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第5章 交易都市ソレイユ
第129話 2人の想い①
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~ ティナ&ニーナside ~
私たちは、タミアを出てから安全な道のりで旅を始めた。旅の目的はケン君のために国を1周する大規模なものだ。
途中、ケン君が浮かない顔をしていたから聞いてみたら、魔物と戦えなくて暇だと言った。
旅は安全が第一なのに、わざわざ魔物に対して戦いを挑むの? ケン君ってバトルジャンキーなのかしら?
どうやら王都でかなりのクエストを受けていたのが原因みたい。それだけ魔物を倒していたら、確かに今の状況は暇よね。
というか、2日間のクエストでCランクってどんだけ異常なのよ!? 2日間で、どれだけのことをしたのか聞くために、ケン君の強さの秘密に、どんどんメスが入っていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケンが王都ギルドで、サーシャという人にお世話になったと言う。受付嬢らしい。これは確実にライバルが1人増えたことになる。将来、どれだけ増えるのか先行き不安でもある。
ケンの強さの秘密の中で明かされたアイテムボックスは、まだいっぱいになったことがないらしい。
私は、どれだけの魔力量か気になって質問したのだが、私の言葉足らずな質問に、ケンは意味がわかってないみたい。ティナが代わりに説明してくれて、驚きの事実が判明した。
「ニーナが言いたいのはね、ケン君はどの属性を使えるのかってことよ。クエストの時は、ニーナの真似で土属性を使っていたでしょ?」
「そういうことですか……属性って何種類あるんですか?」
「基本的なものだと、【火】【水】【雷】【土】【風】の5属性に、【光】【闇】の2属性があるわ。ちなみに私は【風】と【光】の2属性持ちよ。ケン君は【土】が確定しているでしょ? 他には何かあるの?」
「全部ですね」
私は驚愕した。全部って何? えっ!? 意味わかんない。私は【火】と【水】と【土】しか扱えないのに……
ケンはズルいと思う。結局、ケンだけ秘密をバラされるのは、不公平と言うことで、今度教会に行ったらステータスを見せることになった。
ガルフが言うには、冒険者夫婦は見せあったりするらしい。ティナが嫁宣言したもんだから、慌てて私もお嫁さんになると言ってしまった。恥ずかしい……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夕日が差し迫ってきた頃、野営の準備に取りかかった。ガルフがケン君にテントの事を聞いているけど、ニーナがちゃんと選んだみたい。
ケン君と一緒に寝るために、私を含めた3人で広々と使える4人用を買うなんてね。グッジョブよ!
野営の時は、私とニーナは薪集めの係。料理はさせて貰えないの。以前、ニーナと2人で肉を焼いて塩を振ったものを出したら、ロイドが“それは料理じゃない!”って怒ったのよね。ちゃんと焼いたんだし立派な料理だと思うんだけど、失礼しちゃうわね!
薪を拾うため森に入ったことだし、今回はちょうどいいからニーナとケン君についての話をしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねぇ、ニーナ。ケン君に、今日頑張ったご褒美を、何かあげようかと考えているんだけど」
確かにケンは頑張っていたと思う。魔物が狩れなくて暇そうにしていたけど。そう思ってご褒美もありかと思い、聞き返すことにした。
「ご褒美? 何にする?」
私はこの時、ティナの言うご褒美の中身を甘くみていた。
「私たちの体よ」
突拍子もない返答内容に私は愕然とした……
(えっ!? 何言ってるの? 頭大丈夫?)
「そんな引かなくてもいいじゃない」
「普通に引く」
誰だって、いきなりご褒美に、体を差し出すと言われれば引くと思う。私だけではないはずだ。
「正確には、ケン君をおっぱいで挟んであげるのがご褒美」
「それなら理解出来る」
最初から、そう言ってくれればよかったのに、変に考えてしまったじゃない。
「それで、見張りを交代したら、テントの中で裸になって抱きつくの」
「……」
は、裸? いやいや、いつもみたいに、抱きつくだけでいいじゃない!
「あれ? ニーナは平気よね? ケン君のこと好きなんだし」
さも当然かのように、ティナは言ってくる。
(待って!? おかしいのは私なの!?)
「んー……それなら私だけでしようかな」
「ティナは、恥ずかしくないの?」
「だっていつもケン君の前で着替えてるし、たまに裸のままで抱きついたりもするし。恥ずかしがって、慌てて後ろを向くケン君を見ると、キュンキュンしちゃうのよね」
は……? いつもしてたの? あの宿屋で……? 痴女なの?
「言っておくけど、痴女じゃないわよ?」
「じゃあ、何故?」
「んー、きっかけは、最初のクエストを一緒にやった日かな」
「カッコよかった」
あの姿は痺れたなぁ……
「それもよかったけど、私が言ってるのは夜のことよ」
「夜?」
もしかして襲ったの!? 子供相手に!?
「あの日の報酬は、受け取りで5等分したから、バカルフとアホイドの2人が、報酬が少ないって言ってたじゃない?」
あぁ、確かに言ってたなぁ。金使いが荒いからそうなるんだ。それにしても、バカルフにアホイドって……プッ……
「あれ……ケン君、ずっと気にしてたのよ。部屋に戻ってからも」
「そんな風には見えなかった。」
「ニーナはまだまだね。そんなんじゃ、ケン君は逃げちゃうわよ?」
「逃げる?」
「ケン君って、どこか他人行儀だったじゃない?」
「確かに。人見知り?」
私も人見知りするしなぁ。あまり上手く人と話せないで、言葉数が少ないのが癖になっちゃったし……
「私も最初はそう思ってたのよ。でも、ずっと一緒の部屋で過ごしてたら、何かが違うって感じ始めたの」
「何が?」
「それはね、壁を造られている感じなのよ。人をこれ以上は、寄せ付けないって感じで」
「そうだったの?」
「まぁ、ニーナは一緒にいた時間が少なかったから、気づけなくても仕方がないんだろうけど」
確かにティナの言う通り、過ごした時間がティナに比べると、明らかに少ない。
「私がスキンシップで歩み寄っても、少し近づいたかなと思ってたら、ケン君の心は、離れていってたのよね」
「それが逃げるってこと?」
「そう……だから、あの日の夜に思い切って聞いてみたの。報酬の件で落ち込んでいたからね。タイミングとしてはちょうどよかったわ」
「何がわかったの?」
「これは、ケン君のプライバシーに関することだから、私から言うのもねぇ……」
ここまできてそれはズルい。気になって仕方がないじゃない!
「そこまで言ったなら話すべき」
「まぁ、ニーナもケン君のことが好きだから、知っておいた方が今後のためにもいいのかもね」
「ケンのことなら、何でも知りたい」
「ケン君って、記憶を失ってるじゃない?」
「両親の事とか、わからないって言ってた」
「実はね、私の予想だと2回記憶を失ってるの」
「――!」
2回!? なんで2回も!? あの年でそんな辛い事を体験してるの?
「1回目……それがいつ起こったのかはわからないけど、2回目の記憶喪失は、最近のことだと思うの」
「どうして?」
「これも予想なんだけど、ケン君って、記憶がなくてお金を稼ぐために、冒険者になったって言ったじゃない?」
「確かに……」
「しかも、王都で冒険者になった。冒険者になって2日間のクエストで、Cランクまで上がった。それからタミアに来て、私たちと出会った」
「ケンの言ってた内容」
「おかしいでしょ? 昔に記憶をなくしたのなら、冒険者になる前はどうやって生活していたの? スラム? 違うわよね? スラムで生活していたなら、あそこまで常識知らずでは生きていけないわ。むしろ他人に欺かれないように、狡猾になったりするし。それ以外で考えたら、孤児院や誰かに養われていたことも除外される。もしそうなら、普通に常識を学んでいるはずだから。ケン君が言ったのは、記憶がないから、冒険者になってお金を稼いだよ」
驚いた……ティナがここまで頭がいいとは思わなかった。いつもは朝に弱くてダメダメな印象しか持っていなかったのに……私は、あまりの驚きについ、口にしてしまった。
「たまに頭が良くなる?」
「ニィィ~ナァア~! たまに頭が良くなるってどういう事よっ!」
「口が滑った」
「はぁ……まぁ、いいわ。つまりね、さっきの理由で、ケン君は最近記憶をなくしたと私は予想しているの」
「辻褄は合ってる」
「その2回目の記憶喪失で、どの程度失われたか……その事はケン君が、予想して言ってたからわかるの。きっと、この体の記憶を失う前の思い出なんだろうって、この世界で生きてきた記憶なんじゃないかって」
この体? この世界? どこか妙な言い回しに引っかかる気がする。でも、普通に聞き流せる範囲でもある。それよりも今は、気になることがあるから、そちらを優先させよう。
「それじゃあ、1回目は何を失った?」
「問題はその1回目なのよ。ケン君が記憶のことを、思い出そうとした時に頭痛を起こしたのよ。2回目の時に頭痛がし始めて、1回目の時は、声に出して苦しんでた」
「大丈夫だったの?」
「その時は、咄嗟に光魔法で痛みをなくしたわ。そして、ケン君が言うには、その1回目の記憶は、思い出すことを体が拒絶しているって言うのよ」
体が拒絶反応を起こすって何? いったいそこに、どんな記憶が隠されているの?
「多分、私はその1回目で、ケン君がその出来事の記憶を失い、心が壊れて失われたんだと思う」
心が壊されて失う出来事って……ケンは今現在、心が壊れているの? 全然そうは見えないけど、気になる私は先を促した。
「1回目は、記憶と共に心が壊れて失われた?」
「そう。その出来事が、今のケン君を形作ってるのよ」
「今のケンを?」
「ここでやっと、他人行儀で壁を造ってるって話に繋がるの。ケン君は基本的に人を信じていないのよ。私は、その事実を知って悲しかったけどね」
「そういう風に見えない」
「それはそうよ。今までずっとそうして生きてきて、体に染み付いたそれが当たり前だと、無自覚に過ごしてたんだから。傍から見ても歪に感じないほど、洗練された壊れ方なのよ」
「何故気づいたの?」
「ケン君のことが、本当に好きだからよ」
自信満々に語るティナは、とても輝いて見えた。私の好きとは深みが全然違う。
「でも好きだからこそ気づいて、とても悲しかった。ケン君にどんだけ好意を寄せても、受け取って貰えないの。ケン君にとっては、他人事だから……どんなに好きと言っても、心に響かない……」
「他人事?」
「そう。ケン君にとっては、自分自身のことですら他人事なの。好意を寄せても、他人事だから無関心。誰か好みの人を見つけても、他人事だから好きにならない。全ての好意が他人事なの」
全ての好意が他人事って……本当に誰も寄せ付けないの? 確かに他人行儀ではあったけど……
「ケン君ね、そんな自分に気づいてしまって、自分のことを人間の皮を被った魔物って言ったのよ……」
ティナが泣いている……その時のことを思い出したのかな? ティナの話を聞いてるだけの私でも、とても悲しく感じてしまう。
ケンは自分を魔物と言うほどに、壊れてしまってたんだね。その場で聞いていたティナの悲しみは、計り知れなかっただろうな。
「……ッ……でもね、私が少しだけでもいいから、歩み寄って欲しいって言ったら、最後には、ちょっと頑張ってくれるって言ってくれたの。それに、その後は、“ティナさんはどこか気になる存在”とも言ってくれたのよ! その言葉だけで、私は大満足だったわ!」
えっ、何なの!? その変わり身の早さは……
さっきのシリアス返してよ! 私の気持ちを返してよ!
「とまぁ、長くなったけど、その出来事がきっかけかな。その日の夜は、ケン君とラブラブになれたし。寝るときに不意打ちでチュッてされて、私も寝てたケン君にチュッて仕返して、次の日の朝には、寝ている私にまた不意打ちでチュッてしてきて、ちゃんと起きたらおはようのキスしてくれたし。キャーー!!」
惚気キターッ!!
何っ!? あの朝の早起きの背景には、そんな出来事が隠されていたの? 確かに珍しく早起きだなとは思ったけど! 思ったけどさ!!
はぁ……なんか疲れたな……
「あ、それで、ご褒美の件なんだけど、裸でケン君を接待するってことでいいよね?」
何、その今までの話がなかったかのような、軽い感じは……もう私は疲れたから好きにして。
「それでいい」
そのあとも、恥ずかしい内容の綿密な計画が、ティナの口から語られて、私は、ケンの為ならいいかなと思い始めたのだった。
……もしかして私……毒されたかな?
私たちは、タミアを出てから安全な道のりで旅を始めた。旅の目的はケン君のために国を1周する大規模なものだ。
途中、ケン君が浮かない顔をしていたから聞いてみたら、魔物と戦えなくて暇だと言った。
旅は安全が第一なのに、わざわざ魔物に対して戦いを挑むの? ケン君ってバトルジャンキーなのかしら?
どうやら王都でかなりのクエストを受けていたのが原因みたい。それだけ魔物を倒していたら、確かに今の状況は暇よね。
というか、2日間のクエストでCランクってどんだけ異常なのよ!? 2日間で、どれだけのことをしたのか聞くために、ケン君の強さの秘密に、どんどんメスが入っていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケンが王都ギルドで、サーシャという人にお世話になったと言う。受付嬢らしい。これは確実にライバルが1人増えたことになる。将来、どれだけ増えるのか先行き不安でもある。
ケンの強さの秘密の中で明かされたアイテムボックスは、まだいっぱいになったことがないらしい。
私は、どれだけの魔力量か気になって質問したのだが、私の言葉足らずな質問に、ケンは意味がわかってないみたい。ティナが代わりに説明してくれて、驚きの事実が判明した。
「ニーナが言いたいのはね、ケン君はどの属性を使えるのかってことよ。クエストの時は、ニーナの真似で土属性を使っていたでしょ?」
「そういうことですか……属性って何種類あるんですか?」
「基本的なものだと、【火】【水】【雷】【土】【風】の5属性に、【光】【闇】の2属性があるわ。ちなみに私は【風】と【光】の2属性持ちよ。ケン君は【土】が確定しているでしょ? 他には何かあるの?」
「全部ですね」
私は驚愕した。全部って何? えっ!? 意味わかんない。私は【火】と【水】と【土】しか扱えないのに……
ケンはズルいと思う。結局、ケンだけ秘密をバラされるのは、不公平と言うことで、今度教会に行ったらステータスを見せることになった。
ガルフが言うには、冒険者夫婦は見せあったりするらしい。ティナが嫁宣言したもんだから、慌てて私もお嫁さんになると言ってしまった。恥ずかしい……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夕日が差し迫ってきた頃、野営の準備に取りかかった。ガルフがケン君にテントの事を聞いているけど、ニーナがちゃんと選んだみたい。
ケン君と一緒に寝るために、私を含めた3人で広々と使える4人用を買うなんてね。グッジョブよ!
野営の時は、私とニーナは薪集めの係。料理はさせて貰えないの。以前、ニーナと2人で肉を焼いて塩を振ったものを出したら、ロイドが“それは料理じゃない!”って怒ったのよね。ちゃんと焼いたんだし立派な料理だと思うんだけど、失礼しちゃうわね!
薪を拾うため森に入ったことだし、今回はちょうどいいからニーナとケン君についての話をしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねぇ、ニーナ。ケン君に、今日頑張ったご褒美を、何かあげようかと考えているんだけど」
確かにケンは頑張っていたと思う。魔物が狩れなくて暇そうにしていたけど。そう思ってご褒美もありかと思い、聞き返すことにした。
「ご褒美? 何にする?」
私はこの時、ティナの言うご褒美の中身を甘くみていた。
「私たちの体よ」
突拍子もない返答内容に私は愕然とした……
(えっ!? 何言ってるの? 頭大丈夫?)
「そんな引かなくてもいいじゃない」
「普通に引く」
誰だって、いきなりご褒美に、体を差し出すと言われれば引くと思う。私だけではないはずだ。
「正確には、ケン君をおっぱいで挟んであげるのがご褒美」
「それなら理解出来る」
最初から、そう言ってくれればよかったのに、変に考えてしまったじゃない。
「それで、見張りを交代したら、テントの中で裸になって抱きつくの」
「……」
は、裸? いやいや、いつもみたいに、抱きつくだけでいいじゃない!
「あれ? ニーナは平気よね? ケン君のこと好きなんだし」
さも当然かのように、ティナは言ってくる。
(待って!? おかしいのは私なの!?)
「んー……それなら私だけでしようかな」
「ティナは、恥ずかしくないの?」
「だっていつもケン君の前で着替えてるし、たまに裸のままで抱きついたりもするし。恥ずかしがって、慌てて後ろを向くケン君を見ると、キュンキュンしちゃうのよね」
は……? いつもしてたの? あの宿屋で……? 痴女なの?
「言っておくけど、痴女じゃないわよ?」
「じゃあ、何故?」
「んー、きっかけは、最初のクエストを一緒にやった日かな」
「カッコよかった」
あの姿は痺れたなぁ……
「それもよかったけど、私が言ってるのは夜のことよ」
「夜?」
もしかして襲ったの!? 子供相手に!?
「あの日の報酬は、受け取りで5等分したから、バカルフとアホイドの2人が、報酬が少ないって言ってたじゃない?」
あぁ、確かに言ってたなぁ。金使いが荒いからそうなるんだ。それにしても、バカルフにアホイドって……プッ……
「あれ……ケン君、ずっと気にしてたのよ。部屋に戻ってからも」
「そんな風には見えなかった。」
「ニーナはまだまだね。そんなんじゃ、ケン君は逃げちゃうわよ?」
「逃げる?」
「ケン君って、どこか他人行儀だったじゃない?」
「確かに。人見知り?」
私も人見知りするしなぁ。あまり上手く人と話せないで、言葉数が少ないのが癖になっちゃったし……
「私も最初はそう思ってたのよ。でも、ずっと一緒の部屋で過ごしてたら、何かが違うって感じ始めたの」
「何が?」
「それはね、壁を造られている感じなのよ。人をこれ以上は、寄せ付けないって感じで」
「そうだったの?」
「まぁ、ニーナは一緒にいた時間が少なかったから、気づけなくても仕方がないんだろうけど」
確かにティナの言う通り、過ごした時間がティナに比べると、明らかに少ない。
「私がスキンシップで歩み寄っても、少し近づいたかなと思ってたら、ケン君の心は、離れていってたのよね」
「それが逃げるってこと?」
「そう……だから、あの日の夜に思い切って聞いてみたの。報酬の件で落ち込んでいたからね。タイミングとしてはちょうどよかったわ」
「何がわかったの?」
「これは、ケン君のプライバシーに関することだから、私から言うのもねぇ……」
ここまできてそれはズルい。気になって仕方がないじゃない!
「そこまで言ったなら話すべき」
「まぁ、ニーナもケン君のことが好きだから、知っておいた方が今後のためにもいいのかもね」
「ケンのことなら、何でも知りたい」
「ケン君って、記憶を失ってるじゃない?」
「両親の事とか、わからないって言ってた」
「実はね、私の予想だと2回記憶を失ってるの」
「――!」
2回!? なんで2回も!? あの年でそんな辛い事を体験してるの?
「1回目……それがいつ起こったのかはわからないけど、2回目の記憶喪失は、最近のことだと思うの」
「どうして?」
「これも予想なんだけど、ケン君って、記憶がなくてお金を稼ぐために、冒険者になったって言ったじゃない?」
「確かに……」
「しかも、王都で冒険者になった。冒険者になって2日間のクエストで、Cランクまで上がった。それからタミアに来て、私たちと出会った」
「ケンの言ってた内容」
「おかしいでしょ? 昔に記憶をなくしたのなら、冒険者になる前はどうやって生活していたの? スラム? 違うわよね? スラムで生活していたなら、あそこまで常識知らずでは生きていけないわ。むしろ他人に欺かれないように、狡猾になったりするし。それ以外で考えたら、孤児院や誰かに養われていたことも除外される。もしそうなら、普通に常識を学んでいるはずだから。ケン君が言ったのは、記憶がないから、冒険者になってお金を稼いだよ」
驚いた……ティナがここまで頭がいいとは思わなかった。いつもは朝に弱くてダメダメな印象しか持っていなかったのに……私は、あまりの驚きについ、口にしてしまった。
「たまに頭が良くなる?」
「ニィィ~ナァア~! たまに頭が良くなるってどういう事よっ!」
「口が滑った」
「はぁ……まぁ、いいわ。つまりね、さっきの理由で、ケン君は最近記憶をなくしたと私は予想しているの」
「辻褄は合ってる」
「その2回目の記憶喪失で、どの程度失われたか……その事はケン君が、予想して言ってたからわかるの。きっと、この体の記憶を失う前の思い出なんだろうって、この世界で生きてきた記憶なんじゃないかって」
この体? この世界? どこか妙な言い回しに引っかかる気がする。でも、普通に聞き流せる範囲でもある。それよりも今は、気になることがあるから、そちらを優先させよう。
「それじゃあ、1回目は何を失った?」
「問題はその1回目なのよ。ケン君が記憶のことを、思い出そうとした時に頭痛を起こしたのよ。2回目の時に頭痛がし始めて、1回目の時は、声に出して苦しんでた」
「大丈夫だったの?」
「その時は、咄嗟に光魔法で痛みをなくしたわ。そして、ケン君が言うには、その1回目の記憶は、思い出すことを体が拒絶しているって言うのよ」
体が拒絶反応を起こすって何? いったいそこに、どんな記憶が隠されているの?
「多分、私はその1回目で、ケン君がその出来事の記憶を失い、心が壊れて失われたんだと思う」
心が壊されて失う出来事って……ケンは今現在、心が壊れているの? 全然そうは見えないけど、気になる私は先を促した。
「1回目は、記憶と共に心が壊れて失われた?」
「そう。その出来事が、今のケン君を形作ってるのよ」
「今のケンを?」
「ここでやっと、他人行儀で壁を造ってるって話に繋がるの。ケン君は基本的に人を信じていないのよ。私は、その事実を知って悲しかったけどね」
「そういう風に見えない」
「それはそうよ。今までずっとそうして生きてきて、体に染み付いたそれが当たり前だと、無自覚に過ごしてたんだから。傍から見ても歪に感じないほど、洗練された壊れ方なのよ」
「何故気づいたの?」
「ケン君のことが、本当に好きだからよ」
自信満々に語るティナは、とても輝いて見えた。私の好きとは深みが全然違う。
「でも好きだからこそ気づいて、とても悲しかった。ケン君にどんだけ好意を寄せても、受け取って貰えないの。ケン君にとっては、他人事だから……どんなに好きと言っても、心に響かない……」
「他人事?」
「そう。ケン君にとっては、自分自身のことですら他人事なの。好意を寄せても、他人事だから無関心。誰か好みの人を見つけても、他人事だから好きにならない。全ての好意が他人事なの」
全ての好意が他人事って……本当に誰も寄せ付けないの? 確かに他人行儀ではあったけど……
「ケン君ね、そんな自分に気づいてしまって、自分のことを人間の皮を被った魔物って言ったのよ……」
ティナが泣いている……その時のことを思い出したのかな? ティナの話を聞いてるだけの私でも、とても悲しく感じてしまう。
ケンは自分を魔物と言うほどに、壊れてしまってたんだね。その場で聞いていたティナの悲しみは、計り知れなかっただろうな。
「……ッ……でもね、私が少しだけでもいいから、歩み寄って欲しいって言ったら、最後には、ちょっと頑張ってくれるって言ってくれたの。それに、その後は、“ティナさんはどこか気になる存在”とも言ってくれたのよ! その言葉だけで、私は大満足だったわ!」
えっ、何なの!? その変わり身の早さは……
さっきのシリアス返してよ! 私の気持ちを返してよ!
「とまぁ、長くなったけど、その出来事がきっかけかな。その日の夜は、ケン君とラブラブになれたし。寝るときに不意打ちでチュッてされて、私も寝てたケン君にチュッて仕返して、次の日の朝には、寝ている私にまた不意打ちでチュッてしてきて、ちゃんと起きたらおはようのキスしてくれたし。キャーー!!」
惚気キターッ!!
何っ!? あの朝の早起きの背景には、そんな出来事が隠されていたの? 確かに珍しく早起きだなとは思ったけど! 思ったけどさ!!
はぁ……なんか疲れたな……
「あ、それで、ご褒美の件なんだけど、裸でケン君を接待するってことでいいよね?」
何、その今までの話がなかったかのような、軽い感じは……もう私は疲れたから好きにして。
「それでいい」
そのあとも、恥ずかしい内容の綿密な計画が、ティナの口から語られて、私は、ケンの為ならいいかなと思い始めたのだった。
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