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第5章 交易都市ソレイユ

第135話 同じ言葉でも意味が違う……

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 ズイの街を出発してから3週間後、ようやく俺たちは、お昼頃に目的地である【ミヤジノフ】へと到着した。

 ここの名物は、“焼きルドーヌ”と言うらしく、ルドーヌを焼いたもので、どんな物かは食べてみないことにはわからないが、ガルフさん曰く、とてもオススメらしい。

 料金も安くて、屋台によってそこそこ味が違うらしく、その中で自分好みの味を探すのだそうだ。

 料理屋でも出されているそうだが、その時々で味が微妙に変わってしまう屋台の方が、楽しみ甲斐があるそうなので、俺も屋台を中心に巡ることにした。

 宿屋で部屋の手配をした後は、早速屋台巡りの話になり、俺はティナさんとニーナさんの3人で回ることになった。

「それにしても、3人で回る必要があったんですか?」

「いいじゃない。食べ歩きデートみたいなものよ」

「デート」

 食べ歩きがデートに入るのかどうかは疑問だが、とりあえず最初の屋台へと向かい、焼きルドーヌを注文した。

 目の前で調理されていく様を見ていると、材料を取り出したので、それを見てある点に気づいた。

 そう……それは麺だ。野菜や肉を焼きながらそこへ麺を投入して、更に焼き上げていく。

 仕上げにソースを絡ませて、出来上がったそれは、誰がどう見ても焼きそばだった。

 まさか異世界に、焼きそばがあるとは思いもしなかった。出来上がったものは、木皿に乗せられて渡された。屋台食いのルールとして、この木皿は買ったお店に返却するのだそうだ。

 それにより容器の消費を抑えて、コストダウンを図っているらしい。まぁ、この世界に消費しても痛くない、安いプラ容器なんてないから、当然といえば当然の判断だった。

 銅貨で3人分の支払いを済ませたら、近くのベンチに座り、早速焼きルドーヌを食べてみる。

 懐かしい味だ……ソースのコクが麺や具に絡み合い、少しピリッとした香辛料の隠し味も中々にいいものだ。

「美味しいですね……」

「そうね。ちょっと、お酒が欲しくなってくるかも」

「ピリッとしたのが苦手」

 どうやらニーナさんは、辛い物が苦手らしい。ティナさんは、このピリッと感がお酒に合うと思ったのだろう。

 俺としてはピリッとしたのよりも、甘みのある方が好みだが、ここに滞在している期間中に、是非とも自分好みの味に巡り会いたいものだ。

 それからもう1軒屋台を巡ると、さすがに腹が膨れたので、今日の屋台巡りは終了となる。

「時間が余りましたが、どうするんですか?」

「んー……前に言ってた、私たちのステータスでも見に行こうか?」

「俺は見なくてもいいのですが」

「興味ない?」

 不安げにケンの様子を窺ってくるニーナに対して、ティナは特に気にした風でもなく話を進める。

「ケン君が興味なくても、見せるつもりだよ。これは、私たちからの誠意ってところかしら」

「何に対しての誠意なんですか?」

「ケン君の強さを暴いたことよ。普通ならいくらパーティーといえど、根掘り葉掘り聞くのは、マナー違反なんだよ。仲がいいなら別だけどね」

「でも、行動を共にする以上、相手の実力は、知っておかないといけないのでは?」

「それでも、“このくらいならできるよ”って、程度で終わらせるのよ。それに対してケン君は、ほとんど話しちゃったでしょ? だからよ」

「俺としては、質問されたから返答しただけなんですけど」

「もう、相変わらず強情ね。いいから行くわよ」

 ティナから強引に手を引っ張られると、ケンは教会へと連れていかれた。教会に到着したら、寄付金を渡し3人で別室へと入る。

「ティナさんとニーナさんは、別々じゃないんですか?」

「こっちの方が手っ取り早いでしょ? それに私たちは、将来ケン君のお嫁さんになるつもりなんだから、いわば家族予備群よ。家族に隠し事はいけないわ」

「それって暴論じゃないですか。ニーナさんはいいんですか?」

「ティナになら構わない」

「それじゃあ、私からね」

 ティナが魔導具に触れると、正面にステータスが表示された。



ティナ
女性 17歳 種族:エルフ
職業:Bランク冒険者
状態:恋煩い(初恋)

Lv.38
HP:360
MP:270
筋力:320
耐久:300
魔力:230
精神:210
敏捷:190

スキル
【身体強化 Lv.3】【弓術 Lv.5】
【気配探知 Lv.4】【気配隠蔽 Lv.3】
【魔力操作 Lv.1】

魔法系統
【風魔法 Lv.3】【光魔法 Lv.5】

加護
世界樹の加護

称号
森の守護者
慈愛
エロテロリスト



 ティナさんのステータスを覗くと、加護に凄いものを発見したが、それよりも、見過ごせないものがあるのに気づいた。

「ティナさん……」

「何かしら?」

「この【エロテロリスト】って、嫌な予感しかしないんですけど」

「それはねぇ、ケン君にエッチなイタズラをしてたらついてたみたい。効果はね、それに準ずる行動をすると、ケン君がムラムラしちゃうの」

「――!」

 もしかしてタミア以降のムラムラは、ティナさんが原因だったのか!? てっきり自分の欲望が制御できていなくて、戒めなければと思っていたのに。

「あと、【慈愛】もケン君に対してだよ。ケン君と出会うまでは、称号は1つしかなかったの」

「まぁ、それについては、何となく予想はつきましたので」

 ティナとケンがステータスについて話していると、ニーナが前へ出てきて自己主張する。

「次は私の番」

 ティナが魔導具から離れ、代わりにニーナがそこに手を乗せた。



ニーナ
女性 17歳 種族:人間
職業:Bランク冒険者
状態:恋煩い(初恋)

Lv.36
HP:260
MP:340
筋力:220
耐久:200
魔力:300
精神:280
敏捷:120

スキル
【杖術 Lv.2】【魔力探知 Lv.3】
【魔力操作 Lv.1】

魔法系統
【火魔法 Lv.4】【水魔法 Lv.4】【土魔法 Lv.4】

加護
なし

称号
人見知り
片言へんげんの使い手
ギャップ萌え



 ニーナさんのステータスには、明らかに俺が原因と思われるものがあった。

「ニーナさん……」

「何?」

「この【ギャップ萌え】は、多分俺のせいです……」

「ケンが私を好きになった証。逆に嬉しい」

 あの出来事は、2人だけの秘密なので、明らかに俺が原因だろう。申し訳なくもあるが、ニーナさんが嬉しいならそれで良しとしよう。

「そういえば、ニーナさんは【魔力操作】のスキル覚えたんですね。何故か教えていない、ティナさんも持っていましたけど」

「頑張った」

「私はニーナが面白いことしてるから、教えて貰っただけよ」

「Lv.1なら効果は微々たる程度ですけど、めげずに頑張ってください」

「頑張ってレベル上げる」

「私もニーナに負けないように頑張るわね。暇な時とか、結構時間潰せたりするし」

「それでは、外に出ましょうか?」

 ステータス確認という一大イベントが終わり、ケンたちは教会の外へと出て行ったのだった。

 宿屋に戻ってきて部屋へ入ると、ニーナさんがおもむろに話しかけてきた。

「次は何をすればいい?」

「次とは?」

「【魔力操作】の修行」

 その言葉にティナも反応し、ケンのところへと寄ってくる。

「あっ、私もそれを知りたい。魔力が流れているところまでは、わかるようになったんだけど、ここから先は、どうしたらいいのかわからなかったのよね」

「魔力がわかるようになったなら、次はその魔力の移動ですね」

「移動?」

「流れてるから、移動してるんじゃないの?」

「えぇーと、意図的にタンクから取り出した魔力を、どこかに移動させるんです」

「難しい……」

「どこかってどこ?」

 ティナとニーナは理解が追いつかず、ケンは実演することにした。

「お手本を見せますので、ここをちょっと見ていてください」

 ケンは人差し指を立てると、そこへ魔力が行くように操作する。すると、次第に人差し指の先が、淡く光り出して魔力が可視化出来るようになった。

「ケン君、すごーい!」

「初めて見た」

「これは2人にも目に見えてわかるように、魔力を可視化させるために魔力密度を上げていますので、2人にはまだ出来ませんが、体内の魔力を感知できるようになっていますので、目には見えなくとも感じることはできると思います。とりあえず、手のひらに魔力が移動できるように、頑張ってみてください」

「やってみるわ!」

「頑張る」

 2人は、それから手のひらを見つめて、唸りながら一所懸命に移動させようとしていたが、中々上手くはいかないようであった。

「ケン君、これってコツとかないの?」

「コツですか? 人に対して教示したのは初めてなので、自分のコツが他の人にもコツとなるのかわかりません」

「ちなみにケン君のコツは?」

「シュッと取り出して、ギューンとします」

「それって、天才肌の人が言うセリフよね?」

「凡人には辛い」

「“考えるな、感じろ!”です」

「「無理!」」

 2人が即否定した事で、今まで感覚的に、魔法の修練をしてきたケンにとって、初めて人にものを教える難しさを理解した。

「うーん……ちょっと試してみますか?」

「何を試すの?」

「魔力移動です」

「さっきやったじゃない」

「ティナさんの体を使って、俺が出来るか試すんです。とりあえず、ベッドに横になって楽にしてください。」

 ティナは言われた通りベッドに横になり、ケンはティナの鳩尾に手を当てると、その行為にティナが反応した。

「痛くしないでよ?」

「魔力を移動させるだけなので、痛みはないですよ」

 ケンはティナの体越しに、魔力を感知するため意識を集中させた。すると、ティナの体内にある魔力の塊を見つける。

「これかな?」

「何かわかったの?」

「ティナさんの魔力タンクですよ」

「凄い」

「ちょっと、俺の魔力を混ぜつつ移動させてみますので、ティナさんは魔力をちゃんと感じててくださいね」

 そこからケンは、ティナのタンクから魔力を取り出し、自分の魔力を混ぜ合わせながら、意図的に移動させ始める。

「……あっ……」

 ティナは体を襲う初めての感覚に身悶え始めるが、ケンは失敗しないように集中しているため、気づかずに魔力移動を続けた。

「ん……ダメ……」

「……ちょ……」

「待って……」

「やっ……」

「……ィ……クッ――!」

 ケンはティナの魔力を一通り体内循環させると移動をやめた。一方ティナは頬を染め、体を上気させており呼吸を荒くしていた。

 2人の様子を見ていたニーナは、ティナと同様に頬を染めて俯いていた。

「ティナさん、ちゃんと感じましたか?」

 ケンの言葉に、呼吸を整えたティナは、ジト目を向けて答えた。

「感じるの意味が違ったわ……」

「えっ? 感じませんでした?」

「別の意味では、しっかりと感じさせられたわね」

「別の意味?」

 ケンは、ティナが言わんとしていることが理解できないために、聞き返していた。

「さぁ、次はニーナの番よ」

 ケンの疑問に答えるでもなく、ティナはニーナの手を引き、ベッドに寝かせる。

「わ……私は……」

 ニーナは先程の惨状(?)を目の当たりにしているので、断ろうとしたのだが、ティナがそれを許さなかった。

「ニーナ、たっぷりと可愛がってもらいなさい」

 ティナの有無を言わせぬ言動に、ニーナは諦めの境地に入った。

「さ、ケン君。ニーナにもしてあげて」

 ケンはどこか腑に落ちないが、やり方はさっきティナで試したので、問題ないと割り切り、作業を開始することにした。

「わかりました」

 ケンがニーナの鳩尾に手を当てると、ニーナはビクッと体を震わせた。

「ニーナさん、痛くないから大丈夫ですよ。それでは始めますので、ちゃんと感じてくださいね」

 ティナの時同様、ニーナの魔力タンクを感知すると、ケンは移動を開始した。

「ッ――!」

 ニーナも体を襲う初めての感覚に身悶え始めるが、ケンは先程と同様に集中しているため、そのまま魔力移動を続けた。

「……っ……」

「がまん……」

「……でき……ない」

「……あっ……あっ……」

「……ンン――!」

 ケンは、ニーナの魔力を一通り体内循環させると移動をやめた。ニーナは、体を上気させて頬を染めており、呼吸が荒くなっていた。

 2人の様子を見ていたティナは、ニーナに対して、してやったりとニヤニヤしているのだった。

「どうでしたか? 感じました?」

 呼吸を整えたニーナは静かに答えた。

「……感じすぎた」

「ティナさんの時は、何か腑に落ちない感じがしましたが、ニーナさんはちゃんと感じたんですね」

「ティナと同じ」

「えっ? 同じ……?」

 その言葉にケンは混乱するのだった。そんなケンに後ろからティナが声をかける。

「私もニーナも気持ちよくなったことだし、お風呂に行かせてもらうわね」

「ん? 気持ちよく……?」

「ケン君、1回じゃまだ感覚が掴めないから、また今度同じ様にしてね。その時はニーナも一緒よ?」

「うぅ……」

 ケンが未だに状況が掴めていない中、2人は入浴へと向かった。残されたケンは、やはり腑に落ちない感じがしたが、1回で掴めなかったのなら仕方がないかと、次に頼まれた時も、同様にしてあげようと思うのであった。

 かくして、ケンからされる魔力移動という、新たな快感を覚えたティナとニーナは、これから先も何かとケンにオネダリして、やってもらうのだった。

 ケンがこの行為の副次的作用で、相手に快感を感じさせていることに気づくのは、まだ先のことである。
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