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第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~
第88話 母の悩み
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ケビンと数合打ち合わせただけで、相手の状態を見抜き戦略を立てたサラであったが、もう一歩決め手が欲しいところであった。
「困ったわねぇ……」
大して困っている風でもなく佇んで独り言ちるのだが、これと言った打開策は見当たらない。
ケビンを殺すつもりで動くならやりようはあるのだが、あくまでも最愛の息子を生かしたまま、落ち着かせようとしているので、手段が狭まられていた。
「カイン、アインの治療は終わったのでしょ? 目を覚ましたかしら?」
「まだだよ。兄さんはシーラに比べて酷い傷だったし、まだ無理じゃないかな」
「そう……なら、叩き起こしなさい」
「「えっ?」」
カインはおろかシーラでさえも自分の耳を疑った。回復魔法にて傷はなくなったが、未だ目を覚ます様子のない兄を、叩き起こせと言われたのだ。
「か……母さん、俺の聞き間違いじゃなければ、『叩き起こす』って聞こえたんだけど……」
恐る恐る聞き返すも、返ってきたのは予想通りの反応だった。
「そうよ。早く起こしなさい。教育的指導の量が増えるわよ?」
余りの物言いに反論したかったが、教育的指導が増えるのは何としてでも避けたかった。
サラはケビンにこそ甘々だったが、他の3人に対しては普通に教育ママさんをやっていたのだ。
アインとカインについては、いずれ父の後を継ぐために、どちらが継いでもいい様に英才教育を。
シーラに関しては、何処ぞの爵位を持つ家に嫁いでも、恥ずかしくならない様に教養を。それぞれの将来に合わせた教育方針を立てていた。
最近では、アインが家を継ぐ意志を見せてきているので、カインにはサポート役で主に武力面で成長させようと、方針を変える算段を考えていたのだ。よって教育的指導の中身は肉体言語へと繋がるのである。
そのことを知ってか知らずか、カインの中にもある少しだけの勘の鋭さが働いて、ケビンとはまた別の危機をなるべく避けようと頑張っていたのだ。
「わ、わかったよ。今すぐ起こすから、量を増やすのだけは止めて!」
「お母さんと一緒にいる時間を減らしたいの? ここにきて反抗期かしら? 小さい頃はあんなに可愛かったのに、お母さん悲しいわ。お父さんに慰めて貰おうかしら?」
何を言っても揶揄われて終わってしまうカインであったが、必死な形相で兄に呼びかけ起こそうとしていた。本人にとっては、今はそれどころではないのだ。
「あら? 無視されたわ。いよいよもって反抗期なのね。帰ったらお父さんに相談しないと」
なんという無茶ぶりであろうか。意識のない兄を叩き起すこともそうだが、その役目を必死でやっているとこへの追撃である。カインがちょっと涙目になっているのは気の所為ではないだろう。
そんな必死のカインによる努力の末か、アインが目覚める。
「あれ……ここは……」
「兄さん!」
カインは喜びのあまり全力で抱きついてしまうが、その感情の中身は純粋に兄が助かっての喜びではなく、自分が助かった喜びだった。
「おい、カイン。嬉しいのはわかるが痛いよ。ケビンはどうなったんだ?」
何か勘違いをしているアインに対して、シーラは何も言うまいと心に誓うのであった。シーラにとっても母の教育的指導は回避したいのである。
「アイン、感動のご対面のところ悪いのだけれど、あなた魔力は残っているの?」
サラはケビンから飛んでくる魔法を斬り裂きながらも、危なげなく対処して、アインに言葉をかけるのだった。
その言葉にハッとして、向けた視線の先には、自分たちの母親であるサラの姿があった。
「えっ? 母さん、何でここに? ここ学院だよ?」
あまりの混乱のために、普通の返しをしてしまったアインに、サラはここぞとばかりに責め立てる。
「わかってるわよ、学院に来たのですから。酷いわねアインは。お母さんがもうボケたと思っているのね。傷つくわ……お父さんに言いつけましょう!」
「えっ?……えっ!?……」
さらに混乱が深まるアイン。その肩にそっと手を乗せるカイン。今のところ、自分に被害が出てなくて安堵の表情を見せるシーラと、三者三様である。
「早く答えなさい。魔力は残っているの?」
再び剣戟戦へと移行していたサラが問うと、アインも混乱したままではあるが、きちんと返した。
「あと少しなら」
「それは僥倖ね。それなら魔法で牽制しなさい。魔力がなくなるまで撃つのよ」
「でも、母さんに当たるんじゃ……」
「貴方、私に魔法を当てれた事あるの?」
「……いえ」
「なら早くなさい。ケビンはいつもの様に待ってくれないわよ」
至極ご最もな話で、アインはサラとの模擬戦において1度も攻撃を当てれた事はない。
更に今はケビンが優先である。目覚めた後、混乱冷めやらぬ内に攻撃しろと言われ、実行へ移すのに多少の時間を要したところで、誰も責めたりはしないだろう。サラ以外は……
「《ライトニングアロー》」
言われたままに魔法攻撃を繰り出すが、内心ケビンの相手をしている今なら、当てれるんじゃないかと思い、少しくらい被弾しないかなと密かに思っているのはご愛嬌である。
ちょいちょいアインによる魔法支援が入り、先ほどよりも苛烈な剣戟戦はなくなり、牽制を繰り返すような戦いへと移行した。
ケビンが魔法を撃ち放てばサラが斬り裂き、変なところでアインによる魔法支援が入れば、溜息をつきつつも追い打ちをかけに行って剣戟を繰り返す。
一方、蚊帳の外であるカインは近接タイプなので、あの中に混じって戦おうとは思わなかったが、シーラの方は徐々に魔力が戻りつつあったので、支援に回ろうかと考えていた。
「困ったわねぇ……」
大して困っている風でもなく佇んで独り言ちるのだが、これと言った打開策は見当たらない。
ケビンを殺すつもりで動くならやりようはあるのだが、あくまでも最愛の息子を生かしたまま、落ち着かせようとしているので、手段が狭まられていた。
「カイン、アインの治療は終わったのでしょ? 目を覚ましたかしら?」
「まだだよ。兄さんはシーラに比べて酷い傷だったし、まだ無理じゃないかな」
「そう……なら、叩き起こしなさい」
「「えっ?」」
カインはおろかシーラでさえも自分の耳を疑った。回復魔法にて傷はなくなったが、未だ目を覚ます様子のない兄を、叩き起こせと言われたのだ。
「か……母さん、俺の聞き間違いじゃなければ、『叩き起こす』って聞こえたんだけど……」
恐る恐る聞き返すも、返ってきたのは予想通りの反応だった。
「そうよ。早く起こしなさい。教育的指導の量が増えるわよ?」
余りの物言いに反論したかったが、教育的指導が増えるのは何としてでも避けたかった。
サラはケビンにこそ甘々だったが、他の3人に対しては普通に教育ママさんをやっていたのだ。
アインとカインについては、いずれ父の後を継ぐために、どちらが継いでもいい様に英才教育を。
シーラに関しては、何処ぞの爵位を持つ家に嫁いでも、恥ずかしくならない様に教養を。それぞれの将来に合わせた教育方針を立てていた。
最近では、アインが家を継ぐ意志を見せてきているので、カインにはサポート役で主に武力面で成長させようと、方針を変える算段を考えていたのだ。よって教育的指導の中身は肉体言語へと繋がるのである。
そのことを知ってか知らずか、カインの中にもある少しだけの勘の鋭さが働いて、ケビンとはまた別の危機をなるべく避けようと頑張っていたのだ。
「わ、わかったよ。今すぐ起こすから、量を増やすのだけは止めて!」
「お母さんと一緒にいる時間を減らしたいの? ここにきて反抗期かしら? 小さい頃はあんなに可愛かったのに、お母さん悲しいわ。お父さんに慰めて貰おうかしら?」
何を言っても揶揄われて終わってしまうカインであったが、必死な形相で兄に呼びかけ起こそうとしていた。本人にとっては、今はそれどころではないのだ。
「あら? 無視されたわ。いよいよもって反抗期なのね。帰ったらお父さんに相談しないと」
なんという無茶ぶりであろうか。意識のない兄を叩き起すこともそうだが、その役目を必死でやっているとこへの追撃である。カインがちょっと涙目になっているのは気の所為ではないだろう。
そんな必死のカインによる努力の末か、アインが目覚める。
「あれ……ここは……」
「兄さん!」
カインは喜びのあまり全力で抱きついてしまうが、その感情の中身は純粋に兄が助かっての喜びではなく、自分が助かった喜びだった。
「おい、カイン。嬉しいのはわかるが痛いよ。ケビンはどうなったんだ?」
何か勘違いをしているアインに対して、シーラは何も言うまいと心に誓うのであった。シーラにとっても母の教育的指導は回避したいのである。
「アイン、感動のご対面のところ悪いのだけれど、あなた魔力は残っているの?」
サラはケビンから飛んでくる魔法を斬り裂きながらも、危なげなく対処して、アインに言葉をかけるのだった。
その言葉にハッとして、向けた視線の先には、自分たちの母親であるサラの姿があった。
「えっ? 母さん、何でここに? ここ学院だよ?」
あまりの混乱のために、普通の返しをしてしまったアインに、サラはここぞとばかりに責め立てる。
「わかってるわよ、学院に来たのですから。酷いわねアインは。お母さんがもうボケたと思っているのね。傷つくわ……お父さんに言いつけましょう!」
「えっ?……えっ!?……」
さらに混乱が深まるアイン。その肩にそっと手を乗せるカイン。今のところ、自分に被害が出てなくて安堵の表情を見せるシーラと、三者三様である。
「早く答えなさい。魔力は残っているの?」
再び剣戟戦へと移行していたサラが問うと、アインも混乱したままではあるが、きちんと返した。
「あと少しなら」
「それは僥倖ね。それなら魔法で牽制しなさい。魔力がなくなるまで撃つのよ」
「でも、母さんに当たるんじゃ……」
「貴方、私に魔法を当てれた事あるの?」
「……いえ」
「なら早くなさい。ケビンはいつもの様に待ってくれないわよ」
至極ご最もな話で、アインはサラとの模擬戦において1度も攻撃を当てれた事はない。
更に今はケビンが優先である。目覚めた後、混乱冷めやらぬ内に攻撃しろと言われ、実行へ移すのに多少の時間を要したところで、誰も責めたりはしないだろう。サラ以外は……
「《ライトニングアロー》」
言われたままに魔法攻撃を繰り出すが、内心ケビンの相手をしている今なら、当てれるんじゃないかと思い、少しくらい被弾しないかなと密かに思っているのはご愛嬌である。
ちょいちょいアインによる魔法支援が入り、先ほどよりも苛烈な剣戟戦はなくなり、牽制を繰り返すような戦いへと移行した。
ケビンが魔法を撃ち放てばサラが斬り裂き、変なところでアインによる魔法支援が入れば、溜息をつきつつも追い打ちをかけに行って剣戟を繰り返す。
一方、蚊帳の外であるカインは近接タイプなので、あの中に混じって戦おうとは思わなかったが、シーラの方は徐々に魔力が戻りつつあったので、支援に回ろうかと考えていた。
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