34 / 55
第三章 消えた死体と笑う森
第十一話 疑惑
しおりを挟む
――イリーネ領からギルドハウスに戻ってきて、数日が経ったある日、事前連絡もなく突然やってきたユルゲンスさんは、珍しく少し沈んだ様子だった。
「ヘデラさんには言わないでくださいね……」
そう前置きをして話し出す。
「例の死体達、パーツがツギハギで、別人同士をくっつけたものらしい……って、言ったでしょ?」
「はい」
ユルゲンスさんの話を思い出しながら頷く。ルードは足を組みながら、厳しい目つきでユルゲンスさんを見据えていた。
「そのくっつけ方が謎だったんですけどね……。謎のままにしときたかったんですけど……ルードさんが思いついちゃったから……検証するしかなくて……」
「思いついた、って?」
ユルゲンスさんは恨みがましくルードを睨めつけながら、私の疑問に答えてくれる。
「……例えば切り傷が治るときって、開いちゃった皮膚が時間をかけてくっつくわけじゃないですか。こう、ピタッと」
二本の指を、離して、くっつける。そんなジェスチャーつきだった。うん、わかりやすい。頷くと、ルードが話を引き取る。
「例えば、バルドルの肩に傷をつけて、そこに切り落としたユルゲンスの腕をくっつけ……その状態で超回復をさせる。そうすると……二人分の皮膚や組織が癒着して、元から一人のものだったかのように見えるのではないか、ということだよ」
息を呑む。……そんなことが、可能なんだろうか。
「例えが嫌だなぁ……。まぁそういうことです。普通は他人の皮膚とか血とかには拒否反応が起こることが多いんですけど、それをも凌ぐ超パワーで回復させたら、なんとかくっつくんじゃないかと。……更に、どうにかうまくいけばそれが一つの体として機能するようになるんじゃないか、と」
「……そして俺達は、それが可能になるくらい、強力な回復薬の存在を知っている」
「……まさか」
どんな怪我でも治療する、妖精の癒しの力。それを――凝縮した、奇跡、そして呪いの……小瓶。
「ヘデラさんの小屋の地下で回収してくださった小瓶の中身を使って、ハツカネズミで実験しました。……見事、頭が三つある化けネズミが爆誕しました」
「その実験、非人道的すぎません!?」
「ちゃんと生きてますよう。三つの口から元気にチーズ食ってます。名前はケルベロスになりました。ボスが喜んで飼ってます」
……想像すると、ちょっとかわいいな?
だがしかし、ネズミならまだしも……それを人間でやった結果が、あの奇妙な死体達だと言うのだろうか。
……なんのために?
「実験の目的は不明だが……それに使用した死体を廃棄するために森の魔物を利用していたんだろう」
ルードは難しい顔で、続ける。
「妖精の小瓶を持ち去ったレイディ。……その中身が使われた死体の遺棄現場から消えたフィミラ。顔が同じ二人。つながりがないとは言えなくなってきたな」
「ああー。ヘデラさんには言えないぃー。あなたの妹に極悪人の可能性でてきたよ?とか、言えないぃー!」
ユルゲンスさんは両手で顔を覆い、脚をバタバタさせている。この人はいつも軽薄なんだけど、この感じは初めて見るなぁ。ルードはその様子には興味がないようで、一瞥をくれるとしっしっと追い払う仕草でユルゲンスさんを追い払う。
「知るか。報告はわかったから、さっさと仕事に戻れ」
……冷たい。
「大丈夫です。ルードさんにはアドバイスとか求めません。僕以上のヘタレだもん」
「なんだと!?」
……不毛な喧嘩になりそうなので、慌てて話題を別に逸らす。
「そういえば、ユルゲンスさん。今度、ヘデラとご飯食べに行くんですよね?」
「え!?ご存知なんですか!?」
「はい。ヘデラ、楽しみにしてましたよ」
コレは極秘だが、何着て行けば良いか、なんて相談を受けたくらいだ。……これは、いい感じなんじゃない?
「へぇ……そうなんですかぁ……ヘデラさんが、楽しみに……へえぇぇ……ふうぅぅぅん……」
ユルゲンスさんは打って変わってデレデレと頬を緩めると、勢いをつけて立ち上がり、びしりと敬礼する。
「……僕のやることは、一刻も早いレイディ確保とその目的解明!これ以上よからぬことを、実行される前に!俄然燃えてきました!行って参ります!!では!!」
――そう言って私達の返事も聞かず、脱兎の如く飛び出していった。
ユルゲンスさんの後ろ姿を見送って、部屋にはルードと私の二人だけになった。
……今しかない、と。昨日から、鏡の前で何度もシミュレーションしたセリフを思い出しながら深呼吸して、ルードの方を向く。
「……ルード、今、いいでしょうか!?」
「う、うん。いいよ。どうかした?」
「明日!一緒に、出かけません、か……?」
「……え?」
私の圧にたじろいでいたルードは、唐突な提案に目を丸くしている。
「……明日、広場で大きな市場がたつみたいなんです……一緒に、見に行けたらいいなぁ……って……」
イリーネ領の宿屋で言われた「君のことを知りたい」に、どうお答えしたらいいのか。数日悩んで考えた結果である。一緒に出かけて、お話したら、お互いに色々わかるんじゃないかな……って、いう。
ルードはしばらくぽかんとすると、じわじわと目元を赤くして立ち上がり、私の手をとる。
「……勿論、行こう!……誘ってくれて……嬉しい」
――それはそれはもう、完璧な笑顔だった。
「ヘデラさんには言わないでくださいね……」
そう前置きをして話し出す。
「例の死体達、パーツがツギハギで、別人同士をくっつけたものらしい……って、言ったでしょ?」
「はい」
ユルゲンスさんの話を思い出しながら頷く。ルードは足を組みながら、厳しい目つきでユルゲンスさんを見据えていた。
「そのくっつけ方が謎だったんですけどね……。謎のままにしときたかったんですけど……ルードさんが思いついちゃったから……検証するしかなくて……」
「思いついた、って?」
ユルゲンスさんは恨みがましくルードを睨めつけながら、私の疑問に答えてくれる。
「……例えば切り傷が治るときって、開いちゃった皮膚が時間をかけてくっつくわけじゃないですか。こう、ピタッと」
二本の指を、離して、くっつける。そんなジェスチャーつきだった。うん、わかりやすい。頷くと、ルードが話を引き取る。
「例えば、バルドルの肩に傷をつけて、そこに切り落としたユルゲンスの腕をくっつけ……その状態で超回復をさせる。そうすると……二人分の皮膚や組織が癒着して、元から一人のものだったかのように見えるのではないか、ということだよ」
息を呑む。……そんなことが、可能なんだろうか。
「例えが嫌だなぁ……。まぁそういうことです。普通は他人の皮膚とか血とかには拒否反応が起こることが多いんですけど、それをも凌ぐ超パワーで回復させたら、なんとかくっつくんじゃないかと。……更に、どうにかうまくいけばそれが一つの体として機能するようになるんじゃないか、と」
「……そして俺達は、それが可能になるくらい、強力な回復薬の存在を知っている」
「……まさか」
どんな怪我でも治療する、妖精の癒しの力。それを――凝縮した、奇跡、そして呪いの……小瓶。
「ヘデラさんの小屋の地下で回収してくださった小瓶の中身を使って、ハツカネズミで実験しました。……見事、頭が三つある化けネズミが爆誕しました」
「その実験、非人道的すぎません!?」
「ちゃんと生きてますよう。三つの口から元気にチーズ食ってます。名前はケルベロスになりました。ボスが喜んで飼ってます」
……想像すると、ちょっとかわいいな?
だがしかし、ネズミならまだしも……それを人間でやった結果が、あの奇妙な死体達だと言うのだろうか。
……なんのために?
「実験の目的は不明だが……それに使用した死体を廃棄するために森の魔物を利用していたんだろう」
ルードは難しい顔で、続ける。
「妖精の小瓶を持ち去ったレイディ。……その中身が使われた死体の遺棄現場から消えたフィミラ。顔が同じ二人。つながりがないとは言えなくなってきたな」
「ああー。ヘデラさんには言えないぃー。あなたの妹に極悪人の可能性でてきたよ?とか、言えないぃー!」
ユルゲンスさんは両手で顔を覆い、脚をバタバタさせている。この人はいつも軽薄なんだけど、この感じは初めて見るなぁ。ルードはその様子には興味がないようで、一瞥をくれるとしっしっと追い払う仕草でユルゲンスさんを追い払う。
「知るか。報告はわかったから、さっさと仕事に戻れ」
……冷たい。
「大丈夫です。ルードさんにはアドバイスとか求めません。僕以上のヘタレだもん」
「なんだと!?」
……不毛な喧嘩になりそうなので、慌てて話題を別に逸らす。
「そういえば、ユルゲンスさん。今度、ヘデラとご飯食べに行くんですよね?」
「え!?ご存知なんですか!?」
「はい。ヘデラ、楽しみにしてましたよ」
コレは極秘だが、何着て行けば良いか、なんて相談を受けたくらいだ。……これは、いい感じなんじゃない?
「へぇ……そうなんですかぁ……ヘデラさんが、楽しみに……へえぇぇ……ふうぅぅぅん……」
ユルゲンスさんは打って変わってデレデレと頬を緩めると、勢いをつけて立ち上がり、びしりと敬礼する。
「……僕のやることは、一刻も早いレイディ確保とその目的解明!これ以上よからぬことを、実行される前に!俄然燃えてきました!行って参ります!!では!!」
――そう言って私達の返事も聞かず、脱兎の如く飛び出していった。
ユルゲンスさんの後ろ姿を見送って、部屋にはルードと私の二人だけになった。
……今しかない、と。昨日から、鏡の前で何度もシミュレーションしたセリフを思い出しながら深呼吸して、ルードの方を向く。
「……ルード、今、いいでしょうか!?」
「う、うん。いいよ。どうかした?」
「明日!一緒に、出かけません、か……?」
「……え?」
私の圧にたじろいでいたルードは、唐突な提案に目を丸くしている。
「……明日、広場で大きな市場がたつみたいなんです……一緒に、見に行けたらいいなぁ……って……」
イリーネ領の宿屋で言われた「君のことを知りたい」に、どうお答えしたらいいのか。数日悩んで考えた結果である。一緒に出かけて、お話したら、お互いに色々わかるんじゃないかな……って、いう。
ルードはしばらくぽかんとすると、じわじわと目元を赤くして立ち上がり、私の手をとる。
「……勿論、行こう!……誘ってくれて……嬉しい」
――それはそれはもう、完璧な笑顔だった。
12
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

地味令嬢なのに、なぜかイケメン達から愛されすぎて困る
くも
恋愛
「エリス、お前は今日も目立たないな」
そう言って、隣で豪快に笑うのは幼馴染のヴィクトルだ。金色の髪を無造作にかきあげ、王族のような気品を持ちながらも、どこか庶民的な雰囲気を漂わせている。彼は公爵家の嫡男で、女性たちの憧れの的だ。
そんな彼が、なぜか私の隣に座っているのは……正直、謎である。
「ありがとう、ヴィクトル。今日も地味で頑張るわ」
「褒めてねえよ!」
彼の言葉を皮肉と捉えず、素直に受け取って返事をすると、ヴィクトルは頭を抱えた。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる