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第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~

第38話 帰宅

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 元の闘技場へ戻ると、何食わぬ顔して試験官の所へ集合したのだが魔法組はまだ試験中のようだ。すると、意外にも早く戻って来た俺たちが不思議だったのか試験官から質問された。

「早かったですね。何かあったのですか?」

「特に何もありませんよ。担当官が1人1人相手にするのが面倒くさいと言って、纏めて試験を見てくれたのですよ」

「纏めて? 1人1人評価する決まりだったはずですが、やはり臨時雇いの冒険者ではダメだったのでしょうか。ちゃんと評価してくれていたらいいのですけど」

「そんな決まりがあったんですね。結構、自由に振る舞ってましたよ」

「剣戟になると動いてる者同士で不測の事態に陥りやすいのです。それに、纏めて見ていたら評価しづらいでしょう? 初めて会った人のことをこと細かに覚えていられないですし。だから1人1人相手にする様になっているのです。それにしても、自由にし過ぎですね……学院長に後で報告をしなければ」

 そんな会話をしつつも今試験中の受験者たちに評価を下していくため、評価表みたいなものにペンを走らせていく。

 魔法組の試験も終わると、ケビンは試験官から話しかけられる。

「それにしても君は服が汚れていないようですが、健闘できなかったのですか?」

「そんなものですね。やはりまだ未熟だったのでしょう」

 格下相手の勝負で一方的だったから健闘はしていない。嘘は言ってないはずだ。

「そうですか。また来年頑張ってください。ところで、担当官は?」

「向こうの闘技場で休んでいますよ」

 これも嘘は言ってないはずだ。動けなくて休んでいるはずだしな。

「自由にされるのもここまでくると……やはり学院長に報告して、担当官を変えて頂きましょう」

 なんだ、人事は変えられるのか。今後の試験者のことも考えてそれがいいだろう。どっちみちあいつはもう使い物にならないが。

「その方がいいでしょうね。私としても困惑することばかりでしたから」

「やはり冒険者を雇う場合は事前に面接をすべきですね。人となりを知ると知らないとでは、全然違いますし」

 面接してねぇのかよ。どんだけ適当なんだよ。

「それは、是非ともそうして下さい。最低でもあのような担当官が雇われることのないように」

「そうですね。しかしあなたと話していると、とても6歳児と話をしているとは思えませんね。同僚と話しているようです」

「恥ずかしながらよく言われます。年相応ではないと」

「ふふっ、面白い子供ですね。では皆さん、今日の試験はこれで終了となります。結果は後日追って知らせますので、楽しみに待っていてください」

 その言葉を皮切りに、次々と受験者たちは帰路へとつくのであった。俺ものんびりと帰ることにしよう。

 その後、学院長に報告を済ませた試験官が担当官を呼びに闘技場へ向かうと、そこで発見された担当官の有り様に学内は一時大騒ぎとなるのだった。

 そのようなことが起こっているとは露知らず、夕陽を背にケビンは家に帰りつくのだった。

「ただ今戻りました」

「お帰りなさいませ、ケビン様。サラ様がリビングにてお待ちです」

 帰宅したケビンを出迎えたのはマイケルだった。

「わかりました。リビングへ向かいます」

 そのままリビングへ向かうと、そこにいたのは優雅にお茶を飲んでいる母さんだけだった。

「おかえりなさい、ケビン」

「ただいま、母さん。今戻ったよ」

「こっちへいらっしゃい。今日のことを聞きたいわ」

 多分、隣に座っても抱きかかえられるのだろうと思い、最初から母さんの膝の上に乗った。

「今日はどんなことがあったの? 試験はちゃんとできた?」

「筆記試験は問題ないと思うんだけど、実技試験はダメかな? 落ちてると思うよ。来年また頑張るように言われたし」

「あらそうなの? ケビンなら実技試験は問題ないと思っていたのだけれど」

「それが、最初に魔法試験を受けたんだけど、絶対壊れない的を壊しちゃったんだ。壊れないって聞いたから手加減しなかったんだけど。試験官も全力を出しても大丈夫って言ってたし。それでも全力は出さなかったんだけどね」

「それは学院の設備が悪いわね。絶対壊れないんでしょ? 壊れた時点で不良品だわ」

 やはり母さんはそう答えるよな。あくまで6歳児が放つ魔法に対しては壊れないって感じだったんだろうけど。

「まぁ、それでみんなが呆然としちゃって、魔法が暴発したって言って誤魔化したんだ。もしかしたら弁償しなきゃいけないと思って、母さんに謝らなきゃとも思ったし」

「そのくらいいいわよ。ケビンの魔法に耐えられないなんて、たかが知れてるわ。きっと安い的でも揃えていたのよ」

 安くはないと思うんだよなぁ。毎年使ってるって言ってたような気がするし。

「で、魔法の暴発ってことで処理してもらったんだ。弁償もしなくていいって言われたよ」

「魔法の暴発だと上手く評価はしてもらえないわね。たまたま暴発先に的があって当たったって思われるだろうし。そのこと自体不思議に思うでしょうけど」

「魔法が暴発したらどうなるの? なったことがないから誤魔化せるか不安だったんだけど」

「大抵は術者自身の周りに魔力風が起きて大爆発ね。その人の魔力量にもよるでしょうけど。6歳児位だったらポンって弾けて終わりよ」

 やはり術者自身に起こるのか。よく納得してくれたな、あの試験官。壊れない的が壊れて慌ててたせいもあるんだろうけど。

「その後は武術試験だったよ。その担当官が胸くそ悪いやつだったんだ。母さんと同じAランク冒険者だったんだけど、天と地ほどの差があったよ」

「同じランクでも、実力はピンキリだからだと思うわ。お母さんはSランク手前だけど、その人はAランク入口だったんじゃないの?」

「それがその冒険者はランクアップするのに不正を働いてて、実力が伴ってなかったんだよ。人の達成依頼を奪ったりしてたんだって。代わりに依頼を受けさせたりとか」

「相変わらずそういうことをする輩がいるのね。私が現役の時もいたけど、大抵は三下臭がしてたから、直ぐに分かったわ」

「それは俺も感じたよ。明らかに人を見下した喋り方をしてたから。あと、スラム上がりらしくて品位もなかったよ」

「そうなのね。でも、スラムの全ての人がそういう人たちばかりじゃないってことを忘れてはダメよ。中には真面目に働いてる人もいるのだから」

「わかってるよ。それでスラムの人を見下したら最低な人になっちゃうし」

「偉いわね、ケビンは。お母さん誇りに思うわ」

「それでその担当官が、どうやらストレス発散で受験者たちをボロボロにしてたんだけどね、俺だけがまだ試験に挑んでないのに気づいて矛先がこっちに向いたんだよ」

「ケビンだったら楽勝だったでしょう? 私の自慢の息子だから」

「やってみるまでわからなかったけど、戦ってみたら意外と対処できたよ。母さんに比べたらスピードも遅かったし。ただ、パワーだけはあったよ。グレートソードを片手で担いで振り回していたし」

「ありがちな筋肉バカね。グレートソードは両手で持って初めて真価を発揮するのに。片手持ちは奥の手に使うべきだわ」

 母さんの酷評が飛ぶ。まぁ、母さんみたいなスピードタイプに比べたらパワータイプは格好の的なんだろうけど。

「あっ、それで母さんに謝らなきゃいけないことがあったんだった」

「何かしら? 今までの話でケビンが悪いことなんて1つもなかったはずよ?」

「その担当官が母さんと同じAランクってのも許せなかったんだけど、余りにも人を見下した態度が許せなくて甚振ったんだよね。で、最後に利き手だった右腕を切り飛ばしてそのまま放っておこうかと思ったんだけど、死んだら母さんに迷惑がかかると思って処置だけはして放置したんだ。もしかしたら担当官に傷を負わせたって学院から文句を言われるかもしれないし。ごめんなさい」

「それなら、大丈夫よ。そもそもそんな冒険者を雇った学院側の責任であって、ケビンの責任じゃないわ。それに試験の大事な時に私の心配をしてくれるなんてお母さんは嬉しいわ。そんなことになっているんだったら今頃は学院はパニックでしょうね。不祥事が生徒側に発覚したんだから」

 そのような話を2人がしていると、なにやら来訪者が来たようであった。
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