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第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~
第83話 動き出す事態
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――王城 謁見の間
王城では騎士を含め、あらゆる者がパニックに陥っていた。そんな中、国王はさすがと言うべきか、的確な指示を出していく。
「くっ……皆の者、慌てるでない。症状の軽い者は直ちに救護に回れ!」
「失礼ながら陛下! 救護に回せるほど症状の軽い者はおりませぬ。皆、この場より動くのが厳しいかと……かく言う私も、耐えることが精一杯であります!」
騎士団長は隠すことなく己の状態を明かした事で、国王も事の深刻さに頭を悩ませるのであった。
しかし、深刻な雰囲気を出しているその場に現れたのは、予想だにしない者だった。
「あらあら、あなた? 随分と苦しまれているようですわね」
「「!!」」
国王も騎士団長も驚きを隠せないでいた。自分たちでさえ、耐える事に精一杯であるのに、そこへいつも通り歩いて王妃が現れたのである。驚くなという方が無理である。
「マリアンヌは平気なのか? もしかして、この威圧はマリアンヌが?」
「あなたったら……私が中心だったら、ここにいる人たちは気絶しているわよ? 威圧は中心に行けば行くほど、濃密になるのですから。まぁ、熟練の人はそれに指向性を持たせることも出来ますけど」
「そもそも、何故お主は無事なのじゃ? 魔導具か?」
「そのようなものですわ。と、言いたいところですけど、それを出せと言われたら困りますからね。魔導具は使ってませんわよ。魔法も。」
「それなら何故……?」
国王は、王妃が二つ名持ちの元A級冒険者である事を知らず、不思議に思う一方であった。
「それよりも、大変で重要な事があります。この威圧、恐らくカロトバウン家に名を連ねる者です。」
「「!!」」
国王と騎士団長は再び驚愕する。誰かがカロトバウン家の怒りを買ったのか? 国が滅びる覚悟をしなきゃいけないのか? と、いくら考えても思考がグルグルと答えを見つけ出せずに、回るだけだった。
「もしや、この国は終わるのか? こんな……ところで……」
「それは、この威圧を放っている人次第でしょうね。気休めかも知れませんけど、少なくともサラ夫人のものではないですよ」
「それは、まことか!? サラ夫人じゃないなら、一体誰が……」
国王にとっては、カロトバウン家で最も注意すべき人物は、サラ夫人であって、他の者たちはそこまで注意すべき強さではないと踏んでいた。そんな考えを否定する様な王妃の発言は、看過できるものではなかった。
「私の予想としては、恐らくケビン君でしょうね」
「ケビン君じゃと? あの年端も行かぬ子供が、これを放っているとでも言うのか?」
「消去法です。それで残るのは、ケビン君しかいませんから」
「消去法じゃと?」
「ええ、そうですよ。まず、カロトバウン家当主は省かれます。同じく夫人もです。残るは学院にいる子供たちですわね。アイン君は聡明で理性的なので省かれます。カイン君は武力よりですけど、同じく理性的なので省かれます。残るは、シーラさんとケビン君です。シーラさんは疑わしいのですが、怒る理由はサラ夫人同様、常にケビン君絡みになりがちです。そして、魔術師タイプですので威圧は使えますが、効果範囲はここまで広くありません。となると、残るのはケビン君ですわ」
「そうだとしても、ここまで効果範囲を広げられるものなのか?」
「いえ、ここまでのは初めての体験で異常ですわね。潜在する能力的には、将来サラ夫人を超えると思いますよ。これからが楽しみですわね」
王妃は旧友の子供の成長を楽しんでいるが、国王からしたらたまったものではない。サラ夫人だけでも手に負えないのに、そこにもう1人息子が加わるというのだ。
「はぁ……マリアンヌは気楽で良いな。儂は悩みの種が1つ増えたぞ」
「ふふっ、それが国王たる者の仕事ですよ。疲れた時は私が癒してあげますから、存分に働いてくださいな」
「とりあえずは、嵐が過ぎ去るのを待つとしよう。お主の顔を見たら、ほっとして先程までの辛さもない」
「あなたを癒せたのなら、私もここへ足を運んだ甲斐があったというものですわ」
最初の喧騒が嘘かのように、城内のパニックは終息に向かった。未だ王妃が、何故何ともないのか上手く話を逸らされたために、国王は理由を聞くこと自体忘れてしまった。
そのことに王妃が、話を逸らした甲斐があったと安堵していることは、誰も知る由のないことである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――学院
高等部1年Sクラスでは、初等部ほどではないにしても、少なからず被害を被っていた。
「みんな落ち着いて、気力をしっかり保つんだ」
担任の教師が、まだ意識を保てている生徒たちに、威圧に対する対処法を教えていた。そんな中、1人の生徒が立ち上がる。
「アイン君、席につきたまえ。いくら君が強かろうとこの威圧の中では、何をすることも出来まい」
「すみません。先生の気持ちは有難いのですが、急を要する事なので行かせてもらいます」
そのまま何事もなかったかのように、アインは教室を後にする。
「こんな威圧の中でも動けるとは、《賢帝》の名は伊達ではないということか……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
同時刻、中等部3年Sクラスでは、同じように威圧の対処法を教えこんでいた。
「こんな機会は滅多にないから、威圧に負けない対処法を身につけるように。気力で負ければ、そこら辺の生徒同様に意識を失うぞ。動こうとするよりも、先ずは耐えられる気力を持つことを目指すんだ」
クラスや学年が違えば、教え方もまた違ってくる。個々の教師によりそれは顕著に現れていた。
共通して言えることは、教師自体が動けるほどの、耐えられる威圧ではないというところであった。
ここでもまた、1人の生徒が単独行動に出た。
「先生、用事が出来たので行ってきます」
「お……おい、待て! カイン!!」
カインは、教師が呼び止めるのを振り切って、1人教室を後にするのだった。
王城では騎士を含め、あらゆる者がパニックに陥っていた。そんな中、国王はさすがと言うべきか、的確な指示を出していく。
「くっ……皆の者、慌てるでない。症状の軽い者は直ちに救護に回れ!」
「失礼ながら陛下! 救護に回せるほど症状の軽い者はおりませぬ。皆、この場より動くのが厳しいかと……かく言う私も、耐えることが精一杯であります!」
騎士団長は隠すことなく己の状態を明かした事で、国王も事の深刻さに頭を悩ませるのであった。
しかし、深刻な雰囲気を出しているその場に現れたのは、予想だにしない者だった。
「あらあら、あなた? 随分と苦しまれているようですわね」
「「!!」」
国王も騎士団長も驚きを隠せないでいた。自分たちでさえ、耐える事に精一杯であるのに、そこへいつも通り歩いて王妃が現れたのである。驚くなという方が無理である。
「マリアンヌは平気なのか? もしかして、この威圧はマリアンヌが?」
「あなたったら……私が中心だったら、ここにいる人たちは気絶しているわよ? 威圧は中心に行けば行くほど、濃密になるのですから。まぁ、熟練の人はそれに指向性を持たせることも出来ますけど」
「そもそも、何故お主は無事なのじゃ? 魔導具か?」
「そのようなものですわ。と、言いたいところですけど、それを出せと言われたら困りますからね。魔導具は使ってませんわよ。魔法も。」
「それなら何故……?」
国王は、王妃が二つ名持ちの元A級冒険者である事を知らず、不思議に思う一方であった。
「それよりも、大変で重要な事があります。この威圧、恐らくカロトバウン家に名を連ねる者です。」
「「!!」」
国王と騎士団長は再び驚愕する。誰かがカロトバウン家の怒りを買ったのか? 国が滅びる覚悟をしなきゃいけないのか? と、いくら考えても思考がグルグルと答えを見つけ出せずに、回るだけだった。
「もしや、この国は終わるのか? こんな……ところで……」
「それは、この威圧を放っている人次第でしょうね。気休めかも知れませんけど、少なくともサラ夫人のものではないですよ」
「それは、まことか!? サラ夫人じゃないなら、一体誰が……」
国王にとっては、カロトバウン家で最も注意すべき人物は、サラ夫人であって、他の者たちはそこまで注意すべき強さではないと踏んでいた。そんな考えを否定する様な王妃の発言は、看過できるものではなかった。
「私の予想としては、恐らくケビン君でしょうね」
「ケビン君じゃと? あの年端も行かぬ子供が、これを放っているとでも言うのか?」
「消去法です。それで残るのは、ケビン君しかいませんから」
「消去法じゃと?」
「ええ、そうですよ。まず、カロトバウン家当主は省かれます。同じく夫人もです。残るは学院にいる子供たちですわね。アイン君は聡明で理性的なので省かれます。カイン君は武力よりですけど、同じく理性的なので省かれます。残るは、シーラさんとケビン君です。シーラさんは疑わしいのですが、怒る理由はサラ夫人同様、常にケビン君絡みになりがちです。そして、魔術師タイプですので威圧は使えますが、効果範囲はここまで広くありません。となると、残るのはケビン君ですわ」
「そうだとしても、ここまで効果範囲を広げられるものなのか?」
「いえ、ここまでのは初めての体験で異常ですわね。潜在する能力的には、将来サラ夫人を超えると思いますよ。これからが楽しみですわね」
王妃は旧友の子供の成長を楽しんでいるが、国王からしたらたまったものではない。サラ夫人だけでも手に負えないのに、そこにもう1人息子が加わるというのだ。
「はぁ……マリアンヌは気楽で良いな。儂は悩みの種が1つ増えたぞ」
「ふふっ、それが国王たる者の仕事ですよ。疲れた時は私が癒してあげますから、存分に働いてくださいな」
「とりあえずは、嵐が過ぎ去るのを待つとしよう。お主の顔を見たら、ほっとして先程までの辛さもない」
「あなたを癒せたのなら、私もここへ足を運んだ甲斐があったというものですわ」
最初の喧騒が嘘かのように、城内のパニックは終息に向かった。未だ王妃が、何故何ともないのか上手く話を逸らされたために、国王は理由を聞くこと自体忘れてしまった。
そのことに王妃が、話を逸らした甲斐があったと安堵していることは、誰も知る由のないことである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――学院
高等部1年Sクラスでは、初等部ほどではないにしても、少なからず被害を被っていた。
「みんな落ち着いて、気力をしっかり保つんだ」
担任の教師が、まだ意識を保てている生徒たちに、威圧に対する対処法を教えていた。そんな中、1人の生徒が立ち上がる。
「アイン君、席につきたまえ。いくら君が強かろうとこの威圧の中では、何をすることも出来まい」
「すみません。先生の気持ちは有難いのですが、急を要する事なので行かせてもらいます」
そのまま何事もなかったかのように、アインは教室を後にする。
「こんな威圧の中でも動けるとは、《賢帝》の名は伊達ではないということか……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
同時刻、中等部3年Sクラスでは、同じように威圧の対処法を教えこんでいた。
「こんな機会は滅多にないから、威圧に負けない対処法を身につけるように。気力で負ければ、そこら辺の生徒同様に意識を失うぞ。動こうとするよりも、先ずは耐えられる気力を持つことを目指すんだ」
クラスや学年が違えば、教え方もまた違ってくる。個々の教師によりそれは顕著に現れていた。
共通して言えることは、教師自体が動けるほどの、耐えられる威圧ではないというところであった。
ここでもまた、1人の生徒が単独行動に出た。
「先生、用事が出来たので行ってきます」
「お……おい、待て! カイン!!」
カインは、教師が呼び止めるのを振り切って、1人教室を後にするのだった。
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