上 下
87 / 661
第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~

第83話 動き出す事態

しおりを挟む
――王城 謁見の間

 王城では騎士を含め、あらゆる者がパニックに陥っていた。そんな中、国王はさすがと言うべきか、的確な指示を出していく。

「くっ……皆の者、慌てるでない。症状の軽い者は直ちに救護に回れ!」

「失礼ながら陛下! 救護に回せるほど症状の軽い者はおりませぬ。皆、この場より動くのが厳しいかと……かく言う私も、耐えることが精一杯であります!」

 騎士団長は隠すことなく己の状態を明かした事で、国王も事の深刻さに頭を悩ませるのであった。

 しかし、深刻な雰囲気を出しているその場に現れたのは、予想だにしない者だった。

「あらあら、あなた? 随分と苦しまれているようですわね」

「「!!」」

 国王も騎士団長も驚きを隠せないでいた。自分たちでさえ、耐える事に精一杯であるのに、そこへいつも通り歩いて王妃が現れたのである。驚くなという方が無理である。

「マリアンヌは平気なのか? もしかして、この威圧はマリアンヌが?」

「あなたったら……私が中心だったら、ここにいる人たちは気絶しているわよ? 威圧は中心に行けば行くほど、濃密になるのですから。まぁ、熟練の人はそれに指向性を持たせることも出来ますけど」

「そもそも、何故お主は無事なのじゃ? 魔導具か?」

「そのようなものですわ。と、言いたいところですけど、それを出せと言われたら困りますからね。魔導具は使ってませんわよ。魔法も。」

「それなら何故……?」

 国王は、王妃が二つ名持ちの元A級冒険者である事を知らず、不思議に思う一方であった。

「それよりも、大変で重要な事があります。この威圧、恐らくカロトバウン家に名を連ねる者です。」

「「!!」」

 国王と騎士団長は再び驚愕する。誰かがカロトバウン家の怒りを買ったのか? 国が滅びる覚悟をしなきゃいけないのか? と、いくら考えても思考がグルグルと答えを見つけ出せずに、回るだけだった。

「もしや、この国は終わるのか? こんな……ところで……」

「それは、この威圧を放っている人次第でしょうね。気休めかも知れませんけど、少なくともサラ夫人のものではないですよ」

「それは、まことか!? サラ夫人じゃないなら、一体誰が……」

 国王にとっては、カロトバウン家で最も注意すべき人物は、サラ夫人であって、他の者たちはそこまで注意すべき強さではないと踏んでいた。そんな考えを否定する様な王妃の発言は、看過できるものではなかった。

「私の予想としては、恐らくケビン君でしょうね」

「ケビン君じゃと? あの年端も行かぬ子供が、これを放っているとでも言うのか?」

「消去法です。それで残るのは、ケビン君しかいませんから」

「消去法じゃと?」

「ええ、そうですよ。まず、カロトバウン家当主は省かれます。同じく夫人もです。残るは学院にいる子供たちですわね。アイン君は聡明で理性的なので省かれます。カイン君は武力よりですけど、同じく理性的なので省かれます。残るは、シーラさんとケビン君です。シーラさんは疑わしいのですが、怒る理由はサラ夫人同様、常にケビン君絡みになりがちです。そして、魔術師タイプですので威圧は使えますが、効果範囲はここまで広くありません。となると、残るのはケビン君ですわ」

「そうだとしても、ここまで効果範囲を広げられるものなのか?」

「いえ、ここまでのは初めての体験で異常ですわね。潜在する能力的には、将来サラ夫人を超えると思いますよ。これからが楽しみですわね」

 王妃は旧友の子供の成長を楽しんでいるが、国王からしたらたまったものではない。サラ夫人だけでも手に負えないのに、そこにもう1人息子が加わるというのだ。

「はぁ……マリアンヌは気楽で良いな。儂は悩みの種が1つ増えたぞ」

「ふふっ、それが国王たる者の仕事ですよ。疲れた時は私が癒してあげますから、存分に働いてくださいな」

「とりあえずは、嵐が過ぎ去るのを待つとしよう。お主の顔を見たら、ほっとして先程までの辛さもない」

「あなたを癒せたのなら、私もここへ足を運んだ甲斐があったというものですわ」

 最初の喧騒が嘘かのように、城内のパニックは終息に向かった。未だ王妃が、何故何ともないのか上手く話を逸らされたために、国王は理由を聞くこと自体忘れてしまった。

 そのことに王妃が、話を逸らした甲斐があったと安堵していることは、誰も知る由のないことである。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


――学院

 高等部1年Sクラスでは、初等部ほどではないにしても、少なからず被害を被っていた。

「みんな落ち着いて、気力をしっかり保つんだ」

 担任の教師が、まだ意識を保てている生徒たちに、威圧に対する対処法を教えていた。そんな中、1人の生徒が立ち上がる。

「アイン君、席につきたまえ。いくら君が強かろうとこの威圧の中では、何をすることも出来まい」

「すみません。先生の気持ちは有難いのですが、急を要する事なので行かせてもらいます」

 そのまま何事もなかったかのように、アインは教室を後にする。

「こんな威圧の中でも動けるとは、《賢帝》の名は伊達ではないということか……」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 同時刻、中等部3年Sクラスでは、同じように威圧の対処法を教えこんでいた。

「こんな機会は滅多にないから、威圧に負けない対処法を身につけるように。気力で負ければ、そこら辺の生徒同様に意識を失うぞ。動こうとするよりも、先ずは耐えられる気力を持つことを目指すんだ」

 クラスや学年が違えば、教え方もまた違ってくる。個々の教師によりそれは顕著に現れていた。

 共通して言えることは、教師自体が動けるほどの、耐えられる威圧ではないというところであった。

 ここでもまた、1人の生徒が単独行動に出た。

「先生、用事が出来たので行ってきます」

「お……おい、待て! カイン!!」

 カインは、教師が呼び止めるのを振り切って、1人教室を後にするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

処理中です...