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第五十話「番」

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 それから二週間後、空き時間が取れたエリクに他属性の魔法を能力魔法で習得してもらった。

「よく頑張りましたね、殿下。試験官たち、頭が固いから嫌な奴らばかりだったでしょう」

 そう言っているエリクは俺が合格したことにすごく嬉しそうにしていて、魔法をかけるときも終始笑顔だった。

 俺は雷魔法を習得することにした。

 結構強そうだなと思ったのと、エリクがサンプルとして見せてくれた雷魔法が美しかったからだ。

 新たな魔法を習得して、それから帰宅すると……カルヴェとグランに話があると言われて呼び止められた。

 俺の部屋の寝室に連れてこられて、なぜかカルヴェもグランもベッドの上に座って正座をしている。

 二人の表情は真剣そのものだ。

「改まってどうしたんだ? 二人とも」
「殿下、話があると言いましたよね」
「ああ」

 カルヴェとグランは二人で顔を見合わせ、息を吸って同時に言葉を紡いだ。

「俺たちと」
「私たちと」
「「番になりませんか」」
「え……っ」

 思いもよらない言葉が出てきて、俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
 番になる? 俺が二人と……?
 叶うことならなりたい。
 だけど……。

「二人同時に番になるのって、無理なんじゃないのか?」
「それが……団長から二人で番になる方法を探さないかって言われて、二人でオメガバースの文献を時間のあるときに見ていたんですよ」
「カルヴェも俺も、絶対に殿下の番になることは譲らない感じでしたので。それでずっと文献を漁った結果、見つけました」
「七十年前に、二人のαと番になったΩがいたのですよ」
「そ、そうなのか……!?」

 グランとカルヴェの話によれば、七十年前の二人のαはあるΩのことが大好きで、ずっとそのΩを追っかけていたらしい。

 二人にアプローチされるうちにΩはαの二人に恋をしてしまって、番になってほしいと頼む。
 そしてαはΩの首筋に同時に噛み跡をつけ、無事二人のαはΩの番になれたとのこと。

 そこで証明された、二人のαに番になってもらう条件は……。

「αがΩの首筋に同時に噛むこと、そして……」
「Ωが二人のαを愛していること、です」
「殿下、俺たちのこと、愛していますか?」
「番になりたいと、思いますか?」

 グランとカルヴェが不安そうに聞いてくる。
 なんと言われようと、俺は答えは決まっていた。
 一つ一つ、俺の想いを言葉にしてつなげていく。

「俺……ずっと、二人に支えられて生きてきた。高等部の頃なんて、すごい生意気で。見捨てられてもいいくらいだったと思う。だけど、二人は俺をずっと見守っててくれたし、ピンチのときには必ず助けにきてくれた。本当に、ありがとう。感謝しても、しきれない」

 口で言うと思っていたより恥ずかしくて、俯く。

「二人が俺で遊んでるのかもって思ったとき……すごくショックだったんだ。嫌われることが、すごく悲しかった。そのときは、自分の気持ちがよくわかってなかったんだけど……今ならわかる」

 これだけは目を合わせて言いたくて、顔を上げて二人を見つめた。
 二人を見ていると鼓動が速くなって、顔が熱くなってきてしまう。
 それでも自分の想いを告げたくて、口を開く。

「俺、ずっと前から二人のことが好きだったんだ。こないだは好きかもなんて濁しちゃったし、セックスのときも愛してるって言えなかったけど……俺、二人のこと愛してるよ。二人の番になりたい。二人の子どもを産みたいよ」
「「殿下……」」
「次の発情期が来たら、首筋、噛んでほしい。二人で、同時に」
「……わかりました」
「私たちと番になりましょうね」

 グランが俺を押し倒して、二人ともベッドに寝転がる。
 俺が真ん中になって、カルヴェとグランが両端。

 一応キングサイズだから収まることは収まるけど……体格の良い二人が寝ているのだから、きつきつだ。

「殿下、好きです」
「俺も好き」
「俺も殿下のこと好きですよ」
「俺も好きだよ」

 二人から両頬に口づけられる。
 その口づけにすごく愛を感じて、胸が温まり、心地良い感情で包まれていく。
 窓の外を見ると、流れ星が流れるのがちょうど見えた。

「あ、流れ星!」
「え、本当ですか?」
「どこですか、殿下」

 二人が覗くころには流れ星は見えなくなってしまっていた。
 俺はこっそり二人と一緒にいられますようにと願う。
 三回は唱えられなかったけど、きっとこの願いは叶えられると思う。

 その日は夕食を食べ終えたあと、三人で温かい夜を過ごした。
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