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第6章 これからの活動に向けて
第165話 王妃と王女と婚約と
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ケビンが客室へ戻ると、くつろいでいたティナたちが声をかけながら出迎えてくれた。
「おかえり、ケビン君」
「おかえり、長かったね」
「ただいま、2人とも。遅くなったのは予定外のことが起きたからだよ」
「予定外?」
「3件分の事件解決の報奨として、伯爵になっちゃった」
「「伯爵ぅぅぅっ!?」」
2人は驚いて目が点となり、それを見たケビンは耐えきれずに笑ってしまう。
「ははっ、今日から俺は伯爵様になったんだよ」
「貴族の息子から、まさかの独立した貴族になるなんて……」
「しかも、実家よりも家格の高い伯爵家……」
「それには理由もあって、王女様を降嫁させるために伯爵位を用意したみたいだよ」
「それって、この前話してた第3王女殿下のことよね?」
「ケビン君、婚約したの?」
「婚約はまだしてない。話すらしたこともない相手とはできないよ。全部マリーさんの策謀だったから、マリーさんに王女様と会うまでは保留にするって言ってきたから」
「え……ケビン君、謁見中にそんなこと言ったの?」
「言ったよ。マリーさんに謀られたと思うと畏まるのも馬鹿らしくなってね、いつも通りの態度に変えたんだよ」
「よく不敬罪にならなかったね」
「そこは大目に見てくれたんじゃない? 陛下の言葉を賜っている時から結構不敬と思われる態度になったし。最初はちゃんとしてたんだけどね、色々と1度に起こりすぎたから疲れたんだよ」
「ケビン君の大物感がハンパない……」
「ケビン君、凄すぎ……」
2人はケビンの謁見中の態度に、ありえないほどの大物感を感じ取ってしまい、半ば呆れるのだった。
「それと、夕食に招待されたから2人も参加してね」
「無理無理無理無理無理!」
「吐きそう……」
「うーん、今のうちに慣れておかないと、これからが大変になるよ? 俺と結婚するつもりなら伯爵夫人になるんだし、こういう機会は多くなると思うよ。それとも結婚するの辞める? それはそれで構わないけど?」
ケビンは優しくするよりも現実を突きつけることにして、2人の覚悟を決めさせることにした。
「それはもっと嫌! 何が待ち構えていても、絶対ケビン君のお嫁さんになる!」
「お姉ちゃんも頑張るから一緒にいさせて。ケビン君と離れたくない!」
「それなら、夕食に参加できるね?」
「「できる!」」
「いい返事だね。夕食までは時間があるし、それまでに心の準備をしておけばいいよ。あとで王女様との面談があるから、俺はまた一旦出掛けてくるけど」
「わかったわ」
「待ってる」
「それじゃあ色々とあって疲れたし、呼ばれるまではゆっくりしておこう」
ケビンは席を立つと、2人の手を引いてベッドへと連れて行った。
「ケビン君、疲れてるのに気持ちいいことするの?」
「休んでた方がいいよ?」
「俺はただベッドで横になるつもりだったんだけど、“ベッド=気持ちいいこと”って……2人はむっつりスケベなの? 何かされるのを期待しているの?」
「「ッ!」」
「ち、違うわよ!? 期待していないと言えば嘘になるけど、期待していないから!」
「そ、そうだよ! き、気持ちいいことして欲しいなんて思ってないからね! ただ休んでた方がいいよって、薦めただけだからね!」
慌てふためく2人の対応にケビンは笑みをこぼす。
「慌ててる時点で、本心を隠せてないよ。まぁ、今は休みたいから2人の想像している気持ちいいことはしないからね?」
「「うぅ……」」
ケビンに手のひらで転がされて赤面して俯いてる2人をベッドの上まで連れてくると、3人で川の字になって横になった。
仮眠をとる前にケビンは上体を起こしてそれぞれにキスすると、一言告げてそのまま仮眠を始めるのであった。
「少し寝るよ。おやすみ」
ケビンにキスされた2人は、先ほど以上に顔が赤くなってしまい悶々としたが、疲れているケビンにちょっかいをかけることは躊躇われてしまい、2人して抱きついて寝ることに押しとどめたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
しばらくすると、ケビンがふと目を覚ました。気配探知にこちらへ近づく者が引っかかったからだ。
ケビンが上体を起こしたことで、両隣に寝ていた2人も目を覚ます。
「……どうしたの?」
朝ではないからか珍しくすんなりとティナが目を覚ましており、ケビンに問いかける。
「王女様が帰ってきたようだ。使用人がこちらに向かってきている」
ケビンがそう伝えるや否や、ドアをノックする音が部屋に響きわたる。
「ケビン様、王妃様がお呼びです」
使用人から発せられた言葉に、ケビンは寝起きとは思えないしっかりとした口調で返した。
「すぐに支度しますので、そのままお待ちください」
「畏まりました」
使用人からの返答を聞いたケビンは、ベッドから身をおろして身支度を軽く整える。
「では、行ってくるよ」
ベットで上体を起こしている2人にキスをして、使用人の待つ廊下へと出ていった。
「……ケビン君、一段とカッコよくなったね」
「……伯爵様になったから? まだ胸がドキドキしてる」
残された2人は頬を染めて、ケビンの出ていったドアをしばらく眺めているのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
使用人の案内で行き着いた先は、王妃の使うプライベートテラスであった。
「ここから先は私どもとて立ち入ることは許されておりませんので、ケビン様だけでお進み下さい」
「ここまでの案内に感謝します」
ケビンは使用人にお礼を告げると、プライベートテラスに続く扉を開けて中へと進んで行った。
そこで待ち構えていたのは、テーブルでくつろぐ王妃と見慣れぬ少女であった。
「ケビン君、いらっしゃい。ゆっくり休めたかしら?」
「うん、寝心地のいいベッドだったよ」
「それは良かったわ。今お茶を用意するから座って待っていてね」
王妃がお茶を用意するために席を立つと、ケビンはテラスへとそのまま向かい、円形のテーブル席に腰を下ろした。
「どうぞ」
「ありがとう、マリーさん」
マリーが用意した紅茶を1口飲むと、ケビンは視線をマリーに向けて話し始めた。
「それで……そこで頑なに口を閉ざしている人が王女様でいいのかな?」
「そうよ。許可するまで喋らないように言いつけてあるのよ」
「まったく……自分の娘に対してキツすぎじゃない?」
「だって、サラの時のように粗相があったら困るでしょ? ケビン君が気を悪くして婚約の話が白紙に戻されたら困るもの」
「俺はそこまで狭量じゃないよ? 限度はあるけど、大抵のことは許せる器量を持ち合わせたいと思っているから」
「さすがケビン君ね。アリス、ご挨拶しなさい」
少女はマリーから声をかけられると、椅子から立ち上がりカーテシーをする。
「お初にお目にかかります。私はアリシテア王国第3王女、アリス・ド・アリシテアでございます。本日は、このような場を設けて頂きありがとうございます」
見事な所作で挨拶をするアリスに、ケビンはさすが王族だと感嘆するのであった。
そんなアリスの容姿は桃色のロングヘアに薄く青い瞳が特徴的で、髪は母親譲りで間違いなく、将来はマリーのように美しく育つのであろう。
そんな感想を抱いたケビンは、挨拶を返すために同じく立ち上がった。
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。私は、本日付けで伯爵位を賜りましたケビンと申します。家名はまだ模索中でして、現時点では決まっておりません。以前の名は、ケビン・カロトバウンと申し、カロトバウン男爵家の三男にてございます」
ケビンはお返しとばかりに貴族礼にて挨拶をすると、マリーは2人の様子を見てから声を掛けた。
「挨拶も終わったことだし、腰を落ちつかせて話しましょう。立ったままでは話しづらいでしょう?」
マリーの言葉に2人は腰を落ちつかせる。
「ケビン様、お披露目会にて私を助けて頂きありがとうございます。本来はもっと早くにお礼を申し上げたかったのですが、本日まで誰が成したのかわからなかったのです」
「構いませんよ。騎士が使えなかったので代わりにお助けしたまでです。折角のお披露目会を惨劇にするには惜しかったですから。それに、あれだけのことで可愛い王女様の命を救えるのならお易い御用ですよ」
「か……可愛い……」
ケビンの可愛いという無自覚口撃に、アリスは頬を染めるのであった。
「ケビン君はさすがね。会話して早々にアリスのハートを鷲掴みにするんだから」
「マリーさん、俺は特に何もしてませんよ」
「ふふっ、そういうところが天然なのね。お嫁さんがいっぱい増えるって言ってたサラの気持ちがわかるわ」
ケビンはマリーの言葉を気にもとめず、王女の相手をしようと話しかける。
「それで、王女様はどうして俺のことが好きになったのですか? お披露目会では話すらしていませんでしたよね。遠巻きに見かけただけの子供ですよ?」
「あの時、私は死を覚悟しました。ですが、ケビン様に微笑みかけられた気がして、お母様に尋ねたら可能性はあると言われました。その時から私を守ってくださったのはケビン様ではないかと疑問を持つようになり、それ以降、私はケビン様に興味を持ち続けているのです」
「それだけだと、興味を持った相手止まりですよね?」
「確かにそうです。ですが、本日帰城後に告げられた真実に、私は胸が高鳴りました。そして、婚約者の相手として保留ではあるものの、ケビン様に決まったことに感激もしました。この気持ちは、嘘偽りなく好意であると自覚したのです」
「……そうですか」
話が一区切り着いたところで、マリーは娘の応援をすべく言葉を綴った。
「ケビン君、考えてもみて? 命の危険に晒されている時に颯爽と駆けつけはしなかったけど、遠くから守ってもらえたのよ? それがなければ確実に死んでいたところに、女の子なら誰もが憧れる白馬の王子様をやってのけたのよ? これで惚れない女はいないわ」
「俺は男ですからねえ。白馬の王子様がどんなものかなんて想像がつきませんよ。逆の立場で、俺の危機に黒馬の王女様が現れて助けられたとしても、惚れることは皆無ですからね。お礼を言ったら終わりですね」
「そこは男と女の違いね。ケビン君は誰かに守られていたいなんて思わないでしょ? どちらかと言うと、守ってあげたい方じゃない?」
「そうですね。価値観の違いってやつですね」
「女性はね、基本的に守ってもらいたいのよ。中には男勝りで、逆に守ってやるなんて言う人もいるでしょうけど」
「マリーさんの言いたいことはわかりました。それで、王女様は本当に俺が婚約者でいいのですか? 話もしてない上に面識もなく、見かけただけでしかなかったのですが。お互いをまだよく知らないのですよ?」
「私の心は決まっています。ケビン様がお許しくださるなら、この身を捧げたく思います。それほどにお慕い申し上げております」
「そこまでの決意ですか……まだ子供であるというのに早いとは思わないのですか?」
「貴族の婚約は早ければ5歳の時には既に決まります。そのためのお披露目会でもあるのです。私の場合はお母様がお気持ちを汲んくださり、顔合わせや婚約の話は断って下さっていたのです。そのことを考えれば、現段階で婚約が早いとは思えません」
その後も、王女へと質問を繰り返していたケビンに、成り行きを見守っていたマリーが問いかける。
「ケビン君、どうしてもダメかしら? あまり乗り気ではなさそうに思えるわ。今回はケビン君の気持ちを無視して話を進めてしまったから、嫌なら断っても構わないわ。断っても罰はないから安心していいわよ」
王妃からのその言葉に、ケビンではなく王女がビクッと体を震わせて反応してしまった。
ケビンが視線を向けると、王女は目尻に涙を浮かべていた。好きな人に婚約の話を断られる可能性があるので、心中穏やかではいられないのだろう。
気丈に振る舞い涙を落とさないようにしていたが、ケビンが了承の姿勢を示さないことに限界がきたのだろう。断られると思ってしまった王女は、一雫の涙をこぼしてしまった。
「……はぁぁ……」
静まり返ったテラスにケビンの溜め息が響く。その溜め息に、王女はこの場で泣いてしまった自分を呆れているのだと思い、ポロポロとこぼれ落ちる雫が後を絶たず、我慢しようとしても止めることはできなかった。
その様子にマリーは言葉を出さずにケビンの発言を待ち、ケビンは答えを出すために席を立ちつつ口を開いた。
「あまり女性の涙は見たくないんですよね」
ケビンは王女に近づきつつ言葉を続ける。
「嬉しい時の涙ならともかく、悲しい時に出る涙は心を狂わせる。できれば、王女様には笑っていて欲しいですね」
王女の傍らに立ち指でこぼれ落ちる涙を拭き取ると、王女はその行為を無抵抗に受けいれてケビンへと視線を向け、対するケビンは王女の瞳を見つめると口調を変えて語りかけた。
「俺は独占欲が強いよ? アリスを婚約者にしたら、学院で近くに居座る男どもに嫉妬するくらいには。俺の大事なアリスになに近寄ってんだ?って」
「グスッ……例えどのような男が近寄ろうとも、私の身も心も全て貴方様のものです」
「俺は冒険者だから常に一緒にいられるわけではないよ?」
「その点は中等部を卒業したら成人扱いですので、その後、私も冒険者になります。それまでは学院の中で力を身につけますので、貴方様の傍にいさせてください」
「冒険者はそこまで楽な稼業ではないよ? 命の危険はつきものだから」
「覚悟の上です」
「高等部へは行かないの?」
「貴方様の傍にいられるなら、高等部などどうでも良いのです」
「俺は他にもお嫁さん候補が沢山いるよ? ダラしないと言われてしまえばそれまでだけど」
「構いません。それだけ貴方様が魅力的であり、幸せにしてくれるということです。不幸になるようであれば、そこまで女性を惹き付けることはできませんから」
「アリス、君を婚約者にするよ」
「ッ!」
アリスは驚きに目を見開き、嬉しさのあまり言葉が出なかった。
「良かったわね、アリス」
「はい! お母様!」
「はぁ……若いっていいわね」
「マリーさんも充分に若くて綺麗じゃないですか。陛下が羨ましいですよ」
「私まで口説きにくるのね。将来が不安だわ……一体どれだけの女性を虜にするのやら」
ケビンとマリーの気安い関係に、アリスは頬を膨らませて口を挟む。
「ケビン様、婚約者になったのですから私にも構ってください」
「ふふっ、この子ったら、私に対して嫉妬しているのね?」
「お、お母様!」
マリーからのツッコミにアリスは慌てふためき、ケビンは2人の様子を見て心が安らぐのであった。
その後は夕食の前まで3人で過ごし、夕食の準備が整うと一旦ティナたちを連れてくるためにテラスを後にした。
ケビンは客室へ戻ると、ティナたちにアリスが婚約者になったことを告げる。対してティナたちは、ケビンが不在の間に使用人が推薦状を届けに来たことを伝えた。
推薦状はそのまま【無限収納】へと仕舞い、夕食のため食堂への案内を使用人に頼むと3人は部屋を後にした。
「おかえり、ケビン君」
「おかえり、長かったね」
「ただいま、2人とも。遅くなったのは予定外のことが起きたからだよ」
「予定外?」
「3件分の事件解決の報奨として、伯爵になっちゃった」
「「伯爵ぅぅぅっ!?」」
2人は驚いて目が点となり、それを見たケビンは耐えきれずに笑ってしまう。
「ははっ、今日から俺は伯爵様になったんだよ」
「貴族の息子から、まさかの独立した貴族になるなんて……」
「しかも、実家よりも家格の高い伯爵家……」
「それには理由もあって、王女様を降嫁させるために伯爵位を用意したみたいだよ」
「それって、この前話してた第3王女殿下のことよね?」
「ケビン君、婚約したの?」
「婚約はまだしてない。話すらしたこともない相手とはできないよ。全部マリーさんの策謀だったから、マリーさんに王女様と会うまでは保留にするって言ってきたから」
「え……ケビン君、謁見中にそんなこと言ったの?」
「言ったよ。マリーさんに謀られたと思うと畏まるのも馬鹿らしくなってね、いつも通りの態度に変えたんだよ」
「よく不敬罪にならなかったね」
「そこは大目に見てくれたんじゃない? 陛下の言葉を賜っている時から結構不敬と思われる態度になったし。最初はちゃんとしてたんだけどね、色々と1度に起こりすぎたから疲れたんだよ」
「ケビン君の大物感がハンパない……」
「ケビン君、凄すぎ……」
2人はケビンの謁見中の態度に、ありえないほどの大物感を感じ取ってしまい、半ば呆れるのだった。
「それと、夕食に招待されたから2人も参加してね」
「無理無理無理無理無理!」
「吐きそう……」
「うーん、今のうちに慣れておかないと、これからが大変になるよ? 俺と結婚するつもりなら伯爵夫人になるんだし、こういう機会は多くなると思うよ。それとも結婚するの辞める? それはそれで構わないけど?」
ケビンは優しくするよりも現実を突きつけることにして、2人の覚悟を決めさせることにした。
「それはもっと嫌! 何が待ち構えていても、絶対ケビン君のお嫁さんになる!」
「お姉ちゃんも頑張るから一緒にいさせて。ケビン君と離れたくない!」
「それなら、夕食に参加できるね?」
「「できる!」」
「いい返事だね。夕食までは時間があるし、それまでに心の準備をしておけばいいよ。あとで王女様との面談があるから、俺はまた一旦出掛けてくるけど」
「わかったわ」
「待ってる」
「それじゃあ色々とあって疲れたし、呼ばれるまではゆっくりしておこう」
ケビンは席を立つと、2人の手を引いてベッドへと連れて行った。
「ケビン君、疲れてるのに気持ちいいことするの?」
「休んでた方がいいよ?」
「俺はただベッドで横になるつもりだったんだけど、“ベッド=気持ちいいこと”って……2人はむっつりスケベなの? 何かされるのを期待しているの?」
「「ッ!」」
「ち、違うわよ!? 期待していないと言えば嘘になるけど、期待していないから!」
「そ、そうだよ! き、気持ちいいことして欲しいなんて思ってないからね! ただ休んでた方がいいよって、薦めただけだからね!」
慌てふためく2人の対応にケビンは笑みをこぼす。
「慌ててる時点で、本心を隠せてないよ。まぁ、今は休みたいから2人の想像している気持ちいいことはしないからね?」
「「うぅ……」」
ケビンに手のひらで転がされて赤面して俯いてる2人をベッドの上まで連れてくると、3人で川の字になって横になった。
仮眠をとる前にケビンは上体を起こしてそれぞれにキスすると、一言告げてそのまま仮眠を始めるのであった。
「少し寝るよ。おやすみ」
ケビンにキスされた2人は、先ほど以上に顔が赤くなってしまい悶々としたが、疲れているケビンにちょっかいをかけることは躊躇われてしまい、2人して抱きついて寝ることに押しとどめたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
しばらくすると、ケビンがふと目を覚ました。気配探知にこちらへ近づく者が引っかかったからだ。
ケビンが上体を起こしたことで、両隣に寝ていた2人も目を覚ます。
「……どうしたの?」
朝ではないからか珍しくすんなりとティナが目を覚ましており、ケビンに問いかける。
「王女様が帰ってきたようだ。使用人がこちらに向かってきている」
ケビンがそう伝えるや否や、ドアをノックする音が部屋に響きわたる。
「ケビン様、王妃様がお呼びです」
使用人から発せられた言葉に、ケビンは寝起きとは思えないしっかりとした口調で返した。
「すぐに支度しますので、そのままお待ちください」
「畏まりました」
使用人からの返答を聞いたケビンは、ベッドから身をおろして身支度を軽く整える。
「では、行ってくるよ」
ベットで上体を起こしている2人にキスをして、使用人の待つ廊下へと出ていった。
「……ケビン君、一段とカッコよくなったね」
「……伯爵様になったから? まだ胸がドキドキしてる」
残された2人は頬を染めて、ケビンの出ていったドアをしばらく眺めているのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
使用人の案内で行き着いた先は、王妃の使うプライベートテラスであった。
「ここから先は私どもとて立ち入ることは許されておりませんので、ケビン様だけでお進み下さい」
「ここまでの案内に感謝します」
ケビンは使用人にお礼を告げると、プライベートテラスに続く扉を開けて中へと進んで行った。
そこで待ち構えていたのは、テーブルでくつろぐ王妃と見慣れぬ少女であった。
「ケビン君、いらっしゃい。ゆっくり休めたかしら?」
「うん、寝心地のいいベッドだったよ」
「それは良かったわ。今お茶を用意するから座って待っていてね」
王妃がお茶を用意するために席を立つと、ケビンはテラスへとそのまま向かい、円形のテーブル席に腰を下ろした。
「どうぞ」
「ありがとう、マリーさん」
マリーが用意した紅茶を1口飲むと、ケビンは視線をマリーに向けて話し始めた。
「それで……そこで頑なに口を閉ざしている人が王女様でいいのかな?」
「そうよ。許可するまで喋らないように言いつけてあるのよ」
「まったく……自分の娘に対してキツすぎじゃない?」
「だって、サラの時のように粗相があったら困るでしょ? ケビン君が気を悪くして婚約の話が白紙に戻されたら困るもの」
「俺はそこまで狭量じゃないよ? 限度はあるけど、大抵のことは許せる器量を持ち合わせたいと思っているから」
「さすがケビン君ね。アリス、ご挨拶しなさい」
少女はマリーから声をかけられると、椅子から立ち上がりカーテシーをする。
「お初にお目にかかります。私はアリシテア王国第3王女、アリス・ド・アリシテアでございます。本日は、このような場を設けて頂きありがとうございます」
見事な所作で挨拶をするアリスに、ケビンはさすが王族だと感嘆するのであった。
そんなアリスの容姿は桃色のロングヘアに薄く青い瞳が特徴的で、髪は母親譲りで間違いなく、将来はマリーのように美しく育つのであろう。
そんな感想を抱いたケビンは、挨拶を返すために同じく立ち上がった。
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。私は、本日付けで伯爵位を賜りましたケビンと申します。家名はまだ模索中でして、現時点では決まっておりません。以前の名は、ケビン・カロトバウンと申し、カロトバウン男爵家の三男にてございます」
ケビンはお返しとばかりに貴族礼にて挨拶をすると、マリーは2人の様子を見てから声を掛けた。
「挨拶も終わったことだし、腰を落ちつかせて話しましょう。立ったままでは話しづらいでしょう?」
マリーの言葉に2人は腰を落ちつかせる。
「ケビン様、お披露目会にて私を助けて頂きありがとうございます。本来はもっと早くにお礼を申し上げたかったのですが、本日まで誰が成したのかわからなかったのです」
「構いませんよ。騎士が使えなかったので代わりにお助けしたまでです。折角のお披露目会を惨劇にするには惜しかったですから。それに、あれだけのことで可愛い王女様の命を救えるのならお易い御用ですよ」
「か……可愛い……」
ケビンの可愛いという無自覚口撃に、アリスは頬を染めるのであった。
「ケビン君はさすがね。会話して早々にアリスのハートを鷲掴みにするんだから」
「マリーさん、俺は特に何もしてませんよ」
「ふふっ、そういうところが天然なのね。お嫁さんがいっぱい増えるって言ってたサラの気持ちがわかるわ」
ケビンはマリーの言葉を気にもとめず、王女の相手をしようと話しかける。
「それで、王女様はどうして俺のことが好きになったのですか? お披露目会では話すらしていませんでしたよね。遠巻きに見かけただけの子供ですよ?」
「あの時、私は死を覚悟しました。ですが、ケビン様に微笑みかけられた気がして、お母様に尋ねたら可能性はあると言われました。その時から私を守ってくださったのはケビン様ではないかと疑問を持つようになり、それ以降、私はケビン様に興味を持ち続けているのです」
「それだけだと、興味を持った相手止まりですよね?」
「確かにそうです。ですが、本日帰城後に告げられた真実に、私は胸が高鳴りました。そして、婚約者の相手として保留ではあるものの、ケビン様に決まったことに感激もしました。この気持ちは、嘘偽りなく好意であると自覚したのです」
「……そうですか」
話が一区切り着いたところで、マリーは娘の応援をすべく言葉を綴った。
「ケビン君、考えてもみて? 命の危険に晒されている時に颯爽と駆けつけはしなかったけど、遠くから守ってもらえたのよ? それがなければ確実に死んでいたところに、女の子なら誰もが憧れる白馬の王子様をやってのけたのよ? これで惚れない女はいないわ」
「俺は男ですからねえ。白馬の王子様がどんなものかなんて想像がつきませんよ。逆の立場で、俺の危機に黒馬の王女様が現れて助けられたとしても、惚れることは皆無ですからね。お礼を言ったら終わりですね」
「そこは男と女の違いね。ケビン君は誰かに守られていたいなんて思わないでしょ? どちらかと言うと、守ってあげたい方じゃない?」
「そうですね。価値観の違いってやつですね」
「女性はね、基本的に守ってもらいたいのよ。中には男勝りで、逆に守ってやるなんて言う人もいるでしょうけど」
「マリーさんの言いたいことはわかりました。それで、王女様は本当に俺が婚約者でいいのですか? 話もしてない上に面識もなく、見かけただけでしかなかったのですが。お互いをまだよく知らないのですよ?」
「私の心は決まっています。ケビン様がお許しくださるなら、この身を捧げたく思います。それほどにお慕い申し上げております」
「そこまでの決意ですか……まだ子供であるというのに早いとは思わないのですか?」
「貴族の婚約は早ければ5歳の時には既に決まります。そのためのお披露目会でもあるのです。私の場合はお母様がお気持ちを汲んくださり、顔合わせや婚約の話は断って下さっていたのです。そのことを考えれば、現段階で婚約が早いとは思えません」
その後も、王女へと質問を繰り返していたケビンに、成り行きを見守っていたマリーが問いかける。
「ケビン君、どうしてもダメかしら? あまり乗り気ではなさそうに思えるわ。今回はケビン君の気持ちを無視して話を進めてしまったから、嫌なら断っても構わないわ。断っても罰はないから安心していいわよ」
王妃からのその言葉に、ケビンではなく王女がビクッと体を震わせて反応してしまった。
ケビンが視線を向けると、王女は目尻に涙を浮かべていた。好きな人に婚約の話を断られる可能性があるので、心中穏やかではいられないのだろう。
気丈に振る舞い涙を落とさないようにしていたが、ケビンが了承の姿勢を示さないことに限界がきたのだろう。断られると思ってしまった王女は、一雫の涙をこぼしてしまった。
「……はぁぁ……」
静まり返ったテラスにケビンの溜め息が響く。その溜め息に、王女はこの場で泣いてしまった自分を呆れているのだと思い、ポロポロとこぼれ落ちる雫が後を絶たず、我慢しようとしても止めることはできなかった。
その様子にマリーは言葉を出さずにケビンの発言を待ち、ケビンは答えを出すために席を立ちつつ口を開いた。
「あまり女性の涙は見たくないんですよね」
ケビンは王女に近づきつつ言葉を続ける。
「嬉しい時の涙ならともかく、悲しい時に出る涙は心を狂わせる。できれば、王女様には笑っていて欲しいですね」
王女の傍らに立ち指でこぼれ落ちる涙を拭き取ると、王女はその行為を無抵抗に受けいれてケビンへと視線を向け、対するケビンは王女の瞳を見つめると口調を変えて語りかけた。
「俺は独占欲が強いよ? アリスを婚約者にしたら、学院で近くに居座る男どもに嫉妬するくらいには。俺の大事なアリスになに近寄ってんだ?って」
「グスッ……例えどのような男が近寄ろうとも、私の身も心も全て貴方様のものです」
「俺は冒険者だから常に一緒にいられるわけではないよ?」
「その点は中等部を卒業したら成人扱いですので、その後、私も冒険者になります。それまでは学院の中で力を身につけますので、貴方様の傍にいさせてください」
「冒険者はそこまで楽な稼業ではないよ? 命の危険はつきものだから」
「覚悟の上です」
「高等部へは行かないの?」
「貴方様の傍にいられるなら、高等部などどうでも良いのです」
「俺は他にもお嫁さん候補が沢山いるよ? ダラしないと言われてしまえばそれまでだけど」
「構いません。それだけ貴方様が魅力的であり、幸せにしてくれるということです。不幸になるようであれば、そこまで女性を惹き付けることはできませんから」
「アリス、君を婚約者にするよ」
「ッ!」
アリスは驚きに目を見開き、嬉しさのあまり言葉が出なかった。
「良かったわね、アリス」
「はい! お母様!」
「はぁ……若いっていいわね」
「マリーさんも充分に若くて綺麗じゃないですか。陛下が羨ましいですよ」
「私まで口説きにくるのね。将来が不安だわ……一体どれだけの女性を虜にするのやら」
ケビンとマリーの気安い関係に、アリスは頬を膨らませて口を挟む。
「ケビン様、婚約者になったのですから私にも構ってください」
「ふふっ、この子ったら、私に対して嫉妬しているのね?」
「お、お母様!」
マリーからのツッコミにアリスは慌てふためき、ケビンは2人の様子を見て心が安らぐのであった。
その後は夕食の前まで3人で過ごし、夕食の準備が整うと一旦ティナたちを連れてくるためにテラスを後にした。
ケビンは客室へ戻ると、ティナたちにアリスが婚約者になったことを告げる。対してティナたちは、ケビンが不在の間に使用人が推薦状を届けに来たことを伝えた。
推薦状はそのまま【無限収納】へと仕舞い、夕食のため食堂への案内を使用人に頼むと3人は部屋を後にした。
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『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
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