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第四十話「エリオットの実家へ」
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「あーあ、振られちゃったなぁ」
リティア街のカフェでため息を吐きながら天井を見上げる。
裸ランプがギラギラと眩しくて、すぐに上を向くのをやめた。
一人寂しく、イチゴのマリトッツォにかぶりつく。
店員はアイリスが出て行ったのを見ていて、アイリスの分のプレートは下げられた。
ただ一人、リティア街とかいう護衛でたまにしか行かない街で甘いものを食べている自分が虚しい。
前に会ったとき、アイリスは自分の体型を気にしているようだった。
俺は全く気にならなかった。
むしろ痩せすぎているより良い。
今はもう普通の背の低い女性くらいに痩せているが、どっちのアイリスだって俺は好きだった。
自分の恋人にお弁当を作ってくる純真さは、誰だってその恋人が羨ましいと思わないだろうか。
女遊びが激しいと俺は団員からいつも言われてきたが、アイリスと出会ってからは誰とも遊ばなかった。
そのくらいに惹かれていたのだ。
アイリスと出会ったとき、からかった際にぽかんと驚いていた顔が可愛らしかった。
それだけで、俺の心の全てを奪っていった。
ああ、アイリスがエリオットの番じゃなかったら、俺と付き合えていたりするのだろうか。
「いや……俺がアイリスと出会えたきっかけって、エリオットの番として紹介されたからなんだよな」
『運命の番』だなんて、おとぎ話や伝説の類だと思っていた。
周りにそういう人がいなかったからだ。
でも、エリオットの両親が『運命の番』という話を聞いて、少し現実味が増して。
エリオットからアイリスを紹介されたとき、ああ、本当にいるんだと確信した。
何故なら、エリオットがアイリスに向けていた表情は、心から恋をしているそれだったから。
「俺も、番がいたらな……」
残りのイチゴのマドレーヌを一口で食べて、俺はその場を後にした。
◇◇◇
次の私の休日は、エリオットも休みの日だった。
二人揃って休みになることはなかなかないから、せっかくだしと前々から約束していたエリオットの実家に行くことになった。
今は暑い夏に行くくらいで、それ以外はほとんど行かないらしい。
「久々に行くから、埃だらけだったらごめん」
「いいのよ。気にしないから」
朝早くから辻馬車に乗ってエリオットがかつて住んでいた村へと急ぐ。
馬車で三時間ほどらしく、そこまで遠い場所には行ったことがなくて少しそわそわしていた。
エリオットの実家に行くのも大事だ。
だけれど、私の頭の片隅にこないだフレッドと食事をした『後』の記憶が残っている。
馬車で帰宅している途中。
しんみりしているのも良くないと思って、閉めていたカーテンを開けたのだ。
その、開けた瞬間。
そのときには既にベスティエ街に到着していて、窓から見えた光景にハッと息を呑んでしまった。
鮮やかな金髪に、やや釣り目の蒼の瞳の男性が、こちらを見ていたのだ。
そう、殿下、だった。
数人の護衛と共にいたのだ。
人間は動くものに目がいく。
だから、私がカーテンをバッと開けた動きが気になってこちらを見てしまったのだろう。
私と目が合ってしまった。
ドキリと心臓が大きな音を上げて、呼吸が速くなる。
すぐにカーテンを閉め、なかったことにしようとしたのだけれど……バッチリ目が合ったのは事実だ。
いや、でも気のせいかもしれない。殿下に似た人だったのかも……。
そう思うことにして日々を過ごし、こうしてエリオットと共に馬車に乗って実家に行こうとしているのだけど、少し不安は残っていた。
「……ここで止めてください」
私がお金を払うと言ったらエリオットは「俺が来てと言ったから」と言って馬車代を払ってしまった。
礼を言ってから馬車を降りると……一気に涼しい風が吹いた。
ベスティエ街や以前王都で過ごしていたような春に吹く暖かい風ではない。
少しひんやりしている。
さらに、空気が……美味しい。
私たちは住宅街を目指し、歩き出した。
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