上 下
167 / 661
第6章 これからの活動に向けて

第163話 王妃の策謀②

しおりを挟む
 時は戻り、再び謁見の間にて――

「――名誉準男爵へと叙爵する」

(何で母さんとライラの功績が、俺がしたようなことになってんの!? いや、そもそも名誉準男爵って何!? 聞いてないんだけど!)

「……」

 国王の言葉にケビンは理解が追いつかず、決まり文句を言わずに頭を垂れて黙してしまい、傍から見れば不敬とも取られかねない態度を怪訝に感じた国王は、周りにいる貴族たちが騒ぎだす前に言葉を続けた。

「何やら得心がゆかぬ様子。申したいことがあるなら、面を上げて申してみよ」

 ケビンは国王の許可が出たことで、1番気になることを口にする覚悟を決めた。

「では、恐れながら。私が名誉準男爵に叙爵される意図が理解できません」

「簡単なことだ。お主がそれだけのことをしたということだ。そのままあの男を放置していれば、領主ではなく元ギルドマスターが街を裏から統治していただろう。ケビンよ、お主のしたことは街1つを救ったことになるのだ」

「それは過大評価しすぎでは?」

「まぁ、待て。今回の件では領主と関係者には罰が与えられる。信賞必罰というものだ。独立組織であるギルドの長である者の悪行ではあったが、領地を束ねる領主や、街を領主から預かり統治代行する者に取り調べを行った結果、長い間放置していたことがわかったのだ。街の者から噂話で聞き及んでいたにも関わらず、何も手立てを打ってなかったのだ。それどころか、その悪行に加担した貴族までもがいた。その者たちは、当主の身分を剥奪して奴隷落ちとした。家族は無関係であることが証明された時点で、後継者がおらぬ場合は当面の資金とともに平民へと落とした」

 ケビンは自分の知らないところで色々なことが起こっていたことを聞き、驚きを上手く隠しきれずにいた。

「驚いておるようだな。だがこれが信賞必罰。悪い行いをした者を罰さずに放置すれば、国は滅びの一途を辿るであろう。逆に良い行いをした者を褒めずに放置すれば、良い行いをする者がいなくなる。報奨目当てで動くことに抵抗を感じる者もいるだろうが、それでも良い行いであることには変わらぬ。これでお主の疑問は晴れたか?」

「無知蒙昧なこの身に御教授頂き、誠に感謝の意に耐えません。陛下からのお言葉、謹んでお受け致します」

 これであとは推薦状を貰って帰るだけだと思ったケビンに、国王から思いもよらぬ更なる言葉が続けられた。

「では、報奨の儀を続ける」

「!?」

「皆も記憶に新しいかと思うが、昨年この王都にて起こった一連の誘拐事件の解決者もここにおるケビンである。よって名誉準男爵から陞爵し、名誉男爵とする」

「……?」

 国王が誘拐事件のことを述べると、ケビンは記憶にないので呆気に取られてしまい、何の話をしているのかついていけなかった。

「よいか? ケビンよ」

「恐れながら陛下、私がそのようなことをした記憶がございません」

「そうであったな……しかし、一緒にいた者たちがそのことをしっかりと覚えておる。お主の働きで、未来ある少年少女たちの命を救ったのだ。多数の命を救っておきながら、それを評価しない儂ではない」

「しかし――」

「信賞必罰だ」

(ぐっ……! 何を言ってもダメなのか……)

「……謹んでお受けします」

「それで良いのだ。では、最後だ」

(まだあるのか!?)

「ケビンよ、随分と遅くなってしまったが先に礼を言っておく。ありがとう」

 そう言った国王はケビンに対して頭を下げ、横に座っていた王妃もそれに続いた。

 それを見た周りの貴族たちは理由がわからず騒然とし、ケビンも慌てて国王を制した。

「陛下! 国の王である貴方様が易々と頭を下げてはなりません! 王妃殿下もです! それに私は頭をさげられるようなことは、何一つしておりません!」

 本来なら大臣職が制すべきことを貴族と共に騒然としていたため、ケビンの制止が先に入った形となった。

「お主にとっては片手間で済んだことなのだろうが、儂や王妃にとってはそうもいかぬ。2年ほど前のお披露目会にて、アリスの命を救ったのはお主であろう?」

(2年ほど前のお披露目会って、あの王女殺人未遂のことか!?)

(あの時は俺も参加していたが、5歳の子供があの魔法を使ったというのか!?)

(しかし、サラ殿のご子息なら考えられるのじゃないか?)

(だが、サラ殿は生粋の前衛職だぞ。魔法を教えられるとはとても思えん)

 国王から発せられた言葉に、周りの貴族たちかヒソヒソと話し始める中、ケビンは何故お礼を言われたのか理解したが、あのことはお茶会でしか話しておらず、国王は知らないはずであった。

 つまり、王妃が国王に話したということに思い至ったケビンは、王妃へと視線を向けると、王妃はその視線を感じ取って目を逸らしたのだった。

(マリーさん、あの場でお礼は終わってたでしょうに! くそっ、しらばっくれるしかない! このままだと、報奨が凄いことになりそうだ)

「私には、身に覚えがありませんが」

「はははっ! やはりそう言うと思っておったぞ! なに、裏取りは全て終わっておる。当時その場にいたサラ殿にも確認しておるしな。お茶会でも王妃に尋ねられて答えたのであろう? もはや逃げ道はないぞ?」

(なっ!? 母さんに!? いつの間にしたんだ!?)

「で、アリスの命を救った件についても、報奨が当然ある。王族の命を救ったのだ。しかも、護衛騎士が全く反応できていなかったことを鑑みるに、お主が助けなかった場合、アリスはあの場で死んでおった。よって、名誉男爵から伯爵へと陞爵する! 異論は認めん!」

 有無を言わさぬ国王の勢いある言葉に、ケビンのみならず貴族までもが言葉を飲んだ。

「良いな? ケビン」

「……謹んでお受けします」

 これによりケビンは1代限りの名誉爵位から、悪事を働かなければ家が続く限りの永代爵位を授かることになったのだ。

「今はまだ子供ゆえ領地は与えぬ。更にお主が冒険者として引退するまでは待とう。途中で領地が欲しくなったら言うがよい。国の直轄地を与えるつもりだ」

「多大なるご配慮、痛み入ります」

「報奨の儀はこれにて終了とする。長くなってしまったが、あと少し皆に伝えておくことがある。ケビンよ、今しばらくその姿勢で付き合ってもらうぞ」

「畏まりました」

 ケビンは報奨の儀が終わったことにより、あとは伝えることとやらを聞き流しておけばいいやという感じになってしまい、頭を上げておくのも辛いので礼を取っている感じに俯き集中を解くと、気を抜いて楽になっていた。

「皆もアリスの婚約について、そろそろ気にし始めておるであろう。中には既にアプローチを掛けてくる輩もおるが、此度はその婚約について伝えておくべきことがある」

(はぁぁ……早く帰ってゴロゴロしたいなぁ……そういえば、サナの確認もまだ済ませてなかったな。ケンの時は記憶がなかったためか、最小限の絡みしかなかったようだし)

「アリスの婚約者は……ここにおるケビンとする!」

(それよりもダンジョンだよなぁ……面倒くさいことはさっさと終わらせて西の街に旅立たないとな。有名らしいから踏破されたダンジョンかな? 楽に攻略できればいいけど、本気出したら面白みに欠けるよなぁ……ティナさんたちのためにもならないし、適度に楽して後方支援に回るかな?)

 ケビンがのんびり先のことを考えている時に、周りは今日一番の騒然と化している。

(旅立つとしてニコルやライラは来るのだろうか? 以前は記憶のない俺の行動が読めなくて、お目付け役として観察していたらしいけど。そういえば、他の子たちも好意を抱いてるんだっけ? 2人ばかり贔屓にしても問題になりそうだし、使用人を2人も家から引き抜くのも気が引けるよな……)

「静まれ――」

(はぁ……ソフィが会いに来る前に結構な数の嫁候補ができたなぁ。ソフィ許してくれるかな? 第1夫人はソフィで当然確定だし、大丈夫だよな? 今度、教会に行って会えるかわからないが確認してみるか? 何もしないよりかはマシだよな?)

「――聞いておるのか?」

(あ、推薦状を貰わないといけなかった。叙爵やら陞爵やらですっかり忘れていたな。それにしても、伯爵かよ……無茶苦茶が過ぎるんじゃないか?)

「おい――」

(今回の件は母さんも絡んでるんだよなぁ。マリーさんもバラしてるし……)

「ケビン!」

「ほえ?」

 ようやく自分の世界から戻ってきたケビンは、周りがその態度に騒然としている中、こちらを見ている国王と目があった。

「お主、儂の眼前であるのに呆けるとは大物だな」

「伝えたいことは終わったのでしょうか? それなら、推薦状を頂きたいと思うのですが」

 集中を切らして楽な状態となっているケビンに先程までの礼節はなく、いつも通りのマイペースさを取り戻していた。

「話はちゃんと聞いておったか? お主の様子を見る限り、全く聞いていなかったように思えるのだが?」

「すみません。関係ないことだろうと思い聞き流して、考えに没頭しておりました」

「本来であるなら、その行為は不敬罪に当たるのだがな」

「そうですね。思いもよらぬことで叙爵やら陞爵やらされてしまい、更には伯爵ですからね。気もそぞろになるのは致し方ないかと」

 ここぞとばかりにケビンは言葉の中にトゲを入れて、伯爵にされてしまった仕返しをするのであった。

「ふむ、確かに色々と1度に起こりすぎたな。本来なら、連続で爵位が上がる者などおらぬからな。お主が巻き込まれて嫌な思いをしてしまったのは仕方のないことだろう。普通の人なら諸手を挙げて喜ぶものだがな。サラ殿と同じで権力には興味なしか……やはり親子であるな」

「それで、推薦状は頂けるのですか?」

「いや、その前に先程の話を聞いておらぬのなら、伝えておかねばなるまいて。そうでないと、アリスも気落ちするであろうからな」

「何故、王女様が関係するんですか? まさか、王女様のためにお茶会に参加しろとか、それが貴族の嗜みだとか言い出したりしますか?」

「それはない。そんなことを強制してしまえば、お主の前にサラ殿が動き出すであろうからな」

「母は大丈夫だと思いますよ。俺が止めれば止まりますし、たかがお茶会で人の命まではとらないでしょう。そのお茶に毒物が混じってなければですけど」

「サラ殿のストッパー役はケビンであったか。何から何までケビンを中心に生きておるのだな」

 このままでは世間話がずっと続きそうだったので、ケビンは話を進めることにした。

「それで、伝えたいこととは?」

「アリスの婚約者についてだ」

「それなら、別に私が知る必要のないことでは? 権力の欲しい貴族間でやり合ってればいいだけだと思いますが」

「まぁ、普通ならそうであろうな。現に儂が発表するまではそうであったしな」

「一体何を発表されたのですか?」

 そこで国王は一呼吸置くと、ケビンへ真剣な面持ちで伝え始めた。

「アリスの婚約者は、お主だ。ケビンよ」

「……」

 国王から言われた内容にケビンは唖然とするほか、別の感情を持ち合わせることができなかった。
しおりを挟む
感想 773

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...