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第二十三話「もうすぐ、聖夜祭」

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◇◇◇

「働かなくていいのに。家事をやるだけでも大変だろう?」

 エリオットも仕事から帰宅したころ、今日の話をしたら案の定フレッドと同じようなことを言ってきた。
 私はカフェの帰りに東国の調味料を購入したので、肉じゃがを作っている。

「ううん、働きたいの。エリオットにいつまでも甘えたくない。自立してこそ、エリオットを支えられると思うから」
「……」

 調味料を加えて落としぶたをし、魔石コンロで煮込みながら言う。

 あと三十分くらいしたら完成だから、キッチンからリビングに戻ると……リビングでアイスティーを飲んでいるエリオットが、立ち上がって私の頭を撫でて来た。

 大きな節くれだった指が私の髪を梳いてくる。

「頑張ってくれて、ありがとう。アイリス」

 エリオットのふんわりとした柔らかい笑みに、きゅんと心臓が鳴る。

 ――きっとアイリスは、エリオットの立派な妻になれるだろうな。

 不意にフレッドの言葉を思い出して、ぼわっと顔が熱くなった。

 け、結婚するとか、そんなの今から考えてないし……でもさっき私、エリオットを支えたいとか夫婦みたいなこと言っちゃった!

「に、肉じゃができるまで待っててね。あともう少しで出来るから」
「今日はにくじゃがって料理なの? 楽しみだな」

 エリオットがニコニコと楽しみそうな顔をして料理を待っている。
 顔が赤いのを察してほしくなくて話を逸らしたけれど、エリオットは何も気づいていないようだ。

 東国から輸入された調味料が売っているお店は、しょうゆやみりんなどが売られていてとても助かった。
 これで日本食が食べられる。

 肉じゃがを煮込んでいる間に塩水で漬け込んでおいたニンジンときゅうりを皿に盛り付ける。
 お米も炊けた頃には肉じゃがもしっかりできていて、二人で夕食になった。

 エリオットは肉じゃがを一口食べると、目をカッと開いて「美味い! 美味すぎる!」とたくさん食べてくれた。

 料理を作るたびにこんなに喜んでくれると、作った甲斐があるというか。
 嬉しくなる。

「そういえば、もうすぐ聖夜祭だね。プレゼントは何がいい?」

 聖夜祭というのは、この国では祀られている光の精霊の誕生祭のことを言う。

 前世のクリスマスとは少し違って、光の精霊の誕生を祝えば今年の不幸が浄化され、来年も幸せに過ごすことができるというものだ。

 誕生を祝うために、どの身分の人たちもその日は豪華な食事を作ったり買ったりして、家族や恋人と絆を深める。

 確か、私が令嬢のころは王宮のホールに集められて、ブッフェとノンアルコールドリンクをいただいたはずだけれど……。

「え? プレゼント?」
「そうだよ。聖夜祭の日は家族が子どもにプレゼントを贈ったり、恋人が愛する人に贈ったりするだろう?」

 そんなの、両親から貰ったことがない。
 プレゼントを貰ったことなんて、前世の子どものときと、初めて殿下にお会いしたときくらいだ。
 ましてや聖夜祭の日に両親や婚約者だった殿下からプレゼントを貰ったことは……一度もない。

 この国でもそういう文化があるなんて、知らなかった。

「私が貰っても、いいの?」
「何を言ってるんだ。大事な人にプレゼントを贈らないで、誰に贈ればいいんだ?」

 エリオットが、私を見つめて微笑む。

「……俺には遠慮しなくていいんだよ」

 ……どうして、エリオットはこんなにも優しいのだろう。
 出会ったばかりの私に、たくさん優しくしてくれるなんて。

 私はエリオットにわからないくらいに首を横に振る。
 勘違いなんてしちゃいけない。
 きっとエリオットは、私が『運命の番』だから、優しくて大事にしてくれているのだ。

「何が欲しい?」
「あ、えっと、うーん……」

 何が欲しいかと急に言われても、ぱっと思いつかない。
 今欲しいもの……何かあるだろうか。

「俺が考えておくよ。アイリスは聖夜祭の日は仕事なの?」
「多分、仕事ね。聖夜祭付近が繁忙期って言ってたから、仕事が入ると思う。でも、早く帰られるように言っておくわ」
「わかった。光の精霊の誕生を、二人で祝おう」
「……ええ」

 その日は頑張って豪勢な食事を作ろう。

 令嬢だったときみたいに大勢で祝うのではなく、二人きりで祝うというのも、きっと楽しいだろうし……ううん、令嬢のときの何倍も楽しいだろう。

 ……そういえば、エリオットは両親にはプレゼントしないのだろうか。

 私はそういう文化があると聞いていなかったからプレゼントしなかったけれど……大事な人にプレゼントを贈る文化なら、両親にも贈るんじゃないかな。

 でも……エリオットから、両親の話を聞いたことがない。
 一人暮らしだし、両親はどこに住んでいるのだろうか。

 なんとなくエリオットの雰囲気から聞いてはいけないような気がして、聞けなかった。
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