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第5章 交易都市ソレイユ

第131話 ズイという街にて禁断症状

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 旅を始めてから2週間後、ようやく中継点である次の街に、通常の旅工程の倍は日にちをかけて、午前中のうちに辿りつくことができた。なぜ2週間もかかったかと言えば、今回は中継点に村を入れなかったらしい。

 小さな村とかになると、冒険者が泊まれるような宿屋はなく、酷いところになると、日々の生活が苦しいところもあるそうだ。

 それゆえ、いたずらに訪問し、そこの生活を壊さないためにも、村を中継点に入れるのはやめたらしい。

 そんな中、辿りついたこの街は【ズイ】というらしい。これといって目立つような特産品とかはないらしいが、踊りが有名らしい。収穫祭などを催しては一日中踊り続けるのだそうだ。

 昔からの言い伝えで、若い男女の悲しい話があるそうで、それにちなんで舞を踊っているらしい。楽しく騒いで悲しさを忘れようというのがコンセプトとなっている。

 ここでは、次の旅のための準備だったり、資金稼ぎという名の、俺のための憂さ晴らしのクエストを、受けることになっている。

 なぜ憂さ晴らしかは、旅の途中で大した魔物も出ず、出たとしても雑魚ばかりだったので、パーティーとして連携せずとも、1人で倒せるような魔物ばかりだったからだ。

 そんなせいか、物凄く旅が暇であり、段々と無口になってきた俺を心配して、ガルフさんが企画した。

 気を使わせてしまったのは、とても申し訳なく思うのだが、今回この街でクエストを受けまくって、魔物を狩りまくる予定にしている。

 狩りまくるために、ソロ行動を頼んではみたが、危なかっかしいと言われてしまい、断念するしかなかった。

 でも、こっそり受けに行ってもバレないんじゃないかと思う。パーティーだと、そこまで魔物を倒しまくることが出来ないからだ。

 とりあえず、宿屋の確保はガルフさんがするだろうし、隠蔽スキルを使えばバレずに離れるのは容易だ。

 そんな事を考えながら作戦を実行した俺は、隠蔽スキルを使ってパーティーを離れたら、早速ギルドへと赴いた。

 もう誰も、俺のこの渇望を止めることは出来ない!

 ギルドへ入ると注目を浴びてしまった。そりゃそうだ、俺は子供だから不審に思われても仕方がなかったのだ。

「おい、ガキ! ここはてめぇが来るような場所じゃねえんだよ。さっさとお家へ帰んな!」

「あっ、そういうの結構ですので」

 こんなテンプレよりもまずはクエストだ。ここら辺では、どんな魔物を狩ることができるのか確認しないと。

「おいコラ! 俺を無視してんじゃねえぞ」

 男が殴りかかってきたので、邪魔だと思いつつワンパンで沈める。そして何食わぬ顔して掲示板へ。

 どのクエストを受けようか……Bランクまでは受けていいから、Bランクから選ぶことにしよう。Cランクはあまり良さそうなのがないしな。

 なになに……Bランクだと、【ウッドバイパーの討伐】、【スタラチュラの討伐】、【トロールの討伐】ぐらいか。とりあえず、全部受注して早く狩りに出掛けよう。

 俺は踏み台を使って3枚とも引き剥がし、受付へと持って行った。

「冒険者ギルド、ズイ支部へようこそ」

「これお願いします」

「あの……こちらは、Bランククエストになっておりますので、間違っていると思いますが」

 そうか、ギルドカードを出さないと。

「はい、これ。間違ってませんよね? 受けていいですよね?」

 ケンの、“何がなんでも狩りに行く”という気迫に押され、受付嬢はタジタジとなった。

「あ、はい。間違っておりませんが、よろしいのですか?」

「受けたいから持ってきたんですよ。早く受理して下さい。禁断症状が出始めているので」

 ケンは逸る気持ちを抑えながら、まだかまだかと、苛立ちを表に出さないように注意していた。

「わ、わかりました。受理します」

「ありがとうございます」

 そのままケンはギルドを出ると、街の門へと急いで向かった。街を出る際には、先程入街したばかりなのに、もう外に出ようとしているところを見られたので、衛兵に訝しがられ、狩りに行くことを説明したら、子供1人では危ないと止められそうになり、ギルドカードを再度見せて渋々納得してもらった。

 そこからは、最速で北の森へと向かった。早く手応えのある魔物を狩りたいという禁断症状が出てしまい、自重など忘れてしまっていた。

 門から一瞬で消えてしまった子供に、衛兵は狐につままれたかのようになり、本当に子供がいたのかわからなくなってしまった。

 ケンは、北の森につくと【マップ】を使い、1番近くにいる魔物を探知した。速攻で現地へと走っていき、魔物を視界内におさめた。

「まずはスタラチュラか……それにしてもデカい蜘蛛だな。色合いといい、いかにも毒持ってますよって感じだな」

 スタラチュラは、体長2メートルからなる、真っ黒な体表に紫色のまだら模様がついている。

「よし、まずはこいつから始めよう!」

 魔物の前へと飛び出し、スタラチュラと相対する。向こうも威嚇行動のためか、足を立て大きく見えるように構えた。

 ケンは、腰にある鞘から片手剣を引き抜き身構える。魔法で倒せば1発なのだが、溜まったフラストレーションを解消するために、あえて近接戦闘を選んだ。

 片手剣を構えたと同時に、スタラチュラが垂直に跳躍し、臀部から糸を繰り出した。ケンは、その糸を真横に移動し避け、スタラチュラの行動を探る。

 スタラチュラは、木の上を器用に飛び回りながら、糸を繰り出し続ける。対するケンは、危なげなく蜘蛛糸の回避を続ける。

 何度もそのやり取りが終わった頃、ケンが避けた先で思わぬことが起こる。周り1面スタラチュラの糸で、逃げ道が塞がれていたのである。

「《ファイア》」

 火魔法を使ってみるが、燃え尽きる様子が全くない。どうやら糸には【火耐性】がついているようだ。魔物から離れた状態でも【火耐性】が有効だとは思いもよらなかった。素材としてはかなり使えそうである。

「《アイスフィールド》」

 ケンを中心に半径10メートル程が氷の世界へと様変わりした。ケンは、スタラチュラの糸を殴り飛ばすと、粉々に砕け散ったことから【火耐性】はあっても【氷耐性】はなかったと判断し、周りを囲んでた糸に向かい剣閃を解き放つ。

「《紫電一閃しでんいっせんまどか》」

 ケンの周囲に雷光が走ったかと思えば、瞬く間に剣閃がサークル状に飛んでいき、周りの糸はおろか木々さえも一刀両断にしていく。

 一刀両断された木々はそのまま倒れていき、地面に当たると同時に砕け散り、無数の破片となった。

「あ、やべっ! 自然破壊してしまった……」

 今更ながらに壊した木々のことを思い、口にした言葉だったが、今となっては後の祭りである。

 周囲の木々がなくなった為、見晴らしは良くなったのだが、肝心のスタラチュラは、未だ無傷で被害を免れた木の上で警戒していた。

 ケンの周囲の木々がなくなったことにより、スタラチュラは、木から木へと飛び移って移動することが出来なくなって、結果的に姿を現すしかなく、近接戦を余儀なくされた。

「こっからは俺のターンだ! 《瞬迅しゅんじん多連斬たれんざん》」

 ケンは踏み込んだ右足で地面を蹴り、スタラチュラの間合いへと入ると、そのまま片手剣を振りスタラチュラを抜き去った。振り返ると同時にまた地面を蹴り、同様の方法を繰り返す。

 敏捷に重きを置いたこの連撃を計8回、それだけでスタラチュラの脚は全て断たれた。

 全ての脚がなくなったことで、スタラチュラは、その場から身動きが取れなくなってしまった。

 ここまできてしまえば、相手はもうただの的。ケンにとって脅威とはなり得なかった。

 脚がなくとも藻掻いている、スタラチュラの横へと移動して剣閃一撃。それだけで、スタラチュラの頭部と胴体は分かたれた。

「スタラチュラは、単体で倒した方が良さそうだな。あの蜘蛛糸は厄介すぎる。素材として手に入れてみたいけど、まぁ、手に入れば儲けものとしておこう」

 スタラチュラを倒したケンは、次の獲物を探して、1人森を彷徨くのだった……


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


――ズイの街角

 ここには、呆れ返っていた1つのパーティーがいた。宿屋でそれぞれの部屋分担を決めたあと、1人足りないことに気づいたのだ。

 ガシガシと頭を掻きながら、ガルフは目下悩みの種を口にする。

「ったく、しょうがねえな。あいつは……」

「旅のあいだは、ずっとストレスを抱えてたんじゃないかな?」

「それにしても堪え性がねえぞ」

「まだ子供だから仕方ないよ」

 そんな男性2人のやり取りよりも、当の本人が、どこへ行ったのか気になる存在が2人いた。

「それよりもケン君がどこに行ったかよ」

「それ」

 そんな言葉にさも当然かのように、ガルフが答えた。

「どこに行ったかなんて、考えなくてもわかるだろ? 魔物のところに決まってる」

「それにしても凄いよね。いつ離れたかわからなかったから」

「宿屋の前までは、確かにいたわ」

「多分、1番気の緩むタイミングで離れたんだろ? 子供のくせに頭はいいんだよな」

「隠蔽スキル」

「持ってるかも知れないね」

「厄介だわ」

「まぁ、考えても仕方ねえだろ?」

「そうだね。それよりもどうするかだね」

 その言葉にいち早く反応したのは、ティナだった。

「追いかけましょう!」

「やめとけ。あいつが本気で狩りを楽しんでるんだ。俺たちが混じったら楽しめねえだろ?」

 ガルフの言葉を、疑問に感じたニーナが質問した。

「どうして?」

「あいつの本気の狩りだぞ? ニーナはついていけるのか?」

「……」

 その言葉にニーナは答えることが出来なかった。明らかに今の自分とケンとの間には、追いつけないほどの実力差がついているからだ。そんな気持ちを察してか、ロイドがフォローを入れる。

「仕方ないよ。ついていけるとしたら、同じ規格外の冒険者たちだろうね」

「ケン君って、どこまで強くなるんだろ?」

 ティナの呟きに、皆、思い思いの気持ちを抱くが、最終到着地点は、全員同じ答えであった。その考えを示し合わせたわけではないが、ガルフが口にする。

「単独達成での、Sランク冒険者だろうな」

 結局、パーティー内の話し合いで、帰ってくるのを待とうということに決まったのだった。
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