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第三十一話「愛妻弁当」

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◇◇◇

「エリオット、護衛お疲れさま。交代しよう」
「ありがとうございます、団長」

 王都の関所での護衛が終わり、昼休憩に騎士団の訓練棟へと戻る。
 獣人騎士団の訓練棟は王宮の傍にあり、近衛騎士団の隣に位置している。

 だが地方を護衛する騎士団もあるため、人口が多い地方の街にも獣人騎士団専用の訓練棟は建てられていた。

「エリオットさん! お疲れさまです!」
「お疲れさまです!」
「お疲れさま」

 訓練棟の一階にある広い食堂で、各々休憩を貰ったら食事を摂ることになっている。
 食堂で同じく休憩していた者たちに挨拶され、俺も返答した。

 王都近辺を護衛している団員たちが集まっていて、フレッドも座って食事していた。

「ご飯何にしますか? 今日は王宮御用達のパン屋が入ってるみたいですよ!」

 獣人騎士団第一班の団員であるルギルが声をかけてくれる。
 俺は基本外食しているが、食堂にいるときは副団長だから他の者たちが料理を持ってきてくれる。

 食堂は週一回ずつ別の料理に変わっていく。
 これは団長が指示しているもので、団長の好みもありパン屋が入ることが多い。

 今日は王宮御用達のパン屋らしく、団長が随分奮発したのだろう。
 ストレスでも溜まっていたのだろうか。

 団長は俺の交代に声をかけてくれたため、今ごろ関所を護衛しているから聞こうにも聞けない。
 今度一緒に酒でも飲む約束をしよう。

「エリオット! このサンドイッチは絶品だぞ。食べないか?」

 同期であり獣人騎士団内で唯一の幼馴染であるフレッドがサンドイッチを頬張っている。

 トマトやレタス、卵、ベーコンが入っているBLTサンドで、とてもボリュームがあり獣人でも満腹になれそうな量だった。

 だが、俺はそれには興味がない。
 もっと、楽しみにしていた昼食がある。

「俺はアイリスから貰った弁当があるんだ。生憎だけど、ここのパンを食べるつもりはないな」
「えー! 愛妻弁当じゃないですか!」

 俺が保冷バッグから弁当を取り出すと、向かい側に座っていたルギルが身を乗り出して凝視してくる。
 続いてフレッドも俺の弁当を覗いてきた。

「これ、なんて料理だ?」
「とんかつ弁当だ」

 挨拶をして一口食べる。
 サクっとした衣に肉厚の豚肉が口の中に広がって、あまりの美味さに天を仰いでしまった。

「はあ……美味い! 美味すぎる! アイリスの作る料理はいつも美味いんだ」
「そんなに美味いのか? 俺にも一口くれよ」
「嫌に決まってるだろ」
「俺も食べたいっすー!」
「ルギルまで……」

 二人がじりじりと俺に詰め寄ってくる。
 好きな人がせっかく作ってくれた弁当を、他人に食わせるつもりなど毛頭ない。

 が、少し目を離した隙にフレッドが俺のフォークを奪い取って食べてしまった。

「うわ、うまっ! なんだこれ、初めて食べた料理だけどめっちゃ美味い!」
「フレッド、お前……」
「えー! 俺も食べたいっすよー! フレッドさんばかりずるいですー!」
「ほら、お前も食ってみろよ」
「むぐっ……うまーーー! やばっ! エリオットさんの番さん天才じゃないですか!?」
「……」

 俺のフォークを奪い取っていたフレッドがルギルに食べさせる。
 二人とも美味い美味いと咀嚼していて、なんだか複雑な気分だ。

 俺は『運命の番』に出会ったことはルギルたちや団長、仲の良い人たちに話している。

 惚気てばかりで嫌がられていたりするが、こればかりはどうしようもできない。
 息をするように惚気てしまうのだ。

「エリオットさんの愛妻弁当か!」
「美味いらしいぞ!」

 二人が大声で美味い美味い言うものだから、続々と俺の周りに仲の良い獣人たちが集まってきてしまった。

 全員俺の弁当を見つめてきて、みんなにトンカツを運ぼうとしてくるフレッドのフォークを奪い取り、刺さったトンカツを口に運ぶ。

「お前ら、俺の番の弁当を食べようとするな。俺に作ってくれたものだぞ」
「じゃあ俺にも弁当作ってくれって頼んでよ。あまりに美味しすぎるから食べたい」
「は? 何言ってんだ」
「俺にも作ってほしいです! エリオットさん、アイリスさんに頼めませんか?」
「そんなこと言われてもな……」

 ルギルが犬の耳を垂れさせて、きゅるんとした目で頼んでくる。
 フレッドもお前なら頼んでくれるよな? というような期待の瞳で見つめてきて、さすがに困ってしまった。

 それほどアイリスの料理が美味いのだろう。
 番として、自分の好きな人として、それは誇らしいことだった。
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