84 / 661
第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~
第80話 たまにある憂鬱
しおりを挟む
あれから数日が経過し、誘拐されていた生徒たちも事情聴取が終わり学院へと戻ってきたが、事件に巻き込まれた心のケアのため、授業参加の免除が取り計らわれた。しばらくは、休養を取りつつカウンセリングを受けながら、通常の生活に戻していくそうだ。
事件の黒幕たちは処刑が言い渡され、貴族の者は爵位剥奪に領地没収、一般市民へと落とされた。家族は事件に関与しておらず、罪に問われることはなかったが、最低限の私財以外は没収されており、これからの生活は180度変わったものになるだろう。
伯爵の領地は、引き継げる者がいなかったために国の直轄地となり、その後の領地経営にも支障は出ないようだった。領民も安心して暮らせるというものだ。
「はぁ……」
「どうしたの? 溜息なんてついて。幸せが逃げちゃうよ?」
「お前がそんなメルヘンチックな事を言うなんて、世も末だな」
「人がせっかく心配してあげたのに、酷い言い草だね」
「どちらかと言うと現実主義者だろ? そんな奴から言われれば、そう返したくもなる」
「それで、何で溜息なんてついたの? 悩み事?」
「学院生活にも飽きてきたなと思ってな。いっその事辞めてしまうかと思ってたんだよ」
「飽きてきたって……まだ2年も経ってないんだよ? いくらなんでも早過ぎない?」
そりゃ普通に考えれば2年だろうが、こちとら前世でも学校行ってたし、今更四則演算なんて真面目に受けてられるかよ。
「そういえば、専攻科ってないのか?」
「あるよ。中等部からだけど」
あと2年以上も先になるじゃないか。早く初等部を終わらせたい……
「先は長いなぁ……」
「まぁ、今は学生気分を謳歌するしかないよ。ちなみに、そんなにつまらないんだったら、闘技大会でひと暴れしたら? 今年もあるんだし」
「相手が弱すぎて、逆にストレスが溜まる。手加減しなきゃいけないからな。お前だってそうだろうが?」
「それは分かるけど、上位クラスの生徒相手なら、手加減しなくてもいいんじゃない?」
「そいつら相手でも、手加減しなきゃいけないんだよ」
「ケビン君ってどこまで実力隠してるの? 上位クラスの生徒相手に手加減って中々ないと思うよ?」
「さあな。まともに本気出して戦った相手がいないからな。どの位強いのかなんて知らない」
「それがあるから、闘技大会にやる気を出さないのね」
「それは違う。ただ単に面倒くさいからだ。他意はない。はぁ……家でゴロゴロしていたのが懐かしい。あの頃に戻りたい……」
ふと空を見ると今日も快晴だった。平和だなぁ……
「こりゃ、重症だね。ゴロゴロしてて親に怒られなかったの?」
「母さんは基本的に俺に甘いからな。父さんは領地経営で忙しくて偶にしか会話しないし、兄さんや姉さんも寮に住んでて、会うことなんてほとんどなかったしな」
「なんて言うか、その環境が今の君を生み出したんだね。ちゃんと指導してくれる人がいたら、少しは変わってたかも」
「それはないぞ。間違った事をすれば当然怒られる。俺は間違った事をしてなくて、怒られなかっただけだ」
「凄い暴論だね。ゴロゴロするのが間違った事とは見なされないんだ」
「子供は寝るのが仕事だろ。何の疑問がある?」
「そこに何かを学ぶというのは、含まれていないんだね」
「学ぶべきものは学んでるさ。それが少なすぎるだけだ」
そこでチャイムが鳴った。
「お昼だね。今日もお姉さんと?」
「さあな。最近は控えめになってきているから、来るかはわからんぞ」
「でも、噂をすればなんとやらだね。あそこに立ってるのお姉さんとそのお友達でしょ?」
教室の入口に姉さんとターニャさんが立っていた。以前のように、躍起になって捕まえに来ないあたり成長しているようだ。
「じゃーな、飯に行ってくる」
「またね」
席から立ち上がり姉さん達の方へと向かう。
「ケビン、お昼を一緒にとりましょ?」
「姉さんも大分大人しくなったね。淑女に見えるよ」
「以前はどう見えてたの?」
「前にも言ったろ? お転婆を通り越して、獲物を見つけた野獣だよ」
「やっぱり野獣なのね……」
「さあさあ、時間は有限ですわよ。早くお食事に参りますわよ」
シーラがこれ以上追い打ちをかけられないように、上手く話を逸らしていくターニャであった。
カフェテラスで食事を摂っていると、話題は必然的に次の闘技大会についての事になった。
「もうすぐ闘技大会ですけど、ケビン君は勝ちに行きますの?」
「それはないと思いますよ。参加自体が面倒くさいですし、上位クラスにも興味ありませんから」
「それは残念ですわね。ケビン君の戦う姿が見てみたかったのですけど。前回は目で追えない速度で決着しましたし」
「ターニャさんが言うなら、少しくらいは戦ってみてもいいですよ」
「ターニャばっかりズルいわ。私の為にも戦ってよ」
「姉さんは戦う姿を見たことあるだろ?」
「数えるくらいにしかないわ」
「それでも、ターニャさんより多いだろ? それにいつも2人は一緒にいるんだから、どっちみち見れるよね?」
「それは……そうだけど……」
『マスターは女心がわかってないですね。鈍感系主人公でも狙ってるんですか?』
『そんなものは狙ってない。どっちみち一緒に見るんだから変わらないだろ』
『はぁ……』
何故に呆れる? 効率的に一緒に見る方が楽だろ? 俺もわざわざ別で戦わなくて済むのだから楽だ。win-winじゃないか。
事件の黒幕たちは処刑が言い渡され、貴族の者は爵位剥奪に領地没収、一般市民へと落とされた。家族は事件に関与しておらず、罪に問われることはなかったが、最低限の私財以外は没収されており、これからの生活は180度変わったものになるだろう。
伯爵の領地は、引き継げる者がいなかったために国の直轄地となり、その後の領地経営にも支障は出ないようだった。領民も安心して暮らせるというものだ。
「はぁ……」
「どうしたの? 溜息なんてついて。幸せが逃げちゃうよ?」
「お前がそんなメルヘンチックな事を言うなんて、世も末だな」
「人がせっかく心配してあげたのに、酷い言い草だね」
「どちらかと言うと現実主義者だろ? そんな奴から言われれば、そう返したくもなる」
「それで、何で溜息なんてついたの? 悩み事?」
「学院生活にも飽きてきたなと思ってな。いっその事辞めてしまうかと思ってたんだよ」
「飽きてきたって……まだ2年も経ってないんだよ? いくらなんでも早過ぎない?」
そりゃ普通に考えれば2年だろうが、こちとら前世でも学校行ってたし、今更四則演算なんて真面目に受けてられるかよ。
「そういえば、専攻科ってないのか?」
「あるよ。中等部からだけど」
あと2年以上も先になるじゃないか。早く初等部を終わらせたい……
「先は長いなぁ……」
「まぁ、今は学生気分を謳歌するしかないよ。ちなみに、そんなにつまらないんだったら、闘技大会でひと暴れしたら? 今年もあるんだし」
「相手が弱すぎて、逆にストレスが溜まる。手加減しなきゃいけないからな。お前だってそうだろうが?」
「それは分かるけど、上位クラスの生徒相手なら、手加減しなくてもいいんじゃない?」
「そいつら相手でも、手加減しなきゃいけないんだよ」
「ケビン君ってどこまで実力隠してるの? 上位クラスの生徒相手に手加減って中々ないと思うよ?」
「さあな。まともに本気出して戦った相手がいないからな。どの位強いのかなんて知らない」
「それがあるから、闘技大会にやる気を出さないのね」
「それは違う。ただ単に面倒くさいからだ。他意はない。はぁ……家でゴロゴロしていたのが懐かしい。あの頃に戻りたい……」
ふと空を見ると今日も快晴だった。平和だなぁ……
「こりゃ、重症だね。ゴロゴロしてて親に怒られなかったの?」
「母さんは基本的に俺に甘いからな。父さんは領地経営で忙しくて偶にしか会話しないし、兄さんや姉さんも寮に住んでて、会うことなんてほとんどなかったしな」
「なんて言うか、その環境が今の君を生み出したんだね。ちゃんと指導してくれる人がいたら、少しは変わってたかも」
「それはないぞ。間違った事をすれば当然怒られる。俺は間違った事をしてなくて、怒られなかっただけだ」
「凄い暴論だね。ゴロゴロするのが間違った事とは見なされないんだ」
「子供は寝るのが仕事だろ。何の疑問がある?」
「そこに何かを学ぶというのは、含まれていないんだね」
「学ぶべきものは学んでるさ。それが少なすぎるだけだ」
そこでチャイムが鳴った。
「お昼だね。今日もお姉さんと?」
「さあな。最近は控えめになってきているから、来るかはわからんぞ」
「でも、噂をすればなんとやらだね。あそこに立ってるのお姉さんとそのお友達でしょ?」
教室の入口に姉さんとターニャさんが立っていた。以前のように、躍起になって捕まえに来ないあたり成長しているようだ。
「じゃーな、飯に行ってくる」
「またね」
席から立ち上がり姉さん達の方へと向かう。
「ケビン、お昼を一緒にとりましょ?」
「姉さんも大分大人しくなったね。淑女に見えるよ」
「以前はどう見えてたの?」
「前にも言ったろ? お転婆を通り越して、獲物を見つけた野獣だよ」
「やっぱり野獣なのね……」
「さあさあ、時間は有限ですわよ。早くお食事に参りますわよ」
シーラがこれ以上追い打ちをかけられないように、上手く話を逸らしていくターニャであった。
カフェテラスで食事を摂っていると、話題は必然的に次の闘技大会についての事になった。
「もうすぐ闘技大会ですけど、ケビン君は勝ちに行きますの?」
「それはないと思いますよ。参加自体が面倒くさいですし、上位クラスにも興味ありませんから」
「それは残念ですわね。ケビン君の戦う姿が見てみたかったのですけど。前回は目で追えない速度で決着しましたし」
「ターニャさんが言うなら、少しくらいは戦ってみてもいいですよ」
「ターニャばっかりズルいわ。私の為にも戦ってよ」
「姉さんは戦う姿を見たことあるだろ?」
「数えるくらいにしかないわ」
「それでも、ターニャさんより多いだろ? それにいつも2人は一緒にいるんだから、どっちみち見れるよね?」
「それは……そうだけど……」
『マスターは女心がわかってないですね。鈍感系主人公でも狙ってるんですか?』
『そんなものは狙ってない。どっちみち一緒に見るんだから変わらないだろ』
『はぁ……』
何故に呆れる? 効率的に一緒に見る方が楽だろ? 俺もわざわざ別で戦わなくて済むのだから楽だ。win-winじゃないか。
2
お気に入りに追加
5,258
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる