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第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~

第56話 闘技大会 ~総員戦~ ⑥

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 守備隊の生徒たちがゾロゾロと戻ってくる中、最後の1人を倒したカトレアが旗へ戻ってくる。

「ケビン君、終わったよ」

「楽勝だったろ?」

「そうだね。思ってたより強くなかったよ」

「それにしても随分とフレンドリーに喋ってたな。人見知りは何処へいった?」

「何処にも行かないよ? あれはアドレナリンが出てたんだよ」

「そういうことにしといてやろう」

 カトレアへそう答えるとケビンは次の行動を考え始める。ここに来ていたグループは併せて20名いた。つまり旗を守っているのは残りの10名ということになる。こちらに来るのを待つかそれとも攻めに行くかで、ケビンは他の生徒たちの意見を聞くことにした。

「なぁ、みんなに聞きたいんだが、ここまできてしまったら旗を壊して勝つのと、生徒を全滅させて勝つのではどっちがいいと思う? あえて自分たちで自陣の旗を壊して負けるという手もあるが」

「そうだねぇ……ここまできたからには負けるのはナシで」

 カトレアが答えると、他の生徒たちから次々と意見が出る。

「僕は全滅させてみたいかな。全滅で勝つなんてあまりないんじゃないかな」

「私はどっちでもいいかな。負けるのは嫌」

「俺は旗をサクッと壊してみたいかな」

「私は全滅させて旗には手をつけずに勝ってみたい」

「私はここからあえて移動せずに自陣のエリアで全滅を狙ってみたい。攻めてないのに勝っちゃったって感じで」

「僕もここにいて守ってただけなのに、相手が勝手に全滅して勝っちゃいましたって感じを演出してみたい」

「じゃあ、とりあえずは全滅の方向性でいくとして、問題は攻めて勝つか守ったまま勝つかの2択だな。そろそろ相手さんもおかしいのに気づくはずだから、何人かは此方に来るかもしれない。全員で来てくれるのが1番手っ取り早くて済むんだが」

「素直に攻めてきてくれるかな? 数人で来られたら人数差で攻めてこないかもよ?」

「それならそれで構わない。引き返して仲間を連れてくるだろうからな。全員で来た所で一網打尽だ。今のところ此方を見下している様だから攻めてこないって線はないだろうな」

「じゃあ、迎え撃って全滅作戦が妥当じゃない?」

「そうね。それしかないわね」

「僕もそれで賛成かな。旗を壊すのは次の機会にでもしようよ。もっと実力を付けてからとか」

「そうだな。今回で最後ってわけでもないし、次回に期待だな」

 みんなの意見が纏まりだしたところで、ケビンは作戦を伝える。

「次の作戦は騙し討ちだ。俺たちが全員ピンピンした状態でここにいたらいくら相手でも訝しむ。だから次はそこら辺に転がっている敵を使う。敵の傍らに倒れてれば、既にやられた奴だと勘違いするだろう。そしてここに残って旗を守ってる人数を減らしておく。そうすることで攻めてきた奴らに自分たちだけで勝てるとわざと思わせるんだ」

「それで罠にかかった敵を挟撃するのね」

「そうだ。目の前の敵に集中してるから背後からの攻撃には弱い。『今だっ!』なんてわかり切った合図は出さないから、だいたい敵が森と旗の半分位に行きついた時点で各自の判断によって背後からの攻撃開始だ。距離があるから魔法の得意な奴が奇襲してくれ。くれぐれも詠唱以外で喋るなよ、気づかれたら奇襲の意味がなくなってしまう」

「旗に残す人数はどうするの?」

「5人だな。恐らく敵はここに残っている生徒は、比較的強い奴だと思うだろう。旗を守ってることもあるしな。偵察隊が多分5人だ。半分は奇襲の線を考えて旗に残すだろう。だが、此方が残り5人だと思わせることで、旗の奴等を呼びに行かせ全員で攻め込む機会を与えるのさ」

「呼びに行かずそのまま攻めてきたら?」

「倒せばいい。どういう結果になっても残ってる奴等には攻める以外の手が取れないんだ」

「どうして?」

「格下相手にビビってるなんて、あいつらのプライドが許さないだろ。だから異常事態でも攻めるしかない」

「なるほどぉ、相手の心理を逆手に取った作戦ってわけね」

「ボチボチ作戦行動に移ってくれ。そろそろ相手さんが偵察に来るぞ。奇襲組はなるべく森に近い方に陣取ってくれよ。あと、念の為に寝転がる前に転がってる敵にトドメを刺しておいてくれ。ギリギリ意識を失わず起きてたら面倒だからな」

「動けない敵にトドメを刺すなんて鬼畜ね」

「体力がないだけで意識が残ってたら面倒だろ。『罠だー!』なんて叫ばれてもみろ、作戦が無意味になってしまう。それともここまできて負けたいのか?」

「それもそうね。ここで負けたら後悔しか残らないわね」

「じゃあ、作戦に移ってくれ。時間はもうないぞ」

 ケビンの言葉を皮切りに、半数の生徒たちはトドメを刺しに向かって行った。ある程度森に近い所で生徒たちは寝転がっていく。

「ケビン君はどうするの? 流石にこの人数だと動かなきゃいけないんじゃないかな?」

「俺は精根尽き果てた生徒を演出して、ここでゆっくりしているよ」

「何がなんでも動かないつもりなんだね?」

「そこはカトレアがちゃんと守ってくれるのだろう? 自分で言ってたじゃないか。守るためにここにいるって」

「ズルいよね。こんな時ばかり名前で呼んで」

「ほら、敵さんが来たぞ。雑談は終わりだ」

 旗に残る生徒たちが視線を向けると、森からEクラスの生徒たちが出てきていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 森から出てきたEクラス側では、余裕の雰囲気を醸し出しながら会話をしていた。

「な? 俺の言った通り5人しか残っていないだろ? しかもその内の1人は座り込んでるからほとんど役に立たないんじゃないか? 実質4人倒せば終わりだ。初の総員戦で全滅させて勝利なんて中々ないと思うぜ。ついでに倒した後に旗も壊そーぜ、俺たちが歴史に名を残すんだ」

「そうだな。10対4なんて相手にしてみれば地獄でしかないだろう。甚振る気はサラサラないからさっさと終わらせてやろう」

「旗の守りとかつまらない役割にされた時には嘆いたもんだが、こんな最高なステージが用意されているとはな。俺たちの運も中々捨てたもんじゃないな」

「それにしてもFクラスにしては頑張ったほうじゃないか? 俺たちをここまで追い詰めたんだからな。個人的には表彰してやりたいよ」

「表彰するとして何の賞にするんだ?」

「そりゃ、努力賞だろ。格下の癖によく頑張りましたって」

 ケビンの予想通り敵は残り全員で攻めてきていた。余裕の現れかゆっくりと歩みを進めて近づいてきている。

「ほれ見ろよ。奴等揃いも揃って動きもしねぇ。敵が目の前にいるってのにな」

「こんだけの人数相手にビビってるんだろ? むしろ逃げ出さないだけマシじゃないか?」

 会話しながらもどんどんと距離を詰めていき、ちょうど半分に差しかかろうかとした時だった。目の前のFクラスから魔法が飛んできた。

「ちっ! 最後の悪足掻きかよ」

 次から次に飛びかかる魔法を軽く避けては、Eクラスの生徒たちが距離を詰めていく。

「ったりーな。さっさと接近して終わらせるぞ」

 その言葉と同時に駆け出そうとした生徒へ何処からか魔法が直撃して倒れ込む。

「なっ! 伏兵か!?」

「何処からだ!」

「後ろだ!」

 Eクラスの生徒たちが振り向いた先には、確かに倒れていたはずの生徒たちが起き上がって魔法を放っていたのだった。

「くそっ!」

 前から後ろからと魔法を撃たれて慌てる敵の生徒たち。いきなりのことで上手く対処できずに倒れ込む生徒が増えてきた。

「焦るな! 冷静に対処すれば避けれるはずだ」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方Fクラスの自陣では、相も変わらずのんびりとしているケビンがカトレアへ話しかけていた。

「そろそろだな。カトレア、残った敵を始末できるか?」

「んーできなくはないかな? 疲れるけど」

「どうせ最後なんだ、疲れるくらいどうってことはないだろう?」

「えぇ……動いてない人には言われたくないなぁ」

「頭は動かしてるぞ。作戦立案してただろ? 頭を使うのも結構疲れるんだぞ」

「むぅ……」

 そう言って頬を膨らませてケビンを見下ろすその仕草は、中々可愛いものがあるのだった。

「ということで、残りの奴の始末は任せた。さすがに魔法だけだと倒せないしな。他のやつも牽制の魔法はもう撃たなくていいぞ。接近戦の方が得意だろ? だいぶ数は減らせたし、あとは袋叩きにしてきてくれ。魔法は奇襲組に任せればいいから」

 そして旗の周りにいた4人の生徒たちは一気に駆け出した。最後のひと仕事と言わんばかりの勢いで。

 その勢いに押されてEクラスの生徒たちは1人、また1人とやられていった。目の前の敵に意識を向けると、死角から魔法が飛んできて為す術なく倒れていくのだった。

 最後の1人が倒れると、誰とはなしに勝鬨を上げた。

「勝ったぞー!」

 こうしてFクラスがEクラスを打ち負かすという前代未聞の出来事が起こってしまい、その日のうちに学院中へ広まるのだった。

 終始動かなかった、最初から諦めているやる気のない生徒がいたという話とともに……
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