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第十九話「フレッドという男」
しおりを挟む「……あ」
買い物も済ませたし、二人で帰路を歩いていると不意にエリオットが立ち止まる。
遠くで「エリオットー!」と手を振って走って来る男性が見えた。
「よう! 一昨日ぶりだな」
「そうだね、フレッド」
やってきた男性は、黄色と黒の模様が特徴的な虎の獣人だ。
やや濃い青色の髪に、目鼻立ちがくっきりとした顔。イケメンだ。
エリオットの友人だろうか、とフレッドと呼ばれた男性を見遣ると、何やらにやにやと笑いだした。
「エリオットー? お前も隅に置けないな? 非番の日は女の子とデートしてたのか?」
「そうだ。というより、彼女は俺の『運命の番』なんだよ」
「えっ!? そうなのか!?」
今度は驚き目を丸くして私を見据える。
表情が豊かな人だなと思った。
ぺこりと頭を下げたら、彼はまた笑顔になる。
「こんにちは、お嬢さん。俺はフレッド・ミディーハ。獣人騎士団第一班の班長だ。エリオットとは同期で幼馴染なんだよ」
「こんにちは、私はアイリスと申します。フレッドさんですね、よろしくお願いします」
「はは、そんなかしこまらないで。敬語とかさん付けとかいらないから。友達だと思って接してよ」
「は……わ、わかった」
フレッドは私をジロジロと見てから、エリオットに視線を向けた。
「いいなぁ、こんな可愛いお嬢さんが『運命の番』で。俺はまだ番が見つかってない。羨ましいよ」
また異性から可愛いなんて言われてしまい、さすがに動揺した。
どうして獣人騎士団の人たちは、太っている女の人を可愛いと言うの!?
獣人騎士団の人たちが考えていることがわからなすぎて頭を抱えそうになる。
狼狽えていると、フレッドが私の顔を覗き込んできた。
「照れてるの? 可愛いね。エリオットなんかやめて俺の番にならない?」
「……へ?」
言われた意味が全くわからず後ずさるけれど、じりじりとフレッドが距離を詰めてくる。
距離が近くなって思わずエリオットのほうを見てしまった。
緊張して困り果てたとき、ぐいっとエリオットに肩を引き寄せられた。
エリオットの胸板に、肩も頭も触れてしまっている。
「はあ、これだからフレッドと会いたくなかったんだよ……。フレッド、番は決められたものなんだから、アイリスが俺以外の番になることはあり得ない。アイリスをからかうのはやめてくれないか」
「はいはい、そんな怖い顔しなさんなって」
フレッドが両手を上げて降参の意を示す。
私を見て、「ごめんね?」とにっこり笑いながら謝ってきた。
絶対反省してないでしょ。
「それじゃあもう行くから。フレッドも女性で遊ぶのはやめとけよ」
「わかってるって。またね、アイリス」
フレッドが私にだけウインクを寄越して、去っていった。
エリオットは私の肩を抱いたまま、歩いている。
いい匂いがする。心地の良い香り。
私はフレッドに迫られたとき、エリオットに無意識に助けを求めようと思ってしまっていた。
フレッドではなく、エリオットの香りに包まれたいと、思ってしまったのだ。
それも、『運命の番』だからなのだろうか。
フレッドに「可愛い」と言われたときよりも、エリオットに「可愛い」と言われたときのほうが嬉しい。
それは、どうしてだろう。
『運命の番』だから?
「……アイリス」
「どうしたの?」
エリオットを見上げると、眉根を寄せて苦し気な表情をしていた。
「……ううん。なんでもない」
「? そう」
何か言おうとしていたけれど、エリオットは口を噤んでそのまま家へと急ぐ。
私も自分の気持ちを上手く整理できなくて、結局ぐるぐる逡巡していたら家に着いてしまった。
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