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第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~

第78話 潜入作戦 ③

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 4人の所帯となってしまったが、当初の予定通りアジトを見つけるために散策を始めた。

 他3人は俺に任せっきりなので、先頭を歩き誘導している感じだ。ただついて来るだけで暇なのか、後ろの方で雑談を始めている。

 今から敵のアジトへと向かっているのにお気楽なものだ。そんな事を考えながらも、目星をつけていたスラム街へとやって来た。

「やっぱりスラム街にいるんですの? 道すがらその方向に向かっているのは何となく感じましたけど」

「以前襲われた時に、敵の増援が割かし早く合流したから、そうではないかと踏んでみただけです」

「ケビンは賢いわね。襲われながらもそんな事を考えていたのね」

「自慢の弟だもの!」

「何だかシーラが壊れていっているようですわ。いつものクールさはどこへ行ったのかしら?」

「いつもはクールなんですか? 俺はこの状態しか見たことないのですが」

「いつもとは全然違いますわよ。学院の者たちが見たら卒倒しますわね。学院では《氷帝》の名に恥じぬ振る舞いですから」

 そうなのか? 俺からしてみれば、そっちの方が異常な気もするが。そういう姿も見てみたいな。真面目な姉さんを見れるかもしれない。

「ところでこっちの方角であっていますの? 迷いなく進んでいるように見えますが……」

「あぁ、それなら心配ないですよ。既に敵は捕捉していますから。もう少ししたら着きますよ」

「既に探知済みですの!? でも、もう少しで着くのなら、それ程広い範囲の探知能力ではないのかしら?」

「範囲は広いわよ。私はまだ探知出来ていないもの」

 折角、勝手に誤解して実力を隠せると思ったのに、母さんが横からすかさず答えたせいで、誤魔化しが効かなくなった……

「えっ!? サラ様はまだ探知出来ていないんですの?」

「そうよ。近くで探知できているのは、スラムの住人くらいね。恐らく攫われた子供たちがいるはずだから、近くまで行けばわかるのだけど……」

「ケビン君の探知能力は、一体どれ程の広さをカバー出来ていますの?」

「……」

 ここは黙秘権を行使しよう。困った時の黙り作戦だ。黙っていれば時間が解決してくれるはず。そう願いたい。

「教えてくれませんの?」

「……」

「ターニャ、ケビンが困っているわ。あまり詮索してはダメよ」

 おぉ、神はここにいた! いつもはダメダメな姉さんでも、偶にはデキる人になるではないか!

「それはわかるのですけれど、気になるのですわ」

「それでもよ。私だって知らないんだから、ターニャだけ知るのはズルいわ」

「ここで話してもらったら、シーラも知れるのではなくて? コソコソ話しているわけではないのですし」

「……それでもよ」

 姉さん今凄く迷ってなかった? 迷ったよね!?

「サラ様は知っているのですか?」

「私も知らないわよ。ケビンのステータスは、昔のしか見てないから。今はどこまで成長しているのかわからないわ」

「サラ様は気にならないのですか?」

「私はケビンが元気に育ってくれたら、それでいいわ。ステータスの中身なんてオマケみたいなものよ」

 さすが母さんだ! もっと言ってやって欲しいくらいだ。

「何でそんなに気になるの? ターニャって我関せず主義じゃなかった?」

「年下の子に、強さで負けているかもしれないなんて、生まれて初めてですもの。気になりますわ」

「ふふっ、本当にそれだけかしら?」

 何やら不穏な流れになってきている。女子トークってやつだろうか? 兎も角、話を終わらせないと、飛び火が凄いことになりそうだ。

「見えてきましたよ。あそこですね」

 都合よく目的地が見えてきたので、ここぞとばかりに話を逸らさせてもらう。見た目は普通の倉庫だな。

「ケビン君の探知能力は凄いですわね。あっという間にアジトが見つかりましたわ」

「さすが私のケビンね。お姉ちゃんの自慢の弟よ!」

「……」

 とりあえずは、先程の女子トークを止めさせることに成功したようだ。1人テンション高すぎな人もいるが。

「では、こっそり中に入りましょうか?」

「その必要はないわ! 堂々と行きましょう!」

 そう言って勢いよく扉を開け放つ。少しは加減てものをして欲しいのだが、言っても無駄だろうな。テンション高いし。

「誰だテメーは?」

 中には酒瓶片手に座っている、如何にもな男がいた。倉庫の端の方には、檻に入れられた生徒たちがこちらを見て、困惑の表情を浮かべている。

「貴方みたいな下賎の輩に、名乗るほどの者でもないわ」

「学院のガキ風情が、調子こいてんじゃねぇぞ!」

 早くも口撃を始めているシーラの後ろから、続いて中に入り様子を窺う面々。奇しくも学院の制服を着ているので、相手からしたらカモネギ状態に見えたのだろう。

「ガキ3人に保護者か……攫う手間が省けたな、保護者の方はいい体つきしている事だし、後でじっくり楽しませてもらうとするか」

 下卑た笑いを浮かべながら男が言うと、あからさまに女性陣は嫌な顔をした。サラだけは歯牙にもかけないのか無反応だったが。

「そんな事は俺がさせないよ。大事な母さんだしね」

「何だテメーは? 保護者の子供か? だったら母親が犯されるのを檻の中で見物でもしてるんだな」

「賞金首なだけあって最低な野郎だな。殺したくなってくるよ」

「ハッ! ガキが息巻いてんじゃねーよ。実力の差もわからないくせに、ヒーローごっこは他所でやんな。と言っても、今からお前らは檻の中へ直行だがな」

 こちらをただの子供と見ているのか、余裕の表情で酒を煽っていた。

「ねぇケビン、こんな奴が親玉なの? 張り合いがないのだけれど」

「こいつで間違いないよ。誘拐犯の黒幕だよ」

「何か拍子抜けですわね。ただの酔っ払いにしか見えませんわ」

「何だと? ふざけるのも大概にしとけよ。多少痛めつけても、生きていればいいんだからな、後悔するぞ」

「それと同じ事を、お前の手下共が言っていたぞ。もうこの世にはいないけどな」

「俺の手下だぁ?」

 男は何かを思い出そうとしているのか、黙考しだした。不意に目を見開きこちらを凝視する。

「おい、もしかして手下共を殺ったのはお前らか?」

「正確にはお前ではなく、俺だ」

「そんなわけがあるか! 仮にも冒険者の集まりだぞ! お前1人でどうこう出来る相手じゃないんだよ!」

「どうこうしたから、今俺がここにいるんだろ? 手下が言ってなかったか? 子供に手こずっているって」

「!!」

 男は思い出した。確かにあの時、手下の一人が攫う予定だった子供に手こずって、応援を頼みに戻ってきていたことを。

「テメーだけは何があっても殺す! あれでも俺の仲間たちだった奴らだ。殺した上で生首を供養に供えやるぜ」

 そう言い放つと男は立ち上がり、酒瓶を捨てて代わりに抜き身の剣を右手に持つ。

「死ね、クソガキ!」

 一般人からしたら、かなりのスピードで間合いを詰めてくる。そこら辺は、さすが賞金首と言ったところか。ただし、今回は相手が悪かった。

「さっきから聞いていれば、私の可愛いケビンを殺すですって! 許さないわ!」

 一歩前へ踏み出て男と相対するのは、怒り心頭のシーラであった。

「死ぬのはあなたよ! ゲスがっ! 《氷河時代の顕現アイスエイジ》」

 辺り一面が寒気と同時に白い靄で包み込まれた。見回してみると所々凍っており、冷気を醸し出していた。

 賞金首はというと、氷の彫像とも言うべきか綺麗に氷漬けにされており、生きているかも定かではない。

「姉さん、ちょっとやり過ぎじゃない? あれ、生きてるの?」

「多分、生きているんじゃない? わからないわ」

「しかも、詠唱を省略出来たんだね。それ出来る人って限られてるんだよ? 中々に稀有な存在だね」

「このくらい普通よ! いつもは周りに合わせて詠唱してるだけよ」

「ちょっとそれは初耳でしてよ! 貴女、自分がどれだけ凄いことをやったのか理解してまして? 各国から引っ張りだこでしてよ! 将来は宮廷魔術師で安泰ですわね」

「そんなものには興味無いわ。私が興味あるのはケビンだけよ!」

「出ましたわ、超絶ブラコン……」

「ふふっ、相変わらずシーラはケビンが好きなのね」

「好きの度合いを超えていると思いますわ」

 姉さんの弟愛が重い……

『良かったですね、マスター。将来は結婚するかも知れませんよ?』

『変なフラグ建てるな! あと、姉弟で結婚は出来ない』

『えっ……? 知らないんですか? 義理姉だから出来ますよ』

『……』

 待て待て待て、今こいつ何て言った? 義理姉……? ここにきていきなり、とんでもない情報をぶっ込んできやがった!

『どういう事だ! 姉さんは血の繋がった姉じゃないのかよ!』

『ちなみに姉だけじゃなく兄もですよ。実は、サラ様は後妻なんですよ。だから、あれだけマスターに愛情を注いでいるのです。やっと出来た子供ですからね。それと、前妻はシーラさんを産んで数年後に、病気で亡くなっていますね。元々、身体の弱い人だったみたいで』

 身体の弱い人に子供を3人も産ませるなよ。父さんは何やってるんだよ。

『今、“父さん何やってんだ”とか思いました?』

『何故わかる?』

『流れを読んだだけですよ。ちなみに、兄姉共に前妻の子ではありますが、男爵様の子ではありませんよ』

『わけがわからないんだが』

『よくある話で、男爵様の信頼する親友が亡くなって、家族が路頭に迷う所を周りの反対を押し切って妻にしたらしいです。親友から奥さんの身体が弱い事を聞いていたので、子供を3人も育てるのは無理だろうと、考えたらしいですね』

『父さん凄いな』

『さらに男爵様の凄い所は、妻にしても一切手を出さなかったらしいです。奥様は妻になったのだからと、男爵様の血筋を残すために語りかけたのですが、死んだ友に顔向けが出来なくなると断ったそうです。漢ですよね』

『カッコよすぎるだろ。改めて尊敬するよ』

『それでマスターと兄姉達は、血の繋がりがないんですよ』

『それを知らなかったのは、もしかして俺だけか?』

『アイン様とカイン様はそれなりに成長していたので知っていますよ。シーラ様はまだ知らないでしょうね。アイン様たちが教えていたら知っているかも知れませんが』

 あまりの情報に消化不良を起こしそうだ。なんて事だ……

「ケビン、どうしたの?」

「いえ、こいつの始末をどうしようかと、考えていただけです。」

「そうねぇ、騎士たちに引き渡そうかしら?」

「それが無難ね」

「ですわね」

「放っておいても逃げる心配はないし、騎士が来るまでこのままでいいか」

 こうして姉さんの活躍(?)により、黒幕は退治できたし、後はローブの男を見つけるだけだな。
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