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第5章 交易都市ソレイユ
第149話 因果応報①
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滞りなく宿屋の部屋へ足を運んだサラは、現地で待機していた使用人の1人から報告を受けるのだった。
「現在、ギルドマスターと受付嬢は、ギルドにて職務に就いております。闇ギルドは、ケビン様の情報収集と暗殺の準備を行っている段階です」
「そう、わかったわ。それなら貴女は闇ギルドを壊滅させなさい。誰1人逃すことは許さないわ。ギルドマスターは、私が直接殺るわ」
「畏まりました」
「ケビンの動向は、把握しているのよね?」
「はい。今は私と交代で、別の者が張り付いております」
「それならいいわ。マイケル、行くわよ」
「御意に」
使用人に指示を出したサラは、マイケルとともにギルドへと足を運んだ。サラが退室したあとで使用人のメイドもまた、殲滅作戦へと取り掛かるのだった。
「ケビン様へ手を出すその愚行、身をもって思い知るがいい……」
街を歩くサラの姿は後ろをついてくる執事の姿も相まって、あらゆる者たちから人目を引き、住民たちはどこぞの貴族令嬢がお遊びで冒険者をやっているものだと勘違いをした。
ギルドへと到着したサラは抵抗なく中へと入っていく。ギルト内に入ってきた女性冒険者の姿に誰もが釘付けとなった。
サラの本来持ち合わせている美貌もそうだが、後ろから執事がついてきているのだ。注目を集めないわけがない。
カウンターへとそのまま進んだサラは、受付嬢へと声をかける。
「数日前、ここで無礼を働いた者がいたみたいだけど、その時のことで誰かわかる者はいるかしら?」
サラは暗に特徴は出さず、“無礼を働いた者”とだけ口にした。サラの指す無礼者と、ギルド側の指す無礼者が必ずしも一致はしないからだ。
サラの姿は見た目だけで言えば冒険者なのだが、後ろに執事が控えていることも相まって、どこかの貴族であろうことは容易に想像できるので受付嬢の1人が口を開いた。
「それなら、私が当事者のうちの1人ですのでわかります」
受付嬢の1人が名乗りを挙げた。それを見たサラがその受付嬢に対して質問をする。
「当事者のうちの1人なら、他には誰がいるのかしら?」
「もう1人は、ギルドマスターになります」
「そう、呼んでくれるかしら? 無礼を働いた者のことを詳しく知りたいのよ。対処して処罰しなくてはいけないでしょう?」
「はい、その通りです。ギルドマスターをお呼びしますので、少々お待ちください」
「依頼でも見ながら待っているわ」
受付嬢が報復をしてくれると勘違いをし、嬉嬉としてギルドマスターを呼びに行くと、サラは暇つぶしに掲示板へと依頼を見に向かった。
「ここら辺に大した魔物はいないのね」
「奥様にかかれば、魔物全てが大したことないかと存じます」
「わからないわよ? 私だって世界中を旅したわけではないもの。まだ見ぬ強敵がいるかもしれないでしょ?」
「魔物に限定しなければ、存在するやもしれません」
「あら、限定しなければいるのね?」
「はい。私は目にしたことがございませんが精霊界に存在すると言われている精霊や大精霊、あとは魔族、魔王などが当てはまるかと思います」
「確かに、そんなのとは戦ったことがないわ」
「奥様、失礼を承知で申し上げます。ことが終わっても探しに行くなどということはお止め下さい」
サラの気性なら嬉嬉として探しに行きそうだったので、マイケルが苦言を呈した。
「さすがにしないわよ。もう独身じゃないのだから。そんなことをしたらあの人が寂しがってしまうわ」
「差し出がましい口を利き、申し訳ございませんでした」
「気にしてないわ。独り身だったら確実に見つけに行っているから。そう思ったからこそ言ったのでしょ? 貴方から見たら私はまだお転婆のようね」
和やかに会話をする2人の元へ、ギルドマスターと受付嬢がやってきた。
「こちらの方です。ギルドマスター」
「そうか……お初にお目にかかる。私はここソレイユ支部のギルドを管理しているギルドマスターだ。何やら数日前の不届き者を探しているとかで?」
「そうよ。ここで無礼を働いた不届き者を処罰しようと思って足を運んだのよ。不届き者は処刑するべきだと思うでしょ?」
サラの言う“ここで”とは、“今ここで”処罰するための場所を示していたのだが、ギルドマスターは盛大な勘違いをして、当時のギルド内でのことを指していると思い、サラに対して相槌を打ちその必要がないことを説明してしまう。
「その通りだ。しかし、安心して欲しい。無礼を働いたガキと何処ぞのメイドは、私の知り合いを通して討伐依頼をかけたからな。お貴族様の手を煩わせることはないと思う」
「これは思ってもみない僥倖ね。貴女も同じ気持ちかしら?」
サラは自分から何をしたのかを聞き出す前に、ギルドマスターが先んじて喋ってしまい思わぬ僥倖にありつけたので、あとは残りの受付嬢から言質を取るために質問を投げかけた。
「はい。当然の報いかと思います。しかし、有能なギルドマスターが討伐依頼をかけられたのであれば、お貴族様が動かれることなく処刑が実行されるでしょう。唯一心残りがあるとすれば、処刑に立ち会えないことでしょうか。目の前で苦しむ様を見たかったのですが」
ギルド嬢はサラの言葉を肯定し、更には処刑に立ち会いたかったとも言ったのだ。これで必要な言質が取れたサラはマイケルに声を掛ける。
「マイケル、これでいいかしら?」
その言葉にギルドマスターと受付嬢は、処罰のことはこちらに任せて貴族は帰るのだと思っていた。
「はい。しっかりと言質は取れた上に、周りの冒険者たちも聞き耳を立てて聞いておりますので、これで心置き無く処罰しても問題ないかと」
マイケルの言った通り、冒険者たちは我関せずを装っておきながらしっかりと盗み聞きしていたのだった。
「それにしても、使用人も討伐対象になっているのね。あの子、一体何をしたのかしら?」
サラの“あの子”という言葉に、どこか腑に落ちないものを感じたギルドマスターだったが、次に続いたマイケルの言葉でそのことを思い出して苦渋を舐めるような顔つきとなった。
「そこの2人を蹴り飛ばしたと聞き及んでおります」
「どうして?」
「ケビン様の受けた扱いを見て腹に据えかねたようで、さすがに奥様のことを考えると殺しはしなかったようです」
「あらあら、ケビンのために怒ってくれたの? 私のことをって事は報復は譲ってくれたのね」
サラの言葉を聞いたギルドマスターは関係者であることを疑い始めたが、話題に出てくる“ケビン”という名に心当たりがなく、混乱が増すばかりである。
「ケビン様は、使用人であろうとも分け隔てなく接するお優しい方で、人懐っこい部分がありますので、無礼ではありますが若い子たちの間では、弟のように可愛がっており人気者なのです」
「ケビンも隅に置けないわね。あちこちの女の子を惚れさせるなんて、凄腕のジゴロなのかしら?」
「私が見るに意図的ではないので、頭に“天然”がつくと思われます」
「そうなったらもっと厄介だから、将来はいっぱいお嫁さんを紹介されそうだわ」
「はい。今からがとても楽しみでもあります。私としても、娘同様の使用人たちが悲しまないのが1番なのですが、それぞれ身分を弁えていますのでたとえ実を結ばなくても致し方ないかと」
「そうねぇ。でも、側室って線ならいけるのじゃないかしら? 正室にもなろうと思えばなれると思うわ。ケビン自身は爵位を持っていないのだし、成人すれば平民になるのですから。まぁ、貴族の息子としての経歴があるから、ただの平民よりかは上になるわね」
「それは良いことを聞きました。ケビン様を想う使用人たちに話しても良いでしょうか?」
「別に話しても構わないけど、どうなるかは自分次第ってことを忘れずに伝えておきなさい。私からはケビンに話を持ちかけることはしないわ」
「充分でございます。これで楽しみがまた1つ増えました。いやはや、カロトバウン家に仕えることが出来て、至極光栄にございます」
(カロトバウン家……? どこかで聞いたことがある名前だが……)
話が逸れに逸れて元の話の欠片すらなくなった頃、ギルドマスターがどこか腑に落ちない引っ掛かりがある話の内容に、心のモヤを晴らすかのごとく疑問を口にした。
「すまんが、貴女はあいつらの関係者なのか? 話を聞く限りどうにもそう思えてならない。だが、“ケビン”というやつは知らないから、どうにも煮え切らないのだ」
そこでサラたちの会話は中断され、ギルドマスターに視線を向けた。
「そういえば、貴方のことを忘れていたわね。ケビンの話になると楽しくなって、どうにも周りが見えなくなってしまうわ。せっかくのいい気分がぶち壊しね」
「全くにございます」
「それと、貴方が敵対したケビンは私の息子で、メイドも我が家の使用人よ」
「関係者で間違いないようだな。だが、あのガキはケンだったはずだ」
「偽名に決まってるじゃない」
「そういうことか。だが、残念だったな、お前の大切な息子は人知れず討伐されるんだよ。たとえ貴族の息子だろうと関係ない。俺には上級貴族の知り合いがいるからな。かなり金を失うが揉み消すのは簡単だ」
その言葉に事態は動き出す。サラが体を向けると突然受付嬢が叫び出した。
「あ"あ"あ"ぁぁぁっ!」
その声に吃驚したギルドマスターは受付嬢の方へ視線を向けると、足から血を流し倒れている姿を見てしまった。
(――ッ! 一体いつだ? いつ斬りやがった!?)
「あらあら、女とは思えない声を出すのね」
「全くでございます。淑女としての自覚がないのでございましょう」
ありえない事態に、周りの冒険者たちや他の受付嬢たちが騒然とする。貴族らしき冒険者が受付嬢を斬ったのだ。しかも、表情ひとつ変えずに平然とやってのけた事実にも驚愕する。
いつ斬ったのか見えた者はここに誰1人としていないが、結果からして冒険者が斬ったのは間違いなかった。
なぜなら、冒険者の右手には細剣が握られており、その細剣からは血が滴り落ちているからだ。
「お、おいっ、お前!! 自分が何したかわかっているのか!? 受付嬢を斬りつけたんだぞ!」
「それがどうかしたのかしら?」
「それがどうかしたのかしらって……すぐに討伐依頼が掛けられて、冒険者たちから狙われるんだぞ! しかもそれだけじゃない! 王国から指名手配扱いで犯罪者になるんだぞ! なぜ平然としていられる!?」
「やったとしても、達成することは不可能だからよ。まぁ、やれるとしても貴方が使ってる闇ギルド以外は依頼を請け負わないと思うけど。王国も指名手配はしないだろうから」
その言葉に周りは驚愕する。仮にもギルドマスターともあろう者が闇ギルドと繋がっていたのだ。
胡散臭い話は後を絶たなかったが、まさか、闇ギルドの話が出るとは誰も想像だにしてなかった。
「奥様、闇ギルドも請け負わないと思います。闇に通ずる者は名前を見ればそれが誰であるのか一目瞭然ですので。敵わない相手に手を出すのは愚策にございます。受けるとしたら金に目の眩んだ無知蒙昧な輩だけでしょう」
「あら、そうなの? なら何故、ケビンに対する依頼は受けたのかしら?」
「それはケビン様が、“ケン”と名乗っているからでしょう。そこからケビン様に辿りつくのは至難でありますゆえ」
「そういうことなのね」
「お、お前、一体何者だ!? 剣も持たない受付嬢を斬っておいて、犯罪者にならないわけがないだろ!」
「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。貴方のようなクズに名乗るのも勿体ないのだけれど……いいわ、これから甚振るのだし貴方の脳裏に恐怖とともに焼きつけなさい! 一体誰に対して手を出して狙われるハメになったのかを! そして後悔とともに死ぬがいいわ! 私の名は、サラよ! 元Aランク冒険者で【瞬光のサラ】という二つ名持ちよ!」
今日一番の騒然と驚愕がギルドを包み込んだ。伝説の元Aランク冒険者を目の当たりにしたのだ。
残した伝説は数知れず、生きる伝説として有名で数々の冒険者が憧れとともに畏怖するその存在を。
「現在、ギルドマスターと受付嬢は、ギルドにて職務に就いております。闇ギルドは、ケビン様の情報収集と暗殺の準備を行っている段階です」
「そう、わかったわ。それなら貴女は闇ギルドを壊滅させなさい。誰1人逃すことは許さないわ。ギルドマスターは、私が直接殺るわ」
「畏まりました」
「ケビンの動向は、把握しているのよね?」
「はい。今は私と交代で、別の者が張り付いております」
「それならいいわ。マイケル、行くわよ」
「御意に」
使用人に指示を出したサラは、マイケルとともにギルドへと足を運んだ。サラが退室したあとで使用人のメイドもまた、殲滅作戦へと取り掛かるのだった。
「ケビン様へ手を出すその愚行、身をもって思い知るがいい……」
街を歩くサラの姿は後ろをついてくる執事の姿も相まって、あらゆる者たちから人目を引き、住民たちはどこぞの貴族令嬢がお遊びで冒険者をやっているものだと勘違いをした。
ギルドへと到着したサラは抵抗なく中へと入っていく。ギルト内に入ってきた女性冒険者の姿に誰もが釘付けとなった。
サラの本来持ち合わせている美貌もそうだが、後ろから執事がついてきているのだ。注目を集めないわけがない。
カウンターへとそのまま進んだサラは、受付嬢へと声をかける。
「数日前、ここで無礼を働いた者がいたみたいだけど、その時のことで誰かわかる者はいるかしら?」
サラは暗に特徴は出さず、“無礼を働いた者”とだけ口にした。サラの指す無礼者と、ギルド側の指す無礼者が必ずしも一致はしないからだ。
サラの姿は見た目だけで言えば冒険者なのだが、後ろに執事が控えていることも相まって、どこかの貴族であろうことは容易に想像できるので受付嬢の1人が口を開いた。
「それなら、私が当事者のうちの1人ですのでわかります」
受付嬢の1人が名乗りを挙げた。それを見たサラがその受付嬢に対して質問をする。
「当事者のうちの1人なら、他には誰がいるのかしら?」
「もう1人は、ギルドマスターになります」
「そう、呼んでくれるかしら? 無礼を働いた者のことを詳しく知りたいのよ。対処して処罰しなくてはいけないでしょう?」
「はい、その通りです。ギルドマスターをお呼びしますので、少々お待ちください」
「依頼でも見ながら待っているわ」
受付嬢が報復をしてくれると勘違いをし、嬉嬉としてギルドマスターを呼びに行くと、サラは暇つぶしに掲示板へと依頼を見に向かった。
「ここら辺に大した魔物はいないのね」
「奥様にかかれば、魔物全てが大したことないかと存じます」
「わからないわよ? 私だって世界中を旅したわけではないもの。まだ見ぬ強敵がいるかもしれないでしょ?」
「魔物に限定しなければ、存在するやもしれません」
「あら、限定しなければいるのね?」
「はい。私は目にしたことがございませんが精霊界に存在すると言われている精霊や大精霊、あとは魔族、魔王などが当てはまるかと思います」
「確かに、そんなのとは戦ったことがないわ」
「奥様、失礼を承知で申し上げます。ことが終わっても探しに行くなどということはお止め下さい」
サラの気性なら嬉嬉として探しに行きそうだったので、マイケルが苦言を呈した。
「さすがにしないわよ。もう独身じゃないのだから。そんなことをしたらあの人が寂しがってしまうわ」
「差し出がましい口を利き、申し訳ございませんでした」
「気にしてないわ。独り身だったら確実に見つけに行っているから。そう思ったからこそ言ったのでしょ? 貴方から見たら私はまだお転婆のようね」
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「こちらの方です。ギルドマスター」
「そうか……お初にお目にかかる。私はここソレイユ支部のギルドを管理しているギルドマスターだ。何やら数日前の不届き者を探しているとかで?」
「そうよ。ここで無礼を働いた不届き者を処罰しようと思って足を運んだのよ。不届き者は処刑するべきだと思うでしょ?」
サラの言う“ここで”とは、“今ここで”処罰するための場所を示していたのだが、ギルドマスターは盛大な勘違いをして、当時のギルド内でのことを指していると思い、サラに対して相槌を打ちその必要がないことを説明してしまう。
「その通りだ。しかし、安心して欲しい。無礼を働いたガキと何処ぞのメイドは、私の知り合いを通して討伐依頼をかけたからな。お貴族様の手を煩わせることはないと思う」
「これは思ってもみない僥倖ね。貴女も同じ気持ちかしら?」
サラは自分から何をしたのかを聞き出す前に、ギルドマスターが先んじて喋ってしまい思わぬ僥倖にありつけたので、あとは残りの受付嬢から言質を取るために質問を投げかけた。
「はい。当然の報いかと思います。しかし、有能なギルドマスターが討伐依頼をかけられたのであれば、お貴族様が動かれることなく処刑が実行されるでしょう。唯一心残りがあるとすれば、処刑に立ち会えないことでしょうか。目の前で苦しむ様を見たかったのですが」
ギルド嬢はサラの言葉を肯定し、更には処刑に立ち会いたかったとも言ったのだ。これで必要な言質が取れたサラはマイケルに声を掛ける。
「マイケル、これでいいかしら?」
その言葉にギルドマスターと受付嬢は、処罰のことはこちらに任せて貴族は帰るのだと思っていた。
「はい。しっかりと言質は取れた上に、周りの冒険者たちも聞き耳を立てて聞いておりますので、これで心置き無く処罰しても問題ないかと」
マイケルの言った通り、冒険者たちは我関せずを装っておきながらしっかりと盗み聞きしていたのだった。
「それにしても、使用人も討伐対象になっているのね。あの子、一体何をしたのかしら?」
サラの“あの子”という言葉に、どこか腑に落ちないものを感じたギルドマスターだったが、次に続いたマイケルの言葉でそのことを思い出して苦渋を舐めるような顔つきとなった。
「そこの2人を蹴り飛ばしたと聞き及んでおります」
「どうして?」
「ケビン様の受けた扱いを見て腹に据えかねたようで、さすがに奥様のことを考えると殺しはしなかったようです」
「あらあら、ケビンのために怒ってくれたの? 私のことをって事は報復は譲ってくれたのね」
サラの言葉を聞いたギルドマスターは関係者であることを疑い始めたが、話題に出てくる“ケビン”という名に心当たりがなく、混乱が増すばかりである。
「ケビン様は、使用人であろうとも分け隔てなく接するお優しい方で、人懐っこい部分がありますので、無礼ではありますが若い子たちの間では、弟のように可愛がっており人気者なのです」
「ケビンも隅に置けないわね。あちこちの女の子を惚れさせるなんて、凄腕のジゴロなのかしら?」
「私が見るに意図的ではないので、頭に“天然”がつくと思われます」
「そうなったらもっと厄介だから、将来はいっぱいお嫁さんを紹介されそうだわ」
「はい。今からがとても楽しみでもあります。私としても、娘同様の使用人たちが悲しまないのが1番なのですが、それぞれ身分を弁えていますのでたとえ実を結ばなくても致し方ないかと」
「そうねぇ。でも、側室って線ならいけるのじゃないかしら? 正室にもなろうと思えばなれると思うわ。ケビン自身は爵位を持っていないのだし、成人すれば平民になるのですから。まぁ、貴族の息子としての経歴があるから、ただの平民よりかは上になるわね」
「それは良いことを聞きました。ケビン様を想う使用人たちに話しても良いでしょうか?」
「別に話しても構わないけど、どうなるかは自分次第ってことを忘れずに伝えておきなさい。私からはケビンに話を持ちかけることはしないわ」
「充分でございます。これで楽しみがまた1つ増えました。いやはや、カロトバウン家に仕えることが出来て、至極光栄にございます」
(カロトバウン家……? どこかで聞いたことがある名前だが……)
話が逸れに逸れて元の話の欠片すらなくなった頃、ギルドマスターがどこか腑に落ちない引っ掛かりがある話の内容に、心のモヤを晴らすかのごとく疑問を口にした。
「すまんが、貴女はあいつらの関係者なのか? 話を聞く限りどうにもそう思えてならない。だが、“ケビン”というやつは知らないから、どうにも煮え切らないのだ」
そこでサラたちの会話は中断され、ギルドマスターに視線を向けた。
「そういえば、貴方のことを忘れていたわね。ケビンの話になると楽しくなって、どうにも周りが見えなくなってしまうわ。せっかくのいい気分がぶち壊しね」
「全くにございます」
「それと、貴方が敵対したケビンは私の息子で、メイドも我が家の使用人よ」
「関係者で間違いないようだな。だが、あのガキはケンだったはずだ」
「偽名に決まってるじゃない」
「そういうことか。だが、残念だったな、お前の大切な息子は人知れず討伐されるんだよ。たとえ貴族の息子だろうと関係ない。俺には上級貴族の知り合いがいるからな。かなり金を失うが揉み消すのは簡単だ」
その言葉に事態は動き出す。サラが体を向けると突然受付嬢が叫び出した。
「あ"あ"あ"ぁぁぁっ!」
その声に吃驚したギルドマスターは受付嬢の方へ視線を向けると、足から血を流し倒れている姿を見てしまった。
(――ッ! 一体いつだ? いつ斬りやがった!?)
「あらあら、女とは思えない声を出すのね」
「全くでございます。淑女としての自覚がないのでございましょう」
ありえない事態に、周りの冒険者たちや他の受付嬢たちが騒然とする。貴族らしき冒険者が受付嬢を斬ったのだ。しかも、表情ひとつ変えずに平然とやってのけた事実にも驚愕する。
いつ斬ったのか見えた者はここに誰1人としていないが、結果からして冒険者が斬ったのは間違いなかった。
なぜなら、冒険者の右手には細剣が握られており、その細剣からは血が滴り落ちているからだ。
「お、おいっ、お前!! 自分が何したかわかっているのか!? 受付嬢を斬りつけたんだぞ!」
「それがどうかしたのかしら?」
「それがどうかしたのかしらって……すぐに討伐依頼が掛けられて、冒険者たちから狙われるんだぞ! しかもそれだけじゃない! 王国から指名手配扱いで犯罪者になるんだぞ! なぜ平然としていられる!?」
「やったとしても、達成することは不可能だからよ。まぁ、やれるとしても貴方が使ってる闇ギルド以外は依頼を請け負わないと思うけど。王国も指名手配はしないだろうから」
その言葉に周りは驚愕する。仮にもギルドマスターともあろう者が闇ギルドと繋がっていたのだ。
胡散臭い話は後を絶たなかったが、まさか、闇ギルドの話が出るとは誰も想像だにしてなかった。
「奥様、闇ギルドも請け負わないと思います。闇に通ずる者は名前を見ればそれが誰であるのか一目瞭然ですので。敵わない相手に手を出すのは愚策にございます。受けるとしたら金に目の眩んだ無知蒙昧な輩だけでしょう」
「あら、そうなの? なら何故、ケビンに対する依頼は受けたのかしら?」
「それはケビン様が、“ケン”と名乗っているからでしょう。そこからケビン様に辿りつくのは至難でありますゆえ」
「そういうことなのね」
「お、お前、一体何者だ!? 剣も持たない受付嬢を斬っておいて、犯罪者にならないわけがないだろ!」
「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。貴方のようなクズに名乗るのも勿体ないのだけれど……いいわ、これから甚振るのだし貴方の脳裏に恐怖とともに焼きつけなさい! 一体誰に対して手を出して狙われるハメになったのかを! そして後悔とともに死ぬがいいわ! 私の名は、サラよ! 元Aランク冒険者で【瞬光のサラ】という二つ名持ちよ!」
今日一番の騒然と驚愕がギルドを包み込んだ。伝説の元Aランク冒険者を目の当たりにしたのだ。
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