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第4章 新たなる旅立ち

第121話 魔法の実力

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 ティナさんとしっかり話し合った翌日、気持ちよく目が覚めた。心のどこかがスッキリした気分だ。

 今考えると、昨日話したことが良かったのかもしれない。心の内を明かしたからか、どこか重みが軽くなった気がする。

 起き上がる前に隣を見ると、ティナさんはまだ寝ているようだった。至近距離でまじまじと見るのは初めてだな。

 そう感じていたら、昨日の寝る前のことを思い出し少し動悸が早くなった。

 今にして思えば、思い切ったことをしたものだと感じる。据え膳食わぬは男の恥と言うが、まさか自分がそうなるとは思ってもみなかった。

 正しくは最後までいってないから、前菜で終わって食べ残しているわけだが。

 ティナさんは俺のことを好きと言ってくれたが、俺からは何も言ってない。

 好きがどういう気持ちかまだ掴めていないが、ティナさんに関しては、一緒にいて嫌と感じることがない。

 振り回されることもあるが、一緒にいると落ち着くこともある。これが好きという気持ちなのだろうか? まだわからないが、徐々にわかっていけたらと思う。

 そういえば、起きたらお風呂に入ると言っていたし、起こした方がいいのかもしれないな。

「ティナさん、朝ですよ。起きてください」

「……ん……」

「ほら、早く」

 いつも通り起きそうになかったので、身体を揺すってみる。

「……まだぁ……」

 これではいつまで経っても起きないし、強引に起こすことにした。昨日、1回やったんだし、これで目が覚めてくれるなら、動悸がするくらい安いものだ。

「ティナさん、少し失礼しますよ」

 抱かれている腕の中から動き出し、ティナさんの顔へ近づく。そのまま顔を近づけて優しく唇を重ねた。

「……」

 ケンがキスをすると、ティナは微睡みから徐々に覚醒しだした。目を開けるとそこにはケンの顔があり、キスをされていることに気づくと一気に混乱しだした。

(えっ!? 何これ? 何でケン君がキスしてるの!? 昨日の寝込みを襲ってたのがバレたの!? いやいや、寝てたから気づいてないはず! じゃあ、何でキスしてるの!? 寝込みを襲われてるの!?)

 ケンは僅かな動きから、ティナが覚醒したことに気づいたのか、そっと唇を離した。

「おはようございます。朝ですよ、ティナさん」

 ぽーっとした表情でケンを見つめるティナは、今起きた出来事を確認するかのように、唇へと指を当てた。

「……キス……」

「起きてください。お風呂に行くのでしょう?」

「……行くけど……キスされた……」

「ティナさんが、中々起きてくれないからですよ」

「だってまだ眠いし……」

「ちゃんと起きてくれたら、目覚めてる状態でもう1回しますけど、どうします? 起きますか? それともまだ寝ますか?」

 起きればキスしてくれると聞かされ、未だ不意打ちでしかされていないことを思い出し、しっかり起きている状態で、ちゃんとされたいと思ったティナは起きることにした。

「……起きるわ!」

 それからの行動は早かった。とても朝が弱いとは思えないほどに。

 ティナが起き上がるのと同時に、ケンも起き上がり、お互いに向き合った。ティナは、キスされると思いドキドキしていたが、一向にケンが動かないところを見て不思議に感じていたら、思いもよらぬことを聞かされる。

「ティナさんに1つ伝えたいことがあります」

「え……キスは?」

 伝えたいことよりも、キスを優先するティナに、ケンは呆気に取られてしまった。

「……その後ですね」

「伝えたいことって何?」

 ティナは、おあずけをくらった状態だったが、しっかりと聞くことにした。

「今朝、目覚めてから少し考えてみました。ティナさんは、俺のことを好きと言ってくれますが、俺にはまだ好きという気持ちが、どういったものかわかりません。だけど、ティナさんが側にいても嫌とも思わないし、一緒にいると落ち着く気持ちになれます。これから、その気持ちが徐々にわかっていけたらなと思ってます。それでもいいですか?」

 ティナは、ケンの言葉を一つ一つ噛み締めるように、頭の中で消化していき、気づいたら瞳に涙を浮かべていた。

 昨日、踏み込んで話して良かったと改めて思い、飛びっきりの笑顔で返事を返すのだった。

「はい! ありがとう……」

 その瞬間、涙は雫となって頬を伝うが、ケンは両手をティナの頬に添えると優しく拭いながら、顔を近づけて唇を重ねた。

「……」

 ケンがそっと唇を離すと、名残惜しく思ったのか、ティナから言葉が漏れる。

「あ……」

「さて、支度してお風呂に入ってきてください。今日もクエストに行くんですから」

 ケンは照れているのか、そっぽを向いて支度を促す。その姿を見て、ティナは嬉しくなりながら、ケンを抱きしめて答える。

「そうね、これからはずっと一緒よ。嫌って言っても離れてあげないんだからね」

 少しするとティナは入浴へと向かった。残されたケンは、せっかくティナが朝早く起きれたから、一緒に食堂へ向かおうと待つことにした。

 ティナが入浴から戻り、2人で食堂へ向かうと、他のメンバーはすでに揃っていた。

「お、おい……ティナが何で目覚めてるんだ!?」

「これは珍しいこともあるもんだね」

「天変地異」

 食堂で朝食を摂っていた3人は驚愕し、それぞれ感想を漏らした。

「3人とも酷いわね。私だってやればできるのよ!」

 すかさずティナも反論するが、日常的に常習犯であることから、説得力が全くと言っていいほどなかった。

「まぁ、確実にケンのおかげだろうな」

「そうだね。1人で起きれるとは思えないしね」

「他力本願」

 さらに追い打ちをかける3人に対して、ケンがフォローする。

「今日はティナさんの力ですよ。いつもは、無理矢理な感じで起こしてましたが、今日はすんなり起きてくれましたので」

 さすがにキスをして目覚めさせ、キスを餌に起こしたとも言えず、ありきたりな言葉で、誤魔化すことにしたケンであった。

「ほら、聞いたでしょ? 私は凄いんだから」

「それなら、これからはその凄いのを、毎日見せてもらおうか?」

「う……」

「どうしたんだ? 凄いんだろう?」

「いや……凄いのは凄く疲れるから……さすがに毎日はちょっと……」

 ガルフからの鋭いツッコミに、タジタジになりながら、ティナは答えるのであった。

「まあまあ、とりあえずは朝ご飯を食べましょう。今日もクエストに行くのですから」

「そうだな。今日はティナが起きてるから、そのままクエストに行けるように、準備してからギルドに向かおう」

 それから朝食を食べ終わって、各々の準備のため一旦部屋へと戻った。

 部屋に戻ると早速準備を始めるが、そこで改めて拙いことに気づいた。いつもなら、ティナが寝ている間に準備していたので、【無限収納】から取り出しても問題なかったのだが、今日はすでに起きているのだ。

「どうしたの、ケン君? ボーッとしちゃって。準備しないの?」

「いや……あの……」

「アイテムボックスから、装備取り出さないの?」

「えっ?」

「ん?」

「知ってたんですか?」

「何を?」

「収納持ちだってことを……」

「それはわかるわよ。ケン君が旅用のそのバッグから、何かを取り出すのを見たことないもの」

「あっ……」

 ケンは宿に泊まってから、旅用のバッグは使ってなかったのだ。バッグの中には、道具類が入っているだけで、日常的に使うものに関しては、全て【無限収納】に入れていた。

「ケン君って所々抜けている時があるわよね。そんなところも可愛くて好きだけど」

「あぁぁ……やってしまった……」

 ケンは、四つん這いの姿勢になり項垂れた。

「知られたくなかったの?」

「えぇ。王都にいた時に、解体場の責任者の方から珍しいものだと言われ、それからはバレないようにしてたんですよ」

「確かに珍しいけど、そこまで構えなくても平気よ。それなりにアイテムボックスを使える人はいるから。冒険者だったり、商人だったりと」

「いや、俺のはアイテムボックスじゃなくて、【無限収納】なんですよ」

 その言葉にティナは、キョトンとする。

「まずいですよね?」

「……それはまずいわね。勇者じゃないのよね? 見た目から違うのはわかるけど。神聖皇国に知られたら、拉致されて勇者に担ぎ上げられるわね」

「やっぱりそうなりますか……こんな子供の勇者なんて、民衆は信じないでしょうに。はぁぁ……」

「それなら、無理に隠さず、アイテムボックスと言いきった方がいいわ」

「そうなんですか?」

「あれは魔力に依存することがわかってるから、魔法も使えるケン君なら容量があっても問題にならないわよ」

「そうだったんですね。よかったぁ」

 ケンは、特に問題なく【無限収納】を使えることに、安堵するのだった。

「それじゃあ、問題も解決したことだし準備しましょ」

 相変わらず目の前で着替えだすティナを見て、ケンは慌てて後ろを向き自分も準備を始めた。

「見なくていいの?」

「これで見たら、負けだと思いますので」

 振り返った瞬間に、ティナのニヤニヤとした顔が安易に想像出来て、絶対に振り返ってやるものかと、ケンは心に決めたのだった。

 2人でフロアに向かい、他の人たちと合流すると、そのままギルドへと向かった。

 ギルドで、クエストを決めるため掲示板へ向かったのだが、クエストを決める前に、ニーナが1つの提案をする。

「ケンの魔法が見たい」

「そういえば、ケンは魔法も使えるんだったか」

「自己紹介の時に言ってたね。それがあるから、ソロで活動しているって」

「私も見たいわ。絶対凄いわよ!」

「ティナさん、ハードル上げないで下さいよ」

「それなら、また無難なやつにしておくか。魔法を使うなら、毒マジロを狩ってもいいかもな。あとは適度にバカ牛か?」

「それがいいかもね。昨日と全く同じだけど、魔法の実力を試すなら、持ってこいのクエストだと思うよ」

 ガルフの提案にロイドも賛成したことにより、昨日と同じ魔物を狩ることになった。

 平原についたケンたちは、早速魔物のいる位置まで行くことにした。

「昨日はのんびりとした狩りだったから、今日はサクサク倒していくか」

「とりあえず、単体でケンの魔法を確認したら、複数の魔物の狩りにシフトすればいいんじゃない? 集団戦の動きも確認したいし」

「とりあえず、その方向性でいくか。ケン、魔物の位置はわかるか?」

「はい、このまま真っ直ぐ行けば1体いますよ」

「よし……それなら、そいつでケンの魔法の実力を確かめよう。」

 そのまま真っ直ぐ歩いていくと、遠くの方に毒マジロがいるのを確認できた。

「毒マジロだな。ケン、魔法で攻撃してみてくれ。ニーナはケンのサポートだ」

「わかった」

 ニーナが淡々と返事をすると、ケンは、昨日毒マジロを倒したニーナに、復習の意味も兼ねて質問した。

「ニーナさん、毒マジロはお腹が狙い目で、昨日使った魔法は【ロックファング】で合ってますかね?」

「そう」

「ケン君、【ロックファング】使えるの?」

「試してみないとわからないですが……ロイドさん、素材はなるべく傷つけない方がいいんですよね?」

「そうだね。昨日のはニーナが張り切ったせいか、結構ズタボロだったからね。それでも、それなりの価値は付けてもらえたけど」

「わかりました。それでは、やってみます」

「おう、あまり気負わなくていいからな。リラックスしてやってみろ。撃ち漏らしてもニーナが対処するからな」

 ケンは、昨日ニーナが放った【ロックファング】を参考に、素材を傷つけないよう、もっと鋭角に細く鋭くしたものをイメージしながら、魔法を唱えた。

「……【ロックファング】」

 すると毒マジロの下から、ニーナが唱えたものよりも、細く鋭くなった円錐状の岩石が飛び出し、毒マジロの腹を下部から突き刺して、そのまま宙へと持ち上げる。

 迫り出した岩石の勢いは衰えずそのまま伸びると、毒マジロの腹を突き破ったあとは背部へと至り、毒マジロの自重も相まって、必然的に背部を突き破った。

 やがてピクピクと痙攣していたのが治まり、絶命したことがわかると、ケンはガルフへと報告する。

「ガルフさん、倒しました」

「……」

 昨日と同様に一同は呆然としていた。目の前で起きたことがとても信じられないのだ。

 昨日と違う点は、ティナではなくニーナが、いち早く動き出したことだった。サポートする立場としても、ケンの近くにいたことが起因したのであろう。

 すぐさまケンに抱きつくと、お約束と言わんばかりに胸を押し付け、ケンを褒めたたえた。

「ケン、凄い! 詠唱省いて一撃で倒せた!」

「うわっ!」

 ケンはケンで、ティナではなくニーナが来たことに驚いていた。

「……? 今日は離してって言わないの?」

「返り血も浴びてませんし、毒マジロは解体もしませんからね。とりあえずガルフさんが回復するまでは、ニーナさんが気の済むまで、そのままで構いませんよ」

「そう……役得」

「でも、胸が当たってるのですが……」

「ケンなら問題ない」

 思わぬケンからの言葉に、ニーナは嬉しく思い、ケンの抱き心地を堪能していたのだったが、ティナから横槍が入った。

「ちょっと、私にもやらせてよ。私も褒めたいのよ」

「無理。離せない」

「ケン君からも、何とか言ってよ」

「ティナさんは、いつもしていますからね。今はニーナさん優先で」

「ずるーい!」

 3人でガヤガヤやっていると、ガルフが放心状態から戻ってきて、ケンに質問する。

「なぁケン、お前詠唱はどうした? さすがに魔法使いでもない俺でも、魔法を使う前は詠唱が必要なことくらい知っているぞ」

 ガルフからの問いに対して、答えようとケンはニーナから離れたが、それを待っていたかのように、後ろからティナに抱きつかれた。

「ティナさん?」

 呼ばれた瞬間、ティナはビクッとしたが、毅然とした態度でケンに言い放った。

「お話の邪魔はしないからいいでしょ?」

「……はぁ」

 ケンは諦めたように溜息をつき、後頭部越しに伝わる、ティナの柔らかい胸の感触を感じつつも、話を進めることにした。

「俺は、そこまで詠唱する必要がないんですよ。スキルで【詠唱省略】を持っていますので」

 ケンは以前、ライアットに言われた通りに【無詠唱】のことは伏せて、【詠唱省略】のスキル持ちであることを伝え、誤魔化すことにした。

「何だそれは?」

 ガルフの疑問に答えたのは、ニーナだった。

「本来必要な詠唱を省略できる。スキルレベルによってそれは変わる」

「つまりそのスキルを持っているから、詠唱をしなくてもよかったってことか?」

「はい。それでもちゃんと、最終的に魔法名を言わないと発動しませんが」

「ニーナとティナは詠唱してるよな?」

「私は持ってない。魔術師にとって夢のようなスキル」

「私も当然持ってないわよ。弓があるし別に困らないわ」

「剣術に引き続き魔法までも……ケンはかなりの逸材だね。ソロでやってたのが納得できるよ。1人で全てをこなすんだから」

「そうだな。オールラウンダータイプは、そこまで伸びしろがないのが普通なんだがな。ケンは特別ってことか」

「ガルフ、次は集団戦でしょ? ケン君が凄いのはわかったんだから、早く行きましょうよ」

「そうだな。じゃあ、ケンは案内頼むな。纏まって彷徨いてる魔物を探してくれ」

 それからは、単体ではなく集団で動いてる魔物を探知し、ケンはパーティーを誘導していった。

 集団戦では、ケンは後衛となり魔法で援護するように言われたが、前衛の出る間もなく、後衛3人で魔物を倒していくと、さすがに練習にならないとなって、適度に魔物を前衛に倒させるために、手抜きする羽目になった。

 ケンが後衛に入ったことで戦闘効率が上がり、どんどん魔物を狩って、今までにないくらい狩れたことに、ガルフは「報酬が増える」と大喜びする。

 その日は、ギルドへ戻ると、ケン以外はみんなほくほく顔で、報酬を受け取るのだった。

 ガルフは、酒がいっぱい飲めると言い、ロイドは、魔導具を新調できるとかなり喜んでいた。女性陣2人は、新しい服でも見に行こうかと相談している。

 そんな中、ケンは王都でたんまりと報酬を受け取っていたので、貯金がまた増えたことに、どうやって消費するか頭を悩ませたのだった。
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