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第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~
第40話 試験の報告②
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静かな学院長室で2人の会話は原因究明のため先へと進んでいく。
「彼が言ったのは受験者番号です」
その言葉に学院長室は静まりかえる。
「ありえないわ。まさか6歳の子供にやられたとでも言うのですか?」
「多分、そのまさかです。3と0までは聞き取れたのですが、最後に何か言おうとして担当官は意識を失いました」
「今日の受験者のリストは持っていて?」
「ここに」
「では、301番から309番までの受験者リストを頂戴」
私がリストを渡すと学院長がそれに目を通す。しかし、いくら待てども2枚目を捲ろうとはしなかった。それどころかリストを持つ手が僅かに震えている。気になった私は声を掛けてみた。
「学院長、2枚目を見られないのですか?」
その言葉に学院長は視線をこちらに戻す。
「その担当官は最後にいちと言ってませんでしたか?」
ふと思い返してみる。確かに最後は《い》と聞こえたような気もしないでもない。
「そう言われてみれば言っていたような気もしないでもないですが、それがどうかしたのですか?」
「もしそうなら担当官は殺されるかもしれないわ。いえ、間違いなく殺されるでしょう」
「なっ!」
そんなことがあるのか? 相手は仮にもAランク冒険者なのに。
「貴女は【瞬光のサラ】って冒険者を知っているかしら? もう引退しているのだけれど」
その人なら知っている。知らない人の方が少ないんじゃないか? 伝説的な冒険者だった人だし、女性冒険者の憧れの人だ。
「もちろん知っています。その人がどうかしたのですか?」
「彼女の溺愛する息子の受験番号が《301》なのよ」
その言葉にハッと息を呑む。そう言えば、気になっていたあの子供の受験番号は301だった。とても6歳児とは思えない、あの……
「仮に担当官をやったのが彼女の関係者だとするならば、慎重にことを進めないといけないわ」
「そこまでの人なのですか?」
「もし自分の溺愛する息子が家に帰りついて、今日の試験内容を話したとするでしょ? いや、むしろ話さない子供はいないわ。必ずと言っていいほど試験の中身を話すはずよ」
確かに……「今日はどうだったか?」と親の方からも話しかけるはずだ。
「そこで、担当官が貴女の報告通りの人だったとしたら、彼女は間違いなく担当官を殺すでしょう。もしかしたら刺客を送り込んで今回の重症を負わせたのかも知れません」
「でも、それなら襲撃者なのか? という私の問いかけに反応するはずです。彼は襲撃者に襲われたことこそは否定しませんでしたが、受験者番号を述べた時点で否定しているも同義です」
「その場合は1番厄介なことになります。彼女の溺愛する息子に手を出してしまったのだから」
それならあの凄惨な現場は僅か6歳の子がやったとでもいうの?
「今日の試験で彼の行動におかしな点はありませんでしたか?」
「午前の筆記試験の方はまだ結果を聞いていないので何とも」
すると、学院長は魔導通信機を再度使った。
「今日の筆記試験で受験番号301の試験結果を報告して頂戴」
すると、魔導通信機から返答がくる。
『信じられないかもしれませんが、全科目満点です……私どもも信じられなくて何度も採点をし直しましたので間違いありませんが前代未聞です。我が校始まって以来ですよ、こんなことは……』
「わかったわ。ありがとう」
そう言って通信を切った。
「そ、そんな!? だって彼は1時間も経過しない内に寝てしまっていたんですよ? ありえません!」
「彼が不正を働いた形跡は?」
「それはありません。私が担当していましたから。席も1番前で目立ちますし。ただ……始まってすぐは解答用紙を見て驚いたような雰囲気でしたが」
「驚いたことに関しては憶測に過ぎませんが、彼にしてみれば簡単すぎて驚いたのかも知れません」
「そのようなことがあるのでしょうか?」
「例えば、今の貴女が同じ様に名門である我が校を受けに意気込んで来た試験で、今日の試験と同じ問題を見たらどうしますか?」
今の私が6歳児の試験問題を解くとして、それは見たら驚くわ。こんな簡単な問題でいいのかと。
まさか!? 彼はもっと上の学習をしていたというの? まだ6歳だというのに。
「午後の試験はどうでしたか?」
「それで、1つ報告をし忘れていたことがありました。彼にも関することです」
「何かしら?」
「魔法試験の時に彼の出番は最後の組だったんですけど、おかしなことを聞いてきたんです。『あの的を魔法で壊せばいいのですか?』と。私が答えたのは的は壊れない様にできているから全力で撃っても構わないと言ったんですけど、彼の魔法は不発に終わったのです」
その言葉に学院長は訝しむ。
「不発ですか?」
「はい、正しくはおかしな暴発ですが」
「“おかしな”とは?」
「彼に壊れないことを説明した後に魔法を撃つ兆候が見られなかったので、剣士タイプの魔法が苦手な子なのかと思い、魔法は使えなくても大丈夫だと励ましていたらその子は考え事をしていたと答えて、今から撃つと言ったので見ていたら的の周辺が爆発したのです」
「爆発ですか?」
「はい、的は跡形もなく消えました。魔法の詠唱もなかったので不思議に思い聞いてみたら、先程の考えごとが頭を過ぎって暴発したと答えたので私もそうなのだろうと思いました。たまたま的に当たったのはラッキーでしょうが」
「貴女は魔法系の授業を受け持っていましたよね?」
「はい、初等部のですが」
「詠唱についてはどの程度の知識がありますか?」
「詠唱は魔法を撃つために必要なプロセスで、威力が高ければ高いほど詠唱も長くなると認識しています」
「それで正解ですが、魔術師の研究項目の中にはその詠唱を短くできないか? という話もあるのです」
「詠唱を短くですか!? そんなことが可能なのですか!?」
「一部の魔術師たちは実際に成功させています。まだ初級魔法の段階ですが」
「それを発表したら魔法のあり方が変わりますよ! 革命ですよ!」
詠唱省略の話を聞いて私は柄にもなく興奮した。かくいう私も魔術師の端くれ。魔法文明の革命には大いに賛成だ。
「落ち着いて下さい。話はそこで終わりではありません」
「すみませんでした」
「その【詠唱省略】のさらに先、【無詠唱】というのがあるのではないかと、実しやかに囁かれているのです」
そんな……【詠唱省略】だけでも凄いのに、さらにその上の【無詠唱】まであるかもしれないなんて。
「先程の貴女の報告で彼が今から撃つと言ったあとにいきなり的が爆発したと聞いて、先程の【詠唱省略】や【無詠唱】の話を思い出したのです」
「もしかして……彼がその使い手だとでも言うのですか?」
「その可能性は考慮に入れるべきだと思います。魔法の暴発は本来、術者自身の周りに起こるものです。的が爆発したのならそれは魔法と捉えるべきかも知れません。あくまでも憶測の域を出ませんが」
そんな……彼が魔術師の目指す頂点だとでも言うのでしょうか? 【詠唱省略】をやっと実現できた魔術師界隈のまことしやかに噂されている【無詠唱】……それを彼が実現していると?
「武術試験の方はどうだったのでしょうか? 担当官は重症ですし、報告は聞けないでしょうね。一緒に受けていた受験者たちは何か言ってなかったのですか?」
「受験者たちはみんな服が汚れていて健闘した跡が見受けられました。青ざめている子も中にはいましたが、大人との模擬戦だったので怖かったのでしょう」
「冒険者は荒くれ者もいると聞きますしね。怖く見えても仕方のないことです」
そこで私は1つのことを思い出した。
「そういえば彼だけは服装に汚れどころか、乱れすらありませんでした。てっきりその時は実力不足ですぐに終わったのだろうと思ったのですが……本人も健闘はできなかったと言ってましたし」
「その話を聞くといよいよ持って、彼の所業だと濃厚になりますね」
「それは有り得ないのではないでしょうか? 彼はまだ6歳ですよ」
「固定観念で物事を捉えるのは悪いやり方です。こういう場合は発想を転換させるのです。服装の乱れがないということはそれ程に実力差が圧倒的だったと考えるべきでしょう。普通なら当然ありえないことですが、もしそうだとすると赤子の手をひねるかの如く戦えるので、健闘するということは全くもってできません」
確かにそうだ。固定観念に囚われていてはいつまで経っても【詠唱省略】という未知に辿りつけなかっただろう。
「今日の受験者の中で今からここに連れてこれる人はいますか? 当事者からも話を聞いた方がいいでしょう」
「わかりました。すぐに手配します」
そう言って私は学院長室を後にした。今から連れてくるのならば近場に住んでいる子がいいだろう。
そう思い、歩きながらリストに目を通すと該当する子を見つけたのだった。
「彼が言ったのは受験者番号です」
その言葉に学院長室は静まりかえる。
「ありえないわ。まさか6歳の子供にやられたとでも言うのですか?」
「多分、そのまさかです。3と0までは聞き取れたのですが、最後に何か言おうとして担当官は意識を失いました」
「今日の受験者のリストは持っていて?」
「ここに」
「では、301番から309番までの受験者リストを頂戴」
私がリストを渡すと学院長がそれに目を通す。しかし、いくら待てども2枚目を捲ろうとはしなかった。それどころかリストを持つ手が僅かに震えている。気になった私は声を掛けてみた。
「学院長、2枚目を見られないのですか?」
その言葉に学院長は視線をこちらに戻す。
「その担当官は最後にいちと言ってませんでしたか?」
ふと思い返してみる。確かに最後は《い》と聞こえたような気もしないでもない。
「そう言われてみれば言っていたような気もしないでもないですが、それがどうかしたのですか?」
「もしそうなら担当官は殺されるかもしれないわ。いえ、間違いなく殺されるでしょう」
「なっ!」
そんなことがあるのか? 相手は仮にもAランク冒険者なのに。
「貴女は【瞬光のサラ】って冒険者を知っているかしら? もう引退しているのだけれど」
その人なら知っている。知らない人の方が少ないんじゃないか? 伝説的な冒険者だった人だし、女性冒険者の憧れの人だ。
「もちろん知っています。その人がどうかしたのですか?」
「彼女の溺愛する息子の受験番号が《301》なのよ」
その言葉にハッと息を呑む。そう言えば、気になっていたあの子供の受験番号は301だった。とても6歳児とは思えない、あの……
「仮に担当官をやったのが彼女の関係者だとするならば、慎重にことを進めないといけないわ」
「そこまでの人なのですか?」
「もし自分の溺愛する息子が家に帰りついて、今日の試験内容を話したとするでしょ? いや、むしろ話さない子供はいないわ。必ずと言っていいほど試験の中身を話すはずよ」
確かに……「今日はどうだったか?」と親の方からも話しかけるはずだ。
「そこで、担当官が貴女の報告通りの人だったとしたら、彼女は間違いなく担当官を殺すでしょう。もしかしたら刺客を送り込んで今回の重症を負わせたのかも知れません」
「でも、それなら襲撃者なのか? という私の問いかけに反応するはずです。彼は襲撃者に襲われたことこそは否定しませんでしたが、受験者番号を述べた時点で否定しているも同義です」
「その場合は1番厄介なことになります。彼女の溺愛する息子に手を出してしまったのだから」
それならあの凄惨な現場は僅か6歳の子がやったとでもいうの?
「今日の試験で彼の行動におかしな点はありませんでしたか?」
「午前の筆記試験の方はまだ結果を聞いていないので何とも」
すると、学院長は魔導通信機を再度使った。
「今日の筆記試験で受験番号301の試験結果を報告して頂戴」
すると、魔導通信機から返答がくる。
『信じられないかもしれませんが、全科目満点です……私どもも信じられなくて何度も採点をし直しましたので間違いありませんが前代未聞です。我が校始まって以来ですよ、こんなことは……』
「わかったわ。ありがとう」
そう言って通信を切った。
「そ、そんな!? だって彼は1時間も経過しない内に寝てしまっていたんですよ? ありえません!」
「彼が不正を働いた形跡は?」
「それはありません。私が担当していましたから。席も1番前で目立ちますし。ただ……始まってすぐは解答用紙を見て驚いたような雰囲気でしたが」
「驚いたことに関しては憶測に過ぎませんが、彼にしてみれば簡単すぎて驚いたのかも知れません」
「そのようなことがあるのでしょうか?」
「例えば、今の貴女が同じ様に名門である我が校を受けに意気込んで来た試験で、今日の試験と同じ問題を見たらどうしますか?」
今の私が6歳児の試験問題を解くとして、それは見たら驚くわ。こんな簡単な問題でいいのかと。
まさか!? 彼はもっと上の学習をしていたというの? まだ6歳だというのに。
「午後の試験はどうでしたか?」
「それで、1つ報告をし忘れていたことがありました。彼にも関することです」
「何かしら?」
「魔法試験の時に彼の出番は最後の組だったんですけど、おかしなことを聞いてきたんです。『あの的を魔法で壊せばいいのですか?』と。私が答えたのは的は壊れない様にできているから全力で撃っても構わないと言ったんですけど、彼の魔法は不発に終わったのです」
その言葉に学院長は訝しむ。
「不発ですか?」
「はい、正しくはおかしな暴発ですが」
「“おかしな”とは?」
「彼に壊れないことを説明した後に魔法を撃つ兆候が見られなかったので、剣士タイプの魔法が苦手な子なのかと思い、魔法は使えなくても大丈夫だと励ましていたらその子は考え事をしていたと答えて、今から撃つと言ったので見ていたら的の周辺が爆発したのです」
「爆発ですか?」
「はい、的は跡形もなく消えました。魔法の詠唱もなかったので不思議に思い聞いてみたら、先程の考えごとが頭を過ぎって暴発したと答えたので私もそうなのだろうと思いました。たまたま的に当たったのはラッキーでしょうが」
「貴女は魔法系の授業を受け持っていましたよね?」
「はい、初等部のですが」
「詠唱についてはどの程度の知識がありますか?」
「詠唱は魔法を撃つために必要なプロセスで、威力が高ければ高いほど詠唱も長くなると認識しています」
「それで正解ですが、魔術師の研究項目の中にはその詠唱を短くできないか? という話もあるのです」
「詠唱を短くですか!? そんなことが可能なのですか!?」
「一部の魔術師たちは実際に成功させています。まだ初級魔法の段階ですが」
「それを発表したら魔法のあり方が変わりますよ! 革命ですよ!」
詠唱省略の話を聞いて私は柄にもなく興奮した。かくいう私も魔術師の端くれ。魔法文明の革命には大いに賛成だ。
「落ち着いて下さい。話はそこで終わりではありません」
「すみませんでした」
「その【詠唱省略】のさらに先、【無詠唱】というのがあるのではないかと、実しやかに囁かれているのです」
そんな……【詠唱省略】だけでも凄いのに、さらにその上の【無詠唱】まであるかもしれないなんて。
「先程の貴女の報告で彼が今から撃つと言ったあとにいきなり的が爆発したと聞いて、先程の【詠唱省略】や【無詠唱】の話を思い出したのです」
「もしかして……彼がその使い手だとでも言うのですか?」
「その可能性は考慮に入れるべきだと思います。魔法の暴発は本来、術者自身の周りに起こるものです。的が爆発したのならそれは魔法と捉えるべきかも知れません。あくまでも憶測の域を出ませんが」
そんな……彼が魔術師の目指す頂点だとでも言うのでしょうか? 【詠唱省略】をやっと実現できた魔術師界隈のまことしやかに噂されている【無詠唱】……それを彼が実現していると?
「武術試験の方はどうだったのでしょうか? 担当官は重症ですし、報告は聞けないでしょうね。一緒に受けていた受験者たちは何か言ってなかったのですか?」
「受験者たちはみんな服が汚れていて健闘した跡が見受けられました。青ざめている子も中にはいましたが、大人との模擬戦だったので怖かったのでしょう」
「冒険者は荒くれ者もいると聞きますしね。怖く見えても仕方のないことです」
そこで私は1つのことを思い出した。
「そういえば彼だけは服装に汚れどころか、乱れすらありませんでした。てっきりその時は実力不足ですぐに終わったのだろうと思ったのですが……本人も健闘はできなかったと言ってましたし」
「その話を聞くといよいよ持って、彼の所業だと濃厚になりますね」
「それは有り得ないのではないでしょうか? 彼はまだ6歳ですよ」
「固定観念で物事を捉えるのは悪いやり方です。こういう場合は発想を転換させるのです。服装の乱れがないということはそれ程に実力差が圧倒的だったと考えるべきでしょう。普通なら当然ありえないことですが、もしそうだとすると赤子の手をひねるかの如く戦えるので、健闘するということは全くもってできません」
確かにそうだ。固定観念に囚われていてはいつまで経っても【詠唱省略】という未知に辿りつけなかっただろう。
「今日の受験者の中で今からここに連れてこれる人はいますか? 当事者からも話を聞いた方がいいでしょう」
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