面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

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第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~

第76話 潜入作戦 ①

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 あれから伯爵と教師は直ぐに拘束され牢獄へ入り、残りは賞金首の男とローブの男を残すのみとなった。

 事情聴取は騎士たちが行い、残りの犯人を逃さない為にも情報統制が敷かれ、外部に漏れないよう細心の注意が払われた。

 そんな中、俺は賞金首の男を懲らしめるために、アジトへと向かった。

 アジトの場所は、スラム街を探索していたら難なく見つかり、見た目は普通の倉庫であった。

「ケビン君の探知能力は凄いですわね。あっという間にアジトが見つかりましたわ」

「さすが私のケビンね。お姉ちゃんの自慢の弟よ!」

「……」

 皆さんお気づきだろうか? ここに何故か居るはずのない人が、参加しているのだ。母さんと2人で隠密行動のはずが、妙にテンションの高い人とそのストッパー役の人が紛れているのだ。

 何故こうなった!!


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


――時は遡り

 学院長との話が終わり、ブラブラしながら教室に戻っていると、正門の方から、ガヤガヤと騒いでる声が聞こえた。

 ふと気になり野次馬根性で向かったら、正門周辺には人集りが出来ていて、ある一点を遠巻きに窺いながら見ていたのだった。

 近くの生徒にとりあえず聞いてみると、何やら有名人的な人がいるらしい……

「なぁ、有名な人って誰が来ているんだ?」

「元Aランク冒険者だとよ。俺も詳しくは知らないが、伝説的な人らしい。武系の連中が騒いでるだけだよ。文系の俺としては、余り興味はないかな」

「ふーん。そうなのか」

 今日は何かのイベントでもあるのだろうか? 元Aランク冒険者を招くなんて、学院も粋な計らいをするもんだ。

 そんな中、野次馬連中の別の所から声が上がった。

「おい、あれ《氷帝》じゃないか? 何で一緒にいるんだ? 模擬戦でもするのか?」

(キュピーン)

『何だこのプレッシャーは!』

『パターン青、姉です!』

『ここは、逃げの一手で。隠蔽フィールド 全開!!』

『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ』

「ケビーン! いるのはわかってるわよー!」

  ____
『┃第壱話 ┃
 ┃長   ┃
 ┃女、襲来┃』
   ̄ ̄ ̄ ̄

『サナ、意外と器用だな。感心したぞ』

『実は、私のステータスはネタに極振りしてますからね。ドンと来いです!』

『システムにステータスなんてあるのかよ? とりあえずこの場を離れる。目視されていない今ならまだ間に合うはずだ』

 サナとのやり取りをしながら、距離を取りつつも振り返りざまに走り出そうとした瞬間、人とぶつかってしまった。何とも幸先の悪いスタートだった。

「あ、すみませ……ん?」

 目の前には見慣れたあの人の姿があった。

「ケビン、お姉ちゃんが呼んでるわよ? 隠れるなんて相変わらず苦手なのね」

「母さん、何故ここに……?」

「王城での一仕事を終えたから、迎えに来たのよ」

 もしや、正門で騒がれてた元Aランク冒険者って、母さんの事だったのか? 正門までかなり距離があるのに、一瞬でここまで来るとは……本気出した?

「隠蔽スキル全開で使っているのに、ここにいる事がよくわかったね」

「それは愛しの我が子を見つけるくらい、母さんにとっては朝飯前よ」

 もしかして、姉さんの第六感的な探知能力も、母さん譲りだったりするのか? 姉さんはまだ俺を見つけきれていないから、母さん程の探知能力はないけれど、いずれは母さん並になるって事か? 勘弁して欲しい……

 いきなり現れた元Aランク冒険者に、周りの人間は囲むように円になって離れていく。

(おい……今、“母さん”って言ってたぞ。あいつ、もしかして息子なのか?)

(それに“お姉ちゃんが呼んでる”って言ってたから、《氷帝》の弟でもあるって事だろ?)

(とんでもない家族じゃないか!)

 ヤバい……周りが騒ぎ出した。母さんと話している時点で、周りに認識され隠蔽は解けたし、俺の平穏な学院生活が終わってしまう……

「ケビーン! 何処にいるのよー! 母様もいなくなってしまうし……絶対一緒にいるでしょー!」

 あぁ、終わった……あんだけ騒がれれば隠すのが無理になってしまう。

「シーラったらあんなに騒いで、淑女である自覚がなさすぎるわね」

「ターニャさんがいれば、落ち着くとは思うんだけど。近くにいないのかな?」

「誰なのかしら? その子は」

「姉さんの親友みたいだよ。いつも一緒にいるから」

「ああ、同じ様な年頃の子ならいたわよ。お願いされたから握手したわね」

 握手したのか……ターニャさんって、意外とミーハーなのかな? それよりも、いるなら姉の暴走を止めて欲しい……

「ところでケビン、今からならず者を捜しに行くわよ」

「今から?」

「そうよ。善は急げって言うでしょ?」

 何故日本のことわざが、普通に知られているんだ? 不思議でならない……

「それに、早くしないとお姉ちゃんに見つかるわよ? 静かになったからターニャちゃんが頑張ったのね」

 姉さんに見つかったら、絶対についてくると言い出しそうだ。何としてでも見つかる前に、ここから離れなければ!

「それは困るかな。荒事に姉さんを巻き込むわけにもいかないし」

「苦手なのに優しいのね。だからシーラもあれだけ懐くんでしょうね」

「早く弟離れして欲しいんだけどね……」

「それは絶対にしないわ!」

 いきなりの乱入者に目を向けると、姉さんが仁王立ちしていた。後ろには申し訳なさそうにターニャさんもいる。

「ほら、早くしなかったから見つかったわ。ふふっ」

 さっきのはフラグだったのか……へし折っておけばよかった……

「ケビン、ずっと呼んでたんだから、返事ぐらいしてよ。お姉ちゃん悲しくなる」

 そんな捨てられた子犬のような目で見ないでくれ。見つかりたくないから、返事をしなかったんだ。

「やあ、姉さん。淑女なんだから、人前であんなに大声を出したらダメだよ?」

「ケビンが言うなら、次からは気をつけるわ」

 それでも気をつける程度なのか。止めるとは言わないんだな。

(おいおい、豪華メンバーが1箇所に揃い踏みだぞ!)

(伝説の元Aランク冒険者にその娘である氷帝、氷帝の右腕と呼ばれている人まで……何だこの空間は!)

(更には氷帝の弟までいるんだぞ! 弟がいるなんて知らなかったぞ!)

(そりゃそうだ。Fクラスで入学してきたからな。代表戦で圧倒的な実力差を見せつけ、相手を倒したのは一部じゃ有名な話だ)

(何でそんな奴がFクラスにいるんだよ! 普通はSだろ!)

(ダラダラと学院生活を送るのに、しがらみの少ないFを希望したそうだ。本当は次席を圧倒的な差で突き放した、首席入学だったみたいだぞ。前代未聞の成績で、学院長からSクラス入学の推薦をされたみたいだが、本人が断ったらしい)

(学院長からの!? それよりも、その逸話的な内容も内容だが、何でそんなに詳しいんだ?)

(新聞部だからだ)

(新聞部パネェ)

 外野がかなり騒がしくなってきた。一部プライバシー侵害的な詳細な情報が出てきたが、新聞部なら仕方ない。こんなでかい学院なんだし情報網が半端ないんだろう。

 これ以上、晒されるわけにもいかないし、退散した方がいいな。とりあえずは早退になるし、馬車へ向かうとしよう。

「母さん、周りが騒がしくなってきたから、馬車へ向かおう」

「そうねぇ、そうしましょうか」

 2人で歩き出すと、モーゼの様に人混みが割れた。何か凄い演出みたいになっているな。視線はバンバン感じるし、物凄く歩きづらい……

「母さん、ちょっと我慢できそうにないから、先に馬車に向かってもいい?」

「いいわよ。私は昔から慣れてるけど、ケビンは注目されるのは嫌いですしね。馬車で待ってなさい」

「では、お先に」

(おい、弟が消えたぞ! 何処に行ったんだ!)

(これが代表戦で騒がれた実力って事か)

(新聞部の名にかけて、見つけてみせる!)

「ねえ、母様。ケビンとこれから何処かに行くの?」

 後ろからシレッとついてきていたシーラが、疑問を口にする。

「ちょっとしたストレス発散よ」

「私もついて行っていい? 寧ろついて行く!」

「そうねぇ、ケビン次第にはなるかもしれないわよ?」

「ケビンならいいって言うわ!」

「貴女は昔から、ケビンの事になると強引ね」

「だって可愛い弟だもの!」

「仕方ないわね。ケビンに迷惑かけちゃダメよ?」

「大丈夫よ、心配ないわ!」

「ターニャちゃんはどうする? 一緒に来る?」

「私が一緒に行ってもよろしいのでしょうか?」

「ケビンが気に入っているみたいだから大丈夫よ」

「なっ! 聞き捨てならないわ! ターニャ、貴女やっぱりケビンに何かしたのね? お姉ちゃんの座は渡さないわよ!」

「別にいりませんわよ、その座は。貴女がずっと君臨していればいいですわ。」

「そう? それなら安心ね。」

「ふふっ、ターニャちゃんの方が一枚上手ね」

「?」

 Sクラスの才媛であるシーラも、ケビンが絡むとなるとどこか抜けた、唯の人となるようだった。俗に言う残念系である……

 そんなやり取りをしながらも馬車へと辿りついて、サラたちがその中に入ると、ケビンが既に寛いでいた。

「あれっ? 何でいるの?」

 不思議に思ったケビンが聞いてみるのだが、予想の斜め上を行く残念な回答が戻ってきた。

「ケビン、会いに来たわよ!」

「えっ……」
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