにも多くて捌ききれなくなったのか、その身にとうとう被弾してしまう。
「――Cksyoooooh!」
触手が何本か千切れ落ちてウネウネと蠢いていると、徐々にその形を変えていき、1メートル程になったミニチュア版の名状しがたい何かにその姿を変えていた。
「ちょ!? 数を増やしてどうすんのよ!」
「ふ……増えた……」
「……」
「そう言われても……増えるとは思ってなかったし、ダメージは与えたんだから、いいんじゃない?」
「減らして! 何がなんでも減らして!」
「んー……燃やしてみるか……《煉獄》」
ミニチュアが襲いかかろうと這いよって来ているところへ、ケビンの魔法が放たれた。
その魔法は対象に直接発動するタイプで、避けようにも避けれなかったミニチュアたちは、その身を燃やされながらもティナたちへと襲いかかっていく。
「「「Ch,Kisyoooooh!」」」
「いやぁぁぁぁっ! 来ないでぇぇえええっ!」
「ひっ――!」
「――ッ!」
ティナたちは気持ち悪さからか戦意を喪失して、純粋に逃げ回っているだけだった。
ケビンはそんな様子を横目に、逃げ回れているのなら問題ないかと思い、本体をどのようにして倒すか模索していた。
千切れていた触手の部分は既に再生しており、触手を攻撃するのは愚策として、他の部位でも同様に千切れると増えてしまうのか試すことにすると、1番千切りやすい尻尾の部分に魔法を放った。
「《ウインドカッター》」
死角からの攻撃にも関わらず、名状しがたい何かはまるで見えているかのように、その身を翻して魔法を避ける。
「【魔力探知】を持ってるのか? 直感的にあまり気が進まないけど、鑑定するか……」
名前:UNKNOWN(名状しがたい何か)
年齢:UNKNOWN 種族:UNKNOWN
職業:UNKNOWN
状態:混沌
Lv.ー
HP:UNKNOWN
MP:UNKNOWN
筋力:UNKNOWN
耐久:UNKNOWN
魔力:UNKNOWN
精神:UNKNOWN
敏捷:UNKNOWN
スキル
【自己再生】【自己増殖】
【気配探知 Lv.10】【魔力探知 Lv.10】
【UNKNOWN】……
魔法系統
【UNKNOWN】……
称号
?????の魔神
蜥蜴の支配者
這い寄るもの
迷い込んだもの
「UNKNOWNって、鑑定しきれないってことか? イレギュラーな存在?」
敵のステータスを鑑定したケビンはその内容に早々と倒すことを諦め、打開策を考えだして実行可能かどうかを確かめなければならなかった。
ケビンは名状しがたい何かを適度に牽制しつつ、ヘイトがティナたちに向かわないように、攻撃しつつも確認作業を始めた。
『サナ、転移先を宇宙空間に指定できるか? 出来ればこの星から遠く離れた場所で』
『遠く離れた場所は不可ですが、推進力代わりに爆発魔法を一緒に転移させれば、遠くの方へ追いやることは可能です。その後、対象がどう動くかは不明ですが』
『わかった。転移先の座標指定は任せる』
『了解しました』
サナと作戦を練っている間にも、ティナたちはミニチュアに追いかけ回されていた。
ただ逃げ回るだけではなく、適度に攻撃を放っては距離を取るというのを繰り返して、ケビンの放った魔法が効いているのか、少しずつ動きが悪くなりミニチュアたちも被弾する回数が増えている。
そんな中、ケビンは【マップ】により、名状しがたい何かたちをロックオンして、臨界ギリギリまで魔力を込めて凝縮した爆発魔法と同時に転移魔法を発動し、何処かわからない宇宙空間へとサナに制御を預けて転移させた。
「《転移》」
転移させられた名状しがたい何かたちは、急に視界が切り替わったことで若干の混乱状態に陥ったが、目の前の爆発寸前である魔法を視界内に収めると首を傾げて眺めていた。
「「「「Gyo?……」」」」
枷が無くなった爆発魔法は見る見るうちに膨張していき、その輝きは一層増していく。
「「「「――!!」」」」
目の前の魔法から身の危険を感じてしまった名状しがたい何かたちは、自らの力でその場から距離を置こうと離れ始めるが、そんなことはお構いなしに魔法は更に膨張を続けていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
地上では、夜の帳が指し迫ろうかとしている逢魔が時、大空に輝く1つの大きな物体に、母親と共に家へ帰ろうとしている子供がそれに気づいた。
「お母さん、お日様があるよ」
子供は空を指さして母親に伝えるが、そんな言葉に母親は笑いかけながら答えるのであった。
「お日様は今からおやすみの時間なのよ。今からはお月様が起きる時間なの」
「違うよぉ、だってあそこにお日様があるもん」
子供は母親と繋いだ手をグイグイと引っ張りながら、なおも空を指さしており、母親はそんな子供に釣られて指をさしている空へと視線を流した。
「え……うそ……」
「ね、言ったでしょ?」
子供は自分の言っていたことが間違いではないのだと、自慢げな表情を浮かべて母親へと声をかけるが、当の母親はそれどころではなかった。
そんな親子の光景を周りの者たちも気づき始め、同様に空へと視線を向けては、母親と同じように愕然とするのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――アリシテア王国・王城にて
慌ただしく国王の私室へとやって来る1人の騎士がいた。バタンと扉を勢いよく開けると跪き報告を上げる。
「も、申し上げます!」
「そんなに慌ててどうしたのだ?」
騎士の慌てぶりに、国王は咎めることはせず報告を促した。
「そ、空をご覧下さい!」
「空じゃと?」
騎士の言葉に聞き返している国王を他所に、一緒にいた王妃は椅子から立ち上がるとバルコニーへ足を運んだ。
「あ……あなた!」
王妃の焦りとも言える何かを感じ取った国王も、椅子から立ち上がりバルコニーへと向かって空を眺めると、そこには太陽と見間違うほどの大きな物体が浮かび上がっていた。
「な、なんじゃあれは!?」
国王が驚きの声を上げると、空にある大きな物体がひときわ輝いたあとに弾けてその姿を消滅させた。
「無く……なったのか……?」
「その……ようですわね」
「何も起こらんな……」
国王たちは空を眺め続けるが特にこれといって何も起こらず、肩透かしをくらったかのようになってしまうが、念のため騎士に指示を出すのであった。
「とりあえず、国内に何か被害が起こってないか、大至急調べあげるのだ!」
「か、畏まりました!」
騎士は、来た時と同様に慌ただしくその場を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ダンジョン
ケビンによって転移させられた名状しがたい何かたちがいなくなり、ティナたちはその場に腰を下ろして肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……ケ……ケビン君が……何かしたの?」
息も絶え絶えにティナがケビンへ尋ねると、ケビンがそれに答えた。
「この星の外に転移させたんだよ」
「……星? ……外?」
「まぁ、説明が面倒だから省くけど、簡単に言ったら人では辿り着けないような場所」
「よくわからないけど、もう安心していいのよね?」
「あいつらが戻ってこなければね」
「「「……」」」
戻ってくる可能性を示唆されたティナたちは、一様に顔を引き攣らせて嫌な汗を流すのであった。
『サナ、あいつらはどうなった?』
『魔法が爆発する前に、遠くへ離れようと動いていたみたいですが、爆発の運動エネルギーも相まって、かなり遠方に飛ばされたと思います』
『それじゃあ、問題ないな』
『その案件とは別に1つ、問題が発生しています』
『え!?……何?』
『地上で多くの者たちが爆発魔法を見ており、一時期パニックになった場所もあるようです』
『あぁ……黙っていれば俺だってわからないでしょ』
『はい。一部宗教においては神の御業として、何かのお告げだと囁かれておりますので』
『それなら放っておこう』
ケビンは地上のことなどお構いなしに、その話は打ち切るのであった。
ティナたちが嫌な疲れ方から回復すると、一行は最後の扉の前まで来ていた。
「これが最後よね?」
「そうあって欲しいけどね」
ケビンがその扉を開けると小部屋に魔法陣が設置してあり、外への転移魔法陣だと推察する。
「階段もないようだし、これで終わりみたいだ」
「それなら帰りましょうか?」
ケビンたちが魔法陣の上に乗ると、それが輝きだして転移魔法を発動するが、外へ出られると思っていたケビンたちは、薄暗い部屋の中にいたままであることに疑問を感じた。
「あれ?……失敗?」
ケビンは、視線を流すと奥に扉があることに気づく。
「まだ続きがあるようだよ?」
ケビンの言葉にティナたちも扉の存在に気付いて、一同は扉の前まで歩いて行くと躊躇いもなしにケビンが扉を開けた。
開かれた扉の先にはまたしても部屋があり、その奥には台座に置かれた水晶玉だけがポツンと存在していた。
「あれ、何かわかる?」
「わからないわ」
ティナの言葉にケビンは他の者へと視線を向けるが、ニーナやルルも首を横に振るだけで、ティナと同様にわからないようであった。
『サナ、あれは何だ? 予想ではダンジョンコアだと思うけど』
『その予想通りだと思われます』
『危険は?』
『ありません』
サナの言葉を聞いて危険がないと判断したケビンは、ダンジョンコアに近づいて行くと、おもむろに頭の中で機械音のような抑揚のない音声が聞こえてきた。
《マスター登録を開始します。コアへ接触を》
『水晶玉に触れればいいのか?』
《肯定》
水晶玉にケビンが触れると淡く輝きだして、次の言葉が聞こえてきた。
《マスター登録を完了しました》
そんなケビンの様子を、後ろから眺めていたティナたちが近づいてきて声をかけた。
「ケビン君、何をしているの?」
「これがマスター登録をするって言ってたから、言われた通りに触ってたんだよ」
「マスター登録?」
「多分だけど、このダンジョンが俺の物になった」
「ケビン様、凄いです!」
「それよりもケビン君、その水晶玉と会話してるの? 何も聞こえなかったけど」
「頭の中に、直接声が聞こえてくるんだよ」
「ふーん……」
ティナはイマイチ理解ができないのか、関心のない感じであった。
『なぁ、他の人たちにも声が届くように出来るか?』
《肯定。外部出力に切替開始……》
〈……完了。これにより、マスター以外の人物にも音声が届きます〉
今まで何も聞こえなかったティナたちが、その音声に反応した。
「ケビン君、声が聞こえてきた」
「不思議」
「水晶玉から聞こえますね」
「これがさっき言ってたやつだよ」
「それで、ダンジョンを手に入れて何が出来るの?」
ティナからご最もな意見が出てきたことで、ケビンはコアに確認することにした。
「なあ、マスターの出来ることって何だ?」
ケビンの質問にコアが答える。
〈ダンジョンの仕様変更が行えます〉
「具体的には?」
コアが説明したマスター権限は、以下の通りであった。
・ダンジョンの構造変更
・罠の配置、変更等
・宝箱の配置、変更等
・魔物の配置、変更等
・ボスの配置、変更等
・全ての作業において魔力が必要となる
・魔力の供給方法等
~コアに直接流し込む
~侵入者から吸収する(生命の危機はない)
~倒された魔物から一部還元する
・その他、付随する機能等
〈――以上です〉
「つまり、ダンジョンを好きに改造できるってことか?」
〈肯定〉
「ねぇ、ケビン君。ボス部屋に小細工が出来ないようにしたら?」
「ん? 何で?」
「鮮血の傭兵団に意趣返し出来るでしょ?」
「あぁ……確かに」
「そうすれば、今まで敬遠していた他の冒険者たちもダンジョンに来るようになって、魔力吸収の効率が上がるから一石二鳥じゃない?」
「ティナが冴えてる!?」
「ちょっ、ニーナ!」
ケビンはティナの意見を取り入れることにして、明くる日にダンジョンの改造を始めることにして、この日はマスタールームにある転移魔法陣で、外へと出るのだった。
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