ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮

文字の大きさ
上 下
9 / 49

第九話「『運命の番』って、本当にいるの?」

しおりを挟む
「なんですかそれ! ひどくないですか!?」

 殿下と一緒に帰ることもなく、迎えに来てくれたルルアと他の侍女と共に馬車に乗って帰宅する。

 私が落ち込んでいることを察したルルアは、「学園で何かありましたか?」と、私の部屋で聞いてくれた。
 ルルアに正直に殿下に太っている私のことは嫌いだと言われた、と告げたのだけど……。

「信じられないです! 殿下は体型で婚約者のことを判断するおつもりなのですか!?」
「お、落ち着いて、ルルア」

 ルルアは激昂し、可愛らしい目尻を釣り上げて反論していた。

「でも、太った私も悪いと思うわ。スタイルが良くないと、嫌われてしまうもの」
「それでも、婚約者に「お前、太ったか?」なんてストレートに聞く方がおりますか!? デリカシーが全くありません。ひどいと思います」
「そう、よね……」

 彼氏いない歴年齢の私にとって、殿下はダメ男なのか良い男なのか、自分では判断できない。
 だけど、ルルアの言葉には共感できた。

「それに、最近の殿下はひどい言動ばかりだと思います。だって、他の令嬢に「綺麗だ」なんて言っているのでしょう? それで、アイリス様の容姿はお褒めにならないんですよね」
「え、ええ。そうね」
「殿下の婚約者はアイリス様なのですよ? それなのに、他の令嬢に褒め言葉を与えるだなんて、非常識だと思いません?」
「そうだけど……。でも、殿下に尽くしていなかった私も悪いと思うわ」

 私が紅茶を飲んだ後にそう答えたら、ルルアは「はぁ……」と深くため息を吐いた。

「アイリス様。それはダメ男に依存して尽くしてしまう女性と同じ考えです」
「えっ、そ、そうなの?」
「そうですよ、アイリス様! 目を覚ましてください!」

 ルルアが私に伝えたいことは、なんとなくわかる。
 きっと、殿下と婚約していても、幸せな日は訪れないのだろう。

 だけど……婚約破棄されれば私は学園を追い出され、爵位を剥奪され、奴隷商に売られるコースだ。

 後に編入してくるミリアをいじめなければ、もしかしたら婚約破棄はされないかもしれない。
 でも、婚約破棄されるにしろ、婚約破棄されないにしろ、どっちをとっても私に幸せはない。

「幸せにはなれない……? 本当に……?」

 私は家庭教師からお金の勉強を習い、実験的に始めた投資を今でも続けていた。
 五年前から行っている投資で、両親から貰っていた少ない小遣いが——といっても平民よりは貰っているのだろうけれど——今では複利でかなりの額に膨らんでいる。

 それを下ろせば……奴隷商コースは免れるかもしれない。

 学園を追い出されるのも……今となっては嫌がらせや私の陰口を聞かなくて済む。
 だから、不幸か幸せかといえば、幸せな選択だ。

 爵位を剥奪されることだって……王太子妃になるための教育から免れることができる。

 それでも、いいんじゃない……?
 全て忘れて、第二の人生を始めてみてもいいんじゃない……?

「ううん、決めるのはまだ早いわ」

 物事が動くのは、ミリアが編入してきてからだ。

 ミリアと殿下が出会ったら、お互いが『運命の番』だとわかって私とは見向きもしなくなるのか、それとも殿下は違う選択を取るのか……。

「ルルア」
「なんでしょう、アイリス様」
「『運命の番』って、本当にいると思う?」
「もちろん『運命の番』は存在しますよ! 貴族は人間と政略結婚することが多いですから、出会うのは難しいですけれど……」

 そう、『運命の番』は獣人と人間で結ばれるものだ。

 稀に獣人同士の場合もあるらしいけれど……この世界があの『王シン』と同じ世界なら、人間同士で『運命の番』だと感じた人はいないはずだ。

「私、外を知らないから獣人も見たことないわ。本当に、そんなにモフモフした人たちがいるの?」
「いますよ! ああ、でも……」

 ルルアは手を顎にあて、しばらく思案する。

「もしかしたらアイリス様のお父様とお母様は、『運命の番』に会わせたくなくて、外に出していないのかもしれません。『運命の番』に出会ってしまったら、殿下との婚約も破棄されてしまいますから」
「『運命の番』って、出会った瞬間運命! って感じるものなの?」
「うーん……一説によると男性のほうが感じやすいと聞いたことがあります。ほら、女性のほうが恋愛に関しては現実的でしょう? だから、男性よりは感じないみたいですよ。でも、その『運命の番』の匂いは、お互いにとってすごく心地の良いものだそうです」
「そう……」

 確かに、『王シン』の世界ではそうだった。

 ミリアが『運命の番』だと気づいた殿下は、すぐにミリアを溺愛し、独占し始める。
 他の男性になど一切触れさせない。

 ミリア視点のところの『王シン』では、殿下といるとすごく良い匂いがして、安心する、とたくさん書かれていた。

 この人なら大丈夫、この人なら私とずっと一緒にいてくれると、明確な根拠はないけれど確信してしまうそうだ。

 家庭教師から保健の授業をされたときに聞いた話では、『運命の番』の人は子どもも授かりやすく、獣人か人間、どちらが産まれるのかドキドキしながら病院に通うらしい。

 もちろんそれは誰にもわからなくて、子どもができてから数ヶ月後に医師から伝えられるという。
 獣人も産まれれば人間も産まれるというのは、前世では考えられないことで、不思議に思う。

 恋愛に疎い私にとって、その『運命の番』というのは少し憧れを抱いてしまう。
 自分を心から愛してくれる、『運命の番』。
 そんな人に私も出会えれば、と……。

「ルルア。貴方も一緒に紅茶を飲まない? もっとお話しましょう」
「よろしいのですか?」
「ええ。ルルアと話すのはとても楽しいもの」

 そんな幻想、抱いてはならない。
 だって私の婚約者は、殿下なのだから。

 今、私の味方になってくれている人は、ルルアしかいない。
 そのルルアと話すことが、私の心の安定に繋がっていた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  異世界レメイアの女神メティスアメルの導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!

アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」 ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。 理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。 すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。 「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」 ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。 その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。 最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。 2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。 3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。 幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。 4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが… 魔王の供物として生贄にされて命を落とした。 5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。 炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。 そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り… 「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」 そう言って、ノワールは城から出て行った。 5度による浮いた話もなく死んでしまった人生… 6度目には絶対に幸せになってみせる! そう誓って、家に帰ったのだが…? 一応恋愛として話を完結する予定ですが… 作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。 今回はHOTランキングは最高9位でした。 皆様、有り難う御座います!

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉
ファンタジー
元冒険者のアラサー女のライラが、離婚をして冒険者に復帰する話。 ライラはかつてはそれなりに高い評価を受けていた冒険者。 というのも、この世界ではレアな能力である精霊術を扱える精霊術師なのだ。 そんなものだから復職なんて余裕だと自信満々に思っていたら、休職期間が長すぎて冒険者登録試験を受けなおし。 周囲から過去の人、BBA扱いの前途多難なライラの新生活が始まる。 2022/10/31 第15回ファンタジー小説大賞、奨励賞をいただきました。 応援ありがとうございました!

処理中です...