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第5章 交易都市ソレイユ

第137話 復活のガルフ

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 ミヤジノフに滞在して、かれこれ数日経ったある日のこと。俺はようやく、自分好みの焼きルドーヌと巡り会えた。

 オヤジさんにソースの原料を聞いてみたが、企業秘密ってやつで教えて貰えなかった。だが、俺にはわかる! このソースには果物の甘みが隠されていることを!

 俺が求めていたのは、ピリピリ辛いだけのソースじゃなく、どこか甘みのあるソース! やっと巡り会えた理想に近いソース!

 ここまできたらアレも探すしかない……初めて焼きそばについていた時には何だコレ? と違和感があったが、食べていくうちに病みつきになり欠かせなくなった、あの万能調味料と謳われていても過言ではない、伝説の調味料をっ!

 ふぅ……熱くなりすぎたようだ。いかんいかん。それもこれも、この異世界で焼きそばに出会ってしまったせいだ。俺の麺魂が熱く燃えてしまっていたようだ。

「ケン君、どうしたの? 食べないの?」

「!!」

 そうだった……今は、ティナさんたちと、焼きルドーヌを食べている最中だった。あまりの興奮にトリップしていたようだ。

「いや、考え事をしていたら、食べるのを忘れていたんですよ」

「考え事?」

「大したことじゃないですから、気にしないでください」

 とりあえずやっと巡り会えた、この理想に近い焼きそばならぬ、焼きルドーヌを食べきってしまおう。

「そういえば、ガルフさんたちはどうしたんですか?」

「ガルフは、相変わらずやる気が起きないみたいよ? ロイドは魔導具店巡りで、適度に時間を潰しているわね」

「ガルフさんどうしちゃったんでしょうねぇ」

「前にもあったから、特に私たちは気にしていないけどね」

「前にも同じことが?」

「長期クエストとか受けたあとは、いきなりやる気を失っちゃうのよ。だから、それに合わせて私たちは、だいたいタミアに行くんだけどね。心のリフレッシュってやつね」

「今回の移動に、3週間も掛かったせいですかね?」

「多分そうだと思うけど、あの道のりを決めたのはガルフだしね、ケン君は気にしちゃダメだよ? 自分のせいにしたら怒るからね」

「はぁ……わかりました……」

「ほら! もう気にしてるじゃない!」

 気にするなと言われても、気にしてしまうケンに対して、ティナはどうしたものかと頭を悩ませるのであった。

 そんなケンを、優しく包み込む者がいた。

「ニーナさん……」

 ニーナはケンを抱きしめると、ゆっくり話しかける。

「ケンはそのままでいい。辛いのは私が癒す」

 以前のニーナならありえない行動だった。衆目の中で人に抱きつくなど、恥ずかし過ぎてできなかった。これも偏に、ケンと一緒に過ごすことが増えたのが、要因となる変化だろうか。

「ありがとうございます……」

 ニーナの行動にティナがむくれる。ケンを癒そうとする前に、ニーナに役を取られたからだ。

 いつもならティナが癒して終わりだが、ここ最近、ニーナの行動力が増したせいで、独占していた癒し権の一部を奪われる形となった。

「ニーナばっかりズルいわよ。私もケン君を癒してあげたいのに」

「早い者勝ち」

 ニーナはティナに向けて、フフンッとドヤ顔してみせる。その行動にティナは、ギリギリと歯ぎしりするのであった。

「2人とも仲良くしてくださいね。本気でないのはわかりますが」

「大丈夫。ティナが控えれば問題ない」

「ニーナも控えなさいよ」

「はぁ……」

 2人のやり取りに辟易するケンであったが、先程よりも落ち込み具合がなくなったことに、少しだけ感謝するのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ガルフがやる気をなくして1ヶ月が経過した頃、ようやく本調子を取り戻したガルフが、夕食時にメンバーに向けて謝罪した。

「いやぁ、迷惑かけたみたいで、すまなかった」

「調子が戻って良かったですよ」

「ホントよ。いつまでこの街に居続けなきゃいけないのか、先行き不安になってたんだから」

「ケンの旅が滞った」

「わりぃ、わりぃ。お詫びと言っちゃあなんだが、こっからは馬車を使って、急いで次の目的地を目指す」

「馬車ですか?」

「あぁ、あまり移動の期間が長くなると、次の街でも同じ迷惑掛けちまうだろ? だから、移動の期間を短縮することにした」

「“することにした”って、僕は初耳なんだけどね」

「私たちだってそうよ」

 ガルフのワンマンプレーに、他のメンバーから非難が上がる。

「今、話したからな。そりゃあ、初耳だろ」

 悪びれもなくガルフが言うと、メンバーは頭を抱え呆れ返る。

「ガルフは、昔からそういう所があるよね。僕はもう慣れているけど」

「それにしても馬車って……普通の街馬車を使うのよね?」

「そのつもりだ」

「何でそんな考えに、至ったんだい?」

「さっきも言ったが、街と街の距離があり過ぎるんだ。俺としては、出来る限り村には立ち寄らずに行きたい。俺たちは商人じゃないから、流通目的なら村も歓迎するが、冒険者は金は落とすと言っても、ただ消費していくだけにすぎない。街寄りの村ならそれもありだろうが、離れたところにある寒村に至っては迷惑極まりない」

「確かにそうだね。まぁ、寒村に立ち寄らなければ、済む話ではあるけど」

「俺がケンの旅を、安請け合いしちまった責任はあるが、ここまで苦労するとは思わなかった。その苦労の原因が、移動手段に徒歩しかないってことだ。それにこれから寒さが厳しくなる中で、野営するわけにもいかないだろ?」

 ガルフが言うこともご最もだと思い、ケンは賛成の意を示す。

「確かに凍死はしたくないですね。まぁ、テントがあるから、最悪凍死はないでしょうけど」

「私も寒いのは嫌だわ」

「それで俺が考えたのは、ソレイユまで各街を経由しながら一気に行って、そこで数ヶ月過ごした後、野営しても問題ないぐらい暖かくなったら、再開するっていう計画の予定だ」

 メンバーは、ガルフの立てた計画の予定を、吟味するように沈黙した。確かに今の時期に野営は、季節的に厳しいものがある。

 場所によっては、雪に埋もれることもあり、いつも以上に体力や精神に負担がかかるのだ。

「俺は、ガルフさんの意見に賛成ですけど、皆さんはどうなんですか?」

「私はケン君中心だから、ケン君がいいならそれで構わないわ」

「右に同じ」

「僕もそれでいいかな。ぶっちゃけると早く交易都市に行って、魔導具店巡りをしたいんだよね」

 各々賛成の意見を出すと、ガルフが一同を見回しまとめに入った。

「よし、それなら決まりだな。ケンには時期が悪くて、ここから先は、街道と街しか見せてやれないけど、この時期に無理する必要もないだろ」

「構いませんよ。別に今だけしか見れないわけでもないですし。まだまだ人生はこれからですからね」

「それならいいんだ。出発は明日の朝一の便だ。馬車での旅だから野営用に色々買い込む必要もないだろ。すぐ次の街に着くことになるし」

「えぇー……朝一なのぉ?」

「ティナは、気合いで起きてくれ」

「大丈夫ですよ。自分が責任もって起こしますから」

「明日の出発は、ケンに掛かっているということだね」

「絶対起こす」

 それから各自部屋に戻って、明日の出発準備を始めた。俺は、必要な物は全部【無限収納】にしまい込んであるので、ほとんどすることがなくて、ティナさんの出発準備を手伝った。

 ティナさんは意外と適当なところがあるので、忘れ物がないかニーナさんと2人で確認して、問題なかったので準備は終了となった。そのあとは、寝るまで世間話をして時間を潰すことにした。

「ケン君、ありがとう」

「ティナは甘えすぎ」

「このくらい別にいいですよ」

「でも、これでケン君に、私の下着を全て把握されてしまったわね。サプライズ的に見せることが出来なくなったわ」

「いやいや、そこは普通に見せないでおきましょうよ」

「嫌よ、ケン君の慌てる姿が見たいんだもの」

 ティナの言葉に、やれやれといった感じで、ケンは呆れ返ってしまう。

「エロテロリスト」

 ニーナの言った一言に、すかさずティナが反応した。

「ニーナだって、ギャップ萌えっていうの持ってるじゃない! 効果は何よ! 私は聞いてないわよ!」

「教えない」

「ズルいわ! ケン君は知ってるんでしょ? 付いたのが自分のせいって言ってたし」

「まぁ、知っていますね」

「じゃあ、ケン君が教えて!」

「本人が嫌がっているのに、教えるわけないじゃないですか」

「2人だけの秘密なんてズルいわ」

「ふふん」

 やらなければいいのに、ニーナさんはドヤ顔でティナさんを煽った。結果、2人のやり取りはヒートアップしていくことになる。

 俺は、2人のやり取りを、手のかかる姉妹みたいだと思いながら、傍観していた。

「もうそろそろ寝ますよ。いつまでもじゃれあってないで静かにしてください。他のお客の迷惑になるでしょ?」

「だってニーナが……」
「だってティナが……」

「はいはい、そこまでです。やめないと一緒に寝ませんよ?」

「「それはヤダ!」」

「それじゃあ、静かにできますね?」

「「わかった」」

 このやり取りもいつものことで、2人が言い合っていると、だいたいこの手で落ち着くことになる。

 結局、2人とも本気で、相手を嫌っての言い合いではないので、ケンもそこそこ傍観してから、いつも止めに入るのだった。

「なんかケン君の方が子供なのに、お兄さんっぽい」

「お兄ちゃん……いい響き……」

「ほら、変なこと言ってないで寝ますよ。2人ともベッドに入ってください。明日は早いんですからね」

「「はーい」」

 その後、2人はケンを挟みこむようにして腕に抱きつき、3人で川の字になって寝たのだった。
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