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第7章 ダンジョン都市
第181話 駆逐してやる!
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家具を新調した翌日は1日お休みにして、街中でデートしたり部屋でのんびりしたりと、ティナたちも心身ともにリフレッシュできたようである。
そして2日後、ケビンたちは再びダンジョン攻略に向かった。
問題の41階層に下りると、すぐさまケビンは他の冒険者たちの有無を確認した。この階層からは、高い確率で狩場の独占を行っている可能性があったからだ。
ケビンの予想通りに、フロア内にはチラホラと冒険者を示すマーカーが【マップ】に表示されていた。
徘徊している冒険者たちには、まだ会ってもいないのでマーカーの色は中立を示す黄色であるが、相見えた時に赤色に変化するのは想像に難くない。
月光の騎士団であれば間違いなく敵対してくるだろう。奴隷落ちした団員らの情報は既に回っているはずである。
ケビンとしても、団長パーティー以外は今までの非道なる行いから、全て駆逐するつもりだった。
「少しいいかな? この階層からは、敵対してくる冒険者たちが出てくると思う。月光の騎士団たちの中で、団長パーティー以外の奴らは容赦しないことに決めている」
「いるの?」
「あぁ、この階層にチラホラ徘徊している月光の騎士団員がいる」
「鮮血の傭兵団は?」
「この階層にはいないみたいだ」
「そう。私たちはどうすればいい?」
「ティナさんたちは、いつも通り魔物でレベルアップしてもらう。対人はすべて俺が担当するよ」
「私たちも手伝うよ?」
「ティナさんたちに人殺し紛いのことはして欲しくないんだ。これは俺の自己満足だけど、ティナさんたちにはできる限り綺麗なままでいて欲しい。人殺しの汚れ仕事は俺だけで充分だよ」
「わかったわ」
「ごめんね、わがまま言って」
「大切にされていることがわかるから、喜びはあっても不満はないわ。ニーナたちも、それでいいわよね?」
「構わない」
「私は、ケビン様の指示に従うだけです」
やることも決まったところで、ケビンたちは魔物を倒しつつ冒険者の方へと向かって行った。
ワンフロアを探知できるケビンが先頭を歩き、ティナたちはその後に続いて、魔物がいるとケビンは後ろに下がり、代わりに前に出たティナたちが戦闘を行い、徐々に冒険者との距離を詰めていく。
やがて、徘徊している冒険者たちの声が聞こえ始めた。
「――にしてもよー、ったりぃよなー」
「仕方ないだろ。ジョニーたちの班が全員奴隷落ちしたんだ。ノルマをこなさないと、9階のヤリ部屋がなくなるぞ」
「それはいただけねえ。ったくドジ踏みやがって……あれだけヤッた後はチクられないように、脅しておけって言ったのによ」
「全くだ。折角、団長を丸め込んで借りてるのに、無駄になるじゃねえか」
「その通りだ。俺たちの演技力を返せってんだ」
「ははっ、しかしありゃあ、傑作だったな。鮮血の傭兵団に負けないよう月光の騎士団の凄さを知らしめるために、俺たちで9階を借り続けるって言ったら、泣いて喜んでたしな」
「そのおかげで、俺たちが9階を自由にできるんだ。団長は少しでも出費を減らすために、6階に留まってるしな」
「団長様様だぜ」
聞けば聞くほどゲスな内容の冒険者たちの会話に、ケビンは同情の余地なしと判断するのである。
やがて、5人の冒険者たちの背後にケビンが姿を現す。
「なぁ、ちょっといいか?」
聞きなれない声にいきなり呼びかけられたことで、冒険者たちは一瞬ビクッとして背後を振り返ると、そこには子供と綺麗どころの女性たちが佇んでいた。
「何だぁ? 子供が何か用か? それよりもどうやってここまで来た?」
「普通に歩いて来たけど?」
「ちっ! ふざけたこと抜かしやがって」
「おい、それよりも後ろの女たちを見ろよ」
「ひひっ、たまんねえな」
冒険者たちは下卑た笑いを浮かべながら、ティナたちを舐めまわすように視線を向けた。一方ティナたちは、ケビンが負けるはずないことを知っているので、ゲスな視線など何処吹く風である。
「あんたらは月光の騎士団で間違いないか? さっきの話を聞く限り、間違いないと思うが」
「ああ? それがどうしたよ?」
「話を聞かれてたなら、生かして帰せねえな」
「どっちみち殺すんだろ? 後ろの姉ちゃんたちと遊ぶのにも邪魔だしな」
「違いねえ。エルフは俺が先に味見するぜ? 早くあの胸にむしゃぶりつきてぇ」
「そうか……ジョニーたちが言ってた通り、クズみたいだな」
ケビンのその言葉に、冒険者たちは眉をピクっと反応させた。
「てめぇ、今ジョニーって言ったか?」
「それがどうした?」
「ジョニーたちを奴隷に落としたのは、お前たちか?」
「だったらどうする?」
「ますます帰せなくなったな」
「どっちみち、殺すつもりだったんだろ? 遠慮はいらない、かかってこいよ」
「ガキがっ! 死にさらせやっ!」
5人の冒険者たちの内、1人が剣を抜き襲いかかってくるとケビンは躊躇うことなく斬り捨てた。
首と体がわかたれた冒険者はそのまま事切れ、ゴロゴロと転がった頭部の視線が、残りの冒険者たちの方へと向く。
「先ず1人だな」
「なっ!?」
「ぜ、全員でかかるぞ! 魔法もどんどん打ち込め!」
その号令とともに、前衛担当である者は各々の武器を抜き放ち、後衛担当の魔法使いは詠唱を始める。
「――《ファイアランス》」
魔法使いが魔法を唱えると、魔法名だけが響きわたり辺りには何の変化も起こらなかった。
「……へ?」
間抜けな魔法使いの声が漏れると、仲間からの怒号が飛ぶ。
「何やってんだ! さっさと撃てよ!」
「撃ったさ! 魔法を唱えてるのに、発動しねえんだよ!」
魔法使いは、何が何だかわからない様子で混乱しているが、もう1人魔法使いがいたようで、そちらでも同じような事象が起こる。
「――《ロックバレット》」
…………
「どうした? 魔法を撃たないのか? わざわざ待っててやってるんだ、さっさと魔法を撃ってくれよ」
「――《ファイアランス》!」
「――《ウォーターアロー》!」
「――《ウインドカッター》!!」
「――《ライトニングアロー》!!」
次々と詠唱をしては魔法名ばかりが響きわたる現象に、否応なく今あるべき状態が異常であることに、前衛担当の者たちも気づき始めた。
「どうなってやがる……」
「もう終わりか? ただ叫んでるだけだったな。発声練習でもしたかったのか?」
「てめぇ、何しやがった!?」
「お前たちの知る必要のないことだ。つまらん茶番劇が終わったのなら、このお遊戯会も閉会しないとな」
ケビンは特に構えるでもなく平然と歩き、冒険者たちとの間合いを詰めていく。
「くっ、このっ!」
わけのわからない状況に先走った冒険者がケビンに斬り掛かるが、ケビンの手元がブレただけでその冒険者の首は飛んだ。
「2人目」
「ひぃっ!」
先程まで威勢のよかった冒険者たちも、目の前の一方的な蹂躙の前にただただ恐怖を抱くしかなく、その思いに顔を歪めた。
「た、助けてくれ! 何でもする! 何でもするから!!」
「わかった」
腰を抜かし後退りをする冒険者が命乞いをすると、ケビンが了承したと思ったのか安堵の表情を浮かべたが、次に続いた言葉で絶望する。
「それなら……死ね」
「そん――」
体とわかたれた首が転がると、最後の言葉を口にした。
「――な……」
残されたのは魔法の使えない魔法使いだけで、既に2人とも戦意を喪失して、目の前の光景に腰を抜かし失禁していた。
「お前らに、聞きたいことがあるんだが」
「「ひ、ひぃぃぃっ!」」
ケビンの問いかけに魔法使いたちは後退りをする余裕もなく、悲鳴を上げるだけだった。
「お前たちは、班で行動しているのか?」
「「……」」
「答えるか死ぬか選べ」
「こ、こ、答えます! 俺たちは、10名で1組の班行動をしています」
「それにしては、ここに5名しかいないようだが、残りはどうした?」
「ダンジョン内では5名2組で行動して、素材の収集にあたっています」
「ジョニーみたいな、班のまとめ役はいるのか?」
「はい、もう1組の方にいます」
「残りの班は?」
「42階層と43階層に、それぞれ1班ずついます」
「団長パーティーは?」
「43階層を攻略中です」
「ボス部屋の細工はお前たちか?」
「い、いえ、あれは鮮血の傭兵団の仕業です。狩場の独占を図った小細工でしたが、数を揃えられる俺たちには無意味でした」
「わかった。ご苦労だったな」
「いえ、滅相もありません!」
「ところで、言葉を失った魔法使いは、冒険者として生きていけると思うか?」
「「……」」
魔法使いたちは、一体何のことを聞かれているのか理解できずに沈黙する。
「答えはNOだ」
それだけ言うと、ケビンは魔法使い2人の喉を斬り裂いて、絶命しないようにすぐさま回復魔法をかけた。
「「――!!」」
「念のため、ついでに利き腕も貰っておくぞ?」
「「んーんー!!」」
何かを訴えている魔法使いたちのことは気にもとめず、ケビンは右腕を斬り飛ばして同じように回復魔法をかけた。
一通りの作業が終わったと感じたのか、ティナがケビンに語りかけた。
「その人たちは殺さないの? てっきり奴隷にするのは止めて、殺していくのかと思ったけど」
「一応、有益な情報を提供してくれたからね。生かして奴隷に落とす」
「後のことを考えると、死んだ方がマシだったかもね」
「死んだ方がマシと思えるなら、償うには充分だろ」
「殺してしまった方はもったいないことしたね。楽に死ねたんだし」
「そうか、そう考えると惜しいことをしたね。償いをさせるべきだったか……」
「いつになく怒ってたものね。やっぱり女性のことで?」
「そうだね。無力な女性相手に暴力を振るうのが許せなくてね。それも、心に残り続けるタチの悪い暴力を」
「私からしたら、ホイホイついて行った女の子もどうかと思うけど? 無理矢理連れて行ったわけじゃないんだし、部屋に連れ込まれたらそういうことになるって、簡単に想像できるよ?」
「そういった見解もできるね」
「そうだよ。付き合ってデートを重ねて純愛してたわけでもないんだし、その日に会ったばかり人たちの部屋で、相手のお金でご飯食べたりお酒飲んだりして楽しんでおいて、『そんなつもりはなかったの』なんてまかり通らないと思うよ。公の酒場とは違うんだし」
「そう言われると、そうだけどね」
「ケビン君は優しすぎるんだよ。私はどっちもどっちだと思う」
「他の2人もそう思う?」
「私もティナと同意見。考えが浅はか」
「私もです。そもそも、その女の子たちはチヤホヤされて浮かれていたのでしょう。普通の考えができていたのなら、男たちのいる部屋について行ったりしませんよ。相手は荒くれ者の冒険者たちですから」
「それじゃあ、班のリーダー以外は殺して、リーダーは団長に突き出した上で、奴隷落ちさせようか?」
「それでいいと思うわ」
「賛成」
「問題ないです」
パーティーの方針が決まったところで、俺たちは同階層にいる残りの冒険者たちのところへと向かって行く。
生かしておいた魔法使いたちには、遮断の結界を施し後ろから着いてくるように伝えてある。
結界から外に出ようとしても出られず、呻き声を上げても外には何も聞こえず、作業を邪魔しないのであれば外まで連れて行ってやると伝えたら、その場で放置されたくないのか、生き残るために大人しくしている。
そのまま41階層にいる残りの冒険者たちに追いつくと、リーダーを残してあとの冒険者たちは始末した。
リーダーも魔法使いと同じように結界の中にぶち込んで、後ろから着いてくるように伝えてある。
そうして、41階層に引き続き42階層もリーダーだけを残して、残りの冒険者たちはこの世とおさらばしてもらった。
43階層へ下りた俺たちはひとまず昼休憩をしてから、この階層にいる班員を始末することにした。
「ほれ、お前たちも食え」
ケビンは結界内の冒険者たちに、携帯食料を手渡してやるのだった。
「ケビン君、優しいね。犯罪者なんて放っておけばいいのに」
「自己満足だよ。俺が美味しくルルの食事を食べるためさ」
ケビンたちはいつも通りに、ダンジョン内であるにも関わらずピクニック仕様の食事を楽しんでいた。
捕まっている冒険者たちは、ダンジョン内でするべき行為ではないことが目の前で繰り広げられていたことに、唖然としながらも手渡された携帯食料を食べている。
しばらくして食事休憩も終わり、いよいよ残りの残党狩りへと繰り出して、ケビンたちは43階層を攻略し始めた。
ケビンが【マップ】を見ると、団長パーティーは他の冒険者たちとは離れた場所を徘徊しており、残党狩りの最中に鉢合わせることもないようなので、ケビンは心置きなく作業を開始する。
やがて、43階層のリーダーも捕らえると、ケビンはいよいよもって団長パーティーの所へと足を運ぶのだった。
「今からお前らの団長さんの所へ挨拶しに行くから、面白い言い訳を一所懸命に考えておいてくれよ?」
ケビンの言葉に団員たちは顔を青ざめさせている者や、全てを諦めている者など様々な様相をして見せたのだった。
そして2日後、ケビンたちは再びダンジョン攻略に向かった。
問題の41階層に下りると、すぐさまケビンは他の冒険者たちの有無を確認した。この階層からは、高い確率で狩場の独占を行っている可能性があったからだ。
ケビンの予想通りに、フロア内にはチラホラと冒険者を示すマーカーが【マップ】に表示されていた。
徘徊している冒険者たちには、まだ会ってもいないのでマーカーの色は中立を示す黄色であるが、相見えた時に赤色に変化するのは想像に難くない。
月光の騎士団であれば間違いなく敵対してくるだろう。奴隷落ちした団員らの情報は既に回っているはずである。
ケビンとしても、団長パーティー以外は今までの非道なる行いから、全て駆逐するつもりだった。
「少しいいかな? この階層からは、敵対してくる冒険者たちが出てくると思う。月光の騎士団たちの中で、団長パーティー以外の奴らは容赦しないことに決めている」
「いるの?」
「あぁ、この階層にチラホラ徘徊している月光の騎士団員がいる」
「鮮血の傭兵団は?」
「この階層にはいないみたいだ」
「そう。私たちはどうすればいい?」
「ティナさんたちは、いつも通り魔物でレベルアップしてもらう。対人はすべて俺が担当するよ」
「私たちも手伝うよ?」
「ティナさんたちに人殺し紛いのことはして欲しくないんだ。これは俺の自己満足だけど、ティナさんたちにはできる限り綺麗なままでいて欲しい。人殺しの汚れ仕事は俺だけで充分だよ」
「わかったわ」
「ごめんね、わがまま言って」
「大切にされていることがわかるから、喜びはあっても不満はないわ。ニーナたちも、それでいいわよね?」
「構わない」
「私は、ケビン様の指示に従うだけです」
やることも決まったところで、ケビンたちは魔物を倒しつつ冒険者の方へと向かって行った。
ワンフロアを探知できるケビンが先頭を歩き、ティナたちはその後に続いて、魔物がいるとケビンは後ろに下がり、代わりに前に出たティナたちが戦闘を行い、徐々に冒険者との距離を詰めていく。
やがて、徘徊している冒険者たちの声が聞こえ始めた。
「――にしてもよー、ったりぃよなー」
「仕方ないだろ。ジョニーたちの班が全員奴隷落ちしたんだ。ノルマをこなさないと、9階のヤリ部屋がなくなるぞ」
「それはいただけねえ。ったくドジ踏みやがって……あれだけヤッた後はチクられないように、脅しておけって言ったのによ」
「全くだ。折角、団長を丸め込んで借りてるのに、無駄になるじゃねえか」
「その通りだ。俺たちの演技力を返せってんだ」
「ははっ、しかしありゃあ、傑作だったな。鮮血の傭兵団に負けないよう月光の騎士団の凄さを知らしめるために、俺たちで9階を借り続けるって言ったら、泣いて喜んでたしな」
「そのおかげで、俺たちが9階を自由にできるんだ。団長は少しでも出費を減らすために、6階に留まってるしな」
「団長様様だぜ」
聞けば聞くほどゲスな内容の冒険者たちの会話に、ケビンは同情の余地なしと判断するのである。
やがて、5人の冒険者たちの背後にケビンが姿を現す。
「なぁ、ちょっといいか?」
聞きなれない声にいきなり呼びかけられたことで、冒険者たちは一瞬ビクッとして背後を振り返ると、そこには子供と綺麗どころの女性たちが佇んでいた。
「何だぁ? 子供が何か用か? それよりもどうやってここまで来た?」
「普通に歩いて来たけど?」
「ちっ! ふざけたこと抜かしやがって」
「おい、それよりも後ろの女たちを見ろよ」
「ひひっ、たまんねえな」
冒険者たちは下卑た笑いを浮かべながら、ティナたちを舐めまわすように視線を向けた。一方ティナたちは、ケビンが負けるはずないことを知っているので、ゲスな視線など何処吹く風である。
「あんたらは月光の騎士団で間違いないか? さっきの話を聞く限り、間違いないと思うが」
「ああ? それがどうしたよ?」
「話を聞かれてたなら、生かして帰せねえな」
「どっちみち殺すんだろ? 後ろの姉ちゃんたちと遊ぶのにも邪魔だしな」
「違いねえ。エルフは俺が先に味見するぜ? 早くあの胸にむしゃぶりつきてぇ」
「そうか……ジョニーたちが言ってた通り、クズみたいだな」
ケビンのその言葉に、冒険者たちは眉をピクっと反応させた。
「てめぇ、今ジョニーって言ったか?」
「それがどうした?」
「ジョニーたちを奴隷に落としたのは、お前たちか?」
「だったらどうする?」
「ますます帰せなくなったな」
「どっちみち、殺すつもりだったんだろ? 遠慮はいらない、かかってこいよ」
「ガキがっ! 死にさらせやっ!」
5人の冒険者たちの内、1人が剣を抜き襲いかかってくるとケビンは躊躇うことなく斬り捨てた。
首と体がわかたれた冒険者はそのまま事切れ、ゴロゴロと転がった頭部の視線が、残りの冒険者たちの方へと向く。
「先ず1人だな」
「なっ!?」
「ぜ、全員でかかるぞ! 魔法もどんどん打ち込め!」
その号令とともに、前衛担当である者は各々の武器を抜き放ち、後衛担当の魔法使いは詠唱を始める。
「――《ファイアランス》」
魔法使いが魔法を唱えると、魔法名だけが響きわたり辺りには何の変化も起こらなかった。
「……へ?」
間抜けな魔法使いの声が漏れると、仲間からの怒号が飛ぶ。
「何やってんだ! さっさと撃てよ!」
「撃ったさ! 魔法を唱えてるのに、発動しねえんだよ!」
魔法使いは、何が何だかわからない様子で混乱しているが、もう1人魔法使いがいたようで、そちらでも同じような事象が起こる。
「――《ロックバレット》」
…………
「どうした? 魔法を撃たないのか? わざわざ待っててやってるんだ、さっさと魔法を撃ってくれよ」
「――《ファイアランス》!」
「――《ウォーターアロー》!」
「――《ウインドカッター》!!」
「――《ライトニングアロー》!!」
次々と詠唱をしては魔法名ばかりが響きわたる現象に、否応なく今あるべき状態が異常であることに、前衛担当の者たちも気づき始めた。
「どうなってやがる……」
「もう終わりか? ただ叫んでるだけだったな。発声練習でもしたかったのか?」
「てめぇ、何しやがった!?」
「お前たちの知る必要のないことだ。つまらん茶番劇が終わったのなら、このお遊戯会も閉会しないとな」
ケビンは特に構えるでもなく平然と歩き、冒険者たちとの間合いを詰めていく。
「くっ、このっ!」
わけのわからない状況に先走った冒険者がケビンに斬り掛かるが、ケビンの手元がブレただけでその冒険者の首は飛んだ。
「2人目」
「ひぃっ!」
先程まで威勢のよかった冒険者たちも、目の前の一方的な蹂躙の前にただただ恐怖を抱くしかなく、その思いに顔を歪めた。
「た、助けてくれ! 何でもする! 何でもするから!!」
「わかった」
腰を抜かし後退りをする冒険者が命乞いをすると、ケビンが了承したと思ったのか安堵の表情を浮かべたが、次に続いた言葉で絶望する。
「それなら……死ね」
「そん――」
体とわかたれた首が転がると、最後の言葉を口にした。
「――な……」
残されたのは魔法の使えない魔法使いだけで、既に2人とも戦意を喪失して、目の前の光景に腰を抜かし失禁していた。
「お前らに、聞きたいことがあるんだが」
「「ひ、ひぃぃぃっ!」」
ケビンの問いかけに魔法使いたちは後退りをする余裕もなく、悲鳴を上げるだけだった。
「お前たちは、班で行動しているのか?」
「「……」」
「答えるか死ぬか選べ」
「こ、こ、答えます! 俺たちは、10名で1組の班行動をしています」
「それにしては、ここに5名しかいないようだが、残りはどうした?」
「ダンジョン内では5名2組で行動して、素材の収集にあたっています」
「ジョニーみたいな、班のまとめ役はいるのか?」
「はい、もう1組の方にいます」
「残りの班は?」
「42階層と43階層に、それぞれ1班ずついます」
「団長パーティーは?」
「43階層を攻略中です」
「ボス部屋の細工はお前たちか?」
「い、いえ、あれは鮮血の傭兵団の仕業です。狩場の独占を図った小細工でしたが、数を揃えられる俺たちには無意味でした」
「わかった。ご苦労だったな」
「いえ、滅相もありません!」
「ところで、言葉を失った魔法使いは、冒険者として生きていけると思うか?」
「「……」」
魔法使いたちは、一体何のことを聞かれているのか理解できずに沈黙する。
「答えはNOだ」
それだけ言うと、ケビンは魔法使い2人の喉を斬り裂いて、絶命しないようにすぐさま回復魔法をかけた。
「「――!!」」
「念のため、ついでに利き腕も貰っておくぞ?」
「「んーんー!!」」
何かを訴えている魔法使いたちのことは気にもとめず、ケビンは右腕を斬り飛ばして同じように回復魔法をかけた。
一通りの作業が終わったと感じたのか、ティナがケビンに語りかけた。
「その人たちは殺さないの? てっきり奴隷にするのは止めて、殺していくのかと思ったけど」
「一応、有益な情報を提供してくれたからね。生かして奴隷に落とす」
「後のことを考えると、死んだ方がマシだったかもね」
「死んだ方がマシと思えるなら、償うには充分だろ」
「殺してしまった方はもったいないことしたね。楽に死ねたんだし」
「そうか、そう考えると惜しいことをしたね。償いをさせるべきだったか……」
「いつになく怒ってたものね。やっぱり女性のことで?」
「そうだね。無力な女性相手に暴力を振るうのが許せなくてね。それも、心に残り続けるタチの悪い暴力を」
「私からしたら、ホイホイついて行った女の子もどうかと思うけど? 無理矢理連れて行ったわけじゃないんだし、部屋に連れ込まれたらそういうことになるって、簡単に想像できるよ?」
「そういった見解もできるね」
「そうだよ。付き合ってデートを重ねて純愛してたわけでもないんだし、その日に会ったばかり人たちの部屋で、相手のお金でご飯食べたりお酒飲んだりして楽しんでおいて、『そんなつもりはなかったの』なんてまかり通らないと思うよ。公の酒場とは違うんだし」
「そう言われると、そうだけどね」
「ケビン君は優しすぎるんだよ。私はどっちもどっちだと思う」
「他の2人もそう思う?」
「私もティナと同意見。考えが浅はか」
「私もです。そもそも、その女の子たちはチヤホヤされて浮かれていたのでしょう。普通の考えができていたのなら、男たちのいる部屋について行ったりしませんよ。相手は荒くれ者の冒険者たちですから」
「それじゃあ、班のリーダー以外は殺して、リーダーは団長に突き出した上で、奴隷落ちさせようか?」
「それでいいと思うわ」
「賛成」
「問題ないです」
パーティーの方針が決まったところで、俺たちは同階層にいる残りの冒険者たちのところへと向かって行く。
生かしておいた魔法使いたちには、遮断の結界を施し後ろから着いてくるように伝えてある。
結界から外に出ようとしても出られず、呻き声を上げても外には何も聞こえず、作業を邪魔しないのであれば外まで連れて行ってやると伝えたら、その場で放置されたくないのか、生き残るために大人しくしている。
そのまま41階層にいる残りの冒険者たちに追いつくと、リーダーを残してあとの冒険者たちは始末した。
リーダーも魔法使いと同じように結界の中にぶち込んで、後ろから着いてくるように伝えてある。
そうして、41階層に引き続き42階層もリーダーだけを残して、残りの冒険者たちはこの世とおさらばしてもらった。
43階層へ下りた俺たちはひとまず昼休憩をしてから、この階層にいる班員を始末することにした。
「ほれ、お前たちも食え」
ケビンは結界内の冒険者たちに、携帯食料を手渡してやるのだった。
「ケビン君、優しいね。犯罪者なんて放っておけばいいのに」
「自己満足だよ。俺が美味しくルルの食事を食べるためさ」
ケビンたちはいつも通りに、ダンジョン内であるにも関わらずピクニック仕様の食事を楽しんでいた。
捕まっている冒険者たちは、ダンジョン内でするべき行為ではないことが目の前で繰り広げられていたことに、唖然としながらも手渡された携帯食料を食べている。
しばらくして食事休憩も終わり、いよいよ残りの残党狩りへと繰り出して、ケビンたちは43階層を攻略し始めた。
ケビンが【マップ】を見ると、団長パーティーは他の冒険者たちとは離れた場所を徘徊しており、残党狩りの最中に鉢合わせることもないようなので、ケビンは心置きなく作業を開始する。
やがて、43階層のリーダーも捕らえると、ケビンはいよいよもって団長パーティーの所へと足を運ぶのだった。
「今からお前らの団長さんの所へ挨拶しに行くから、面白い言い訳を一所懸命に考えておいてくれよ?」
ケビンの言葉に団員たちは顔を青ざめさせている者や、全てを諦めている者など様々な様相をして見せたのだった。
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クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
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