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第7章 ダンジョン都市

第171話 反復練習

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 ドワンに頼んだ装備品が出来るまで、ケビンたちはダンジョンの浅層で連携の練習をしていた。

 ケビンの【マップ】により、ダンジョン内の道は勿論のこと、トラップやモンスターまでもが丸裸にされている。

 しかし、ケビンはそれらをティナたちには教えずに、危険度がまだ低い浅層で経験を積んでもらうべく、本人たちに任せている状態だった。

 そんなことを日々繰り返していたら、ある程度の連携は取れてきて、大きなミスもなく10階層まで攻略出来ていた。

 10階層のボスモンスターはゴブリンキングで、その他にゴブリンジェネラル×1、ゴブリンナイト×5、ゴブリンメイジ×4、ゴブリン×10と選り取りみどりの目白押しであった。

 何故に10階層で、これだけのモンスターが出揃ってしまっているのか、ケビンは疑問に思いつつも、とりあえずは様子見に徹することにした。

「ティナさん、戦闘指揮は任せるよ。危険になったら介入するから」

「わかったわ。ルル、先ずは雑魚から対処して。ニーナはデカい奴らを足止めして。私はメイジを先に始末するわ」

「わかりました」

「わかった」

 それぞれが動き出し、自分のターゲットへと攻撃を繰り出す。ルルは前衛職のため、素早く敵との距離を詰めてゴブリンどもを蹴散らしていき、それに気を取られていたゴブリンナイトが詰めよろうと襲いかかるが、ニーナの魔法により出鼻を挫かれて足止めをくらってしまう。

 それを見て、ゴブリンメイジも負けじと魔法を使おうとするが、発動速度がティナの弓には勝てず、その身に矢を受けてしまっていた。

 ここまでは順調のようであるが、物量の差はどうしても埋めれないために、手空きである他のゴブリンナイトが、ゴブリンジェネラルの指揮の元、ルルへと向かい始めて襲いかかっていた。

 必死に避けつつもゴブリンを狩っていくルルは、正に紙一重と言ったところだ。高い集中力で今はまだ避けれてはいるが、そのうち攻撃をもらうことは目に見えていた。

 ゴブリンメイジも、矢を受けていない者は魔法を発動しており、攻撃対象とされているのは後衛のティナとニーナだ。

 一気に魔法を発動するのではなく時間差で発動して、間断なく攻撃を繰り広げられて、休む間もなく避け続けなければならない状況を、ゴブリンジェネラルによって作りだされていた。

 ティナは身軽なので難なく避けて回るが、ニーナは避けれても詠唱をストップさせてしまい、込めていた魔力が霧散してしまう。

 そんなところでルルが危険になりつつあるので、後方で戦況を見守っていたケビンが、手を出すことにして戦場へ加わった。

「《瞬迅》」

 瞬く間に間合いを詰めたケビンが、ルルに群がっていたゴブリンナイトたちを、両手に持つ刀で斬り伏せた。

 それによりゴブリンナイトは全滅してしまい、ルルの周りにはゴブリンしか残らず、先程までの危機感は無くなっていた。

 ケビンが元の位置に戻ると、危ぶまれていた戦況は何とか持ち直すことができたようである。

 ティナはゴブリンメイジの魔法を避けつつも、矢を放ち続けて全滅へ追い込んでいる。

 ニーナも魔法が飛んでこなくなったので、それにより落ち着いて詠唱を始めることができた。

 ルルがゴブリンを殲滅すると、残るはゴブリンジェネラルとゴブリンキングだけになった。ここまできたらあとは簡単に処理できる。

 ゴブリンキングの相手をルルがしている間に、ティナとニーナでゴブリンジェネラルを仕留めると、3人の攻撃はキングに集中した。

 ルルがチョロチョロと動き回りゴブリンキングを翻弄すると、その隙を狙ってティナが矢を放つ。ニーナの詠唱が終わると、ルルは距離を取って戦況を見守る。

 そんなことを繰り返していたら、ゴブリンキングは力尽きて倒れてしまい、光の粒子となり消えていって、そこに残されたのはいくつかの宝箱だけであった。

「お疲れ様」

「ケビン君、ごめん。手を煩わせてしまったわ」

「ルルが危なかった」

「そうだね。指揮の仕方を失敗したね」

「うぅ……」

「私ならまだ避けれていたので、問題ないですよ」

「ルルが避けれていても、あのままだと負けるのは時間の問題だったんだよ」

 ケビンの感想に、ティナは落胆するのだった。

「ちなみに、ケビン君ならどう指揮してた?」

「俺なら、ルルにはメイジをさっさと始末させたね。ゴブリンに比べて数も少なかったし、ルルのスピードならそれが可能であるのは、ここに来るまでにわかっていたことだから。ただのゴブリンより、メイジに魔法をどんどん撃ち込まれる方が危険だからね。今回は途中からそうなったでしょ?」

「確かに、詠唱の邪魔された」

「それからティナさんには、ゴブリンの相手をしてもらって、ニーナさんには、範囲魔法で蹴散らしてもらうかな。集団戦でこちらが少数なのに、牽制なんてしてたら、あっという間に戦況は逆転するよ。先ずは厄介な奴を優先して倒して、それと並行して相手の数を減らすことが先決だね」

「そっかぁ……立ち上がりの作戦から間違ってたのね」

「ルルがメイジを倒すのに大した時間なんてかからないから、それが終わり次第、ナイトの相手をさせておけばいいんだよ。ヒット・アンド・アウェイで、タゲ取りをしつつ敵を翻弄してもらってる間に、ニーナさんの範囲魔法をドカンとぶち込めば、敵に大打撃を与えれたからね」

「勉強になるなぁ。戦闘指揮なんて、今まではガルフかケビン君がしていたし、私はまだまだだね」

 それから宝箱の中身を確認すると、キングのものであろう大きな魔石が入っていた。他にはゴブリン関係の素材が入っており、売却決定の中身だった。

「それにしても、ボス部屋の魔物は思ってたよりも数が多かったよね。あれだと、複数パーティーで挑むのも納得できるね」

「外でクエストを受けたとしても、2パーティーは欲しいところね。若しくは、バランスのとれた強い5人パーティー1つかな」

「まぁ、今回は3人で挑んだから、数の不利は否めないね。その中であれだけの戦いができたんだから、凄いことだと思うよ」

「私は、詠唱を途切れさせないように頑張る」

「それには高い集中力が必要だから頑張ってね。あとは、詠唱速度を上げる練習だね。上手くいけば戦力アップは間違いないよ」

「ケビン様、私はどのようにしたら良いでしょうか?」

「ルルの場合だと、母さんと同じようにスピードファイターになった方がいいかな。前線を引っ掻き回して敵を翻弄する役目で、小柄だからそっちの方が合ってる気がする」

「ケビン君、私は?」

「ティナさんは、早撃ちの練度を上げる方向性で。それが出来たら、次は同時撃ちかな。今はまだ1本1本矢を番えているけど、同時撃ちの連射が出来たら、手数が増える分戦闘も安定するよ」

「そっかぁ。それぞれの目標もできたことだし、この後はどうするの?」

「ここのボスを安定して攻略できるまでは、1階層目から繰り返し練習を続けることにしようか?」

「そうね。ある程度連携が身に付くまでは、練習あるのみよね」

 この日は先へとは進まずに一旦外へと出てから、また1階層目から攻略を開始した。

 そんなことを毎日繰り返していたらあっという間に1週間が過ぎて、ケビンたちはドワンの所へと装備品の受け取りに再び来ていた。

 ルルの新しい装備は、ショートソードと前腕部に取り付けられるバックラーに、胸当て、篭手、脛当てと簡素なものだった。

 身軽に動けるようにと、ルル自身がドワンに伝えた注文通りとなっている。スピードファイターを目指す上では、これ以上ない仕上がりだろう。

 ドワンの店を後にしたケビンたちは宿屋へと戻り、本格的なダンジョン攻略を翌日から開始することにした。

 今となっては、危なげなく10階層のボスモンスターを倒せるようになっているので、最初に比べると目まぐるしい成長だとも言える。

 一旦、明日に備えて備品の買い出しと、ギルドへ溜まった素材の売却に出かけることにした。

「すみません、素材の買取をお願いしたいのですが」

 ケビンは受付嬢に伝えると、売却する素材を出すように言われたので、その場にどんどん積み上げていく。

「ちょ、ちょっと、まだあるんですか!?」

「ありますよ」

「出すのは解体場でお願いします! これ以上は、カウンターに乗り切らないので」

 仕方なく出した素材を収納しなおして、受付嬢に先導される形で解体場へと足を運んだ。

「ここでお願いします」

「広さがあるし、種類ごとに分類して出しますね。そっちの方がいいですよね?」

「助かります」

 ケビンは、収納から種類ごとに素材を積み上げていき、ダンジョンの10階層までに得られる素材を順々に並べていく。

「これ、何十日分ですか? 出来ればちょくちょくと売却しに来て欲しいのですが……」

「大体1週間分ですね。10階層までをずっと繰り返し攻略していましたので」

「い、1週間!?」

 目の前に並べられていく素材は、どう見ても1週間で集めきれる量ではなかった。

 それもそのはず、ケビンたちはある程度連携が固まったら攻略スピードも上がり、10階層まですぐに到着できるようになっていたので、あとはひたすらにケビンの転移魔法でボス部屋のみを攻略し続けていたのだ。

「……手続きをしますので戻りましょう」

 半ば放心状態で抑揚のない声を出し、フラフラと受付嬢が戻っていくので、ケビンたちもその後に続いた。

「ギルドカードの提出をお願いします」

 ケビンは言われた通りにギルドカードを提出すると、またもや驚かれてしまった。

「え、Aランク!?」

 その様子にゲンナリとするケビンだが、ここで時間を潰したくもないので、受付嬢に声を掛ける。

「手続きを済ませて下さい」

「……わ、わかりました」

 そそくさと手続きをしている受付嬢をぼーっと眺めていると、受付嬢の手が止まったのでケビンは声を掛けた。

「どうかされました?」

「あ、あの……クランメンバーが4名だけなんですけど……」

「そりゃそうでしょう。パーティーメンバーしか在籍していないんですから」

 当たり前のようにケビンが答えると、受付嬢は信じられないものでも見たかのように問いかける。

「……あの量を、貴方のクランだけで手に入れたんですか? 大手クランと協力とかではなく?」

 受付嬢は先程の素材の量を大手クランと協力して、クランメンバー総出で手に入れた物だと勝手に思い込んでいたのだ。

「そうですよ。他のクランと協力なんてするつもりはないですから。大手ってあの有名な2つのクランでしょ? 聞く限りじゃ、面倒くさいことこの上ないですね」

「……ハ……ハハ……」

 瞳から光を失った受付嬢は何処か遠くを見つめていたが、ケビンは話を進めていく。

「今回の報酬は、クランメンバーで等分しておいて下さい。もし端数が出た場合は、俺の口座に入れておいて下さい」

「……りょ……了解しました」

「では、これで」

 ケビンはもう用はないとばかりにその場を立ち去ると、受付嬢は未だに虚空を見つめ続けるのであった。
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