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第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~

第55話 闘技大会 ~総員戦~ ⑤

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 森の中からまた生徒が現れると、予想通りEクラスの生徒たちだった。

「あれ、あいつらまだ来てないな。さては甚振って遊んでるな。可哀想なことをするもんだ。格下相手に何を時間掛けてんだか」

「まぁ、あっちはあっちでいいじゃない。向こうが楽しんでる間にこっちはこっちで楽しみましょ。旗を壊せばいいとこ取りじゃない」

「それもそうだな。遅れてるあいつらが悪いんだし、旗壊していいとこ取りしてしまおう。それじゃあみんなでサクッと倒して旗を壊すぞ! 突撃だ!」

 男子生徒の号令とともにEクラスの生徒たちは駆け出す。魔法の援護射撃が先程より少ないので近接メインのグループなのだろう。

「ねぇ、今回はどうするの? 敵がいきなり走ってきてるよ?」

「そうだな……今回は無駄な撃ち合いはないみたいだから一方的に撃ってやれ。向こうは魔法使いが少ないようだから数打ちゃ当たるぞ。接近される前に数を減らせるまたとない機会だ。近接戦が得意そうだから痛い思いしたくなければ魔法でどんどん数を減らせ。数を減らせばさっきみたいに2対1や、もしかしたら3対1に持っていけるかもしれない。楽したきゃ敵を今の内に倒しておくんだ。さっさと終わらせればまたのんびりできるぞ。やっちまえ!」

「「「「「おおぉぉぉぉー!」」」」」

 守備隊の生徒たちは先程より明確に士気が上がっており、みんなやる気が充分で各自思い思いに魔法を撃ち始めるのだった。

「やっぱり指揮官に向いてるよね。さっきより士気が上がってるじゃん」

「それは簡単だ。さっきEクラスのグループを倒したから全員自信が持てたんだよ。前線で戦うのが嫌で守備隊に引きこもってた自分たちでもやればできるってな。なんせうちの混成隊か攻撃隊を突破してきた奴等を守備隊が倒したんだからな。自信は嫌でも付くってもんだ」

「策士ここに極まれりって感じだね」

「お前もボチボチ手助けに行けよ。幾ら士気があったところで疲労は溜まってるからな。撃ち漏らしがチラホラ目立ち始めた」

「えぇ……ここでのんびり見学していたいんだけど」

「今回の戦いはお前が鍵なんだ。手助けしないと負けるぞ」

「うーん……交換条件を飲むならいいよ」

「一応聞いといてやる。何だ?」

「私のことは、今後“カトレア”って呼ぶこと。いつも“お前”って呼び方だし。全然嬉しくないし」

「わかった。以後は名前で呼ぶように心掛ける。それでいいか?」

「それでいいよ。試しに名前で呼んで指示出して」

「カトレア、味方の攻撃で空いた穴のカバーを頼む。張り切って行ってこい!」

「うん! わかったよ。行ってくる!」

 そう言ってカトレアはケビンへ満面の笑みを向けて、颯爽と戦場へ駆けて行く。

「呼び方ひとつでこうも変わるもんかね……」

 そして残されたケビンは戦況を見守りながら、独り言ちるのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


~ Eクラスside ~

「おい、本当にこいつらFクラスかよ! さっきのグループは囮だったのか!? こっちの奴らが本命か?」

「知らないわよ。だけどさっきの奴らよりかは強いってのは確かね」

「もう半分もやられてるぞ。しかもウザイことに魔法の精度が高い。確実に狙って撃ってやがる」

「そうね。せっかく接近戦に持ち込んだのに味方がいようが容赦なく撃ってくるんだもの。しかも味方への誤射はないし嫌になってくるわ」

「ちっ! 愚痴っても仕方ねぇ。少しでも数減らして旗壊すぞ」

「それが賢明ね。いちいち相手してられないわ。旗をメインにしましょう」

「残念ですが、そうはいきませんよ?」

「誰っ!?」

 背後からいきなり声を掛けられて驚く女子生徒。そこにいたのは先程ケビンの傍らから颯爽と飛び出したカトレアであった。

「では、出会い頭に1人」

 そう言って周りにいたEクラスの生徒を斬り伏せ倒した。

「なっ!?」

「驚いてくれている間にもう1人」

 さらにもう1人斬り伏せられる。

「み、みんな散開して! 固まっててはダメよ!」

「なんだよコイツは!?」

「酷いですね、女の子に向かって“コイツ”はないでしょう。みなさん、敵が馬鹿なことに散開してくれましたよ。さぁ、袋叩きの時間です。見下された鬱憤を晴らしましょう!」

 その掛け声と同時に守備隊は各自集中攻撃するのだった。

「おっと、この女子生徒には手出し無用ですよ。女の子に手を出しては後味悪いですからね。私が相手をしますから残りの2人は好きに袋叩きをして下さい。さっさと終わらせてまたのんびりしましょう。いい天気ですしね」

 いつになく饒舌なカトレアからの指示が他の生徒たちに届き、それに応えてEクラスの生徒たちを追い詰めていく。

「あなた誰なの? Fクラスのリーダー?」

「いえいえ、友達から言わせてみれば私はただの拗らせですよ?」

「意味がわからないわ。先程の手際といい、あなたがリーダーなのでしょう?」

「違いますよ。リーダーなら森の中に入っていきましたから。会ってませんか? 近接戦が得意だったのですが」

「漢気のある人なら会ったわ。うちのクラスメイトが倒したけれども」

「多分、その人で合ってますよ。頭を使うのが苦手で体を使う方が得意な人でしたから。クラス投票でいっぱい票を獲得してましたから、暗黙の了解でリーダーみたいになっちゃった人です」

「そんなに強いのにリーダーじゃないなんておかしいわ。ここだってあなたがいるから比較的強い人たちで固めているのでしょ?」

「ここにいる人たちはダラダラ過ごしたい人を筆頭に、前線で戦いたくない臆病者が集まった守備隊なんですよ」

「何よそのふざけた集まりは。馬鹿にしているの?」

「馬鹿になんてしませんよ。ただそれが事実なんですから。気づいてないのですか? 旗の所に1人だけ残ってるでしょ?」

 女子生徒はその言葉を聞いてカトレアの言う旗へ視線を向けると、そこには旗にもたれてボーッとしている生徒がいた。

「彼がダラダラ過ごしたい人なんですよ。酷いですよね、みんなが戦ってるのに1人だけあそこでのんびりしているんですよ? この試合が始まってあそこにもたれて座ってからは1度も立ってないんですよ。しかも敵がいないと暇だからと言って寝るし」

「ありえない……」

「ありえないですよねぇ、私にも戦ってこいって言うんですよ。か弱い女の子なのに」

「あなたのその強さもありえないわ。ふざけてる」

「酷いですねぇ、これでも真面目で通っているんですよ? ボチボチ倒していいですかね? 私もサッサとのんびりしたいんですよ。味方はもう旗に戻り始めているし」

 女子生徒が周りを見渡すと、いつの間にかクラスメイトは倒されていた。残っているのは自分1人。

 自陣の旗にはまだ戦力が残ってはいるが、この集団相手に勝てるかどうかはわからない。

 旗を守るために本命を残す作戦はよく使われたりするが、それにしても本命とそうじゃない部隊の戦力差がありすぎた。

 わざとそうしたのか? こちらが侮って隙を晒すために。

 わからない……

 わかっているのは自分たちは負けるということだけ。色々な考えが頭を過ぎるが考えが纏まらない。

 ふと目の前の少女に目を向けると、私の記憶はそこで途切れたのだった。
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