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第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~

第68話 目指すもの

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 1年生も無事に入学式を終え、春一のイベントが終わってから暫くした頃、巷ではとあるニュースで持ち切りだった。

「ケビン君、今話題の噂話って知ってる?」

「興味ないから知らないな」

「学院生が何人か行方不明になってるんだって」

「貴族だらけの学院生を狙うとは、無謀な奴もいたもんだな」

「それが行方不明になったのは、平民らしいよ? 貴族の生徒には被害が出てないんだって」

「だから噂話で終わってんのか」

「え、何で?」

「貴族が被害にあったなら親共が黙っちゃいないだろう。学院も必死になって探すさ。ところが平民だとそこまで影響力がないから、のらりくらり対応しているんだろうさ。だから生徒は噂話として、大した危機感もなく話題に出来るんだよ。特に被害にあっていない貴族連中はな」

「それって酷いね。平民だから全力で対応しないなんて。なんかこの学院に愛想が尽きそうだよ」

「学院長が全力の指示を出しても、末端は一介の教師だ。それが貴族となると、益々その傾向が強くなる。そういった背景があるんだろ。いい貴族もいれば、悪い貴族もいる。そこら辺の人間と一緒だ」

 そこでジュディさんが教室へ入って来た。いつもの明るいテンションじゃないな。

「みんな席に座って下さい。大事な話をします」

 醸し出す雰囲気に、生徒達は静かに席へと戻るのだった。

「皆さんはもうご存知かも知れませんが、最近、我が学院の生徒が行方不明になっています。行方不明になっているのは、初等部の低学年層です。そして調査の結果、行方がわからなくなったのは、どうやら学院外へ出た時みたいです」

 学院の外での犯行か。学院に侵入するよりリスクは低いな。理由は何だ? ただの人攫いとは思えないが。

「そこで学院からの決定事項としまして、学院外への外出を全面禁止とします。学院内であれば、安全である事が確認されていますので、敷地外に出なければ自由にしていて構いません」

 寮生活が滞りなく出来るように、基本的な物は学院内で揃うしな。不便に感じる者は少ないだろう。

「先生、質問があります」

「何? カトレアさん」

「ケビン君も寮生活になるんですか?」

「え……それは……」

 ジュディさんが、助けを求めるような視線を飛ばしてきた。まぁ、そっちが勝手に決めれる事じゃないよな。

「寮生活なんてするわけないだろ。面倒くさい」

「でも、学院の決定なんでしょ? 敷地外に出られないのは」

「俺は除外だ。貴族だしな」

「それなら、他の貴族も出ていいと思うんだけど」

 くっ、変なところで頭が回るな。

「現段階で貴族が狙われていないだけで、必ずしも安全である事が、保障されていないからだろ」

「それならケビン君も出られないよね?」

「さっきも言ったが、俺は除外されているんだよ。基本的に学院の規則からはな」

「つまり?」

「俺は自由! お前らは不自由!」

「ズルいよー! 私も自由がいい!」

 その言葉に、クラスメイトもウンウンと頷いている。

「なら、筆記試験で全科目満点を取ってみろ。あと、Aランク冒険者を無傷で倒せ。そしたら、お前らの自由は保障される」

 その内容に殆どの生徒は項垂れていた。現状、無理なのだ。出来ていたらFクラスではなく、Sクラスに入学しているからな。

「もしかして、ケビン君……」

「どっちも達成しているぞ。入学前にな。だから学院長が認めて、俺は自由なんだ」

「Aランク冒険者の方は、無傷とはいかなくとも、もしかしたら作戦次第で何とかなるかもしれないけど、筆記試験はどう足掻いても無理だよ」

「じゃあ、諦めろ。筆記が絡む時点で、お前にはそもそも無理だ」

「確かにそうだね。それよりも、何でSクラスじゃないの?」

「俺はダラダラ過ごすのが好きなんだ。当然、断った」

「断れるものなの?」

「出来るぞ。なぁ? ジュディさん」

 いきなり話の矛先が自分に向き、ジュディは慌てて返答する。

「え、えっと、確かに学院長からのSクラス推薦を断ってます」

 その言葉にザワっと生徒たちが反応する。

「な、なぁ、ケビン君……君は学院長からの推薦を断ったのかい?」

 名も知らぬ生徒から、ケビンに質問が飛ぶ。

「断ったぞ。Sクラスなんて面倒なことこの上ないだろ」

「あ、ありえない……Sクラス……しかも、学院長からの推薦を断るなんて」

「お前は名誉目的で学院に来てるのか?」

「えっ?」

「だって、そうだろう? 学びたい事を学ぶだけなら、クラスなんて関係ない。クラスに拘っている時点で、お前は学院に学びに来ているのではなくて、つまらないプライドと共に名誉が目的になっている。そんな奴に、俺の生き方を否定される言われはない」

「うわぁ、ケビン君ズバッと言うねぇ。確かにそうだけど」

「それは違う! Sクラスを目指して、日々研鑽を積むのも立派な事だ。名誉目的ではない!」

「そんな考えだから、お前はFクラスなんだよ。何も理解していないな」

「何だとっ!」

 名も知らぬ生徒は、顔を赤く染めて怒りを顕にした。

「何故Sクラスを目指す必要がある? ジュディさん、この学院はクラスによって差別化し、授業内容が変わるの?」

「それはありえません。全クラス授業内容は統一です」

「だ、そうだ。それなのにお前はSクラスを目指すと言う。つまりSクラスに拘っているという事だ。Sクラスの生徒であるという名誉が欲しいのだろう? Sクラスなんてものは、目指すものじゃない。お前の言ってた日々の研鑽を積み重ねていれば、おまけとして付いてくるものだ。あくまでおまけとしてな。つまらない名誉欲なんて捨てるんだな」

 名も知らぬ生徒は、反論ができずガックリと肩を落とした。

「ケビン君、なんか今日はカッコイイね。あの子は論破されて、ざまぁだけど」

「これは本来、ジュディさんの仕事ですよ。今回はこっちに矛先が向いたから教えてあげたけど」

「うぅ……面目ないです。ケビン君の言う通りです。」

 名も知らぬ生徒と同様に、ガックリと肩を落とすジュディであった。

「先生相手でも容赦ないね……さすがにざまぁは出来ないけど」

「ということで話は逸れたが、俺は敷地外に出られるわけだ」

「ズルいけど、それなら仕方ないね」

 ガックリと項垂れている2人を他所に、カトレアはケビンの言った内容に納得するのであった。
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