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第4章 新たなる旅立ち

第112話 やっときた出番…… やはり張り合う女性たち

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 しばらく歩き続けた一行は、ようやく魔物の姿を、その目に捉えることが出来た。

「よし、バカ牛だな。予定通りケンが対応するんだぞ。サポートには俺がついて、ティナとニーナは後方支援だ。くれぐれも一撃で倒すなよ」

「わかってるわよ」

「了解」

「じゃあ、戦闘開始だ!」

 ニーナの魔法とティナの矢が飛んでいき、グレートブルに突き刺さる。今度はちゃんと殺さないようにしたのか、グレートブルは倒れることなくこちらに向かってきた。

「ロイドが合図するまで、前に飛び出すなよ? ターゲットにされるぞ」

「はい、わかりました」

 さて、どうやって倒すか? ガルフさんみたく、首を断ち切るような筋力はないし、かといって、近づいて魔法を放つのも違う気がする。剣を持ってる意味がなくなるし。

 素材の価値を落とさないためには、あまり斬り過ぎてもダメだし……とりあえず首に一撃いれて、敏捷頼りのヒット&アウェイでいくしかないかな? 暴れられても困るから、最初の一撃は、正確に首を狙えるようにしよう。

 ケンが、グレートブルの倒し方を模索している間に、グレートブルは、大盾を構えるロイドへと迫っていた。先程同様にぶつかり合う音が響き渡り、ロイドから合図が出る。

「ケン、今だ!」

「はい!」

 瞬時にグレートブルの横側へと位置取り、腰を落としつつ重心を低くして半身の姿勢をとる。

 右手に構えた剣は地面と水平を保ち、体の後ろへと引きながら切っ先を敵へと向ける。

 左手は剣先に添えるように延長線へ持っていくと、首への狙いが逸れないようにした。

 姿勢が保持できたところで、右足を大きく踏み込み一気に加速する。それは、敏捷値の高さにものを言わせて、足りない力を補うために総合的なパワーを生み出すためだ。

 突き出された剣先の角度を少し変え突き刺すと、そのまま首へと抵抗なく入っていき、反対側から出たところで勢いを殺さず水平に薙いだ。

 首の半分以上を斬られたことにより、グレートブルは反撃することもなく倒れる。

 残心の構えを解き、剣についた血を払い落とし鞘へと収めた。グレートブルへと視線を移せば、すでに事切れて物言わぬ骸と成り果てていた。

『既存の技術を再現したことにより、【模倣Lv.1】を獲得しました』

(あ、天の声さんだ。なんか久々だな)

 2、3度深呼吸をすると緊張状態は解けて、平常心へと徐々に移りかわっていく。まだ心臓の高鳴りは感じるが、そのうち落ち着くことだろう。

「ふぅ……」

「……」

 落ち着いたところで辺りを見回すと、メンバーは口を半開きにして呆然とした表情を浮かべていた。

「あれ、皆さんどうしたんですか? 面白い顔になっていますよ?」

「い、いや……」

 ガルフが言葉を紡ぎだそうとしても、依然として驚きから回復しておらず、二の句を告げられないでいた。

「あ、ロイドさん! 解体の仕方教えて貰っていいですか? 自分も今後のために覚えておこうと思うので」

「それは……いいんだけど……」

 ロイドもまた驚きから回復しておらず、返事を返すので精一杯だった。そんな中、先に動き出したのはティナであった。ケンに駆け寄り思いっきり抱きついた。

「え?」

 ケンもいきなりのことで混乱したが、お構いなしにティナは抱きついたままだ。

「凄いわ、ケン君! 一撃よ、一撃!」

 ケンは大きな胸に圧迫されながらも、必死にもがく。

「あ、あの、離してくださいよ! 苦しいですよ!」

「んー……ちょっとだけよ?」

 ティナが少しだけ力を緩めると、ケンは圧迫感から解放されて喋り出す。

「ティナさん、返り血が付くので離れてくださいよ。俺、血だらけなんですよ?」

「もう遅いわよ。抱きついた時に付いちゃったんだし」

 ケンは、グレートブルを斬った後のことは何も考えておらず、首から吹き出した血を、そのまま浴びていたのだ。知らない人が見れば、大ケガをしていると勘違いするくらいには。

「それでも、綺麗なティナさんが汚れるのは忍びないんですよ。俺は自業自得だから仕方ないけど」

「やっぱりケン君はいい子ね」

 一向に離れることのないティナから逃れるために、ケンはガルフに助けを求めた。

「ガルフさんからも、何か言ってくださいよ」

「あ、あぁ……なんだ、その……ケンは解体作業の手伝いがあるから、離してやれ。解体の仕方を覚えたいらしいからな」

「そうだね。ティナがケンを離さないと解体が出来ないから、僕としても困るんだよね」

 ガルフの話にロイドも乗っかり、2人がかりで説得を始めた。2人の説得に折れたティナは、ようやくケンを解放した。

 これでやっと解体を教えて貰えると思ったのも束の間、今度はニーナに抱きつかれてしまった。

「え?」

 普段のニーナからは想像もできない行動に、一同は固まった。ティナ程ではないにしろ、それなりに大きな膨らみのある胸に包まれながら、ケンが問いかける。

「あの、ニーナさん?」

「ん。ケンはカッコよかった。ご褒美」

 簡潔な答えに、ケンが呆然とするのを他所に、ニーナは言葉を続ける。

「大丈夫。ティナほど見境なくない」

「それはわかりますが。でも、ニーナさんの服が汚れてしまいましたよ?」

「洗えば平気」

「それに胸が当たっていますし……」

「それもケンなら問題ない」

「そういうものですか?」

「そういうもの」

 とりあえず解体作業が待っているので、ティナの時と同じく離してもらうようにお願いすると、意外にもすんなりと離してもらえた。

「よし、女性陣の熱い抱擁で英気を養えただろ。ロイド、ケンに教えながら解体作業を進めてくれ」

「わかったよ。それにしてもケンはモテるね。今まであの2人は、浮いた話もないほどに男の影がなかったからね」

「俺からしてみれば、ロイドさんの方がモテる気がするんですけど。かっこいいし、優しいし、俺がモテてる意味がわかりませんよ。特に何もしてないんですよ」

「はははっ。こりゃ本格的に天然ジゴロだね」

「なんですかそれ……」

 ケンとロイドは楽しく会話しながらも、解体を進めていった。今回はケンに解体作業を教えることもあってか、いつもより時間を要した。

『解体作業を指導されながら実施したことにより、【解体Lv.1】を獲得しました』

(今日は天の声さん、大盤振る舞いだな……)

 前衛組が返り血を浴びてるのと、予定外で後衛組に返り血が付いたことによって、今日の討伐はここまでになり、街へと戻ることになった。

 街へついてからは、ロイドが素材を持っていることもあって、1人で買取のためギルドに行こうとしたが、クエスト達成報告もあるからと、どうせなら皆で身綺麗にしてから行こうということになり、ひとまず宿屋へと帰ることになった。

 宿屋の受付の人は慣れているのか、血だらけの冒険者を見ても驚きはしなかった。

 逆に洗濯は必要か迫られて、おかげで銀貨30枚も取られた。言い分としては血だらけだから落とすのに苦労するそうだ。通常は銀貨10枚で受け付けているらしい。

 洗濯物は風呂上がりに受付へと渡した。防具も洗ってくれるみたいで、俺のは安物のレザーシリーズなので、気にすることなく洗濯に出した。人によっては自分で手入れをするらしい。

 女性の入浴は長いので、必然的に男3人となり、食堂で飲み物を頼んで時間を潰した。

「ところで、さっきのバカ牛を倒した技は何だったんだ?」

「え? 普通に突き刺しただけですよ」

「普通に突き刺して、あんな威力が出せるかよ」

「あぁ、それはパワーが足りない分、スピードを上乗せして補ったんですよ。俺だとガルフさんみたいにはいかないですから」

「へぇ、スピードがあればあんな威力になるんだね。まぁ、僕はどっしり構えて受けきるタイプだから、スピードファイターになるのは無理そうだけど」

「そう言われると納得だな。動き出した時には、もうバカ牛は斬られた後だったし、全く目で追えなかったぞ」

「まぁ、自分でもあそこまで威力が出るとは、思いませんでしたから。剣を使ったのはあの時が初めてですし」

「はあ? 初心者があんな綺麗な太刀筋を放てるわけないだろ。バカ牛の首がスパーンと切れてたんだぞ」

 ケンは、ガルフの言葉に自分が失言をした事に気づいた。剣術が使えるのはステータスで知っていたので、初めて使うにしても何とかなるだろうと思っていたのだ。

「そう言われましても……あぁ、もしかしたら記憶がなくなる前に、剣術を習ってたかもしれないですね。それで体が覚えていたとか?」

 色々と詮索されても困るので、記憶喪失を言い訳に、この場は逃れることにした。これから困った時には、記憶喪失を言い訳に使うことを心に決めるのだった。

「あぁ、それならありえるな。積み重ねたもんは体に染み付いて、頭で考えるよりも先に、体が動いたりすることもあるしな。それでもかなりの修練が必要だぞ」

「そう考えると……ケンは貴族の子息か学生って線が濃厚になるね。もしくは狩人の村出身とか」

「村出身はないな。礼儀作法が出来てる上に、王都にいたなら貴族か学生の線が濃厚だ」

 どんどんと自分の過去に予想を立てられて、見る見るうちに外堀を埋められていき困惑していると、女性陣たちが風呂から上がってきたようだ。

「何話しているの?」

「ケンの過去についてだよ。俺たちの予想は、貴族か学生って線なんだよ」

「どっちでもいいんじゃない? 今あるケン君が全てだよ」

「同意」

 色々と困惑していたが、女性陣たちの、細かいことは気にしない性分に救われたケンであった。

「それよりもギルドに報告に行くわよ。報酬のこともあるんだし」

「それもそうだな」

 みんなが揃ったということもあり、ぞろぞろと食堂を後にしてギルドへと向かった。

 ギルドへ到着すると、常駐クエストのグレードブル討伐の報告に、受付へとやってきた。

 討伐証明の角を出すが、討伐したのは4体だったので、ガルフさんパーティーに達成報酬は譲った。

 グレートブルは1体で達成扱いだが、毒マジロは3体倒さないと達成にならないらしい。

 頑なに5等分しようと言ってきたが、ティナさんと同室であることと、その部屋代はティナさんが払っている事もあり、資金的に余裕があるのでそれで納得してもらった。

 買取報酬は断る理由が思いつかず、5等分されることとなった。思いのほか、毒マジロの素材が高かったので吃驚したが、毒攻撃があることで中々討伐する者がいないそうだ。硬い外殻は防具への転用が出来るので需要が高いそうだ。

「それにしても、1回のクエストだと心もとないな。また明日クエストに出かけるか?」

「そうだね。元々パーティーを組んでるんだし、1人当たりの取り分は減るからね。達成報酬と買取報酬でトントンといったところだね」

「すみません。自分が入ったばかりに」

 本来4人で分けるはずの報酬を、自分の分まで入れて分けたために、他の人の取り分が減っていたので、申し訳なかった。

「あぁ、別にケンのせいにしようってわけじゃないから気にするな。それに誘ったのは俺だしな」

「ガルフの言う通り気にしなくてもいいよ。それにケンが強いってこともわかったんだし、明日からは戦術の幅も広がって、魔物を狩る効率も上がってくるしね」

「そう言って頂けるとありがたいです」

「まぁ、何にせよとりあえずは飯だな。宿屋に頼んで、バカ牛のステーキを焼いてもらおう」

 ガルフがそう締めくくって、一同は宿屋へ向かい、グレートブルのステーキを満喫しつつ、夕食を楽しみながら過ごしたのだった。
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